医療・福祉は「人が抜けた職場」の割合が高い
厚生労働省が2026年8月7日に、令和7年の労働安全衛生調査(実態調査)の結果を公表しました。常用労働者を10人以上雇用する民営事業所から無作為抽出した約14,000事業所と、そこで働く約18,000人を対象にした調査で、有効回答は8,054事業所と8,393人です。
この調査には、過去1年間(2024年11月1日から2025年10月31日)にメンタルヘルス不調によって連続1か月以上休業した労働者、または退職した労働者がいたかどうかを、事業所に尋ねた項目があります。産業別の数字を並べると、医療・福祉の位置がはっきり見えます。
| 区分 | 休業者または退職者がいた | うち休業者がいた | うち退職者がいた |
|---|
| 全産業 | 13.5% | 10.8% | 6.5% |
| 医療,福祉 | 16.8% | 13.5% | 9.3% |
| 情報通信業 | 37.4% | 32.7% | 17.5% |
| 金融業,保険業 | 24.3% | 18.1% | 14.0% |
| 製造業 | 18.1% | 16.2% | 7.3% |
| 建設業 | 7.1% | 5.6% | 3.6% |
注目したいのは、いちばん右の列です。医療・福祉で「メンタル不調により退職した労働者がいた」と答えた事業所は9.3%。全産業の6.5%に対して1.43倍です。休業までなら10.8%対13.5%で1.25倍ですから、休業の段階より、退職まで至った段階のほうが差が開いています。
ただし、ここから個人の経過を読み取ることはできません。この二つは「休業者がいた事業所」「退職者がいた事業所」の割合であって、同じ人を追跡したものではありません。両方に該当する事業所もあります。言えるのは、退職という結果が生じた職場の割合で見たときに、医療・福祉と全産業の差がより大きい、というところまでです。
この記事で分かること
- メンタル不調による休業・退職の統計で、医療・福祉がどの位置にあるか
- 事業所規模別の数字を、絶対に比較に使ってはいけない理由
- 事業所ベースの割合と、労働者ベースの割合の使い分け
- この統計を職場選びのどの場面で使えるか、使えないか
- 面接や見学で確認するとき、何を聞けば実態に近づけるか
いま調子が良くないと感じている方へ。相談先は勤務先の産業医、外部では働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」の窓口があります。症状が重い場合や、ハラスメント・安全上の危険がある場合は、受診や避難のほうが先です。そうでなければ、退職を急いで決めずに、休職規定などの選択肢を並行して確認しておくと選べる手が増えます。
規模別の数字は、比較に使えません
この調査で、いちばん誤解を招きやすいのが事業所規模別の数字です。実際の値を見てください。
| 事業所規模 | 休業者または退職者がいた |
|---|
| 1,000人以上 | 92.9% |
| 500〜999人 | 89.7% |
| 300〜499人 | 82.4% |
| 100〜299人 | 54.6% |
| 50〜99人 | 26.8% |
| 30〜49人 | 18.3% |
| 10〜29人 | 6.8% |
1,000人以上の事業所では92.9%、10〜29人では6.8%。13倍以上の開きがあります。これを見て「大きい病院ほどメンタル不調が多い」と読みたくなりますが、その読み方は誤りです。
この指標は「該当する労働者が1人でもいたか」を尋ねています。1,000人が働く職場なら、1人でも不調で休めば「いた」に計上されます。20人の職場では、20人全員が無事なら「いなかった」になります。人数が多いほど「1人以上いる」確率が上がるのは当然です。母数の大きさが強く効くため、事業所ベースの割合だけで職場環境の良し悪しを判定することはできません。
同じ調査の中に、この誤読を防ぐための数字があります。事業所ではなく労働者を分母にした割合です。
| 事業所規模 | 休業した労働者の割合 | 退職した労働者の割合 |
|---|
| 1,000人以上 | 1.1% | 0.2% |
| 100〜299人 | 0.7% | 0.2% |
| 50〜99人 | 0.5% | 0.2% |
| 10〜29人 | 0.3% | 0.2% |
労働者ベースで見ると、退職した労働者の割合は規模を問わず0.2〜0.3%の範囲に収まっています。事業所ベースで92.9%対6.8%だった差は、退職者の割合で見るとほぼ横並びになります。
ただし休業者の割合は、1,000人以上1.1%に対して10〜29人0.3%と3倍以上の差が残ります。差が小さくなるのは退職者の側であって、休業者まで含めて差が消えるわけではありません。
求人を比べるときに使えるのは、こちらの見方です。 「大きい病院は9割超の職場で不調者が出ている」という受け取り方は、統計の作り方を誤解したうえでの判断になります。
