結論:年収100万アップは「起こり得るが、無条件ではない」
「転職で年収100万円アップ」「最高年収◯◯万円」——求人サイトでよく見るこの言葉に、期待と不安が入り混じる看護師は多いはずです。この記事では、過大広告でも過度な悲観でもなく、事実として年収100万アップがどこまで現実的かを正直に解説します。
読み終えると、次のことが判断できます。
- 100万円アップが起こり得る条件(何をどう変えれば届くのか)
- 100万円アップが難しいケース
- 「最高年収◯◯万円」などの過大広告の見抜き方
- 自分の現実的な上げ幅の見積もり方
答えから書きます。「この条件をこう変えれば100万円上がる」と言い切れる公的データは存在しません。 公表されているのは、条件ごとに分けた集団の平均どうしの差だけ。それは「その条件を変えた個人がその額だけ上がる」という意味ではありません。
この記事がやるのは、その差を正しく読んだうえで、100万円という数字がどのくらいの規模の話なのかを掴むこと、そして内定通知書から自分の実額を計算する手順を示すことです。求人広告の「年収100万アップ」を検証する道具として使ってください。
掲載した金額の出どころは2つだけです。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」と、日本看護協会「2024年度 看護職員の賃金に関する実態調査」(2025年6月24日公表)。表に載っている値そのものか、その値を引き算・12倍・回数倍しただけの数字で、どう計算したかは本文に書き添えています。編集部が係数で作った推定額はありません。
1. 100万円アップが「起こり得る」条件
まず、この章の表の読み方を決めておきます。 以下に並ぶのは「条件ごとに分けた集団の平均どうしの差」です。同じ人が条件を変えた前後を追った数字ではありません。年齢構成も勤続年数も勤務形態も違う別々のグループを比べているので、「この条件を変えれば、この額だけ上がる」とは読めません。 規模感をつかむ材料として見てください。
| 比較している集団 | 平均の差 | 何の差か | 出典 |
|---|
| 都道府県(高知の集団と滋賀の集団) | 150万5,100円 | 年収換算(きまって支給×12+年間賞与) | 賃金構造基本統計調査・都道府県別第3表 |
| 役職(病院のスタッフ群と主任・副看護師長相当群) | 101万5,191円 | 平均年収 | 日本看護協会・図表3 |
| 経験年数(5〜9年群と15年以上群) | 73万1,900円 | 年収換算(所定内×12+年間賞与) | 賃金構造基本統計調査・職種第14表 |
| 夜勤(二交代・月4回分の手当額) | 55万560円 | 手当の単純計算(11,470円×4×12) | 日本看護協会・図表23 |
| 病床規模(99床以下と500床以上) | 62万4,072円 | モデル賃金の税込月額差×12。年収差ではない | 日本看護協会・図表4 |
| 設置主体(医療法人と公立) | 60万996円 | モデル基本給の月額差×12。年収差ではない | 日本看護協会・図表5 |
下2行には特に注意してください。 どちらも「勤続10年・31〜32歳・非管理職」というモデル条件での月額の差を12倍したものです。賞与も諸手当も含んでいないので、年収の差ではありません。
そしてこの6行を足し算してはいけません。 病床規模別(図表4)と設置主体別(図表5)は、同じ集団を別々の切り口で集計した表です。「医療法人かつ99床以下」と「公立かつ500床以上」を交差させた数字は公表されておらず、両方の差を足すと同じ要因を二重に数えることになります。「この2つを重ねれば100万円」という計算は成り立ちません。
では100万円という数字をどう捉えるか。単一の集団平均差で100万円を超えているのは、都道府県と役職の2つだけです。それ以外はいずれも50万円台〜70万円台。つまり100万円は、公表データの世界では「かなり大きい部類の差」にあたります。 求人広告が気軽に掲げてよい数字ではない、という感覚は持っておいてよいでしょう。
一方、資格取得による上乗せ額を示した全国調査は確認できていません。 「認定看護師になれば年収が上がる」という説明は、施設ごとの資格手当の話であって、全国的な相場ではありません。金額を期待して資格を目指すなら、先に勤務先の給与規程で資格手当の額を確認してください。
2. 具体的な積み上げシナリオ
シナリオA:医療法人の小規模病院 → 公立の大規模病院(1回の転職)
設置主体と病床規模は、1回の転職で同時に動く条件です。ただし前述のとおり、2つの差額を足すことはできません。 交差集計が公表されていないため、「両方変えれば100万円」という計算は根拠を持ちません。
