結論:訪問看護は年収だけでなく、オンコールと相談体制まで比べる
病棟の夜勤や多重業務がつらく、訪問看護への転職を考えている看護師さんへ。「1人で訪問して大丈夫だろうか」「オンコールがきつそう」「未経験でもやっていけるのか」——判断に必要な数字を順に確認します。
訪問看護に移るかどうかを、次の観点で整理できます。
- 訪問看護の年収は病棟と比べてどうなるのか
- 訪問看護師の1日が実際どう進むのか
- オンコールの負担はどの程度で、避ける方法はあるのか
- 未経験の不安をどう解消し、どんな事業所を選べばよいか
日本看護協会が2024年度に実施した調査では、正規雇用フルタイム・非管理職(スタッフ)の回答者平均年収は訪問看護ステーション勤務が508万7,248円、病院勤務が529万9,796円でした。差は21万2,548円です。未経験者に限った数字ではなく、年齢構成も異なります(訪問看護側47.0歳、病院側38.2歳)。転職後の増減や初年度年収を表す数字ではありません。日中中心、直行直帰、オンコール免除も事業所ごとに異なるため、1人訪問の開始条件、相談経路、実際の待機回数と一緒に確認します。
1. 訪問看護師の年収(参考値)と病棟との比較
日本看護協会「2024年度 看護職員の賃金に関する実態調査」の個人調査は、病院と訪問看護ステーションを同じ役職区分で並べて平均年収を出しています。転職を考えるときに一番知りたい比較が、そのまま公表されている調査です。
| 役職 | 病院勤務 | 訪問看護ステーション勤務 |
|---|
| スタッフ(非管理職) | 529万9,796円 | 508万7,248円 |
| 中間管理職(主任・副看護師長相当) | 631万4,987円 | 576万740円 |
| 中間管理職(看護師長相当) | 676万3,829円 | 581万4,926円 |
| 管理職(副看護部長相当) | 758万5,014円 | 624万7,840円 |
| 管理職(看護部長・副院長相当/管理者) | 818万594円 | 591万1,504円 |
| 経営者 | — | 736万4,685円 |
(回答者数はスタッフで病院1,428人・訪問看護322人。上位役職ほど回答者数が少なく、管理職層の数字はぶれやすい点に注意してください)
この回答群では、上位の役職区分ほど病院との差が大きく出ています。 スタッフ同士の差は21万2,548円ですが、看護師長相当では94万8,903円です。ただしこれは同じ人の昇給を追った数字ではなく、異なる人たちを役職ごとに平均したものです。訪問看護側の回答者数は看護師長相当59人、副看護部長相当12人と少なく、上位区分の数字はぶれやすい点に注意してください。また病院の「看護部長・副院長相当」と訪問看護の「管理者」は、担う役割が同一ではありません。
訪問看護ステーションには「経営者」という区分もあり、736万4,685円(回答20人)。病院で最も高い看護部長・副院長相当の818万594円は下回りますが、副看護部長相当の758万5,014円に近い水準です。雇用されている管理職と経営者では収入の性質そのものが違うため、単純な比較には向きませんが、独立という選択肢が存在することは押さえておいてよいでしょう。
なおオンコール手当・訪問件数手当(インセンティブ)の有無は事業所ごとに異なり、上の表はあくまで回答者の平均です。
夜勤を減らしたときの年収の考え方は夜勤を減らすと年収はいくら下がる?も参考になります。
2. 訪問看護師の1日の流れ(例)
| 時間帯 | 主な動き |
|---|
| 朝 | ステーション出勤または直行。当日の利用者・指示・ルート確認 |
| 午前 | 訪問2〜3件(バイタル、処置、服薬管理、療養指導、家族支援) |
| 昼 | 移動・記録・休憩(直行直帰の事業所では自宅周辺で休憩することも) |
| 午後 | 訪問2〜3件、多職種(ケアマネ・医師)への連絡、記録 |
| 夕方 | 記録の仕上げ、翌日の準備。直帰の事業所も多い |
病棟との違いは、その場に居合わせるのが自分1人という点です。複数患者の同時進行に追われる病棟と違い、1人の利用者にじっくり向き合えます。ただし「自分の判断で完結する」わけではありません。訪問看護は主治医の訪問看護指示書に基づいて行うもので、状態変化があれば医師へ報告し指示を仰ぎます。ケアマネジャーや他事業所との情報共有、管理者への報告・相談も日常業務です。1人で現場に立つ時間が長いぶん、「誰に、どの経路で、どのくらいの速さで相談できるか」が働きやすさを決めます。
