領域別の求人倍率:訪問看護が突出している
公表された2024年度のデータから、上位の領域を抜き出します。
| 領域 | 求人倍率 |
|---|
| 訪問看護ステーション | 4.54倍 |
| 病院(20〜199床) | 3.00倍 |
| 病院(200〜499床) | 2.49倍 |
| 病院(500床以上) | 1.93倍 |
| ケアハウス・グループホーム・有料老人ホーム | 1.78倍 |
| 介護老人福祉施設(特養) | 1.38倍 |
| 診療所(無床) | 1.03倍 |
この並びには、はっきりした傾向が出ています。病院は規模が小さいほど求人倍率が高く、500床以上の1.93倍に対して20〜199床は3.00倍です。そして訪問看護ステーションは、その最も高い病院区分をさらに大きく上回っています。
一方、無床診療所は1.03倍で、登録された求職者と求人がほぼ釣り合っています。なぜ領域によってここまで差が出るのかは、資料では分析されていません。勤務条件、地域の分布、求職者の経験領域など複数の要因が考えられますが、理由を一つに決めることはできません。
厚生労働省の資料でも、都道府県別に見ると訪問看護領域は一部を除いて全体的に不足していると整理されています。これは特定の地域だけの問題ではないということです。
4.54倍という数字の、二つの読み方
同じ数字が、立場によって違う意味を持ちます。
求職者から見れば、登録されている求人の選択肢は多いということです。 ただし、これは全国のナースセンター登録データを集計した比率であり、あなたが応募したときに採用されやすいかどうか、条件交渉ができるかどうかを示すものではありません。採用の可否は、その事業所が求める経験や勤務条件と、自分の条件が合うかどうかで決まります。地域によって求人の分布が大きく違うことも、この全国値からは見えません。
事業所の側から見れば、募集している人数の合計が、登録している求職者の数を大きく上回っているということです。 ただし、それが採用の成否にどうつながっているかは、この数字からは分かりません。充足率や募集期間のデータがなければ、「採れていない」とも「順調に採れている」とも言えないからです。
だからこそ、「求人がたくさんあるから安心」とも「人が採れない職場だから大変」とも考えず、応募先ごとに実際の体制を確かめる必要があります。
別のデータとして、訪問看護の需要見通しも同じ資料に載っています。訪問看護の利用者数は多くの二次医療圏(198の医療圏)で2040年以降にピークを迎えると推計されており、2025年以降は利用者の7割以上が後期高齢者になると見込まれています。
ただし、この利用者数の推計と求人倍率は別の集計です。需要の伸びが求人倍率の高さをもたらしているという因果は、資料では分析されていません。二つを並べて見ることはできても、原因として結びつけることはできません。
あわせて確認できるデータ
需要が伸びていて求人も多いのに、なぜ人が足りないのか。その答えを一つに絞れる分析は資料にありません。ただし、周辺で確認できるデータはいくつか載っているので、順に見ていきます。
一つは、求職者の側の事情です。ナースセンターやハローワークの利用者は年齢層が比較的高く、夜勤や交代シフトの希望について一定の制約が存在すると整理されています。
ただし注意が必要なのは、この求職者の属性データと、訪問看護の求人倍率は別々の集計であり、同じ人を追った分析ではないという点です。「日勤中心の訪問看護と相性がよいはずなのに埋まっていない」と読みたくなりますが、それは二つのデータを接続した推測にすぎません。ここでは、次に紹介する転職希望者本人の回答データのほうを判断の中心に置きます。
もう一つは、経験の連続性です。資料では、看護の職種のなかでは前職と同じ領域への就職を希望する人が多い一方で、前職と異なる領域への就職を希望する人も一定数存在すると記載されています。また、ナースセンターに求職者届を出した人の「これまでの経験」と「今後の希望分野」を照らし合わせると、これまでに同じ分野や関連分野を経験した場合には、同分野への就業を希望する傾向が見られるとされています。
この二つは、いずれも別々の集計です。ここから「だから訪問看護の求人倍率が高い」という原因を導くことはできません。言えるのは、経験のある領域を希望する傾向があること、そして未経験から移りたい人が一定数いること。この二つが同時に観察されている、ということまでです。
