結論:今の職場の賃金表を確認し、内定条件と比べて選ぶ
看護師が年収を見直す主な経路は、次の2つです。部署異動や勤務形態の変更は、1つ目に含めて考えます。
- 今の職場で待つ・動かす(昇給、ベースアップ評価料、処遇改善手当、夜勤回数の調整、資格手当)
- 転職で動く(地域・施設形態・夜勤条件を変えて、ベースの給与水準そのものを変える)
どちらが得かは、人によって正反対です。判断の出発点は1つ——「自分の今の年収が、同じ条件の看護師の中で高いのか低いのか」を知ること。これが分からないまま「賃上げニュースに実感がない」「同期より低い気がする」と悩んでも、答えは出ません。
この記事では、全国の適正年収レンジ(参考値)と、夜勤・地域・施設で年収がどれだけ変わるかを数字で示します。読み終えたら、60秒の適正年収診断(給料コンパス)で、あなた自身の数字を確認してみてください。
出典は2つです。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査と、日本看護協会が2025年6月24日に公表した2024年度の賃金実態調査(病院3,471施設への施設調査と、看護職員本人への個人調査)。掲載した金額は原表に載っている値そのものか、それを引き算・12倍・回数倍しただけの数字です。どう計算したかは本文に書き添えています。係数から起こした推定額は含みません。個人の実額は勤務先・経験・手当で変わります。
1. 企業規模別の平均と、「待てば上がるのか」の実績
公的統計における看護師の年収換算は524万7,200円(令和7年賃金構造基本統計調査・職種第1表)です。ただしこれは全体の平均で、勤務先の法人規模で区切ると上下に100万円分の幅があります。
| 区分(勤務先の企業・法人全体の常用労働者数) | 年収換算(その規模で働く人の平均) |
|---|
| 10〜99人 | 469万8,200円 |
| 100〜999人 | 506万2,800円 |
| 1,000人以上 | 569万8,700円 |
これは各規模で働く人の平均であって、「適正な年収の幅」でも、個人の分布でもありません。 自分の年収がこの3つのどこに近いかは、あくまで大まかな当たりをつけるための目安です。
そのうえで、2012年調査と2024年度調査の回答者平均を比べます。同じ人を13年間追ったデータではなく、待てばいくら上がるかを直接示すものではありません。
日本看護協会は2012年にも同種の賃金調査を行っています。病院勤務・正規雇用フルタイム・非管理職という区分で回答者平均を並べると——
| 項目 | 2012年 | 2024年 | 差 | 増加率 |
|---|
| 基本給月額 | 254,583円 | 260,451円 | +5,868円 | +2.3% |
| 税込給与総額(月) | 352,157円 | 382,093円 | +29,936円 | +8.5% |
2時点の回答者平均の差は、基本給5,868円、税込給与総額29,936円でした。基本給より総額の差が大きいことは確認できますが、回答者の年齢や勤務先構成も変わっているため、同一人物の昇給額や、増加分がすべて手当だったとは断定できません。 賞与・退職金へどの手当が算入されるかも勤務先の規程によります。
年齢階級別の基本給指数も、2012年は20代前半を100として50代前半145、2024年度はピークの40代後半134でした。これは2時点の回答者分布の比較です。個人の昇給カーブではないため、自分が待つ場合の金額は勤務先の賃金表と直近の昇給実績で確認します。
地域・経験・夜勤・施設・役職を実数で並べた一覧は看護師の適正年収・相場 完全ガイドにあります。
2. 年収は「夜勤・地域・施設・経験」で決まる
賃上げニュースの数千円より、働く条件そのものが年収を大きく動かします。順に見ていきます。
夜勤回数:増やしても「待つ」の答えにはならない
夜勤手当の全国平均は二交代で1回11,470円。月4回なら年55万560円が上乗せされている計算です。金額としては大きい。
それでも、今の職場に留まる理由として夜勤を数えるのは危険です。 回数を重ねたときに単価が上がる仕組み(増額・加算)を持つ病院は2割に満たず、7割近くは何もありません。つまり「もっと入れば効率が上がる」わけではなく、入った回数ぶんだけ体力を差し出す取引になります。この構造の詳しい計算は夜勤を減らすと年収はいくら下がる?にあります。
地域:最高と最低で約150万円ひらきます(実数)
都道府県別第3表の実数です。推定ではありません。
| 都道府県 | 年収換算 |
|---|