3. オンコールの実態
訪問看護で最も不安視されるのがオンコール(夜間・休日の待機)です。ただし、実態は事業所により大きく異なります。
日本看護協会の同じ調査は、訪問看護ステーション勤務者のオンコール手当の実額と、2024年12月の実施回数を公表しています。求人票では見えない部分なので、面接前にこの水準を頭に入れておくと質問が具体的になります。
| 区分 | 1回あたりの平均手当額 | 2024年12月の平均回数 | 回答者数 |
|---|
| オンコール待機(待機のみ) | 2,233円 | 7.7回 | 537人 |
| オンコール対応(電話対応) | 609円 | 5.0回 | 445人 |
| 緊急出動(時間外手当を除く) | 1,791円 | 2.3回 | 429人 |
この表の読み方には注意が要ります。 3つの行は回答者数が537人・445人・429人と異なり、同じ人の「待機→電話→出動」を追った数字ではありません。 したがって「2.3÷7.7で3回に1回は出動する」といった確率計算はできません。それぞれ独立に「その項目を経験した人の平均」と読んでください。
そのうえで、金額の桁感はつかめます。待機を7.7回した人なら2,233円×7.7で約1万7,200円、電話対応を5.0回した人なら609円×5.0で約3,000円、緊急出動が2.3回なら1,791円×2.3で約4,100円(出動時の時間外手当は別途)。それぞれ1万円台・数千円台の規模で、夜勤手当(二交代で1回11,470円)と比べると、1回あたりの単価は明らかに低い。
ここが判断の分かれ目です。 拘束される時間の長さに対して、オンコール手当の単価は夜勤手当ほど高くありません。「オンコールがあるから年収が病棟に追いつく」という考え方はしないほうがよく、基本給と訪問件数手当の水準そのものを確認する必要があります。
- 実際の呼び出し頻度:看取り期の利用者がいる時期は増えます。上の平均はあくまで2024年12月の1か月分で、月によって振れます。
- 免除・選択:「オンコールなし」を選べる事業所、子育て中は免除する事業所もあります。
不安を下げる近道は、待機の頻度・1回あたりの手当・実際に出動した回数を面接で数字として聞くことです。上の調査回答者平均を持っていけば、「うちは月何回ですか」「待機手当はおいくらですか」「先月、実際に出動されたのは何回でしたか」と踏み込んで聞けます。平均から大きく外れる事業所であれば、その理由(看取りが多い、担当エリアが広い、待機人数が少ない)まで確認しましょう。自分の条件での適正年収は給料コンパスの適正年収診断で試算できます。
3-2. 事業所の規模と設置主体で、給与はここまで違う
訪問看護ステーションは規模の幅が大きく、同じ「訪問看護」でも別の相場です。日本看護協会は事業所調査で、各ステーションの常勤スタッフのうち「一番高い額」と「一番低い額」を聞いています。
| 常勤換算の看護職員数 | 一番高い人の総額(月) | 一番低い人の総額(月) |
|---|
| 20人以上 | 424,536円 | 314,912円 |
| 15〜20人未満 | 382,301円 | 317,652円 |
| 10〜15人未満 | 378,012円 | 309,431円 |
| 5〜10人未満 | 357,682円 | 300,440円 |
| 5人未満 | 328,794円 | 289,619円 |
規模の大きい区分ほど、「一番高い人」の額が高くなっています。 5人未満では328,794円、20人以上では424,536円で、その差は9万5,742円。一方「一番低い人」は5人未満289,619円、20人以上314,912円で差は2万5,293円にとどまります。
ただしこれは賃金の上限・下限を示す数字ではありません。 あくまで各事業所が回答した「最も高い人/最も低い人」の額を平均したもので、20人以上の区分は高額側18事業所・低額側17事業所と回答数もごく少数です。順位や差額をそのまま自分の見込み額に読み替えないでください。
それでも、求人を見るときに常勤換算の人数を確認する意味はあります。 提示額が事業所内でどのあたりの位置なのかを面接で聞く手がかりになるからです。なお教育体制については、この調査に該当するデータがありません。同行訪問の期間、単独訪問を始める条件、教育担当者の有無は、規模とは別に個別に確認してください。
