該当しても、4人に3人は受けていない
厚生労働省が2026年8月7日に公表した令和7年労働安全衛生調査(実態調査)に、長時間労働に関する項目があります。調査の対象は、常用労働者を10人以上雇用する民営事業所とそこで働く人です。
過去1年間(2024年11月1日から2025年10月31日)に、1か月間の時間外・休日労働が80時間を超えた月があった労働者の割合は1.4%(前年1.5%)でした。そして、この該当者について医師による面接指導の状況を見ると、次のようになっています。
| 面接指導の状況 | 割合 |
|---|
| 該当したすべての月について面接指導を受けた | 16.2% |
| 該当した月のうち一部について受けた | 7.1% |
| 受けなかった | 76.7% |
前年と比べると、すべての月について受けた人は12.6%から16.2%へ上がっています。それでも、該当者の4人に3人は面接指導を受けていないという状態です。
この記事では、この面接指導がどういう制度で、なぜ受けていない人が多いのか、そして自分が該当したときにどう動けばよいのかを整理します。
この記事で分かること
- 医師による面接指導の対象と、制度が動く条件
- 「受けていない」ことが直ちに違法とは限らない理由
- 年代・性別で見た該当率と受診率の違い
- 自分の労働時間を確認する方法
- 申出をためらう理由への対処
残業が続いている自覚があるなら、相談先は勤務先の産業医、50人未満の事業場なら地域産業保健センターです。時間の記録の残し方から整えたい場合は本文の手順を参照してください。
この制度は、申出があって動きます
まず、制度の仕組みを正確に押さえてください。ここを理解しないと、数字の意味を読み違えます。
労働安全衛生法第66条の8にもとづく長時間労働者への面接指導は、時間外・休日労働が月80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者の申出によって実施されるものです。事業者は、申出をした労働者に対して医師による面接指導を行わなければなりません。
つまり、80時間を超えたら自動的に全員が面接指導を受ける仕組みではありません。本人が申し出て、はじめて実施義務が生じる形になっています。産業医は、申出を行うよう本人に勧奨することができるとされています。
このことを踏まえると、76.7%が受けていないという数字の読み方が変わります。これは「事業者が違法に実施していない」という意味ではありません。申出がなされていないケースを含んでいると考えられますが、この調査は申出の有無を尋ねていないため、その割合までは分かりません。
もちろん、申し出たのに実施されなかったのであれば、それは事業者の義務違反にあたります。しかしこの調査は、申出の有無までは尋ねていません。だから、80時間超だった労働者の76.7%について事業者が違法に面接指導を怠った、とは言えません。なおこの76.7%の分母は「職場」ではなく「該当した労働者」です。
なお、事業者が月80時間超の労働者全員に面接指導を実施する運用をとる場合には、対象者全員に実施の通知等を行い、労働者が申込みを行ったことなどをもって申出を行ったものとみなす、という扱いが示されています。職場によっては、自分から言い出さなくても案内が来る形になっている場合があります。
誰が該当しているか
該当率を年代と性別で見ると、偏りがあります。
| 区分 | 80時間超の月があった | うち全月で面接指導を受けた |
|---|
| 全体 | 1.4% | 16.2% |
| 20〜29歳 | 0.9% | 8.6% |
| 30〜39歳 | 0.9% | 26.7% |
| 40〜49歳 | 2.3% | 17.3% |
| 50〜59歳 | 1.5% | 13.8% |
| 60歳以上 | 0.7% | 9.1%(※) |
| 男性 | 2.4% | 15.7% |
| 女性 | 0.3% | 21.6% |
(※)60歳以上の面接指導の割合は、原表で標本数が少ないことを示す記号が付されています。参考値として扱ってください。
該当率がいちばん高いのは40代の2.3%、次いで50代の1.5%です。性別では男性2.4%に対して女性0.3%で、8倍の開きがあります。
一方、該当した人のうち面接指導を受けた割合を見ると、女性21.6%が男性15.7%を上回っています。該当する人は少ないけれど、該当したときには受けている割合が高い、という形です。
