現場の困りごとが、そのまま論点表になっている
厚生労働省の「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」が、2026年7月23日の第4回に、今後の検討スケジュールをまとめた資料を提出しました。
どの論点を第何回で扱うかを整理した一覧表です。そこに並んでいる項目を見ると、看護の現場で長く語られてきた困りごとが、そのまま検討課題として置かれていることが分かります。
- カスタマーハラスメントなど、ハラスメント対策の強化
- 多様で柔軟な働き方に対応した雇用管理(育児・介護との両立支援、夜勤の在り方含む)
- ICT機器の活用による業務効率化の促進
- 看護管理者の管理能力向上
- 地域の看護職員の確保、地域偏在への対応
- 領域偏在への対応(訪問看護等)
- 求人・求職間のミスマッチの改善(復職研修の強化等)
- ハローワークと一体となった迅速な就職支援
- 少子化の進展に対応した看護師等学校養成所の運営
- 医療業界外の社会人経験者のリスキリング支援
- 看護の実践能力を更に高めるための養成課程・研修の在り方
「カスハラ」と「夜勤の在り方」が、国の検討会の論点表に文字として入っている。 この事実自体が、いまの段階を示しています。
ただし、ここで期待を先に調整しておきます。資料には「議論の進捗により、スケジュール感に変更はあり得る」「議論が十分でない論点については、回を改めて議論を行う」と明記されています。これは予定表であって、決定事項ではありません。
この記事で分かること
- 検討会で扱われる論点の全体像
- どの論点が、どの回で議論される予定になっているか
- 「論点に入っている」ことと「制度が変わる」ことの距離
- 現場の困りごとと論点表の対応関係
- 待つのではなく、いま使える手段は何か
個別の困りごとの持ち込み先も先に書いておきます。ハラスメントは院内の相談窓口か都道府県労働局、夜勤の回数は勤務先の看護部と労使協定、働き方全体の整理は看護師の悩み診断です。
論点の全体構成
資料の一覧表は、大きく三つの柱で構成されています。
| 柱 | 内容 |
|---|
| (1)今後の看護職員に求められる資質について | 第1〜3回で議論 |
| (2)2040年に向けた看護職員の養成・確保への対応について | 養成の在り方/地域の確保策/勤務環境改善 |
| (3)2040年に向けた看護職員の需給見通しについて | 第1回から第6回以降まで通しで議論 |
(2)がさらに三つに分かれます。看護職員の養成の在り方、地域の看護職員の確保策、看護職員の勤務環境改善です。
働く側にとっていちばん関係が深いのは、三つ目の勤務環境改善でしょう。ここに次の四つが置かれています。
- 看護管理者の管理能力向上
- 多様で柔軟な働き方に対応した雇用管理(育児・介護との両立支援、夜勤の在り方含む)
- ICT機器の活用による業務効率化の促進
- カスタマーハラスメントなど、ハラスメント対策の強化
勤務環境改善という柱が独立して立てられ、その中にハラスメント対策が明記されているという構造です。人材確保の議論の付随物ではなく、確保策と並ぶ柱の一つとして扱われています。
需給見通しだけが、全回で議論されている
一覧表を縦に見ると、もう一つ気づくことがあります。
(3)の需給見通しは、第1回から第6回以降まで、すべての回に印がついています。他の論点が特定の回に割り振られているのに対して、需給見通しだけが通しで議論されている形です。
これは、需給見通しがこの検討会の背骨にあたるということだと読めます。何人必要なのかという推計が定まらなければ、養成数も確保策も設計できません。
需給推計の中身については看護師不足の推計が作り直されるで整理しています。前回の見通しと実際の就業者数の差が何を意味するのかも、そちらで扱っています。
なお、養成課程に関する論点には注記があり、資質の議論を踏まえて議論する、とされています。順序が決まっている項目もあるということです。
「論点に入っている」と「変わる」の間には距離がある
ここは正直に書いておきます。論点表に載ったからといって、制度が変わると決まったわけではありません。
検討会は、議論をして報告や取りまとめを作る場です。そこから制度を変えるには、法令の改正、診療報酬や介護報酬への反映、予算措置といった段階が必要になります。どこまで進むかは、議論の結果次第です。
