令和8年度の改定で決まったこと
まず数字を正確に押さえます。令和7年12月24日の予算大臣折衝を踏まえて決まった内容です。
| 項目 | 改定率 |
|---|
| 診療報酬(本体) | +3.09%(令和8・9年度の2年度平均。令和8年度+2.41%/令和9年度+3.77%) |
| うち賃上げ分 | +1.70%(令和8年度+1.23%/令和9年度+2.18%) |
| うち物価対応分 | +0.76% |
| うち食費・光熱水費分 | +0.09% |
| うち令和6年度改定以降の経営環境悪化への緊急対応分 | +0.44%(うち病院+0.40%) |
| うち効率化 | ▲0.15% |
| うち上記を除く改定分 | +0.25%(医科+0.28%/歯科+0.31%/調剤+0.08%) |
| 薬価 | ▲0.86% |
| 材料価格 | ▲0.01% |
施行時期は項目で分かれます。診療報酬本体は令和8年6月、薬価は令和8年4月、材料価格は令和8年6月です。
給与への反映時期には、もう一段の含みがあります。厚生労働省の疑義解釈では、条例の改正が必要であるなどのやむを得ない理由で算定開始月からの賃金改善が難しい場合、その年度末までに算定開始月(または当該年の4月)まで遡って賃金改善を実施すれば、その月から実施したものとみなすとされています。つまり、6月の明細では動いていなくても、あとから遡及分がまとめて支給されることがあります。6月だけを見て「なかった」と決めず、年度内の支給まで含めて確認してください。
賃上げ分+1.70%が何を意味するかというと、令和8年度に3.2%、令和9年度にさらに3.2%のベースアップを実現するための措置です。看護補助者と事務職員については、それぞれ5.7%と高い目標が置かれています。令和6年度改定のときの目標は「令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%、合計4.5%」でしたから、1年あたりで見ると目標水準そのものが上がっています。
ここで大事なのは、3.2%は対象職員全体についての賃上げ目標であって、あなた個人の基本給が3.2%上がるという意味ではないということです。原資が入っても、それを誰にどう配分するかは勤務先が決めます。職種や職位で差がつくこともあります。次の章の計算式は、その原資がどういう考え方で決まるのかを知るためのものです。
勤務先がいくら受け取るのか、計算式は公開されている
ベースアップ評価料の届出では、「賃金改善算定基礎額」という数字を出します。これは評価料によって勤務先に支払われる見込みの賃金改善原資の、月あたり総額に相当する額です。この計算式が厚生労働省の資料に明記されています。
入院ベースアップ評価料の場合、医師・歯科医師以外の職員については次のとおりです。
月額賃金総額 ×(賃上げ目標 × 1.29)
令和8年6月から令和9年5月までは、対象職員が 1.29 × 3.2%、看護補助者・事務職員が 1.29 × 5.7%。令和9年6月からはそれぞれ 1.29 × 6.4%、1.29 × 11.4% と、2年ぶんが積み上がる設計です。
1.29という係数は、事業主が負担する法定福利費と、月額給与に連動して増える賞与ぶんを見込んだものです。基本給を3.2%上げると事業主の負担は3.2%では済まないので、その分を上乗せして原資を設計しているということです。あなたの3.2%が福利費に回って目減りする、という意味ではありません。逆に言えば、賃金が上がれば賞与や社会保険料の事業主負担も連動して増える前提で、制度が組まれています。
なお「月額賃金総額」には、基本給や毎月決まって支払われる手当に加えて、時間外手当のように月ごとに変動する手当も含まれます。賞与など特定の時期にだけ支払われるものは含みません。
40歳未満の医師・歯科医師については、人数に定められた額を掛ける方式です。常勤1人あたり27,021円、週22時間以上の非常勤1人あたり9,244円(令和8年6月〜令和9年5月)。
ただし正直に書くと、この式を使って勤務先の受取額を職員が自分で計算するのは現実的ではありません。施設全体の対象職員の月額賃金総額や、延べ入院患者数といった数字が必要になるためです。この式を知っておく意味は別のところにあります。「3.2%」という数字が何にかかっているのかが分かるので、事務担当に聞くときに話が噛み合うということです。
