1. そもそも「適正年収」とは?平均と分位数の違い
求人メディアの多くは「平均年収◯◯万円」だけを示します。しかし平均は一部の高年収に引っ張られて実感とズレやすい指標です。適正年収を考えるときは、次の3つで見ます。
- 中央値(中位数):全員を金額の低い順に並べたとき、列の中央にいる人の額。極端に高い人がいても引きずられません。
- 分位数:全体を小さい順に並べたときの区切り。中位数は真ん中、第1・四分位数は下から25%、第3・四分位数は上から25%の地点を指します。
- 第1四分位から第3四分位までの幅:真ん中の半分の人が、どのくらいの範囲に収まっているか。
この記事で扱う分位数は、すべて「所定内給与額(月額)」のものです。 年収の分位数は公表されていません。
「平均より上か下か」ではなく「公表されている分位数のどこに入るか」——これが判断の軸です。看護師の場合、所定内給与額の中位数と四分位数が実際に公表されているので、推定に頼らず確かめられます。
2. 出発点は、公的統計の実数です
条件別の話に入る前に、土台になる公的な数字を確認します。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(職種)第1表の看護師(男女計・企業規模10人以上)です。
| 項目 | 実数 |
|---|
| きまって支給する現金給与額 | 365,900円 |
| 所定内給与額 | 333,200円 |
| 年間賞与その他特別給与額 | 856,400円 |
| 年齢 | 42.1歳 |
| 所定内実労働時間/超過実労働時間 | 156時間/6時間 |
年収換算:365,900円 × 12 + 856,400円 = 524万7,200円
(この換算は2025年6月分の給与を12倍し、2024年1〜12月の年間賞与を足したものです。同一の暦年に実際に受け取った額ではありません。以降の年収換算もすべて同じ方式です)
そして、同じ表には企業規模別の実数もあります。ここが、自分の位置を知るうえでいちばん確かな手がかりです。
| 企業規模 | 年収換算 |
|---|
| 1,000人以上 | 569万8,700円 |
| 100〜999人 | 506万2,800円 |
| 10〜99人 | 469万8,200円 |
企業規模別の集計のあいだに、約100万円の幅が観測されています。 ただし規模以外(地域、年齢構成、設置主体)を統制していないので、「規模そのものの効果」とは言えません。まず勤務先の企業・法人全体の常用労働者数に近い行と、自分の年収を比べてください。
分布の実数:中央値は月321,500円です
平均値だけでは、自分が高いほうか低いほうか分かりません。同じ調査の(職種)第17表には、看護師の所定内給与額(月額)の分位数が公表されています。
| 区分 | 所定内給与額(月額) |
|---|
| 第1・十分位数(下から10%) | 250,700円 |
| 第1・四分位数(下から25%) | 278,800円 |
| 中位数(真ん中) | 321,500円 |
| 第3・四分位数(上から25%) | 376,700円 |
| 第9・十分位数(上から10%) | 431,900円 |
まず、自分の所定内給与額(基本給+固定的な手当。残業・夜勤の割増を除いた額)を、この5つと比べてください。 これが「自分の位置」のいちばん確かな手がかりです。
四分位分散係数は0.15、十分位分散係数は0.28です。下から25%の位置(278,800円)と上から25%の位置(376,700円)の差は97,900円で、中位数321,500円の約30%にあたります。真ん中の半分の人は、月額で10万円弱の幅に収まっているということです。
企業規模1,000人以上に限ると、中位数は334,200円、第1・四分位数289,600円、第3・四分位数386,100円と、全体より上にずれます。
注意点が一つあります。 この分位数は所定内給与額(月額)の分位数であって、年収の分位数ではありません。賞与や残業代を含めた年収の分位数は公表されていないため、「年収の中央値」を名乗る数字を見かけたら、その出所を確かめてください。
3. 【条件別】年収 早見表(すべて実数)
ここからが本ガイドの中心です。この章の数字はすべて、公的統計または日本看護協会の全国調査に載っている実数です。 編集部が係数を掛けて作った推定額は載せていません。相場を語る記事の多くは「◯◯なら約◯◯万円」という試算を並べますが、その試算の根拠が示されないなら、あなたの交渉材料にはなりません。複数条件は掛け合わさるため、下の各表は「どの要素が、いくら動かすのか」を分解して読んでください。