厚生労働省の資料の論点でも、需要が高い訪問看護や介護施設などの領域については、当該領域が未経験の方が就業を希望する際の不安を軽減するため、職場体験や研修と丁寧な相談・マッチングを組み合わせた支援が有効ではないかという方向が示されています。これは結論ではなく、検討会で議論するための論点として提示されているものです。求人と求職を並べるだけでは足りないのではないか、という問いが国の側から出ている段階だと読むのが正確です。
訪問看護への転職を希望する人が、必要としている支援
同じ検討会の資料に、興味深い調査結果が載っています。日本看護協会が2025年に看護職員(潜在看護職員を含む)4,430名に対して行った、転職するうえで必要な支援についての調査です。
全体では、「希望する仕事内容、労働条件等と転職先の条件とをマッチングしてくれること」が2,206名(49.8%)で最多でした。次いで「自身に合ったキャリアプランの相談と実現に向けた支援」が1,848名(41.7%)、「現にその領域で働く看護職から話を聞けること」が1,183名(26.7%)と続きます。
注目したいのは、病院・診療所に勤務していて訪問看護ステーションへの転職を希望する人(798名)に絞ると、マッチングを求める割合が59.0%に上がるという点です。同じく「現にその領域で働く看護職から話を聞けること」も39.7%、「人事交流・出向等により、仕事の体験ができること」も29.9%と、全体より高くなっています。
ここで母集団を正確に押さえてください。この798名は「病院・診療所に勤務していて、訪問看護ステーションへの転職を希望する人」であり、訪問看護の経験の有無では絞られていません。未経験者だけのデータではない点に注意が必要です。
そのうえで言えるのは、訪問看護への転職を希望する層では、条件のすり合わせと実際の仕事を知る機会を必要とする割合が、全体より高いということです。求人票を見比べるだけでは埋まらない部分に支援のニーズが集まっている、という傾向が読み取れます。
一人で訪問することへの不安を、言葉にしておく
病棟から訪問看護に移るときに、多くの人が同じ不安を口にします。判断を一人でしなければならないこと、急変時にすぐ医師や先輩に相談できないこと、家族との距離の取り方が分からないこと。
これらは、経験を積めば解消する部分と、体制で解決すべき部分に分かれます。技術や判断力は経験で伸びますが、相談できる体制があるかどうかは事業所の設計の問題です。同じ「未経験可」の求人でも、初回は必ず同行する事業所と、数回で単独訪問に移る事業所では、まったく違う経験になります。
厚生労働省の資料に載っている事業所へのヒアリングでも、事前に研修への参加機会があったところや、就業後も相談体制が取られているところでは対応が容易だったという回答が紹介されています。これは支援がある側の事例なので、支援がない事業所がどうなるかまでは調べられていません。それでも、確認しておく価値がある項目だとは言えます。
訪問看護の働き方そのものについては、病棟から訪問看護へ移るときの確認事項や訪問看護のオンコール体制の見方でも整理しています。仕事内容のイメージを固めてから条件を見るほうが、判断がぶれません。
応募前に確かめたい6つのこと
求人票に書かれていない条件も、働き方に関わってきます。見学や面接で確認したい項目を整理します。
| 確認すること | 見分けるポイント |
|---|
| 同行訪問の回数と期間 | 「数回」か「数か月」かで大きく違う |
| 単独訪問を始める判断基準 | 期間で決めるのか、到達度で決めるのか |
| オンコールの開始時期 | 入職直後から入るのかどうか |
| 相談できる相手と手段 | 訪問中に連絡が取れる体制か |
| 一人あたりの1日の訪問件数 | 移動・記録時間とあわせて負荷を見る材料 |
| 直近1年の入退職者数と職員数 | 人の出入りの規模(職員数と合わせて見る) |
このうち、確認しておきたいのが単独訪問を始める判断基準です。「3か月経ったら一人で行ってもらいます」という期間基準の事業所と、「この利用者さんならこの人が一人で行けると判断できたら」という到達度基準の事業所では、教育の考え方が違います。どちらが正しいということではありませんが、前者の場合、3か月後に自分が準備できていなくても単独訪問が始まる可能性があります。
オンコールの開始時期も同様です。オンコール手当は収入に直結するため、早く入りたいという人もいますが、経験が浅いうちの夜間対応は負担が大きくなります。希望を伝えられる余地があるかどうかを確認してください。