今年から変わった3点
制度の解説記事は多いのですが、令和8年度で実際に変わった細かい点は意外と書かれていません。看護職として働く人に直接効くのは、次の3つです。
1. 夜勤手当の増額を、基本給等に含めてよくなった
ベースアップ評価料は「基本給等の引き上げ」に充てるものとされています。ここでいう「基本給等」には、もともと基本給に加えて毎月決まって支払われる手当(扶養手当・住居手当・地域手当・通勤手当など)が含まれます。令和8年度改定では、これに加えて恒常的に夜間を含む交代制勤務をとっている職場の職員に支払われる夜勤手当についても、毎月支払われる手当に準じて基本給等に含めてよいこととされました。
これは実務上、明細の見方が変わるということです。基本給が据え置きでも、夜勤手当が増えていれば、それが評価料による賃上げの反映である可能性がある。「基本給が上がっていないから反映されていない」と即断できなくなりました。給与明細を見るときは、基本給と夜勤手当の両方を改定前と比べてください。
ただし資料に書かれているのは「恒常的に夜間を含む交代制勤務をとっている職場の職員に支払われる夜勤手当」という条件です。自分の部署や働き方がこれに当たるかは、勤務先の運用によるので確認が要ります。
2. 賃上げをしない施設には減算が新設された
入院基本料そのものが引き上げられました。例えば急性期一般入院料1は1,688点から1,874点へ。そのうえで、賃上げを実施していない医療機関には1日あたり121点の減算規定が新設されています。
減算の対象にならないのは、次のいずれかを満たす保険医療機関です。施設基準の通知では、概要資料より細かく定められています。
- 令和8年3月31日時点で、入院ベースアップ評価料を届け出ていること
- 一定水準以上のベースアップを行っていること。通知では「対象職員(医師・歯科医師を除く)の、新規に入院ベースアップ評価料の算定を開始する月時点の基本給等を合計し、令和6年3月時点の給与体系に当てはめた場合と比較して、5分5厘(看護補助者・事務職員については8分)に相当する水準以上」と定められています。判定はこの時点で行われます。職種ごとに個別に達成する条件ではなく、対象職員の合計で判定する形です。令和9年度は8分7厘(同じく1割3分7厘)。有床診療所については、令和8年3月31日時点で外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)を届け出ている場合や、(Ⅰ)のみの届出で2分3厘に相当する水準以上のベースアップを行っている場合も含まれます
- 令和8年6月1日以降に新規開設した保険医療機関であること
- 令和8年6月1日以降に無床診療所から有床診療所になった保険医療機関であること
これは職員側から見ると、勤務先に聞く材料が増えたということです。「令和8年3月31日時点で届出をしていましたか」という質問が、制度の仕組み上、経営にも直結する話になりました。ただし上のどれかを満たしていれば減算は避けられるので、届出がないこと自体が即座に減算を意味するわけではありません。なお121点というのは急性期一般入院料1の例で、減算額は入院料の区分によって変わります。
3. 対象職員が広がった
令和6年度は「主として医療に従事する職員」が対象で、事務職員などは外れていました。令和8年度からは、40歳未満の医師・歯科医師・薬局薬剤師と、事務職員が新たに対象に入ります。除外されるのは、40歳以上の医師・歯科医師・薬局薬剤師、業務委託により勤務する人、経営者と法人役員です。対象となる施設にも保険薬局が加わりました。
職場の誰が対象なのかが変わったので、配分の説明を求める意味が以前より大きくなっています。なお、対象が増えた分だけ1人あたりが必ず減る、という単純な話ではありません。算定基礎額そのものが職員構成に応じて算出されるためです。だからこそ、総額ではなく「自分の職種にどう配分されたか」を聞く必要があります。
いま募集されている求人は、いくらで出ているか
ここからは当サイトが持っているデータです。掲載している公開求人(出典はハローワーク、2026年7月4〜5日取得)のうち、常勤で月給として集計できた26,164件の賃金を集計しました。求人票の下限額と上限額の中間値を取り、中央値と四分位を出しています。