なお産業別で見た場合の労働者割合は、医療・福祉で休業0.6%、退職0.3%。全産業は休業0.6%、退職0.2%です。事業所ベースほど劇的ではありませんが、退職の側では医療・福祉のほうがわずかに高い水準にあります。事業所ベースと労働者ベースの両方で医療・福祉が上回っている、というのが正確な整理です。
事業所の割合と労働者の割合、どちらを見るべきか
二つの数字は、答えている問いが違います。混ぜて考えないための整理をしておきます。
事業所ベースの割合が答えているのは、「そういう出来事が起きた職場は、世の中にどれくらいあるか」です。 医療・福祉の9.3%という数字は、「10施設に1施設弱では、この1年でメンタル不調による退職者が出た」と読みます。記述統計として産業ごとに並べることはできますが、各産業の事業所規模の構成にも左右されるため、産業に固有のリスク差として読むことはできません。規模の違う職場どうしの比較にも使えません。
労働者ベースの割合が答えているのは、「働いている人のうち、何%がその状態になったか」です。 医療・福祉の0.3%は、「この産業で働く1,000人あたり約3人」という集計上の規模感です。特定の職場で1,000人中3人出ることを予測する数字ではありませんし、個人の発症確率でもありません。それでも、事業所ベースの割合より実感に近い桁として置いておく価値はあります。
自分の職場が特別なのかを知りたい、という動機で統計を見る人は多いと思います。ただし率直に言うと、どちらの指標も個別の職場の良し悪しを判定する用途には使えません。事業所ベースは規模構成に左右されますし、労働者ベースは産業全体の平均です。使えるのは「相談体制や復職の実績を職場に質問するきっかけ」までだと考えてください。医療・福祉の16.8%という数字は、「医療・福祉全体としては、6施設に1施設くらいで起きている」という平均像を示すにすぎず、あなたの職場が平均より上か下かを判定するものではありません。
この統計が言っていないこと
数字を使う前に、この調査から導けないことをはっきりさせておきます。
第一に、個人がたどった経過は分かりません。 事業所単位で「いたかどうか」を尋ねた調査なので、休業した人がその後どうなったか、退職した人が休業を経ていたかは追えません。
第二に、原因は分かりません。 この調査はメンタル不調の発生を数えたもので、なぜ起きたかを分析していません。夜勤なのか、人間関係なのか、業務量なのか、あるいは職場外の事情なのか。医療・福祉の値が高いことと、医療・福祉の労働環境が原因であることは、この調査では結び付けられません。
第三に、看護職の数字ではありません。 「医療,福祉」という産業分類には、病院や診療所だけでなく、介護施設、社会福祉施設、保育所なども含まれます。看護師だけを取り出した数字ではないので、「看護師の◯%が」という言い換えはできません。
第四に、この1年の話です。 過去1年間という区切りの調査なので、長期的な傾向を示すものではありません。ただし前年の令和6年調査では、全産業で12.8%(休業10.2%、退職6.2%)でした。全産業ベースでは、わずかに増えています。
こうした限界を踏まえたうえで使うなら、この統計は十分に役立ちます。次の節で、具体的な使い方を整理します。
職場選びで、この数字をどう使うか
転職先を検討している段階でこの統計を使うなら、「うちは大丈夫」という説明を、そのまま受け取らないための基準線として使うのがいちばん現実的です。
医療・福祉では、6施設に1施設で誰かが1か月以上休むか辞めるかしている。これが平均像です。つまり「うちの職場ではそういう話は聞かない」という説明が返ってきたとき、それが事実なのか、単に把握されていないだけなのかを確かめる質問に進めます。
なお、該当者がいないことをもって良い職場だと判定することはできません。職員数が少なければ該当者が出ない確率はもともと高く、離職の把握の仕方も施設によって違うためです。
見学や面接の場で確認するなら、次のような聞き方が具体的です。
| 確認したいこと | 聞き方の例 |
|---|
| 休職からの復帰実績 | 「体調を崩して長期に休まれた方が、復帰されるまでにどんな段取りを踏まれますか」 |
| 相談先の存在 | 「産業医や相談窓口は、どういうときに使えますか。予約は誰を通しますか」 |
| 復帰後の配置 | 「復帰されるとき、いきなり夜勤に戻る形ですか。段階を踏む仕組みはありますか」 |
| 把握の仕組み | 「勤務の負担が偏っていないかを、誰がどのタイミングで見ていますか」 |
いずれも「メンタル不調の人はいますか」と直接尋ねるものではありません。あるかないかを聞くと否定されて終わりますが、仕組みの有無を聞けば、答えられるかどうかで実態が見えます。 復帰の段取りを即答できる職場は、実際に運用した経験がある可能性が高い。逆に「そういうことはないので」と話が終わるなら、仕組みがないのか、把握されていないのかのどちらかです。