| 滋賀(最高) | 585万3,400円 |
| 東京 | 578万5,100円 |
| 愛知 | 546万800円 |
| 大阪 | 540万2,300円 |
| 全国 | 524万7,200円 |
| 北海道 | 519万4,200円 |
| 高知(最低) | 434万8,300円 |
首位は東京ではなく滋賀です。 月額では東京が全国最高ですが、滋賀は年間賞与が112万円台と厚く、年収換算で逆転します。地域を比べるときは、月給だけでなく賞与まで見てください。
設置主体:同じ「病院」でも別の相場
「待つか動くか」で最も見落とされるのが経営母体です。日本看護協会が公表している勤続10年・31〜32歳・非管理職のモデル賃金(条件をそろえた比較)を見てください。
| 設置主体 | 基本給月額 | 税込給与総額(月) | 施設数 |
|---|
| 社会保険関係団体(回答33施設・少数) | 303,146円 | 374,423円 | 33 |
| 公立 | 288,641円 | 368,081円 | 516 |
| 国 | 272,456円 | 362,027円 | 162 |
| 公的医療機関 | 265,100円 | 355,100円 | 199 |
| その他の法人 | 240,270円 | 326,949円 | 417 |
| 医療法人 | 238,558円 | 325,439円 | 1,555 |
医療法人と公立の差は、基本給で月5万83円。同じ勤続10年で、です。 しかも回答施設数が最も多いのは医療法人(1,555施設)。求人数が多い層が、賃金では下側にいます。
ここが「待つ」判断の分かれ目になります。医療法人の勤続10年(基本給238,558円)と公立の同条件(288,641円)で5万83円。この差が勤続で埋まるかどうかは、この調査からは分かりません。 2012年との比較で見た5,868円という数字も、同じ人の12年間の昇給額ではなく、2つの時点の回答者平均の差だからです(平均年齢も36.1歳から38.2歳へ動いています)。
だから、この問いに答えられるのは統計ではなく、あなたの職場の賃金表です。 何年目に何等級で、基本給がいくらになるのか。それを見て初めて「待てば追いつくのか」が計算できます。次章で、その確認手順を扱います。
経験年数:伸びる部分と、伸びない部分を分ける
賃金構造基本統計調査(職種)第14表では、看護師の所定内給与額が経験0年278,200円→1〜4年304,700円→5〜9年314,800円→10〜14年326,500円→15年以上358,600円。経験0年と15年以上の差は月80,400円、年に直すと(賞与も含めた換算で)185万8,400円です。
この数字を、前掲の設置主体別モデル賃金と直接比べないでください。 第14表は全国の看護師を経験年数で区切った「所定内給与額」、日本看護協会の図表5は「31〜32歳・勤続10年・非管理職」という条件をそろえた病院のモデル基本給。年齢も勤続も母集団も給与項目も違います。 引き算しても意味のある数字は出ません。
言えるのは、経験年数でも設置主体でも、それぞれ数十万円規模の差が観測されているということまでです。
3. 「今の職場で待つ」が有利な人・「転職で動く」が有利な人
今の職場で待つほうが有利なケース
- 勤務先が公立・国・公的医療機関で、モデル賃金の上位層にいる(社会保険関係団体は回答33施設と少数のため、参考程度に)
- 賃金表があり、公開されている職場(賃金表がある病院は75.0%、うち公開しているのは54.0%。500床以上では公開率80.7%)。何年目にいくらになるかを自分で確認できるなら、待つ判断に根拠が持てます
- 2026年のベースアップ評価料・処遇改善が基本給ベースで反映される職場
- 勤続による昇給カーブがまだ立ち上がる段階(若手で教育環境が良い)
賃金表を見せてもらえるかどうかは、それ自体が判断材料です。 99床以下の病院では賃金表がある割合が63.8%、公開しているのは43.0%。「聞いても出てこない」職場で待つのは、行き先の分からない列車を待つのに似ています。
ベースアップ評価料や処遇改善が「一時金」ではなく基本給・恒常手当に乗っているかは、給与明細と職場の説明で確認できます。
転職で動くほうが有利なケース
- 勤務先のモデル賃金が公表値より低く、賃金表でも今後の上昇が限られると確認できた
- 賃上げが一時金どまりで基本給が動かない
- 夜勤を続けて年収を保っているが、心身が限界に近い
- 地域・設置主体・病床規模を変えれば、夜勤を減らしても手取りを保てる余地がある