3-1. 夜勤回数別:自分で金額を計算しやすい要素
夜勤が年収をどれだけ押し上げているかは、「1回あたりの手当額」×「月の回数」×12 で出せます。その単価は、日本看護協会が病院3,471施設を対象にした調査で公表しています。
| 夜勤の種類 | 1回あたりの平均手当額 | 2012年調査 | 増加額 |
|---|
| 二交代 | 11,470円 | 10,119円 | +1,696円 |
| 三交代・深夜勤 | 5,211円 | 4,635円 | +1,080円 |
| 三交代・準夜勤 | 4,300円 | 3,812円 | +755円 |
この単価で回数別の年間額を出すと、二交代の場合は次のようになります(2012年調査からの増加は約12年で1,000円前後にとどまります)。
| 月の夜勤回数 | 夜勤手当だけの年間額(二交代・11,470円で計算) |
|---|
| 月5回 | 68万8,200円 |
| 月4回 | 55万560円 |
| 月2回 | 27万5,280円 |
| 夜勤なし | 0円 |
月4回から夜勤なしにすると、手当だけで年55万560円が消えます。 これが「夜勤を減らすと年収が落ちる」の正体です。ただし基本給や他の手当は変わらないので、年収全体が同じ割合で落ちるわけではありません。
同じ調査には、もう一つ知っておくべき数字があります。「夜勤回数が一定回数を超えた場合の手当の増額・加算制度」を尋ねた設問(複数回答、n=3,471)で、「ない」と答えた病院が69.6%でした。制度があると答えたのは、加算9.2%、増額8.0%、賞与への反映1.8%。無回答・不明が11.8%です。
つまり、たくさん入るほど1回の単価が上がる、という設計をとっている病院は少数派です。 夜勤を年収の柱にしようとすると、この構造に突き当たります。
夜勤専従という道もありますが、待遇が伴うとは限りません。専従者を置いている病院は41.7%。うち専従者向けの特別手当を設けているのは14.2%(設けている場合の平均は25,000円)、負担軽減のための特別休暇や労働免除を用意しているのは20.7%(平均2.33日)にとどまります。月の所定労働時間は135.3時間と短めに設計されている一方で、上乗せの仕組みまで整えている職場は少数派です。夜勤を減らす働き方は日勤のみで働くキャリアの選択肢にまとめています。
3-2. 地域別:実データがあります。最大と最小の差は約150万円
都道府県別も推定ではありません。(一般労働者)都道府県別第3表に、看護師の実数が47都道府県分そろっています。
高いほう10
| 都道府県 | きまって支給する現金給与額 | 年間賞与 | 年収換算 |
|---|
| 滋賀 | 394,100円 | 1,124,200円 | 585万3,400円 |
| 東京 | 407,800円 | 891,500円 | 578万5,100円 |
| 山梨 | 386,600円 | 915,300円 | 555万4,500円 |
| 栃木 | 365,300円 | 1,154,600円 | 553万8,200円 |
| 奈良 | 389,100円 | 814,900円 | 548万4,100円 |
| 千葉 | 376,700円 | 956,500円 | 547万6,900円 |
| 愛知 | 371,400円 | 1,004,000円 | 546万800円 |
| 神奈川 | 384,200円 | 826,200円 | 543万6,600円 |
| 京都 | 383,200円 | 808,500円 | 540万6,900円 |
| 大阪 | 380,500円 | 836,300円 | 540万2,300円 |
低いほう10
| 都道府県 | きまって支給する現金給与額 | 年間賞与 | 年収換算 |
|---|
| 山形 | 330,800円 | 799,300円 | 476万8,900円 |
| 大分 | 331,000円 | 771,200円 | 474万3,200円 |
| 愛媛 | 330,400円 | 762,600円 | 472万7,400円 |
| 長崎 | 326,200円 | 807,900円 | 472万2,300円 |
| 佐賀 | 321,400円 | 829,700円 | 468万6,500円 |
| 岩手 | 317,100円 | 738,900円 | 454万4,100円 |
| 福島 | 328,700円 | 598,700円 | 454万3,100円 |
