締切は8月31日。ただし応募要件がある
日本看護協会が、看護DXやAI・ICT等の導入による看護業務効率化に関する事例を募集しています。応募期間は2026年6月1日から8月31日(月)まで。8月12日には、締切が近いことが協会のウェブサイトで改めて告知されました。
募集の内容を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|
| 何を募集するか | 看護DXの推進やAI・ICT等を活用した看護業務効率化の取り組み事例 |
| 対象 | 看護職が勤務している医療機関・介護保険施設・訪問看護事業所等における、AI・ICT等技術の活用や看護DXの推進を通じた取り組み |
| 応募期間 | 2026年6月1日(月)〜8月31日(月) |
| 応募単位 | 施設・事業所もしくは部署(病棟)単位(同一施設内の複数部署による応募可) |
| 提出方法 | 所定の応募用紙(Excel)に記入し、Eメールで送付 |
| 掲載 | 応募要件を含む総合的な観点から掲載可否を確認したうえで、「看護業務効率化先進事例収集・周知事業ポータルサイト」の後継サイトに掲載 |
募集要項には「規模の大小等は問いません」と書かれています。ただし、規模を問わないことと、要件がないことは別です。 応募要件として次のすべてを満たすことが求められています。
- AI・ICT等技術の導入・活用や看護DXの推進を通じ、看護業務効率化に資する取り組みであること
- すでに一定の成果を出し、現在も継続中または改善・発展中の取り組みであること
- 取り組みの導入・運用の成果を数値データ等により客観的に示せること
- 患者・利用者の尊厳や権利を損なわないこと、医療安全が損なわれていないこと、各種ガイドライン等に準拠していること、法律を遵守し制度等との整合性がとれていること
- 施設代表者および看護部門責任者(もしくはその職位相当者)の了承を得ていること
3番目が実質的なハードルです。 思いついた工夫を書けば応募できる、という設計ではありません。成果を「数値データ等により客観的に示せること」が要件になっています。「等」が付いているので数値以外の資料もあり得ますが、客観的に示せることは求められます。
応募単位は施設・事業所もしくは部署(病棟)で、個人が単独で応募するものではありません。それでも、この記事を読む価値があるとすれば、自分の職場でやっていることが要件を満たすかどうかを考える機会になるという点だと思います。
この記事で分かること
- 募集の対象と締切
- 応募要件(成果を数値データ等により客観的に示せること)
- 現場の工夫を事例として言語化する方法
- 効率化の取り組みを評価するときの視点
- 応募しない場合でも、この機会をどう使えるか
応募を検討する場合の窓口は日本看護協会、職場での提案は看護部と情報システム担当が入口になります。応募要件の判断に迷ったら、募集要項の原文で確認するのが確実です。
現場の工夫は、たいてい言語化されていない
看護の現場には、たくさんの工夫があります。申し送りの様式を変えた、記録のテンプレートを作った、物品の配置を見直した、連絡の手段を統一した。
こうした工夫の多くは、やっている本人たちにとって当たり前になっていて、外に説明されないまま終わります。誰かが困って考えた解決策が、その部署の中だけで完結している。これは看護に限らず、どの職場でも起きることです。
事例募集のような機会は、この当たり前を一度言葉にする理由になります。応募するかどうかは別にして、言語化そのものに意味があります。
言語化するときの枠組みを挙げておきます。以下は募集要項が指定している項目ではなく、取り組みを説明するときの一般的な整理です。
| 項目 | 書くこと |
|---|
| 何に困っていたか | 導入前の状態。誰が、どの場面で、どう困っていたか |
| 何を導入・変更したか | 使ったツール、変えた手順 |
| どう変わったか | 時間、回数、エラー、負担感 |
| 何が難しかったか | 定着までの障害、うまくいかなかった点 |
| 続けるために何が必要か | 運用のコツ、担当の置き方 |
四つ目の「何が難しかったか」を書けるかどうかが、事例の質を分けます。 うまくいった話だけを並べたものは、読む側にとって再現性がありません。導入時に反対があった、最初の1か月は逆に時間がかかった、といった実態が入っていると、同じことをしようとする人の役に立ちます。
すでに公開されている事例が、参考になる
今回の募集は突然始まったものではなく、積み上げの上にあります。
日本看護協会は2019年度から2023年度にかけて、厚生労働省の補助金事業として「看護業務効率化先進事例収集・周知事業」を実施していました。その中で「看護業務の効率化先進事例アワード」などが開催され、受賞施設の取り組みはポータルサイト(kango-award.jp)で公開されています。
つまり、「事例とはどういうものか」を知りたければ、すでに公開されているものを見ればよいということです。応募を考えている方はもちろん、自分の職場で何か提案したい方にとっても、実例が並んでいる場は使えます。