20代は該当率0.9%に対して受診率8.6%と、どちらも低くなっています。該当しても申し出にくい、あるいは制度を知らないという事情があるのかもしれませんが、調査は理由を尋ねていないため推測にとどまります。
ここで重要な注意点があります。この調査は全産業を対象としており、医療・福祉に限った内訳は公表されていません。 上の数字を「看護師の◯%が」と言い換えることはできません。看護職の該当率が全産業平均と同じかどうかは、この調査からは分かりません。
まず、自分の時間外労働時間を把握する
制度を使うかどうか以前に、自分が該当しているかどうかを知らなければ始まりません。ここが実は最初の壁になります。
時間外・休日労働が月80時間というのは、月の所定労働日数を20日とすると1日あたり4時間程度の超過に相当します。ただし、看護職の場合は数え方が問題になりやすい部分があります。
| 見落としやすい時間 | 確認したいこと |
|---|
| 始業前の情報収集 | 事実上義務づけられているなら労働時間にあたりうる |
| 申し送りの延長 | 定時後の分が記録されているか |
| 記録・入力の残り作業 | 持ち帰りや居残りが記録されているか |
| 委員会・研修 | 参加が義務なら労働時間にあたりうる |
| 休憩の中断 | 実際に休めていない時間が控除されていないか |
法令上の基準はあくまで実際の時間外・休日労働時間です。記録が少ないからといって、基準に達していないことになるわけではありません。 ただし実務では、事業者が時間数を算定して該当者を把握するのも、本人が申し出るのも、記録を土台に行われます。記録が実態を反映していなければ、そこで漏れが生じます。
自分の残業時間がどう記録されているかは、給与明細の時間外手当の時間数、勤怠システムの記録、シフト表を突き合わせれば確認できます。もし記録と実感が大きく違うなら、そこから整理する必要があります。記録の残し方は職場トラブルの記録を残すときの実務で整理しています。
「わからない」と答えた人が4.9%いる
同じ表には、見落とされがちな選択肢があります。80時間を超えた月があったかどうかについて、「わからない」と答えた労働者が4.9%(前年4.4%)いました。80時間超に該当した1.4%の3倍以上の人数です。
これは、自分の時間外労働時間を把握していない人が一定数いるということを意味します。制度が申出によって動く以上、把握していなければ申し出ることもできません。
ただし、時間を把握する責任が本人にあるわけではありません。労働時間の把握は事業者の義務であり、時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者には、その時間数を通知する仕組みもあります。通知が来ない場合は、勤怠記録や給与明細をもとに人事・労務担当へ確認してください。
なお、この4.9%は全労働者を分母にした割合で、80時間超に該当した1.4%の内訳ではありません。76.7%という未受診の割合とは別の母集団の数字なので、一連の離脱率としてつなげて読むことはできません。それでも、把握していない層が該当者より多く存在することは押さえておく価値があります。
しかも、この割合は前年からわずかに増えています。自分の残業時間が何時間かを即答できるかどうか。ここが、制度を使えるかどうかの実質的な入口になります。
80時間は、平均からどれくらい離れた状態か
該当率1.4%という数字だけでは、80時間超がどれくらい特異な状態なのかが掴みにくいと思います。別の統計と並べると、距離感が見えてきます。
厚生労働省の毎月勤労統計調査2026年6月分速報によると、医療・福祉で働く人の所定外労働時間は次のとおりです(事業所規模5人以上)。
| 区分 | 所定外労働時間(月) |
|---|
| 就業形態計 | 4.5時間 |
| 一般労働者 | 6.2時間 |
| パートタイム労働者 | 1.1時間 |
医療・福祉の一般労働者で、月平均6.2時間です。
ただし、この数字を80時間と直接割り算してはいけません。 面接指導の80時間は労働基準法上の時間外・休日労働(週40時間を超える部分等)を基礎とするのに対し、毎月勤労統計の所定外労働時間は各事業所の所定労働時間を超えた実労働時間です。定義が違うので、倍率として比べることはできません。