そのうえで、論点表に載ることの意味はあります。議題として置かれること自体が、検討の対象になったということです。なお、この表に載っていない事柄が今後も扱われないという意味ではありません。資料自身が、議論の進捗により変更があり得ると注記しています。
カスタマーハラスメントについて言えば、これは看護の現場で長く語られてきた問題です。患者や家族からの暴言、過剰な要求、身体的な暴力。それが国の検討会の論点として明示された。ここまで来るのに時間がかかったという見方もできますし、ようやく議題になったという見方もできます。
いずれにせよ、いま困っている人にとっては、待っていても解決しません。次の節で、現時点で使える手段を整理します。
待つのではなく、いま使えるもの
論点表を眺めるだけでは、日々の勤務は変わりません。それぞれの論点について、現時点で自分が使える手段を対応させておきます。
| 検討会の論点 | いま使える手段 |
|---|
| カスハラ対策の強化 | 職場の相談窓口、記録の作成、都道府県労働局の総合労働相談コーナー |
| 夜勤の在り方 | 勤務先の夜勤回数の取り決め、シフト希望の伝え方の工夫 |
| 育児・介護との両立支援 | 育児・介護休業法にもとづく制度、短時間勤務 |
| ICTによる業務効率化 | 職場の業務改善提案の仕組み |
| 復職研修の強化 | 都道府県ナースセンターの復職支援研修、就職相談 |
| ハローワークと一体の就職支援 | ハローワークの巡回相談、ナースセンターとの連携窓口 |
カスハラについては、記録を残すことが最初の一歩になります。 いつ、どこで、誰から、どういう言動があったか。これがないと、職場に相談しても「そういうこともある」で流れてしまいがちです。何をどの粒度で書き留めておけばよいかは、職場トラブルの記録を残すときの実務にまとめました。
患者や家族からの言動への具体的な対応は患者・家族からの暴言に困ったときの考え方で、職場としてどう守られる体制になっているかの確認はハラスメントから守られる職場かを見分けるでまとめています。
夜勤の負担については、夜勤を減らして収入を維持する方法が、条件の組み替え方という観点から使えます。
領域偏在という言葉が入っている
論点表のなかで、あまり注目されないものの実務的に効きそうなのが「領域偏在への対応(訪問看護等)」です。
地域偏在という言葉はよく使われます。都市部と地方で看護職員の分布に差があるという話です。それとは別に、領域偏在という項目が立てられています。同じ地域の中でも、病院・訪問看護・介護施設といった領域によって人の集まり方に差があるということです。
実際、都道府県ナースセンターの求人倍率では、訪問看護ステーションが4.54倍と最も高い水準にありました。この数字の読み方は訪問看護の求人倍率4.54倍で整理しています。
領域偏在が論点として立てられているということは、訪問看護等への移行を支援する仕組みが検討される可能性があるということです。すでに検討会の資料では、病院の看護師が訪問看護ステーションに出向する取り組みなども紹介されています。
いま訪問看護への転職を考えている方にとっては、数年後にはもう少し移りやすい環境が整っているかもしれない、という程度の話です。ただ、それを待つ必要はありません。現時点でも出向や研修の仕組みがある地域はあります。
就職支援まわりの論点が、3つ並んでいる
地域の看護職員の確保策という項目の下を見ると、就職・転職の支援に関する論点が三つ続いています。
- 求人・求職間のミスマッチの改善(復職研修の強化等)
- ハローワークと一体となった迅速な就職支援
- 領域偏在への対応(訪問看護等)
このうち一つ目は、求人と求職の結び付け方を課題として名指ししています。 求人倍率のデータを見ても、多くの領域で求人数が求職者数を上回っています。それでも人が足りない状況が続いている、という背景は共通しているように見えます。
ただし、地域偏在や領域偏在をマッチングの問題として整理しているのは筆者の読み方で、資料がそう結論づけているわけではありません。資料はあくまで論点を並べたものです。
とくに「ハローワークと一体となった迅速な就職支援」という項目は、具体的です。看護職の就職支援には、都道府県ナースセンターとハローワークという二つの経路があります。ナースセンターは看護師等の人材確保の促進に関する法律にもとづく仕組みで、ハローワークは一般の職業安定機関です。この二つが別々に動いていると、求職者から見れば窓口が分かれることになります。