設置主体で離職率に差が出ています。 日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」によると、2024年度の正規雇用看護職員の離職率は全体で11.0%。設置主体別に最も高いのは医療生協14.4%、次いで医療法人14.0%でした。
そして、この記事で最も注意を要する数字がこれです。
| 区分 | 2024年度の離職率 |
|---|
| 正規雇用看護職員(全体) | 11.0% |
| 新卒採用者 | 8.4% |
| 既卒採用者 | 16.1% |
既卒採用者の離職率は新卒採用者のおよそ2倍でした。 3,431病院の集計で、既卒採用者27,005人のうち4,347人が同じ年度内に辞めています。ただし、離職理由や在籍期間の分布まではこの数字から分かりません。
これは「転職するな」という話ではありません。「移った先で定着できるかどうかは、移る前に確認すべき事柄がある」という話です。同じ年度内に離職した人が約6人に1人いることは確認できますが、入職前に防げたミスマッチの割合は調査されていません。
だから、待つか動くかを決めたあとも、賃金表の有無、教育体制、実際の残業時間、直近1年の退職者数を確認してください。これらは定着を保証しませんが、説明と実態のずれを減らす材料になります。
「年収を上げる」だけでなく「夜勤を減らしつつ年収を保つ」も転職の目的になります。詳しくは看護師転職の完全ガイドと地方と都市部で看護師の給料はどれくらい違うかを参照してください。
3-2. 「うちも人手不足だから、そのうち上がる」は起きているか
「人が足りないなら、給料を上げてでも採るはずだ」——理屈としては正しい。では実際はどうか。日本看護協会は病院3,471施設に、初任給を上げたかどうかを聞いています。
| 2022年以降の初任給(基本給)の改定状況 | 施設数 | 割合 |
|---|
| 初任給を上げた | 1,557 | 44.9% |
| 初任給は変えていない | 1,419 | 40.9% |
| 初任給を下げた | 10 | 0.3% |
そして、2025年度の新卒採用に向けた改定予定です。
| 2025年度新卒採用者の初任給の改定予定 | 施設数 | 割合 |
|---|
| 引き上げ予定 | 844 | 24.3% |
| 変える予定はない | 2,111 | 60.8% |
| 引き下げ予定 | 9 | 0.3% |
6割が「変える予定はない」と答えています。 さらに、この2つを掛け合わせると構造が見えます。「初任給を上げた、かつこれからも引き上げ予定」は20.5%。一方「初任給を変えていない、かつ変える予定もない」が36.8%で最大の塊です。上げる病院は続けて上げ、上げない病院は上げないままという二極化が起きています。
もう一つ。2024年度に新卒看護職員が「充足していない」と答えた病院でも、67.1%が2025年度の初任給を「変える予定はない」と回答しています(充足している病院は67.2%)。採れていない病院も、採れている病院も、初任給を上げる姿勢はほとんど変わらないということです。
「人手不足なんだから、そのうち待遇はよくなる」という期待は、少なくとも新卒の初任給に関しては、データが支持していません。
ただし、ここは正確に区別してください。 この調査が測っているのは新卒採用者の初任給であって、いま在職している人の昇給ではありません。初任給を据え置いている病院が、在職者の定期昇給まで止めているとは限りません。
在職者としてのあなたが判断するために見るべきものは、別にあります。
- 賃金表があるか、そこに何年目でいくらと書かれているか
- 直近3年の定期昇給の実績(自分の給与明細で確認できます)
- ベースアップ評価料が基本給に反映されているか
初任給の話は「この病院が人件費をどう考えているか」の傍証にはなりますが、あなたの昇給額そのものではありません。
4. まず数字を確認:あなたの適正年収診断
ここまでの表は全体の傾向です。自分の位置を確かめる最短の方法は、給与明細の所定内給与額を公表された目盛りに当てることです。 全国・企業規模計の所定内給与月額で、中央にいる人が321,500円、下から4分の1の位置が278,800円、上から4分の1の位置が376,700円。条件別の目安を並べたい場合は給料コンパスの60秒診断も使えますが、そこで出る水準は編集部の試算です。
数字を見たうえで「今の職場で交渉する材料がほしい」「転職で動いたほうが早い」と感じたら、次の一歩を選べます。
よくある質問
2026年のベースアップ評価料で看護師の給料は実際に上がりますか?