| 青森 | 313,300円 | 765,000円 | 452万4,600円 |
| 宮崎 | 307,900円 | 738,600円 | 443万3,400円 |
| 高知 | 318,300円 | 528,700円 | 434万8,300円 |
最高の滋賀と最低の高知で、年収換算の差は約150万5,000円です。
ここで注目したいのが、首位が東京ではなく滋賀だという点です。月額では東京(407,800円)が全国最高ですが、滋賀は年間賞与が1,124,200円と厚く、年収換算で逆転しています。栃木も同じ構図で、月額は365,300円と全国平均に近いのに、賞与1,154,600円で上位に入っています。
逆に、高知は月額318,300円と最下位ではないのに、賞与が528,700円と極端に低いため年収換算で最下位になっています。福島も同様に、月額328,700円に対し賞与598,700円です。
地域を比べるとき、月給だけを見比べると判断を誤ります。 賞与まで含めないと、実際の差は見えません。
都道府県別のさらに詳しい比較は地域別の給与と求人環境を参照してください。
3-3. 経験年数別:実データがあります
経験年数別は、推定ではなく(職種)第14表の実数を使えます。所定内給与額と年間賞与の実数です。
| 経験年数 | 所定内給与額 | 年間賞与 | 労働者数 |
|---|
| 0年 | 278,200円 | 114,100円 | 55,030人 |
| 1〜4年 | 304,700円 | 778,800円 | 168,170人 |
| 5〜9年 | 314,800円 | 801,400円 | 137,040人 |
| 10〜14年 | 326,500円 | 812,600円 | 105,990人 |
| 15年以上 | 358,600円 | 1,007,700円 | 436,840人 |
0年(初年度)の賞与は114,100円と、他の階級と比べて極端に低い水準です。 賞与の算定期間に在籍していない期間があることが一因と考えられますが、この表は理由までは示していません。 なお所定内給与額も1〜4年の304,700円より26,500円低く、賞与だけの問題ではありません。
所定内給与額でみると、0年から15年以上までの差は80,400円(月額)です。年間では約96万円になります。賞与を含めれば差はさらに開きます。
なお、この表の所定内給与額には残業・夜勤の割増が含まれません。経験年数が上がると夜勤回数が減る職場もあるため、実際の手取りの伸びはこの表より緩やかになることがあります。
3-4. 施設形態別:病院とクリニックで差が出る
就業先別の賃金も、実数が公表されています。正規雇用フルタイム・非管理職の看護師に限った数字です。
| 就業先 | 基本給月額 | 税込給与総額(月) | 平均年齢 | 回答者数 |
|---|
| 病院 | 260,451円 | 382,093円 | 38.2歳 | 1,427人 |
| 看護系教育研究機関(養成所・大学等) | 305,668円 | 373,036円 | 47.1歳 | 39人 |
| 介護系サービス | 264,418円 | 351,599円 | 48.9歳 | 57人 |
| 診療所 | 256,330円 | 350,857円 | 43.8歳 | 35人 |
| 訪問看護ステーション | 254,476円 | 347,181円 | 47.0歳 | 328人 |
| その他 | 260,164円 | 325,740円 | 47.9歳 | 22人 |
この表の読みどころは平均年齢の列です。 病院は38.2歳、訪問看護ステーションは47.0歳。平均で9歳近い開きがあるので、この表の金額差を「就業先による差」として読むことはできません。 年齢構成が違う集団を比べているからです。
介護系サービス(48.9歳)、診療所(43.8歳)も同様です。そして診療所は回答35人、看護系教育研究機関は39人、その他は22人と少数で、金額はぶれやすい。
就業先を比べるときは、必ず「何歳の人が何人答えた数字か」まで見てください。 この表から言えるのは、金額と年齢と回答数がこうだった、というところまでです。
美容クリニックについては、この区分にも公的統計にも独立した集計がありません。 基本給・歩合・指名料の設計が施設ごとに大きく違うため、今回確認した公的統計と日本看護協会の調査には、美容クリニックを独立させた集計がありません。確認すべき項目は美容看護師に転職するには(夜勤なし・年収の実態)で解説しています。
3-5. 診療科・病床規模別