もう一つ、日本看護協会は「看護業務効率化取り組みガイド」も提供しています。看護業務効率化の考え方を整理するとともに、必要となるプロセスを解説したもので、大規模な取り組みだけでなく日常業務の効率化にも活用できるとされています。
進め方が分からないという段階であれば、まずこのガイドを見るのが早いでしょう。ゼロから枠組みを考える必要がありません。
過去のアワードが2019年度から2023年度の事業であることを踏まえると、今回の募集は看護DX・AI・ICTという切り口で改めて集め直すものと位置づけられます。生成AIの実用化が進んだ数年間の取り組みが、まだ十分に集約されていない状況ではあります。
効果を測るときに、気をつけること
業務効率化の取り組みを説明するとき、効果を数字で示したくなります。ただ、ここには落とし穴があります。
第一に、時間が減ったことと負担が減ったことは別です。 記録の入力時間が短くなっても、その分だけ別の作業が入ってくれば、体感の負担は変わりません。効率化の効果を測るなら、削減された時間が何に使われたかまで見る必要があります。
第二に、比較の条件を揃える必要があります。 導入前と導入後で、患者数も重症度も職員数も違えば、時間の差が何によるものか分かりません。厳密な比較は現場では難しいので、条件が違うことを明記したうえで示すのが誠実だと思います。
第三に、安全性への影響を見る必要があります。 国の検討会でも、DX・ICTによる業務効率化について、看護の安全性や職員負担への影響も踏まえた慎重な検討が必要とされています。速くなったが確認の工程が減った、という変化は、効率化としては成功でも別のリスクを生みます。
こうした視点は、応募のためというより、自分の職場の取り組みを冷静に評価するために使えます。「導入したから良くなったはず」で止めず、実際に何がどう変わったかを見る。それができる職場は、次の改善も進めやすくなります。
国の議論とも、つながっている話
この募集は、より大きな流れの一部でもあります。
厚生労働省の「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」では、勤務環境改善の論点として「ICT機器の活用による業務効率化の促進」が掲げられています。
ただし、検討会で出た意見は慎重なものでした。DX、ICTによる業務効率化は、導入・効果に地域差・施設差があるため、まず実態把握と効果検証を進めるべきであり、看護の安全性や職員負担への影響も踏まえ、慎重な検討が必要、とされています。
国の側が「まず実態把握」という段階にあることと、日本看護協会が事例を集めていること。この二つは同じ方向を向いているように見えます。ただし、募集要項が掲げている目的は好事例の共有・横展開であり、国の検討会へ資料を提供することとは書かれていません。 集まった事例が政策の議論に使われるかどうかは、資料からは分かりません。
募集要項に書かれているのは、応募事例をウェブサイト上で公開し広く周知することで、全国的な看護業務効率化の推進、ひいては看護の質向上を目指す、という目的です。
どの論点がどう並んでいるかは、カスハラ対策も夜勤の在り方も、国の検討課題に入っているに一覧で載せました。
「効率化に取り組む病院」を、国が認定する仕組みができる
同じ検討会の資料に、もっと具体的な制度の話が載っています。令和8年3月9日の第125回社会保障審議会医療部会の資料をもとにしたもので、医療機関の業務効率化・勤務環境改善への支援について、四つの制度的対応が示されています。
- 地域医療介護総合確保基金に、業務効率化・勤務環境改善の取組を支援する新たな事業を設ける
- 業務効率化・勤務環境改善に積極的・計画的に取り組む病院を厚生労働大臣が認定できる仕組みを設け、認定を受けた病院は特定の表示を行うことができる
- 都道府県の医療勤務環境改善支援センターの体制拡充・機能強化を図り、労務管理等の支援に加え、業務効率化に係る助言・指導等も行うよう努める旨を明確化
- 医療法上、病院または診療所の管理者は、勤務環境の改善に加え、業務効率化にも取り組むよう努める旨を明確化。あわせて健保法上の保険医療機関の責務としても明確化
二つ目が、働く側にとっていちばん実用的です。 業務効率化・勤務環境改善に取り組む病院が国から認定を受け、それを表示できるようになる。施行されれば、求人を見るときに外から判別できる指標が一つ増えるということになります。
現状、職場の勤務環境が良いかどうかは、入ってみないと分からない部分が大きい領域です。認定と表示の仕組みができれば、その手前で見分けられる可能性が出てきます。
予算についても記載があります。資料には地域医療介護総合確保基金の令和8年度当初予算案として647億円(国負担:医療分647億円、公費:医療分960億円)という数字が示されています。これは基金の医療分全体の額であり、新設される区分に割り当てられる額として示されたものではありません。 参考として、業務のDX化に取り組む多くの医療機関を支援するため、令和7年度補正予算において200億円が計上されたとも記載されています。