設置主体別の集計もありますが、日本赤十字社・社会保険関係団体・独立行政法人は9事業所、特定非営利活動法人は7事業所、協同組合は15事業所と、多くの区分が極小の回答数です。順位として読める精度はありません。
実用的なのは母数の大きい区分だけです。訪問看護ステーションの回答683件のうち387件が営利法人(会社)で、その「一番高い人」の総額平均は352,592円、次いで医療法人117件で340,521円。求人の多くはこの2区分から出てくると考えてよいでしょう。
3-3. 時間外手当と申請時間は回答者平均で確認する
2025年1月に支給された平均時間外手当額は、訪問看護ステーションの回答者が31,772円(492人)、病院の回答者が27,457円(2,055人)でした。1か月の回答者平均であり、年間傾向や転職後の支給額を示すものではありません。
内訳を見ると理由が分かります。
| 就業先 | 行った時間外労働 | 申請した時間数 | 支払われた時間数 |
|---|
| 訪問看護ステーション | 15.8時間 | 11.5時間 | 11.4時間 |
| 病院 | 15.5時間 | 9.3時間 | 9.1時間 |
実際に働いた時間はほぼ同じ(15.8時間と15.5時間)なのに、申請された時間数の平均は2.2時間違います。 理由はこの調査からは分かりません(回答者も、手当額は訪問看護492人・病院2,055人、時間数は419人・1,680人と別の群です)。ただ、行った時間と申請した時間の差は訪問看護4.3時間・病院6.2時間で、訪問看護のほうが差が小さいという事実は残ります。
この回答月では訪問看護側の時間外手当額が高く出ましたが、基本給や年収差を埋めるとまでは言えません。また訪問看護でも、行った時間と申請した時間に平均4.3時間の差があります。記録の持ち帰り、移動時間、カンファレンスがどう扱われるかを面接で確認してください。
4. 未経験の立ち上がり
「病棟しか経験がないのに、いきなり1人で訪問できるのか」という不安は当然です。次は望ましい確認順序の例であり、すべての事業所が同じ工程を用意しているわけではありません。
- 同行訪問から始める:先輩に同行し、利用者・手技・記録の流れを覚える(数週間〜数ヶ月)。
- 徐々に単独訪問へ:慣れた利用者から1人で担当を持つ。
- 医療処置の幅を確認:点滴・カテーテル管理・褥瘡ケア・看取りなど、事業所が扱う範囲を把握。
- 緊急時のバックアップ:判断に迷ったとき、管理者・医師にすぐ相談できる体制があるか。
「未経験歓迎」だけで教育体制があるとは判断できません。 同行期間、単独訪問の判定者、未経験入職者の直近実績を確認しましょう。
5. 訪問看護に向く人・向かない人
向いている人
- 1人の利用者にじっくり向き合いたい
- 自分のペースで段取りを組むのが得意
- 夜勤を減らし、生活リズムを整えたい
注意したほうがいい人
- 1人で判断することに強い不安がある(同行期間の長い事業所を選ぶと安心)
- 運転が苦手(車訪問の地域では負担になり得る)
- 急性期の高度医療を続けたい
6. 今の職場で確認すること・転職で解決しやすいこと
訪問看護へ移る前に整理すること
- 自分が訪問看護に求めるもの(WLB改善か、年収維持か、やりがいか)の優先順位
- 今の病棟で身につけた手技のうち、訪問で活きるもの(点滴・褥瘡・服薬管理など)
転職で解決しやすいこと
- 夜勤からの解放、生活リズムの安定
- 1人の利用者にじっくり関わる働き方
転職で解決しにくいこと
- オンコールの完全な回避(免除・選択の可否は事業所ごとに異なる)
- 年収を確実に上げること(事業所差が大きく、下がる場合もある)
- 1人訪問の責任・判断の重さ(慣れで軽減するが、ゼロにはならない)
7. 事業所選びのチェックリスト
- 教育・同行訪問の期間(未経験は同行から始める事業所が安心)
- 医療処置の幅(点滴・カテーテル・看取りなど、どこまで担当するか)
- オンコールの回数・手当・免除の可否
- 緊急時のバックアップ体制(管理者・医師との連携)
- 移動手段(車・自転車・公共交通)と直行直帰の可否
- 年収の内訳(基本給・オンコール手当・訪問件数手当)
看護師全体の実数は看護師の適正年収・相場 完全ガイドに、退職と入職の段取りは看護師転職の完全ガイドにあります。訪問看護以外で夜勤を離れる道は日勤のみで働くキャリアの選択肢をどうぞ。
よくある質問
訪問看護は未経験でも転職できますか?