辞めるか続けるかを迷っている段階なら、職場を変える以外の選択肢もあわせて考えておくと、判断の幅が広がります。異動や休職といった手段の整理は、辞める前に異動・休職という選択肢を検討するでまとめています。
休業ではなく退職になってしまう手前で
この統計で注目したいのは、医療・福祉で休業より退職のほうが全産業との差が開いていた点です。休業は職場とのつながりが残りますが、退職はそこで切れます。
ただし繰り返しになりますが、この調査から「休職を使わずに辞めた人が多い」と読むことはできません。事業所単位で別々に尋ねた割合であり、個人がどの順序をたどったかは追えないからです。
心身の状態が良くないと感じているなら、辞める判断をする前に、まず使える制度があるかどうかを確認しておく価値があります。就業規則の休職規定、産業医面談といった職場の制度は、在職中でなければ使えません。順番を間違えると、選べたはずの選択肢が消えます。なお傷病手当金は健康保険の給付で、資格喪失前の加入期間や退職時点の受給状況などの要件を満たせば、退職後も継続して受けられる場合があります。職場の制度とは扱いが違うので、加入先の健康保険の保険者に確認してください。
退職を判断する前に何を確認しておくべきかは、看護師を辞めて後悔しない判断軸で整理しています。職場との話し合いがうまくいかない、あるいは相談しても取り合ってもらえないという段階であれば、看護師の労働問題はどこに相談するかで外部の窓口をまとめています。
なお、心身の不調そのものについては、この記事で判断の指針を示すことはできません。休むべきか続けるべきかは、主治医や産業医など、あなたの状態を直接見られる人の判断が必要です。統計は職場を選ぶ材料にはなりますが、自分の体調の判断材料にはなりません。
メンタルヘルス対策の実施率も見ておく
同じ調査には、事業所がメンタルヘルス対策に取り組んでいるかどうかの数字もあります。全体では63.0%(前年63.2%)ですが、規模による差が大きい項目です。
| 事業所規模 | 対策に取り組んでいる | うちストレスチェック実施 |
|---|
| 50人以上 | 93.7% | 89.8% |
| 30〜49人 | 72.0% | 58.4% |
| 10〜29人 | 54.6% | 55.9% |
50人以上の事業所では93.7%が何らかの対策に取り組み、そのうち89.8%がストレスチェックを実施しています。一方、30人未満では取り組み自体が54.6%にとどまります。
ストレスチェックは、常時50人以上の労働者を使用する事業場に実施義務があります。この分かれ目が、そのまま数字に表れていると読めます。裏を返せば、小規模なクリニックや訪問看護ステーションに移るときは、こうした仕組みが現時点では制度上必須ではない環境に入るということです。これは良し悪しの話ではなく、前提が違うという話です。
ただし、この前提は変わることが決まっています。労働者数50人未満の事業場についても、2028年4月1日からストレスチェックの実施が義務化されます。いま努力義務である職場も、数年後には実施義務がかかります。それまでの間は、小規模な職場を選ぶならその分だけ自分で相談先を持っておく必要がある、という受け止め方になります。
「対策をしている」の中身を分解する
対策に取り組んでいる事業所が63.0%といっても、中身はさまざまです。同じ調査で取組内容を見ると、いちばん多いのが「ストレスチェックの実施」で64.0%(前年65.3%)、次いで「職場環境等の評価及び改善(ストレスチェック結果の集団ごとの分析を含む)」が52.8%(前年54.7%)でした。
ここから先が、この調査のいちばん実用的な部分です。ストレスチェックには続きの数字があります。
| 段階 | 割合 |
|---|
| ストレスチェックを実施した事業所のうち、集団ごとの分析を実施した | 74.9% |
| 分析を実施した事業所のうち、分析結果を活用した | 78.1% |
ストレスチェックは、受けて終わりでは職場は変わりません。部署ごとに集計して傾向を見る(集団分析)、そこから何かを変える(活用)という二段階を経て、はじめて環境の改善につながります。
この二つを掛け合わせると、ストレスチェックを実施している事業所のうち、分析結果を活用したところは6割弱という計算になります(74.9%×78.1%=約58.5%)。残りの4割強では、集団分析まで行かないか、分析しても活用まで至っていないということです。
なお原典の表現は「分析結果を活用した」であり、活用の中身がどこまで職場の改善に結びついたかを測ったものではありません。ここは掛け算で出せる範囲にとどめて読んでください。
活用している事業所が何をしているかも公表されています。多い順に「相談窓口の設置」43.2%、「上司・同僚に支援を求めやすい環境の整備」38.5%、「衛生委員会又は安全衛生委員会での審議」34.3%、「管理監督者向け又は労働者向け研修の実施」24.7%となっています。