ひとつ前置きがあります。ここで集計しているのは求人票の「賃金(手当等を含む)」欄で、基本給だけの数字ではありません。制度のベースアップが対象にするのは基本給等なので、この表と制度の数字は同じものを測っていません。それでも、実際にいくらで募集されているかという意味では、比べる価値のある数字です。
全国の中央値は265,000円(25〜75パーセンタイルは240,000円〜295,000円)でした。制度の3.2%がこの水準の給与にそのままかかったとすると、月8,480円ほどになります。
では、働く場所によってどれだけちがうか。施設の種類別に見ます。
| 施設の種類 | 件数 | 中央値 | 25〜75パーセンタイル |
|---|
| 訪問看護 | 4,361 | 295,000円 | 265,000〜332,500円 |
| その他 | 4,870 | 263,600円 | 240,000〜289,800円 |
| 介護施設 | 7,724 | 262,000円 | 237,500〜290,290円 |
| クリニック | 3,162 | 259,000円 | 234,000〜285,000円 |
| 病院 | 6,014 | 258,455円 | 235,000〜282,500円 |
施設の種類は、当サイトが求人検索で使っている分類にそろえています(件数100件未満の分類は表から省いているため、合計は母数と一致しません)。訪問看護と病院の中央値の差は36,545円です。ただしこれは「訪問看護に行けば得」という話ではありません。この集計で分かるのは求人票に書かれた金額の分布だけで、なぜ差がついているのかまでは分かりません。訪問看護は移動や単独での判断が前提になり、オンコール体制のある職場もあります。経験年数の要件や勤務時間の条件もそろえていません。金額の差が何に対する対価なのかは、求人票と面談で個別に確かめる必要があります。
次に都道府県別です。求人が300件以上ある33都道府県を、中央値の高い順に並べます。
| 都道府県 | 件数 | 中央値 | 25〜75パーセンタイル |
|---|
| 東京都 | 1,632 | 310,000円 | 280,000〜341,499円 |
| 神奈川県 | 1,116 | 304,250円 | 273,500〜330,000円 |
| 埼玉県 | 949 | 295,000円 | 271,000〜320,000円 |
| 千葉県 | 802 | 293,650円 | 267,800〜321,640円 |
| 大阪府 | 1,488 | 286,000円 | 265,000〜315,750円 |
| 愛知県 | 1,349 | 282,200円 | 262,000〜309,000円 |
| 岐阜県 | 442 | 280,000円 | 259,000〜305,000円 |
| 静岡県 | 637 | 280,000円 | 262,000〜305,500円 |
| 兵庫県 | 960 | 276,950円 | 260,000〜305,000円 |
| 京都府 | 498 | 273,656円 | 252,600〜299,008円 |
| 三重県 | 343 | 272,500円 | 252,500〜302,000円 |
| 新潟県 | 444 | 267,500円 | 243,100〜288,000円 |
| 茨城県 | 514 | 266,550円 | 250,000〜287,500円 |
| 栃木県 | 414 | 264,050円 | 240,000〜289,050円 |
| 宮城県 | 472 | 262,500円 | 239,700〜285,650円 |
| 長野県 | 350 | 262,400円 | 245,000〜285,000円 |
| 群馬県 | 388 | 260,700円 | 240,500〜286,000円 |
| 北海道 | 1,144 | 258,500円 | 236,750〜283,500円 |
| 広島県 | 773 | 255,000円 | 235,000〜277,100円 |
| 香川県 | 355 | 253,000円 | 232,000〜273,650円 |