ベースアップ評価料は診療報酬上の加算で、医療機関が届け出て算定し、その収入を職員の賃金改善に充てることが要件になっています。充てる先は「基本給等」——基本給または毎月決まって支払われる手当と定められており、賃金改善の実績報告も求められます。まったくの自由裁量ではありません。 ただし基本給に載せるか毎月の手当に載せるかは法人が決めるため、同じ加算を算定していても職員の実感は揃いません。さらに、これとは別枠の賃上げ・物価高騰対策の支援は一時金で配られることがあります。この2つを混ぜて数えると「上がったのか上がっていないのか」が分からなくなります。 給与明細のどの行が増えたかを、職場の説明と1対1で突き合わせてください。
夜勤を減らすと年収はどのくらい下がりますか?
手当の実額から概算できます。二交代の夜勤手当は1回平均11,470円(日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」の2025年6月時点)なので、月4回をやめると夜勤手当だけで年55万560円が減る計算です。公的統計に夜勤回数別の年収集計はないため、「夜勤なしなら年収◯◯万円」という数字は推定でしかありません。勤務地の平均差をそのまま転職後の増額として足さず、候補先の内定条件で比べてください。
転職で年収を上げやすいのはどんな条件ですか?
設置主体別のモデル賃金には差がありますが、転職による上げ幅ではありません。現在と候補先の勤続換算、基本給、賞与、夜勤回数を内定条件でそろえて比べてください。病床規模や都道府県の平均も、候補先自身の提示額を確かめるための参考値として使います。
看護師の適正年収はどこで分かりますか?
給料コンパスの適正年収診断では、地域・経験・施設・夜勤の条件を選んで目安レンジを整理できます。ただしそこで示される条件別の水準は編集部の試算で、公的統計の分布ではありません。
まとめ
- 看護師が年収を上げる道は「今の職場で待つ」か「転職で動く」の2つ。
- 判断の出発点は自分の位置を知ること。公的統計の年収換算は524万7,200円、企業規模別では469万8,200円〜569万8,700円。
- 2012年と2024年度の回答者平均の差は、基本給5,868円(+2.3%)、税込給与総額29,936円。同一人物の昇給額ではなく、差の原因も断定できない。
- 待つか動くかは、設置主体・病床規模・都道府県の平均差だけで決めず、今の賃金表と候補先の内定条件で決める。
- 賃上げが一時金どまりで、条件にも動かせる余地があるなら、転職の検討価値は高い。
- まず適正年収診断で数字を確認し、それから「待つ」か「動く」かを選びましょう。
困ったときは、ひとりで抱えず、同じ立場の看護師の声や相談先も活用してください。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」結果の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2025/index.html
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和7年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 第1表」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011429
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和7年賃金構造基本統計調査 職種(小分類)第14表・第17表」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?cycle=0&tclass=000001229512
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
- 公益社団法人日本看護協会「2024年度『看護職員の賃金に関する実態調査』結果」(2025年6月24日 News Release、図表1・2-1・5・15・23・24・29・31) https://www.nurse.or.jp/home/assets/20250624_nl02.pdf
- 公益社団法人日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」報告書(調査研究報告No.102、2026年3月31日公表) https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/102.pdf
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定におけるベースアップ評価料等について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定 1. 賃上げ対応」 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001701063.pdf
比較の基準となる看護師の賃金は令和7年賃金構造基本統計調査(職種)第1表・第14表・都道府県別第3表から、設置主体別・病床規模別のモデル賃金、2012年との比較、賃金表の整備状況、賃金水準別の離職率は日本看護協会の2024年度調査から引用しています。設置主体別・病床規模別の数字は「勤続10年・31〜32歳・非管理職」という条件をそろえたモデル賃金であり、その施設の平均賃金ではありません。 実際の増減は勤務先の給与規程によります。