そして重要な更新があります。この制度は、すでに法律として成立しています。 健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)が令和8年6月5日に公布され、その概要には「業務効率化・勤務環境改善に取り組む医療機関を支援する新たな事業を地域医療介護総合確保基金に設けるほか、計画を作成し業務効率化・勤務環境改善を推進する病院を厚生労働大臣が認定する仕組みを設ける。併せて、医療機関は業務効率化・勤務環境改善に努めるものとする」と明記されています。
施行期日は原則として令和9年4月1日です。未定の構想ではなく、施行を待っている制度という段階だと理解してください。なお、認定の対象は「計画を作成し業務効率化・勤務環境改善を推進する病院」とされています。
国が例に挙げているDXは、どんなものか
同じ資料には、業務のDX化に関する取組例が三つ挙げられています。抽象的な議論ではなく、具体的な機器と使い方の例です。
| 取組例 | 内容 |
|---|
| スマートフォンによる情報共有の効率化 | チャット機能、ビデオ通話、ファイルの共有などにより、1対1だけでなくグループでの一斉の情報共有が可能 |
| 見守りカメラ・スマートグラスによる見守り業務の効率化 | 患者の同意のもと、病室にカメラを設置し、看護師が装着しているスマートグラスから病室の状況を確認 |
| 音声入力・バイタルの自動入力・生成AIによる文書自動作成支援 | — |
三つ目に生成AIによる文書自動作成支援が明記されているのが、この資料の時点らしいところです。記録や書類の作成を生成AIが支援するという形が、国の資料に取組例として並んでいます。
二つ目の見守りカメラ・スマートグラスについては、「患者の同意のもと」という条件が明記されている点に注目してください。効率化の手段であると同時に、患者のプライバシーに関わる仕組みでもあります。導入する側には、同意の取り方という別の課題が生まれます。
これらは「こういうものが対象になる」という例示です。事例募集に応募するかどうかを考えるとき、自分の職場でやっていることがこの範囲に入るかどうかの目安にはなります。ただし、これは国の資料の例示であって、日本看護協会の募集要項が定める対象範囲そのものではありません。応募を検討する場合は、必ず募集要項の応募要件をご確認ください。
師長が「渡したい」と考えている業務は、はっきりしている
効率化はICTだけの話ではありません。同じ資料に、看護補助者へのタスク・シフト/シェアについての調査結果が載っています。
出典は令和6〜7年度の厚生労働科学研究費補助金による「効率的な看護業務推進の評価に係る実態把握のための研究」(研究代表者 坂本すが)です。47病院50病棟を対象に調査を実施し、42病院44名の病棟師長が回答したものとされています。
そのうち、看護補助者(介護福祉士を含む)へのタスク・シフト/シェアを拡充したい業務として挙げられたものを、回答数の多い順に並べます(N=44)。
| 業務 | 回答数 | 割合 |
|---|
| 見守り・付き添い | 21 | 47.7% |
| 排泄介助(おむつ交換・トイレ誘導・片づけ等) | 21 | 47.7% |
| 環境整備(ベッド周囲の整理・整頓・清掃等) | 18 | 40.9% |
| リネン交換 | 18 | 40.9% |
| 更衣 | 18 | 40.9% |
| 身体の清潔 | 18 | 40.9% |
| 口腔ケア | 18 | 40.9% |
| 身の回りの世話 | 17 | 38.6% |
| 体位交換 | 16 | 36.4% |
| 食事の世話 | 16 | 36.4% |
| 薬・検体・書類の搬送 | 15 | 34.1% |
| 患者の搬送 | 13 | 29.5% |
上位はほぼすべて患者のケアに関する業務です。 見守り、排泄介助、清潔、口腔ケア、体位交換。搬送や物品管理といった周辺業務より、直接ケアの部分を渡したいという回答が上に来ています。
この結果をどう読むかは、立場によって割れると思います。直接ケアこそ看護の中核だという見方もあれば、状態が安定している患者のケアは分担してよいという見方もあります。実際、この調査の自由記載では、状態が安定している患者の直接ケア(清潔や見守り)を依頼できて効率化が図れた、という声が紹介されています。
ここで重要なのは、効率化の議論が「機械を入れるか」だけの話ではないという点です。 誰が何をするかという分担の設計も、同じくらい効率化の中身を左右します。事例募集はDX・AI・ICTという切り口ですが、自分の職場を振り返るときには、分担の見直しも同じ土俵に乗せて考えられます。
なお、この調査の回答者は44名の病棟師長です。看護職全体の意見を代表するものではありません。また、看護補助者の側がどう受け止めているかは、この調査からは分かりません。