| 福岡県 | 1,589 | 251,650円 | 230,000〜275,000円 |
| 沖縄県 | 372 | 250,000円 | 235,650〜274,750円 |
| 福島県 | 435 | 249,500円 | 225,000〜273,800円 |
| 愛媛県 | 504 | 249,500円 | 229,300〜275,000円 |
| 岡山県 | 593 | 248,470円 | 230,400〜265,900円 |
| 大分県 | 515 | 243,725円 | 222,500〜264,500円 |
| 山口県 | 448 | 241,050円 | 222,500〜260,000円 |
| 鹿児島県 | 827 | 240,000円 | 220,000〜261,000円 |
| 青森県 | 396 | 237,500円 | 219,495〜261,250円 |
| 熊本県 | 808 | 235,500円 | 215,000〜255,800円 |
| 佐賀県 | 329 | 235,000円 | 217,249〜255,000円 |
| 長崎県 | 589 | 233,000円 | 215,000〜255,000円 |
| 宮崎県 | 523 | 225,550円 | 210,000〜245,000円 |
いちばん高い東京都の310,000円と、いちばん低い宮崎県の225,550円の差は84,450円。単純に12倍すると約101万3,000円です。一方、制度の3.2%を全国中央値に仮置きした月8,480円は年約10万2,000円です。前者は地域・職種構成などを調整していない求人分布、後者は制度目標の試算なので、両者を倍率で比較して転職効果を見積もることはできません。
ただし、この地域差をそのまま「移れば増える」と読むのは早すぎます。この集計は求人票の額面を並べただけで、家賃をはじめとする生活費の差も、応募のしやすさも調整していません。額面の差がそのまま手元に残るとは限らず、条件のよい求人に自分が就けるかどうかも別の話です。地域差は判断の出発点であって、結論ではありません。
引っ越さなくても、同じ地域の中に幅がある
「都市部に移るしかないのか」と読めてしまうので、もう一段細かく見ます。同じ都道府県の中でも、求人の給与にはかなりの幅があります。
上の33都道府県について25パーセンタイルと75パーセンタイルの差を出すと、中央値で45,000円でした。東京都は61,499円(280,000円〜341,499円)、神奈川県は56,500円、大阪府は50,750円。同じ県の中でも、下位25%あたりの求人と上位25%あたりの求人では、これだけ開きがあるということです。
これは「上位25%を選べば45,000円増える」という意味ではありません。あなたの現在の給与が分布のどこにあるかによって、動く幅は変わります。言えるのは、地域をまたがなくても比較する価値のある幅がその地域の中にあるということです。
具体的に、東京都内だけを施設の種類で割ってみます。
| 東京都内の施設の種類 | 件数 | 中央値 |
|---|
| 訪問看護 | 349 | 345,575円 |
| クリニック | 166 | 325,000円 |
| 介護施設 | 460 | 310,500円 |
| 病院 | 266 | 292,000円 |
| その他 | 390 | 290,950円 |
東京都内で完結しても、訪問看護と病院で53,575円の差があります。都道府県をまたぐ84,450円の差と比べても、同じ都内での施設の種類のちがいだけで6割を超える幅が現れています。ただしこれは分布の比較であって、「都内で施設を変えれば都道府県移動の6割の効果がある」という意味ではありません。施設の種類ごとに求められる経験や勤務条件がちがうためです。
制度の賃上げを待つか動くかの二択ではありません。まず評価料の反映状況を今の職場で確認し、その後に同じ地域・同じ勤務条件の求人分布と比べます。測っているものの違う数字を一つの物差しにせず、どこを動かせば何が変わり得るかを切り分けてください。
なお、これらはあくまで求人票に書かれた金額の分布です。実際の手取りは夜勤回数、扶養の状況、通勤手当の扱いで変わります。求人票の額面を比べるときは、夜勤が月何回の前提かを必ず揃えてください。前提を揃えないと、高く見える求人が実は夜勤5回込みだった、ということが起こります。