病床規模別は実数があります。「勤続10年・31〜32歳・非管理職」という条件をそろえたモデル賃金なので、年齢と勤続の違いに邪魔されずに規模ごとの水準を並べられます(全体平均は基本給254,286円・税込340,278円)。ただし地域や設置主体まで統制されているわけではないので、「規模そのものが原因でこれだけ違う」とまでは言えません。
| 病床規模 | 基本給月額 | 税込給与総額(月) | 施設数 |
|---|
| 500床以上 | 284,410円 | 377,957円 | 248 |
| 400〜499床 | 270,722円 | 360,993円 | 184 |
| 300〜399床 | 268,433円 | 357,037円 | 328 |
| 200〜299床 | 252,523円 | 338,488円 | 364 |
| 100〜199床 | 247,124円 | 333,852円 | 1,009 |
| 99床以下 | 245,294円 | 325,951円 | 739 |
99床以下と500床以上の差は、税込給与総額で月5万2,006円。12か月分に直すと62万4,072円になります。ただしこれは月額の差を12倍しただけの数字で、年収の差ではありません。 このモデル賃金に対応する賞与額は公表されていないため、賞与を含めるとどうなるかは分かりません。同じ勤続10年でこの開きがあります。
規模差はもう一つ、見えにくい形で効きます。 賃金表(等級ごとの賃金額を定めた表)がある病院は全体の75.0%ですが、99床以下では63.8%、500床以上では91.7%。さらに賃金表を職員に公開しているのは全体で54.0%、99床以下は43.0%、500床以上は80.7%です。小規模の病院ほど「何年目にいくらになるか」が事前に分からないということで、これは金額そのものより長期の見通しに効きます。面接で「賃金表はありますか」「見せていただけますか」と聞けるかどうかは、それ自体が情報です。
設置主体(経営母体)別の差も出ています。
| 設置主体 | 基本給月額 | 税込給与総額(月) |
|---|
| 社会保険関係団体 | 303,146円 | 374,423円 |
| 公立 | 288,641円 | 368,081円 |
| 国 | 272,456円 | 362,027円 |
| 公的医療機関 | 265,100円 | 355,100円 |
| その他の法人 | 240,270円 | 326,949円 |
| 医療法人 | 238,558円 | 325,439円 |
医療法人と公立の差は基本給で月5万83円。 そして調査に回答した施設で最も多いのが医療法人(1,740施設)で、賃金水準としては下側に位置します。求人として目にする機会も多い層が下側にある、ということです。同じ「病院」でも、誰が経営しているかで別の相場だと考えたほうが実態に近い。
なお診療科別の賃金は、公的統計にも日本看護協会の調査にも集計がありません。 「集中治療室(ICU)や救急は高い」といった記述をよく見かけますが、根拠となる全国調査は確認できていません。診療科の違いは、危険手当・特殊業務手当といった個別手当として給与規程に書かれているかどうかで確認してください。
3-6. 資格・役職による上乗せ
役職による年収は、病院・訪問看護ステーションのそれぞれで実数が出ています。
| 役職 | 病院 | 訪問看護ステーション |
|---|
| スタッフ(非管理職) | 529万9,796円 | 508万7,248円 |
| 中間管理職(主任・副看護師長相当) | 631万4,987円 | 576万740円 |
| 中間管理職(看護師長相当) | 676万3,829円 | 581万4,926円 |
| 管理職(副看護部長相当) | 758万5,014円 | 624万7,840円 |
| 管理職(看護部長・副院長相当/管理者) | 818万594円 | 591万1,504円 |
病院のスタッフ群と主任・副看護師長相当群では、平均年収に101万5,191円の差があります。ただし昇進した個人の増額を示す数字ではありません。 上位役職ほど回答者数が少なく(副看護部長相当は病院53人)、数字はぶれやすい点にも注意してください。
資格(専門看護師・認定看護師・特定行為研修修了)による賃金の上乗せ額を全国規模で示した調査は、確認できていません。 資格手当として月数千円〜数万円を設けている施設はありますが、金額は施設の給与規程しだいです。「資格を取れば年収が◯◯万円上がる」という説明を見たら、どの調査のどの表かを確かめてください。資格そのもののキャリア上の意味は認定・専門看護師などスキルアップの道筋を参照してください。