この構造を知っていると、職場に対する質問の解像度が上がります。 「ストレスチェックはありますか」と聞けば、多くの職場は「あります」と答えます。しかしそこから先の「結果は部署ごとに集計されていますか」「集計を見て何か変わったことはありますか」まで聞くと、6割弱の側なのか4割強の側なのかが分かれます。前者なら、少なくとも仕組みが回っています。
産業保健の取組は9割弱、ただし内容に偏りがある
もう一つ、産業保健の取組についての数字も見ておきます。何らかの産業保健の取組を行っている事業所は87.9%(前年89.8%)と高い水準です。
内容の内訳では、「健康診断結果に基づく保健指導」が76.0%(前年75.1%)で最多、次いで「メンタルヘルス対策(相談体制の整備、ストレスチェック結果を踏まえた職場環境改善等)」が72.9%(前年71.3%)でした。
健康診断まわりの取組が最も普及していて、メンタルヘルスがそれに次ぐ、という並びです。健診は法律上の実施義務があり、結果に基づく措置も定められているので、ここが最も行き渡るのは自然な結果と言えます。
言い換えると、取組として先に行き渡っているのは健診まわりで、メンタルヘルスはその次という並びが数字に出ています。ただしこれは事業所が実施している取組の割合であって、どちらの不調が発見されやすいかを示すものではありません。二つの数字を並べたうえでの観察にとどめてください。
前年からの動きを並べておく
最後に、この調査の前年比を一覧にしておきます。1年分の変化なので傾向とまでは言えませんが、方向は押さえておく価値があります。
| 項目 | 令和6年調査 | 令和7年調査 |
|---|
| メンタル不調による休業者・退職者がいた事業所(全産業) | 12.8% | 13.5% |
| メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所 | 63.2% | 63.0% |
| 産業保健の取組を行っている事業所 | 89.8% | 87.9% |
| ストレスチェックを実施(対策実施事業所のうち) | 65.3% | 64.0% |
不調による休業・退職は増え、対策側の各指標はいずれもわずかに下がっています。 どれも1ポイント前後の小さな動きなので、これをもって「対策が後退したから不調が増えた」と読むことはできません。調査の対象事業所が毎年入れ替わることによる振れ幅の範囲かもしれません。
ただ、少なくとも「対策が広がったぶん不調が減った」という関係は、この1年の数字には表れていません。仕組みがあること自体は前提として、それが実際に回っているかどうかを個別に確かめる必要がある、という読み方が妥当です。
よくある質問
Q. 医療・福祉の9.3%という数字は、看護師の職場の数字ですか。 A. いいえ。「医療,福祉」には病院や診療所のほか、介護施設、社会福祉施設、保育所なども含まれます。看護師の職場だけを抽出した数字ではありません。
Q. 大きい病院ほど数字が高いのは、大きい病院が働きにくいということですか。 A. その読み方はできません。この指標は「該当者が1人でもいたか」を尋ねているため、働く人数が多いほど値が上がります。労働者を分母にした割合で見ると、退職者の割合は規模を問わず0.2〜0.3%とほぼ横並びです。ただし休業者の割合は1,000人以上で1.1%、10〜29人で0.3%と差が残るので、「規模による差が無い」とまでは言えません。
Q. 自分の職場が平均より悪いかどうかを知る方法はありますか。 A. この統計から個別の職場を判定することはできません。判断材料にするなら、休職からの復帰実績や相談窓口の運用といった、仕組みの有無を職場に確認するほうが実態に近づけます。
Q. 前年と比べて悪化していますか。 A. 全産業ベースでは、休業者または退職者がいた事業所の割合が12.8%から13.5%へ、わずかに上がっています。ただし1年の変化なので、傾向と呼べるかどうかはさらに複数年の推移を見る必要があります。
Q. ストレスチェックは、小さい職場では受けられないのですか。 A. 常時50人以上の労働者を使用する事業場には実施義務がありますが、それ未満の事業場では努力義務です。実施している事業所もありますので、個別に確認してください。
参考資料
- 厚生労働省「ストレスチェック制度の全事業場への拡大について」(50人未満の事業場は令和10年4月1日施行) https://kokoro.mhlw.go.jp/etc/small-sc/
- 厚生労働省「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r07-46-50b.html
- 厚生労働省「令和7(2025)年『労働安全衛生調査(実態調査)』の結果を公表します」(報道発表資料) https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r07-46-50_houdou.pdf
調査結果は全国の産業別・規模別の傾向を示すものであり、個別の職場の状況を示すものではありません。心身の不調に関する判断は、主治医や産業医など医療専門職にご相談ください。