自分の給与がこの分布のどのあたりにあるかは、看護師の年収診断で3分で確認できます。地域と施設形態を指定した相場は給料コンパスの給与データにまとめています。
給与明細のどこを見るか
令和8年6月分以降の明細を中心に、次の順に確認してください。前述のとおり遡って実施される場合があるので、基本給や毎月の手当の差額がまとめて支給されていないかもあわせて見ます。今年から夜勤手当の扱いが変わったので、去年までのチェック方法のままだと見落とします。
- 基本給を令和8年3月または5月時点と比べる。実績報告の基準がこの時点の給与体系なので、比較の基準日としても妥当です
- 夜勤手当の単価と月額を同じ期間で比べる。恒常的な交代制勤務の職場なら、ここが増えている場合も反映に当たります
- 新設された手当がないか探す。「ベースアップ手当」「処遇改善手当」などの名前で、基本給と別建てになっていることがあります
- 定期昇給と分けて考える。毎年の定期昇給とベースアップは別のものなので、「上がっている」の中身を分ける必要があります
照会したら分かりやすく回答する、と定められている
ここは知っておく価値があります。ベースアップ評価料の施設基準の通知には、対象職員から賃金改善について照会を受けた場合、その対象者についての賃金改善の内容を「書面を用いて説明すること等により分かりやすく回答すること」と明記されています。入院・外来それぞれの評価料に同じ規定が置かれています。
必ず書面そのものを渡す、という規定ではありませんが、聞くこと自体が制度に織り込まれた行為であり、評価料を届け出て算定している勤務先には分かりやすく回答することが求められています。遠慮のいる話ではありません。
聞く内容は次の3つが軸になります。
- 「いまベースアップ評価料を算定していますか。算定を始めたのは何月からですか」
- 「評価料による賃金改善は、私の場合、どの賃金項目に、いくら反映されていますか」
- 「看護職への配分の考え方を教えてください」
1つ目は、原資が入っているかどうかの確認です。年度の途中に新しく届け出て算定を始める施設もあるので、現在の状況を聞きます。減算の話まで確かめたい場合は、これとは別に「令和8年3月31日時点で入院ベースアップ評価料を届け出ていましたか」を聞いてください(3月31日時点の届出が減算免除に関わるのは、入院の評価料と、有床診療所の外来・在宅(Ⅱ)などに限られます)。
2つ目は自分の賃金改善の内容そのものなので、上記の通知が「書面を用いて説明すること等により分かりやすく回答する」と定めている対象です。基本給か夜勤手当かの二択ではなく、どの賃金項目にいくら乗ったのかを聞いてください。「ベースアップ手当」「処遇改善手当」のような新設項目に乗っている場合もあります。入院ベースアップ評価料や外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)を算定している施設なら、区分がいくつかもあわせて聞いておくと、配分の説明を受けるときの土台になります(外来・在宅の(Ⅰ)のみを届け出ている施設では区分の計算がないので、この質問は当てはまりません)。
区分について補足します。入院ベースアップ評価料は令和8年度から165区分から250区分へ拡大されました(令和9年6月以降は500区分まで)。区分は勤務先の賃金改善算定基礎額をもとに、延べ入院患者数などを使った計算で決まります(外来・在宅の評価料を算定している場合は、その見込額を差し引いたうえで計算します)。区分の数字だけでは原資の総額は分かりません。算定基礎額だけでなく患者数でも動くためです。
なお、外来・在宅ベースアップ評価料では、継続的に賃上げを実施している医療機関とそれ以外で評価が分かれる仕組みが入りました。令和8年6月からの外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)は、新たに賃上げを行う施設で初診時17点、継続的に賃上げを実施している施設で初診時23点、というように差がつきます。
「上がらない」と感じたときの切り分け
反映されていないと感じたとき、原因は大きく3つに分かれます。どれに当たるかで打つ手が変わるので、順に確かめてください。