4. あなたの適正年収を出す:60秒診断(給料コンパス)
ここまでの表はすべて、賃金構造基本統計調査または日本看護協会の全国調査に載っている実数です。ただし実際のあなたの年収は、地域・経験・施設規模・設置主体・夜勤・役職が重なって決まるため、表を1つ見ただけでは出ません。条件を入れて全体像を整理したい場合は給料コンパスの適正年収診断が使えます。そこで出る条件別の水準は編集部の試算であり、上の各表のような公的統計の実数ではありません。 交渉や比較の根拠として持ち出すなら、診断結果ではなく上の表を使ってください。
- 入力は選ぶだけ・60秒・無料
- 出力:入力した条件での目安レンジ(編集部の試算であり、公的統計の分布ではありません)
- 求人票の「相場の幅」ではなく、分布の中での自分の位置が分かる
「思ったより低い(=上げる余地が大きい)」のか「すでに高め(=今の職場で守る)」のかが、ここではっきりします。
5. 年収を上げる2つの道:あなたの位置で最適解が変わる
診断で位置が分かったら、上げ方を選びます。道は2つです。
- 今の職場で上げる/待つ:ベースアップ評価料・処遇改善、夜勤調整、資格手当、昇進。勤務先に賃金表があり、数年先の額を確認できる人は、この道を計算しやすい。
- 転職で動く:地域・施設形態・夜勤条件の異なる求人を比較する。統計上の所属区分だけで有利・不利を決めず、候補先の内定条件で確認する。
どちらが得かを数字で判断する手順は年収を上げるには?「今の職場で待つ」vs「転職で動く」を数字で判断で詳説しています。2026年のベースアップ評価料・処遇改善が自分の手取りに反映されているかは2026年の賃上げ・ベースアップを現場目線で確認で確認できます。
6. 働き方別・年収アップの転職先
年収を上げる・夜勤を減らすための代表的な転職先です。それぞれ詳しい記事へリンクしています。
7. 年収を正しく見る3つの視点(額面・実質時給・手取り)
年収は「額面」だけで比べると判断を誤ります。次の3つで見ましょう。
7-1. 実質時給:時間あたりの価値で比べる
実質時給は、公表されている実数だけで出せます。以下は看護師全体(企業規模10人以上・男女計)の全国平均であり、特定の施設形態や経験年数の値ではありません。
実質時給は、賃金構造基本統計調査の実数だけで計算できます。看護師(男女計・企業規模計)の月の所定内実労働時間は156時間、超過実労働時間は6時間、所定内給与額は333,200円、きまって支給する現金給与額は365,900円です。
| 計算 | 式 | 結果 |
|---|
| 所定内の時給 | 333,200円 ÷ 156時間 | 2,136円 |
| 総支給ベースの時間換算 | 365,900円 ÷ 162時間 | 2,259円 |
自分の実質時給を出す手順はこれだけです。 給与明細の総支給額から、超過労働に対する分(時間外手当・休日出勤手当・深夜割増・夜勤手当・当直手当)だけを引いた額を、勤務表の所定労働時間で割る。基本給のほか、通勤手当・住宅手当・家族手当・職務手当は引かずに残します(統計の「所定内給与額」がそう定義されているためです)。この2,136円と比べれば、自分が全国平均のどちら側にいるかが分かります。
なお2つ目の行の「きまって支給する現金給与額」には、超過労働の割増以外の手当も含まれます。残業代だけを足した金額ではないので、単純な時間換算として見てください。年収だけを見て「同期より低い」と落ち込む前に、時間あたりで比べ直すと結論が変わることがあります。
夜勤なしに移った場合の実質時給を全国平均から出すことはできません(夜勤の有無で分けた労働時間の集計がないため)。ただし前掲の夜勤手当の実額を使えば、夜勤に上乗せされている手当だけを時間で割ることはできます。二交代・月4回なら手当は年55万560円。夜勤1回の拘束を仮に16時間とすると月64時間・年768時間で、55万560円 ÷ 768時間 = 約738円。
ここで扱っているのは手当の部分だけです。 夜勤中の時間にも基本給から計算される賃金は当然支払われますし、深夜帯(22時から翌5時)には労働基準法上の割増も加わります。738円はそれらとは別枠の上乗せを、仮置きした拘束時間で割った参考値にすぎません。