それでも、桁として大きく離れていることは分かります。加えて、80時間超に該当した労働者が1.4%という該当率も、これが平常の範囲から外れた状態であることを示しています。「みんな忙しいから自分だけではない」と考えて見積もりを下げる必要はありません。
そのうえで、自分の時間が正しく記録されているかどうかを先に確認するという結論は変わりません。制度が動く前提が記録だからです。
申し出るときに、何を言えばよいか
申出は、決まった様式が必要なわけではありません。ただ、伝え方を用意しておくと切り出しやすくなります。
伝えるべき要素は二つです。時間外・休日労働が月80時間を超えていることと、疲労の蓄積を感じていること。この二つが制度上の要件だからです。
たとえば次のような形です。
「先月の時間外が80時間を超えていました。最近、休んでも疲れが取れない状態が続いているので、医師の面接指導をお願いしたいのですが、どこに申し出ればよいでしょうか」
窓口は職場によって違います。看護部の管理者、人事・総務、産業医の窓口、衛生管理者。誰に言えばよいか分からない場合は、まず直属の管理者に「面接指導の申出はどこにすればよいか」と聞くところからで構いません。
申出をためらう理由として多いのは、評価に響くのではないか、迷惑がかかるのではないか、という懸念だと思います。 ここは制度の趣旨に立ち返ってください。この面接指導は、脳・心臓疾患やメンタル不調を未然に防ぐことを目的とした仕組みです。個人の弱さを申告する制度ではなく、健康障害のリスクが高い状態に置かれた人を把握するための仕組みとして設計されています。
また、面接指導は医師が行うものです。面接の結果に基づいて、事業者は必要に応じて就業上の措置を講じることになります。管理者の判断だけで扱いが決まる話ではありません。
産業医がいない職場の場合
小規模な職場では、この点が現実的な問題になります。
産業医の選任義務は、常時50人以上の労働者を使用する事業場にかかります。それ未満の事業場、たとえば小規模なクリニックや訪問看護ステーションでは、産業医が選任されていない場合があります。
その場合でも、面接指導の実施義務そのものは事業者にあります。地域産業保健センター(地域窓口)では、労働者数50人未満の事業場を対象に、長時間労働者への面接指導などのサービスを提供しています。事業者を通じて利用する形になりますが、こうした受け皿があることは知っておく価値があります。
同じ労働安全衛生調査では、メンタルヘルス対策への取組状況にも規模による差が出ていました。50人という線を境に、産業保健の仕組みの有無が変わります。小規模な職場に移るときは、こうした前提の違いも条件の一部として見ておくと、あとで困りません。
面接指導だけで解決するわけではない
正直に書いておくと、面接指導を受けたからといって、翌月から残業がなくなるわけではありません。
面接指導は、医師が労働者の状況を確認し、必要に応じて事業者に意見を述べる仕組みです。その意見を踏まえて、事業者が労働時間の短縮や配置の変更といった措置を検討します。実際にどこまで変わるかは、職場の人員体制にも左右されます。
それでも受ける意味があるのは、記録が残るからです。長時間労働の事実と、それに対して健康上の懸念を申し出たという経緯が、公式な形で残ります。後になって体調を崩したとき、あるいは職場と話し合いをするとき、この記録の有無は大きな違いになります。
そして、面接指導を申し出たにもかかわらず実施されなかった場合は、それ自体が事業者の義務違反にあたります。その段階になれば、労働基準監督署に相談する根拠が生まれます。相談先については看護師の労働問題はどこに相談するかで整理しています。
職場の中で動かないとき、次に何を考えるか
申し出ても取り合ってもらえない、あるいは記録上の残業時間が実態と合っていないまま是正されない。そういう状態が続く場合、職場の中だけで解決するのは難しくなります。
ただ、すぐに辞めるという判断に飛ぶ前に、確認しておくとよいことがあります。その長時間労働が、部署の問題なのか、施設全体の問題なのかです。同じ病院でも、病棟によって人員配置も業務量も違います。異動で解決する余地があるなら、転職より負担の小さい選択肢になります。
部署を移ることで負担が変わる可能性があるなら、その道筋は辞める前に異動・休職という選択肢を検討するに書いています。転職より先に検討できる手が残っていないかを確かめてください。