届出をしていない場合。評価料そのものによる原資は勤務先に入っていません(入院基本料等の引き上げは別に効くので、収入がまったく増えていないとは限りません)。加えて令和8年度からは、入院基本料等を算定する保険医療機関のうち前述の免除条件のいずれにも当たらないところは、入院料が減算される側に回ります。不利益が二重になるので、経営判断としても説明を求めやすい状況です。
届出はしているが、配分が基本給に乗っていない場合。評価料で得た収入は、基本給等の引き上げと、それに伴う賞与・時間外手当・法定福利費の増加分に充てることになっています。手当として支給されている場合、その手当が賞与の算定基礎に入るかどうかで年収への効果が変わります。算定基礎に何を含めるかは勤務先の給与規程で決まるので、規程を確認するか、事務担当に聞いてください。ただし前述のとおり、恒常的な交代制勤務の職場の夜勤手当は基本給等に含めてよくなったので、手当だから即おかしい、とは言えなくなりました。どの手当に、どういう考え方で乗せたのかを聞くのが正確です。
説明が食い違う場合。評価料で得た収入の使途は、基本給等の引き上げと、それに伴う賞与・時間外手当・法定福利費等の増加分に限定されています。ですから「経営が苦しいので他に回した」という説明が出てきた場合、それは制度の使途から外れる話になります。
ここで注意したいのは、「基本給等」は基本給だけを指す言葉ではないことです。通知では基本給または決まって毎月支払われる手当と定義されています。ですから「ベースアップ手当」のように毎月固定で支払われる手当を新設・増額する形でも、ベア等に当たります。恒常的に夜間を含む交代制勤務の職場の夜勤手当も同じ扱いです。
逆に言えば、賞与や一時金のように毎月支払われないもので処理するのは、前述の例外(患者数などの変動で追加のベースアップが難しい場合)に当たるときだけです。「賞与に上乗せしました」という説明が出てきたら、そこを確かめてください。
さらに2つ。ひとつは賃金の改善の対象とする項目を特定して行うこと。もうひとつは、評価料によって賃金改善を実施する項目以外の賃金項目(業績等に応じて変動するものを除く)の水準を低下させてはならないということです。つまり、ある手当を増やす代わりに別の固定手当を減らす、という運用は原則として想定されていません。
例外はあります。経営上の理由で賃金水準を引き下げたうえで賃金改善を行う場合は、収支状況や引き下げの内容を記載した「特別事情届出書」を届け出ることとされています。明細を比べるときは、増えた項目だけでなく減った項目がないかもあわせて見て、減っている項目があるなら、この届出をしているのかを聞いてください。
ひとつ例外があります。すでにベースアップを行った医療機関で、患者数などの変動により評価料の収入が実際に使った額を上回り、追加のベースアップが難しい場合に限り、賞与などベースアップ以外の方法での賃金改善が認められています。「賞与で出した」という説明が出てきたときは、この例外に当たるのかどうかを確かめてください。最初から賞与に振り替えてよい、という話ではありません。
実績報告では、賃金改善前(令和8年3月または5月時点)の給与体系を当該年度の職員に当てはめた場合の基本給等総額と、実際の基本給等総額との差分を報告することになっています。この報告の考え方は令和8年度改定で明確化されました。勤務先は「何と比べて、いくら増えたのか」を集計していることになります。加えて前述のとおり、対象職員から照会を受けたときは書面等で分かりやすく回答することが施設基準で求められています。まずはそこを聞いてください。届出そのものの窓口は地方厚生局です。
今の職場で確認することと、変えて解決しやすいこと
給与の悩みは、職場を変えれば全部片づくものではありません。分けて考えます。
今の職場で確認すれば動く可能性があるものは、評価料の算定状況と配分の考え方、賃金項目ごとの反映、区分の見直し予定です。入院基本料等を算定する医療機関で前述の免除条件のいずれにも当たらない場合は、経営側にとっても減算という不利益が生じます。確認する価値があります。