これを一体化して迅速にする、という方向が論点に入っています。もし実現すれば、看護職の就職相談の入口が整理される可能性があるということです。
ただし現時点では論点にとどまります。いま転職や復職を考えている方は、両方の窓口があることを知っておいて、使いやすいほうから当たるのが現実的です。ナースセンターの使い方はナースセンターの活用方法で整理しています。
「復職研修の強化等」という括弧書きも見逃せません。ブランクがある方の復職を支える研修が、ミスマッチ改善の手段として位置づけられています。復職を検討している方はブランクからの復職の進め方もあわせてご覧ください。
養成の側にも、論点が並んでいる
働いている人には直接関係しないように見えますが、養成の論点も見ておく価値があります。
- 看護の実践能力を更に高めるための養成課程・研修の在り方(臨地実習/卒後教育/基礎教育等)
- 少子化の進展に対応した看護師等学校養成所の運営
- 医療業界外の社会人経験者のリスキリング支援
「少子化の進展に対応した看護師等学校養成所の運営」という項目は、進学人口の減少を前提にした議論です。ただし18歳人口が減ることが、そのまま看護職を志す人数の減少になるとは限りません。進学率や資格取得率、他業界からの参入がどう動くかによります。
そして「医療業界外の社会人経験者のリスキリング支援」も論点に並んでいます。この二つが同じ資料に並んでいることから、養成の入口と別ルートの参入を合わせて検討する意図を読み取ることはできますが、「新卒の不足を中途参入で補う」という関係が資料に明記されているわけではありません。
この二つが並んでいることは、現場で働く人にも関係します。今後、養成課程を経て入ってくる人の背景が多様になる可能性があるということだからです。年齢も、前職も、これまでとは違う新人が入ってくる。指導のあり方も変わってくるかもしれません。
後輩指導の負担については後輩指導に悩む看護師さんへで扱っています。
論点表の使い方
この記事の内容を、どう使うか。三つ挙げます。
第一に、自分の困りごとが自分だけの問題ではないと確認する材料になります。 カスハラも夜勤も業務量も、国が全国的な課題として検討の俎上に載せています。職場で相談したときに「あなたが弱いから」という反応が返ってきたとしても、少なくともこれらが個人の資質の問題として片づけられる性質のものではないことは、論点表が示しています。
ただし、全国的な課題であることと、特定の職場で起きていることの原因や程度は別の話です。論点表は、自分の職場の状況を説明するものではありません。
第二に、職場に働きかけるときの根拠になります。 「国の検討会でも論点になっている」という言い方は、要望を個人の希望から一般的な課題へ引き上げます。決定事項ではないので強い根拠にはなりませんが、話の入口にはなります。
第三に、数年先の見通しを立てる材料になります。 転職や働き方の変更を考えるとき、制度がどの方向に動こうとしているかを知っておくと、判断の幅が広がります。ただし、動く保証はないという前提は外さないでください。
自分で追いかける方法
この検討会の動きを、報道を待たずに自分で確認する方法があります。難しくありません。
厚生労働省のウェブサイトに、この検討会の開催回一覧のページがあります。そこから各回の資料と議事録にたどり着けます。開催回ごとに、議事次第、構成員名簿、配布資料が公開されています。
見るときのコツを挙げておきます。
| 見るもの | 分かること |
|---|
| 議事次第 | その回で何を扱ったか |
| 資料の表題 | 論点のうち、どこが動いたか |
| 「これまでの御意見のまとめ」 | 委員から出た意見の集約 |
| 議事録 | 誰がどういう懸念を述べたか |
いちばん実質的なのは、議事録です。 資料は事務局が作るものですが、議事録には委員の生の意見が残ります。現場に近い立場の委員が何を懸念しているかは、資料の整った文章より率直に出ます。
ただし議事録は公開までに時間がかかります。第4回(2026年7月23日)の資料は公開されていますが、議事録は第3回までしか出ていません。速報性を求めるなら資料を、議論の中身を知りたいなら議事録を、という使い分けになります。