もう1つ、前提の確認が要ります。夜勤を外しても常勤の所定労働時間がそのままなら、空いた枠は日勤で埋まります。 その場合、768時間は消えずに移動するだけです。この計算が実感と合うのは、所定労働時間そのものを減らすケースに限られます。夜勤の減らし方は3通りあり、それぞれ失うものが違うので、夜勤を減らすと年収はいくら下がる?で整理しました。詳しくは夜勤を減らすと年収はいくら下がる?・夜勤なしで手取りを増やす方法へ。
7-2. 賞与:施設・経営母体・地域で差が出る
賞与も就業先別の実数があります。2024年1〜12月に受け取った賞与の総額(正規雇用フルタイム)で、集計対象は賞与を受け取った人に限られます。ゼロだった人は含まれていません。
| 就業先 | 2024年の賞与総額 | 回答者数 |
|---|
| 官公庁 | 159万7,130円 | 61人 |
| 看護系教育研究機関 | 145万1,286円 | 55人 |
| 病院 | 118万2,440円 | 2,490人 |
| その他 | 106万3,426円 | 118人 |
| 介護系サービス | 100万2,262円 | 136人 |
| 訪問看護ステーション | 94万9,091円 | 565人 |
| 診療所 | 93万9,910円 | 70人 |
病院と診療所の差は24万2,530円です。ただし診療所は回答70人、官公庁61人、看護系教育研究機関55人と少数で、これらは参考値として見てください。
前掲の月額の表と、この賞与の表を足して年収を出すことはできません。 月額は非管理職の看護師(診療所は35人)、賞与は正規雇用フルタイムの看護職員(診療所は70人)と、母集団が違うからです。それぞれ独立した表として読んでください。
そのうえで、賞与単体ではなく年収合計(基本給×12+手当+賞与)で比べるのが鉄則です。求人票の月給が高くても、賞与が薄ければ年収では逆転します。
そもそも賞与が出るとは限りません。2024年度に賞与を「支給した/年度内に支給予定」と回答した施設は、病院88.0%、訪問看護ステーション75.3%。残りには「支給していない/予定なし」と「無回答・不明」(訪問看護ステーションで9.0%)の両方が含まれるので、24.7%すべてを「賞与なし」とは読めません。前年より「減った」と答えた人も病院で29.0%います。詳しくはボーナスが少ない…転職で変わる?へ。
7-3. 手取り:諸手当・税・時間外単価
手取りは諸手当、社会保険料・住民税、残業の時間外単価でも変わります。時間外の割増単価は基本給だけで決まるわけではなく、除外できる7項目(家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時の賃金・1か月を超える期間ごとの賃金)以外の手当も算定基礎に含めて計算されます。 退職金の算定式は勤務先の規程によります。
8. 転職エージェントの使い方の注意
求人メディアの「最高年収◯◯万円」は、上限例や特定条件のモデルである場合があります。年収100万アップは現実的?の手順で、固定給・賞与・夜勤・残業の前提を確認してください。
9. 2026年の制度:ベースアップ評価料・処遇改善の読み解き
「賃上げ」と報じられるものには、性質の違う3つが混ざっています。分けて理解しておくと、給与明細の見方が変わります。
1. ベースアップ評価料(診療報酬) 医療機関が届け出て算定する診療報酬の項目です。得られた収入は、対象職員の賃金改善に充てることが求められます。制度の性格として基本給等の引き上げに充てるもので、この評価料そのものが一時金限りの仕組みというわけではありません。ただし各施設が賃金規程のどこに反映するかは施設ごとの判断です。
2. 賃上げ・物価高騰への支援(別枠の事業) 診療報酬とは別に、時期を区切って実施される支援があります。これは恒常的な原資ではないため、一時金として配分されることがあります。
3. 勤務先の賃金規程での扱い 1と2をどう配分するかは、最終的に勤務先が決めます。基本給に乗せるか、手当を新設するか、賞与に上乗せするか。同じ制度でも、職場によって給与明細の変わり方が違うのはここが理由です。
「ニュースで賃上げと聞いたのに明細が変わらない」と感じたときは、1が届け出されているか、2の支給があったか、3でどう配分されたかを分けて職場に確認してください。給与明細のどの項目を見るかは2026年の賃上げを現場目線で確認で整理しています。
よくある質問
看護師の適正年収はどうやって調べますか?
地域・経験・施設・夜勤・資格の条件をそろえて整理したうえで、自分の所定内給与額を公表分位数に当てはめます。条件ごとの目安を並べたい場合は給料コンパスの適正年収診断も補助に使えます。
看護師の年収の中央値はいくらですか?