一人あたりの1日の訪問件数は聞いておきたい数字ですが、件数だけで負荷は測れません。訪問先までの距離、利用者さんの状態、記録にかかる時間、移動手段、事務作業の支援体制によって、同じ件数でも忙しさはまったく変わります。「だいたい何件くらい回っていますか」に加えて、記録をどこで書いているか(訪問先か、事業所に戻ってからか、直帰後の自宅か)、そして残業がどれくらい発生しているかをセットで聞いてください。これらを合わせて聞くと、労働時間の見当がつきやすくなります。オンコールの待機時間、会議、移動の準備なども加わるため、これで全部が分かるわけではありません。
聞きにくい質問を、どう切り出すか
これらを面接で聞くのは気が引ける、と感じる方は多いと思います。しかし、聞き方を工夫すれば角は立ちません。
たとえば「未経験なので不安が大きく、入職後にどのくらい同行させていただけるかを知りたいです」という形にすれば、条件を詮索しているのではなく、自分の準備のために聞いているという伝わり方になります。「オンコールにはいつ頃から入るのが一般的ですか」も同じで、事業所の運用を尋ねる形にすれば自然です。
そして、これらの質問に対する答え方そのものも確認材料の一つになります。具体的に答えが返ってくれば、その分だけ判断材料が増えます。「人によります」「その時の状況次第です」という答えしか返ってこない場合は、追加で聞いてみてください。答えられないことが直ちに問題だとは限りませんが、こちらが得られる情報の量は変わります。
病院に籍を置いたまま経験する方法もある
いきなり転職するのではなく、経験してから決めるという道もあります。
厚生労働省の資料では、静岡県の取り組みが紹介されています。2019年から静岡県が地域医療介護総合確保基金を活用して静岡県看護協会に委託し、訪問看護出向研修支援事業を実施しているというものです。病院の看護師が訪問看護ステーションに出向して訪問看護に従事することで、医療と介護の連携強化や、病院の入退院調整機能の強化につながっているとされています。
こうした出向の仕組みは、働く側から見れば「辞めずに試せる」形になりうる点が利点です。ただし、出向の期間や終了後の扱いは制度の設計と協定の内容によります。「必ず元の職場に戻れる」と決まっているわけではないので、条件は事前に確認してください。すべての都道府県で同じ制度があるわけでもありません。自分の地域にどんな仕組みがあるかは、都道府県ナースセンターに問い合わせると、利用可能な支援を案内してもらえる場合があります。
また、ナースセンターは求人紹介だけでなく、復職研修や就職相談、病院見学や実地での体験を行っている例もあると資料に記載されています。転職サイトだけで探していると、こうした公的なルートは視野に入りません。ナースセンターの活用方法もあわせて確認してみてください。
「病院の求人倍率」も、実は見過ごせない
この表をもう一度見てください。訪問看護に目を奪われがちですが、病院(20〜199床)が3.00倍という数字も相当な水準です。200〜499床で2.49倍、500床以上で1.93倍。つまり、病院についても求人数が求職者数を上回っています。
この事実は、二つのことを教えてくれます。
一つは、病院の規模によって求人倍率に差があるということです。500床以上の大病院と20〜199床の病院では、求人倍率に1.5倍以上の開きがあります。ただしこれは登録データ上の比率であり、採用が成立しているかどうか、規模の小さい病院なら採用されやすいかどうかを示すものではありません。
もう一つは、求人数が求職者数を上回っているのは訪問看護だけではないということです。無床診療所の1.03倍と比べれば、病院も訪問看護も同じ方向にあります。なぜ領域によってここまで差がつくのかは資料で分析されていないため、理由の断定は避けます。
そう考えると、「訪問看護は人手不足だから大変そう」という見方は、必ずしも訪問看護に固有の話ではありません。むしろ、どの領域を選ぶにしても、その職場に人員が足りているかどうか、足りていないなら残った人にどう負担が配分されているかを確かめるほうが実用的です。それは求人倍率ではなく、応募先で聞くことでしか分かりません。
訪問看護を選ばないという判断も、同じくらい正当
ここまで読んで、自分には向かないかもしれないと感じた方もいると思います。それも一つの結論です。