もう一つ、資料には「これまでの御意見のまとめ」という文書が毎回出ています。第4回では資料1がこれにあたります。過去回の意見が整理されているので、一から議事録を読むより早く全体像がつかめます。
制度が変わるのを待つ間に、できること
論点表を見て「何年も先の話だ」と感じた方も多いと思います。その感覚は正しいです。
だからこそ、この記事の最後に置いておきたいのは、制度が変わることと、自分の状況が変わることは別だという点です。カスハラについては、全事業主に防止措置を義務づける改正法(令和7年法律第63号)が2026年10月1日に施行されます。これとは別に、この検討会でも「ハラスメント対策の強化」が論点として挙がっていますが、具体策や、施行される一般法との関係までは示されていません。検討会の議論を待つ間にも、記録は残せますし、相談窓口は使えます。夜勤の在り方が議論されている間にも、自分の勤務先で回数の取り決めを確認することはできます。
論点表は、自分が置かれている状況を客観的に位置づける地図として使うのがいちばん有効だと思います。地図があると、自分がいる場所が分かります。ただし、歩くのは自分です。
今の職場で解決できることと、職場を変えないと解決しにくいことの切り分けについては、辞める前に異動・休職という選択肢を検討するが判断の軸になります。
よくある質問
Q. カスハラ対策は、いつから始まりますか。 A. 二つを分けて考えてください。この検討会で議論される看護分野固有の追加策は、まだ論点として掲げられた段階で、開始時期は示されていません。一方、全事業主に対するカスタマーハラスメント防止措置の義務は、労働施策総合推進法等の改正(令和7年法律第63号)により2026年(令和8年)10月1日から施行されます。相談体制の整備などは、検討会の結論を待たずに勤務先で進む話です。困っている場合は、院内の相談窓口や都道府県労働局へ相談でき、日時・言動・目撃者を記録しておくと話が進めやすくなります。
Q. 夜勤の回数に上限ができるのですか。 A. 論点は「多様で柔軟な働き方に対応した雇用管理(育児・介護との両立支援、夜勤の在り方含む)」という書き方で、具体的な内容は示されていません。
Q. スケジュールは確定していますか。 A. 資料に「議論の進捗により、スケジュール感に変更はあり得る」「議論が十分でない論点については、回を改めて議論を行う」と明記されています。
Q. 検討会の議論は公開されていますか。 A. 厚生労働省のウェブサイトに、各回の資料と議事録が掲載されています。第4回の資料は本記事の参考資料に挙げたページから確認できます。
Q. ICTで業務が楽になりますか。 A. 検討会の意見では、DX・ICTによる業務効率化は導入・効果に地域差・施設差があるため、まず実態把握と効果検証を進めるべきとされています。看護の安全性や職員負担への影響も踏まえた慎重な検討が必要という位置づけです。
参考資料
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」(カスタマーハラスメント防止措置の義務化・令和8年10月1日施行) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/
- 厚生労働省「第4回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」(令和8年7月23日) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74359.html
- 厚生労働省「今後の検討スケジュールについて」同検討会 資料2 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001719355.pdf
- 厚生労働省「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」開催回一覧 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/youseikakuho_72181.html
本記事が扱っているのは、検討会に提出された論点整理の段階の資料です。表に項目が並んでいることは、その制度が変わると決まったことを意味しません。個別の勤務条件については勤務先にご確認ください。