未経験可の求人はあります。ただし同行訪問や教育期間の有無・長さは事業所ごとに異なります。単独訪問を始める判断基準、同行者、相談経路を事前に確認してください。
訪問看護の年収は病棟より下がりますか?
上がるか下がるかは求人条件によります。調査の回答者平均は病院勤務と年齢構成が異なり、未経験初年度の数字でもありません。基本給、賞与、オンコール待機・電話・出動、訪問件数手当を分けて比べてください。
訪問看護のオンコールは大変ですか?
事業所により頻度も手当も大きく異なります。待機だけで呼び出しが少ない事業所もあれば、オンコールを免除・選択できる働き方もあります。面接で実態を具体的に確認しましょう。
訪問看護は1人で訪問するのが不安です。大丈夫ですか?
同行訪問から始める事業所はありますが、工程は一律ではありません。同行期間、単独訪問を許可する基準、緊急時に管理者・医師へ連絡できる時間を確認してください。
訪問看護に必要な経験年数はありますか?
法令上の決まりはありません。求人で必要経験年数を条件にしている事業所もあれば、未経験可としている事業所もあります。「何年必要か」を全国的に集計したデータは確認できていませんので、応募先の募集要項で確認してください。確認すべきは年数そのものより、同行訪問の期間、単独訪問を始める判断基準、オンコールに入る時期の3つです。
まとめ
- 非管理職スタッフの回答者平均年収は508万7,248円で、病院回答者平均との差は21万2,548円。未経験者の初年度や転職による増減は示しません。
- オンコール手当は待機1回2,233円(待機した人の平均回数7.7回)。1回あたりの単価は夜勤手当より明らかに低く、年収の穴埋めとして期待しすぎない。
- 未経験は同行訪問から立ち上がる。教育の中身とバックアップ体制を確認。
- 夜勤からの解放は得やすいが、オンコールの完全回避・年収アップの確約はしにくい。
- 病棟の今の年収と並べるなら適正年収診断、看護師全体の公表値は適正年収ガイドにあります。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」結果の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2025/index.html
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和7年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 第1表」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011429
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和7年賃金構造基本統計調査 職種(小分類)第14表・第17表」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?cycle=0&tclass=000001229512
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
- 公益社団法人日本看護協会「2024年度『看護職員の賃金に関する実態調査』結果」(2025年6月24日 News Release、図表3・16・17・26・27・28) https://www.nurse.or.jp/home/assets/20250624_nl02.pdf
- 公益社団法人日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」報告書(調査研究報告No.102、2026年3月31日公表) https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/102.pdf
役職別年収・オンコール手当・時間外手当は日本看護協会が2024年度に行った個人調査、事業所規模別・設置主体別の給与は同調査の訪問看護ステーション調査の結果です。いずれも回答者・回答事業所の平均であり、母集団の推計値ではありません。 項目ごとに回答数が異なるため、複数の表をまたいだ引き算や比率計算はしていません。実額は必ず求人票と面接で確認してください。