訪問看護は在宅医療の中核であり、需要も伸びています。しかし、それは「看護師なら目指すべき領域」という意味ではありません。一人で判断する働き方が合う人もいれば、チームで動くほうが力を発揮する人もいます。運転が必須の地域もあり、体力や生活リズムとの兼ね合いもあります。
大切なのは、求人倍率が高いという情報を「行くべき理由」として受け取らないことです。数字は市場の状態を示しているだけで、あなたに合うかどうかは別の話です。病棟以外の選択肢を広く見たい方は、病棟以外で働く選択肢も参考になります。
条件面で確認しておきたいこと
最後に、待遇の確認について触れておきます。訪問看護ステーションの給与は、基本給のほかにオンコール手当や訪問件数に応じた手当が設定されている場合があります。手当の構成は事業所によって大きく異なるため、月給の額面だけでは実態が分かりません。
確認したいのは、基本給がいくらか、手当がどの条件で発生するか、そしてオンコールに入らない月の収入がどうなるかです。オンコール込みの金額が求人票に載っている場合、体調や家庭の事情でオンコールを外れると収入が大きく下がることになります。
処遇改善の仕組みについては、訪問看護の処遇改善の現在地で制度面を整理しています。制度として何が手当てされているかを知っておくと、事業所ごとの差が見えやすくなります。
もう一点、移動に関する費用の扱いも確認しておく価値があります。自家用車を使うのか、事業所の車両を使うのか、自転車か。ガソリン代や駐車場代がどう精算されるのか。都市部では駐車場所の確保そのものが業務上の課題になることもあります。訪問時の駐車の扱いで、この点に触れています。細かい話に見えますが、毎日のことなので積み重なります。
数字を、自分の地図に置き換える
最後に、この記事の使い方を整理しておきます。
求人倍率4.54倍という数字は、全国のナースセンターに登録された求人と求職の比です。あなたの住む地域の実態とは一致しないかもしれませんし、ナースセンターを使わずに採用している事業所の動きは含まれていません。数字はあくまで、市場の大きな傾向を示す地図です。
その地図の上に、自分の条件を置いてみてください。通える範囲にステーションがいくつあるか。日勤のみで働けるか。オンコールに入れるか、入れないか。運転はできるか。この四つを書き出すだけでも、選べる範囲がかなり具体的になります。
そのうえで、実際に見学に行くのが最も確実です。求人票と面接だけで決めるより、一度現場を見たほうが判断の精度が上がります。見学の申し込み自体を断られるようなら、それも一つの情報です。
よくある質問
Q. 求人倍率4.54倍とは、どういう意味ですか。 A. 都道府県ナースセンターに登録された求職者数1人に対して、4.54人分の求人数があるという意味です。2024年度のデータで、資料に掲載された施設種類のなかで最も高い水準です。
Q. 未経験でも本当に採用されますか。 A. 資料では、訪問看護や介護施設の領域が未経験であっても就業を希望する人が一定程度存在し、そうした人への支援ニーズが高いと整理されています。採用の可否は事業所によりますが、未経験者を受け入れる前提の求人は存在します。
Q. 病棟経験は何年くらい必要ですか。 A. 一律の基準はありません。事業所によって求める経験は異なります。必要な経験年数を明示している求人もあるため、条件を確認してください。
Q. オンコールは必ず入らなければいけませんか。 A. 事業所の体制によります。オンコールなしの求人や、入職後しばらくは免除される事業所もあります。面接で確認できる事項です。
Q. 出向の仕組みは、どこの都道府県にもありますか。 A. 静岡県の例が資料で紹介されていますが、すべての都道府県に同じ制度があるとは限りません。都道府県ナースセンターに問い合わせてください。
参考資料
- 厚生労働省「看護職員の確保策について」第4回2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会 資料3(令和8年7月23日) https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001719356.pdf
- 厚生労働省「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000161127_00103.html
求人倍率は市場全体の傾向を示すものであり、個別の事業所の労働条件や教育体制を示すものではありません。応募先の条件は、事業所に直接ご確認ください。