求人を見比べる価値があるものは、提示されている賃金の水準そのものです。上の表のとおり、募集されている求人の中央値には、都道府県間で84,450円、施設の種類で36,545円の開きがあります。これは求人の分布の話で、あなたが移れば必ずその差が得られるという意味ではありません。ただし、比べてみる価値がある幅ではあります。同じ職場での昇給や交渉でこの幅がどこまで動くかは、勤務先の給与テーブル次第です。まずは自分の給与が分布のどこにあるかを確かめてから、どちらの手を先に打つかを決めてください。
変えても解決しにくいものもあります。夜勤の負担そのものや、慢性的な人員不足は、施設の種類を変えても付いてくることがあります。訪問看護の給与中央値が高い理由をこのデータから断定はできませんが、移動・単独判断・オンコールといった条件がセットになっている求人は少なくありません。求人票の金額だけを見て動くと、条件を取り違えます。
判断に必要な情報を先に揃えたい方は、看護師の年収診断で自分の位置を数字にしてから、地域や条件で求人を絞り込むと比べやすくなります。
よくある質問
Q. 3.2%は必ずもらえますか。 いいえ。3.2%は対象職員についての賃上げ目標で、勤務先が受け取る原資はこの目標をもとに別の式で算定されます。実際の配分は勤務先が決めるため、職種や職位によって差が出ます。
Q. 4月の給与明細が変わっていませんでした。 診療報酬本体の施行は令和8年6月です。4月に施行されたのは薬価で、これは給与の原資とは別の話です。6月分以降の明細で確認してください。
Q. 基本給が上がっていないので反映されていないということですか。 「基本給等」には、基本給だけでなく決まって毎月支払われる手当も含まれます。「ベースアップ手当」のような毎月固定の手当が新設・増額されていないかを確認してください。令和8年度からは、恒常的に夜間を含む交代制勤務をとっている職場の職員の夜勤手当も基本給等に含めてよいことになったので、そこも見る必要があります。
Q. パートや非常勤でも対象になりますか。 ベースアップ評価料の対象は当該医療機関に勤務する職員で、雇用形態で一律に除外されてはいません。ただし業務委託により勤務する人は対象外です。自分がどの扱いなのかは勤務先に確認してください。
Q. クリニック勤務でも関係ありますか。 入院のない施設では、外来・在宅ベースアップ評価料が該当します。令和8年6月から点数が見直され、継続的に賃上げを実施している施設とそれ以外で評価が分かれます。
まとめ
令和8年度の改定は、対象職員について、令和8年度・令和9年度にそれぞれ3.2%のベースアップを支援する内容です。全国中央値265,000円の水準にそのままかかったとすれば月8,480円ほどという規模になります。制度としては大きな前進ですが、実際の求人では、都道府県間の中央値に84,450円、施設の種類に36,545円の幅があるというのが、当サイトの掲載求人26,164件から見えた分布です。
やることは2つです。まず今の職場で、算定の有無と配分の考え方、どの賃金項目に乗ったのかを確認する。評価料を算定している勤務先なら、対象職員からの照会に分かりやすく回答することが施設基準に定められているので、聞く根拠ははっきりしています。そのうえで、自分の給与が相場のどこにあるのかを数字にして、動くかどうかを決める。順番を逆にすると、比べる基準を持たないまま動くことになります。
関連する内容は、公務員の給料3.51%アップは自分に関係あるか、最低賃金と看護補助者・パート看護師の時給、給料が上がった実感がない理由でも扱っています。
参考資料
※ 制度に関する記述は2026年8月20日時点で公表されている上記資料に基づいています。給与データは当サイト掲載の公開求人(出典はハローワーク、2026年7月4〜5日取得)のうち、常勤かつ月給として集計できた26,164件を対象に、求人票の「賃金(手当等を含む)」欄から、求人票の下限額と上限額の中間値から中央値・四分位を算出した参考値です。四分位は昇順に並べた位置で取っており、補間はしていません。求人は日々入れ替わるため、実際の掲載状況とは差が生じます。給与の差の背景(経験年数の要件、勤務時間、夜勤・オンコールの条件など)は調整していないため、分布の比較であって施設や地域の優劣を示すものではありません。自分の勤務先の給与がどう変わるかは、給与規程と勤務先の事務部門への確認が必要です。