一方で、施設全体として人員が足りていない、あるいは残業を記録しない運用が常態化しているという場合は、部署を変えても状況は変わりにくいでしょう。その判断をするときは、次の職場で同じことが起きないかを確認する必要があります。求人票と面接で労働時間をどう確かめるかは、看護師の求人票、どこを見れば失敗しないかで整理しています。
夜勤の負担そのものを減らしたい場合は、夜勤を減らして収入を維持する方法も参考になります。
数字を、自分の状況に引き戻す
最後にもう一度、冒頭の数字を見てください。該当者のうち、すべての月について面接指導を受けたのは16.2%。前年の12.6%からは上がっています。
1年分の差なので、標本の違いによる振れ幅の可能性もあります。それでも水準としてまだ低いことは確かです。そして、この制度は申し出なければ動きません。
もしあなたが今、月80時間を超える時間外労働が続いていて、疲れが取れない状態にあるなら、この16.2%の側に入る選択肢があります。制度は使われることを前提に作られています。
ひとつ付け加えておきます。今の疲労が休息で戻る範囲なのか、それとも受診が必要な段階なのか。その線引きは、記事に書ける性質のものではありません。制度の申出は制度の申出として進めつつ、体の変化が気になるなら、かかりつけの医療機関にもかかってください。両方を同時に進めて構いません。
よくある質問
Q. 80時間を超えたら、必ず面接指導を受けられますか。 A. 制度上は、月80時間超かつ疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合に、事業者に実施義務が生じます。自動的に全員が対象になるわけではありません。ただし、事業者が該当者全員に案内する運用をとっている職場もあります。
Q. 76.7%が受けていないのは、違法な状態ということですか。 A. そうとは限りません。この制度は申出によって動くため、申出がなければ実施義務は生じません。この調査は申出の有無を尋ねていないので、違法かどうかは判別できません。申し出たのに実施されなかった場合は、事業者の義務違反にあたります。
Q. 看護師の該当率は分かりますか。 A. この調査では産業別・職種別の内訳が公表されていないため、分かりません。記事中の数字はすべて全産業の集計です。
Q. 申し出たことは職場に知られますか。 A. 事業者に対して申し出る仕組みなので、実施のためには職場が把握することになります。面接で話した内容がそのまま職場へ渡るわけではありませんが、事業者は面接指導の結果の記録を作成・保存し、就業上の措置について医師の意見を聴くことになっています。共有されるのは必要な範囲にとどまる、という理解が正確です。
Q. 産業医がいない職場ではどうすればよいですか。 A. 労働者数50人未満の事業場については、地域産業保健センター(地域窓口)が長時間労働者への面接指導などのサービスを提供しています。事業者を通じて利用する形になります。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r07-46-50b.html
- 厚生労働省「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)概況」(第20表) https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r07-46-50_gaikyo.pdf
- 厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導制度について」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/08.pdf
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026(令和8)年6月分結果速報」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r08/2606p/2606p.html
- 厚生労働省 こころの耳「長時間労働者、高ストレス者の面接指導について」 https://kokoro.mhlw.go.jp/mensetsushidou/
本文で引用した該当率・受診率は、いずれも全産業を集計した数値です。医療・福祉や看護職に絞った公表値ではありません。ご自身の労働時間の算定方法や面接指導の申出先については、勤務先の担当部署、または都道府県労働局にご確認ください。