公表されているのは所定内給与額(月額)の分位数です。令和7年賃金構造基本統計調査(職種)第17表によると、看護師の中位数は321,500円、第1・四分位数278,800円、第3・四分位数376,700円です。賞与や残業代を含めた年収の分位数は公表されていません。 年収の中央値を掲げる数字を見かけたら、出所を確認してください。
夜勤を減らすと年収はどれくらい下がりますか?
掛け算で出ます。二交代の夜勤手当は全国平均で1回11,470円ですから、月4回ぶんをやめれば年55万560円、月5回ぶんなら年68万8,200円が手当から消えます。三交代の方は準夜勤4,300円・深夜勤5,211円をそれぞれの回数に掛けてください。基本給と固定的な手当はそのまま残るので、年収がこの割合どおりに落ちるわけではありません。
平均年収より低いと転職したほうがいいですか?
一概には言えません。企業規模10〜99人の水準付近で賃上げが一時金どまり、かつ条件に動かせる余地があるなら転職の効果が大きい一方、教育環境や働きやすさを優先する選択もあります。まず診断で位置を確認し、待つvs動くの判断記事で手順を確認してください。
看護師が一番年収を上げやすい条件は何ですか?
集団の平均どうしの差として大きいのは、都道府県(滋賀585万3,400円と高知434万8,300円で150万5,100円)と役職(病院のスタッフ群529万9,796円と主任・副看護師長相当群631万4,987円で101万5,191円)です。次いで病床規模(モデル賃金の税込月額差5万2,006円×12で62万4,072円。年収差ではありません)、夜勤回数(二交代月4回の手当で55万560円)。
ただしこれらは、条件を変えた個人がその額だけ動くという意味ではありません。 別々の集団の平均を比べた数字です。また表ごとに母集団も給与項目も違うため、複数の差を足し合わせることもできません。 実際の増減は勤務先の給与規程で確認してください。なお資格による上乗せ額を示した全国調査は確認できていません。
看護師の年収は「額面」で比べればいいですか?
額面だけでは不十分です。夜勤を減らした前後の実質時給がどう変わるかは、拘束時間と手当の実額で計算します。ほぼ変わらないと一般化せず、賞与・手当・実労働時間を同じ条件で比べましょう。
転職で年収100万円アップは現実的ですか?
起こり得ますが、異なる統計表の平均差を足して100万円を作ることはできません。現職の源泉徴収票と、候補先の内定通知書にある固定給・初年度賞与・夜勤・残業を同じ条件で比較してください。
まとめ
- 看護師の給料が適正かは「平均」ではなく「公表されている分位数のどこに入るか」で考える。
- 公表されている所定内給与額(月額)の分位数は、中位数321,500円・第1四分位278,800円・第3四分位376,700円。年収の分位数は公表されていない。
- 都道府県・役職・病床規模は別集団の平均差、夜勤回数は手当単価の試算。個人の増減ではなく、異なる差額の足し算もできない。
- まず自分の所定内給与額を中位数321,500円・四分位数278,800円/376,700円と比べ、「今の職場で上げる」か「転職で動く」かを選ぶ。
- 働き方別の選択肢(美容・日勤のみ・年収ランキング)から、自分に合う道を選びましょう。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」結果の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2025/index.html
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和7年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 第1表」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011429
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
- 公益社団法人日本看護協会「2024年度『看護職員の賃金に関する実態調査』結果」(2025年6月24日 News Release) https://www.nurse.or.jp/home/assets/20250624_nl02.pdf
- 公益社団法人日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」報告書(調査研究報告No.102、2026年3月31日公表) https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/102.pdf
- 厚生労働省「深夜労働の割増賃金」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_25.html
このガイドの土台にした実数は、厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(職種)第1表の看護師の行(企業規模10人以上・男女計)と、日本看護協会が2024年度に実施した賃金実態調査(病院3,471施設の施設調査および個人調査)です。年収換算だけは編集部の計算で、きまって支給する現金給与額に12を掛け、年間賞与その他特別給与額を足しています。夜勤回数別・実質時給の年間額も、公表されている単価と時間数から編集部が計算したもので、その計算式は本文中に明記しました。