応募しない立場でも、使えること
多くの読者にとって、応募は自分の担当外だと思います。それでも、この募集を通じて得られるものがあります。
一つは、リニューアル予定のポータルサイトです。 応募された事例は、要件を含む総合的な観点から掲載可否が確認されたうえで、ポータルサイトの後継サイトに掲載されます。応募すれば必ず載るわけではなく、掲載に至らなかった場合は2026年11月頃を目途にメールで通知されるとされています。公開されれば、他施設の取り組みをまとめて見られる場になります。
もう一つは、いま職場で提案するきっかけとして使えることです。 「協会が事例を募集しているので、うちの取り組みも整理してみませんか」という切り出し方であれば、業務改善の提案が個人の思いつきではなく、外部の動きに沿ったものとして扱われやすくなります。
業務改善の提案は、通らないことのほうが多いものです。だからこそ、外部の締切や枠組みを借りるのは現実的な方法です。8月31日という日付があること自体が、話を動かす理由になります。
「効率化」で失うものにも目を向ける
最後に、この話には慎重に扱うべき側面があることも書いておきます。
業務効率化は、多くの場合、少ない人数で同じ量をこなすことを意味します。削減された時間が、看護の質や職員の余裕に戻るとは限りません。 別の業務が詰め込まれれば、効率化の成果は職員に還元されないまま終わります。
検討会の意見に「職員負担への影響も踏まえ」という文言が入っているのは、この懸念があるからでしょう。
現場として気をつけるなら、効率化の取り組みを進めるときに、空いた時間をどうするかを最初に決めておくことです。患者と話す時間に充てるのか、記録の質を上げるのか、残業を減らすのか。決めないままにすると、自動的に別の業務で埋まります。
看護のDXに関する動きはAI・ICTの導入で看護業務はどう変わるかでも扱っています。あわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 個人でも応募できますか。 A. 応募単位は施設・事業所もしくは部署(病棟)単位とされています。また、施設代表者および看護部門責任者の了承を得ていることが要件に含まれます。
Q. 大がかりなシステムでないと対象になりませんか。 A. 募集要項には規模の大小等は問わないと記載されています。ただし応募要件として、すでに一定の成果を出していること、その成果を数値データ等により客観的に示せることが求められています。
Q. 締切はいつですか。 A. 2026年8月31日(月)です。
Q. 応募した事例はどう使われますか。 A. 応募要件を含む総合的な観点から掲載可否が確認され、通過したものがポータルサイトの後継サイトに掲載されます。掲載に至らなかった場合は2026年11月頃を目途にメールで連絡されるとされています。
Q. 効果を数字で示せないと応募できませんか。 A. 応募要件は「取り組みの導入・運用の成果を数値データ等により客観的に示せること」です。「等」が付いているので数値だけが唯一の方法とは限りませんが、客観的に示せることは求められます。数値以外の資料で示したい場合は、応募前に日本看護協会の募集要項で確認してください。なお、数値を示す際は比較の条件が揃っているかどうかにご注意ください。
参考資料
- 日本看護協会「看護業務の効率化」(看護DX/AI・ICT等導入による看護業務効率化に関する事例募集、看護業務効率化取り組みガイド) https://www.nurse.or.jp/nursing/shuroanzen/work_efficiency/index.html
- 日本看護協会「看護業務の効率化先進事例アワード」ポータルサイト https://kango-award.jp/
- 厚生労働省「第4回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」(令和8年7月23日) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74359.html
- 厚生労働省「看護職員の確保策について」同検討会 資料3(医療機関の業務効率化・勤務環境改善への支援を含む) https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001719356.pdf
- 日本看護協会「看護DX/AI・ICT等による看護業務効率化に係る事例募集について」(募集要項) https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/job_description.pdf
- 厚生労働省「健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001713111.pdf
応募の要件・様式・締切の詳細は、必ず日本看護協会の募集要項をご確認ください。本記事の内容は2026年8月15日時点の公表情報にもとづきます。