言えるのは、この2つは公表データ上どちらも50万円台の差がついている、大きい要素だということまでです。実際にいくら変わるかは、応募先の給与規程を見なければ分かりません。
応募可能性は、公立という区分だけでは分かりません。募集時期、経験者枠、年齢要件、採用試験、前歴換算を各施設の募集要項で確認してください。
シナリオB:勤務地を変える(高知→滋賀で年150万5,100円差)
都道府県は、集団平均差で100万円を超えている比較の1つです。ただし個人の転職前後差ではありません。家賃・通勤費・住宅手当、候補先の基本給・賞与をセットで比べてください。滋賀の回答者平均は月額だけでなく年間賞与112万4,200円の影響を受けているため、月給だけでは再現できません。
シナリオC:昇進する(スタッフ→主任相当で年101万5,191円)
転職せずに動かせる、もう1つの100万円超の要素です。病院勤務のスタッフ(非管理職)529万9,796円に対し、中間管理職(主任・副看護師長相当)は631万4,987円。賞与でも103万6,975円と137万6,075円で33万9,100円の差があります。
ただしこれは「昇進すると101万円上がる」という意味ではありません。 スタッフ群と主任群は別々の人たちで、年齢も勤続年数も違います。あなたが主任になったときにいくら増えるかは、勤務先の給与規程にある役職手当の額と等級の変わり方を見るしかありません。
役職の空き、昇格時期、等級変更は施設の人員構成と規程によります。転職とどちらが確実かは一般化せず、現在の組織で昇格した場合の基本給・役職手当と、内定条件を並べます。
シナリオD:夜勤を増やす(二交代・月4回で年55万560円)
夜勤手当は1回あたり二交代11,470円。単体では100万円に届きません。 しかも回数を増やしたときに単価を上げる制度は69.6%の病院で「ない」ため、回数を積んでも1回の値段は変わらず、負担だけが積み上がります。
仮に二交代1回の拘束を16時間とすると、手当だけを時間で割った額は約717円です(11,470円÷16時間)。これは夜勤手当という名目の支給額のみの単価で、基本給から計算される通常の賃金を含んだ時給ではありません。しかもこの手当に深夜割増が含まれているかは病院によって違います(含む52.0%、別建て31.2%)。計算の詳細は夜勤を減らすと年収はいくら下がる?にあります。健康とのバランスを必ず考えてください。
3. 統計だけでは100万円アップを判定できないケース
- すでに企業規模1,000人以上の平均年収換算569万8,700円を超えている(平均超えだけでは上げ幅は決まらない)
- 所定内給与額が第3・四分位数376,700円を超えている(全国・企業規模計の月額分布であり、転職余地の指標ではない)
- 夜勤を減らしたい(手当が減るぶん、同時に100万円上げるのはかなり難しくなります。ただし移り先の基本給と賞与しだいで、まったく不可能とまでは言えません)
- すでに公立・国・公的医療機関・社会保険関係団体にいる(設置主体の差を使えない)
- 同じ都道府県・同じ設置主体・同じ病床規模の中での転職(統計上の大きな差が動かない。ただし等級・基本給・賞与月数・固定手当は個別に変わり得ます)
「夜勤を減らして年収100万アップ」が両立するかも、候補先の固定給・賞与しだいです。難しいと決めつけず、まず失う夜勤手当を引き、候補先の確定額だけを足して判定します。
3-2. 勤務地を動かすなら、どこからどこへか
「都道府県で150万円差」と言われても、自分の県がどこにあるか分からなければ判断できません。年収換算の上位と下位を並べます(きまって支給する現金給与額×12+年間賞与)。
上位
| 都道府県 | 年収換算 |
|---|
| 滋賀 | 585万3,400円 |
| 東京 | 578万5,100円 |
| 山梨 | 555万4,500円 |
| 栃木 | 553万8,200円 |
| 奈良 | 548万4,100円 |
| 千葉 | 547万6,900円 |
| 愛知 | 546万800円 |
下位
| 都道府県 | 年収換算 |
|---|
| 山形 | 476万8,900円 |
| 大分 | 474万3,200円 |
| 愛媛 | 472万7,400円 |
| 長崎 | 472万2,300円 |
| 佐賀 | 468万6,500円 |
| 岩手 | 454万4,100円 |
| 福島 | 454万3,100円 |
| 青森 | 452万4,600円 |
| 宮崎 | 443万3,400円 |
| 高知 | 434万8,300円 |
全国平均は524万7,200円です。
この表は、通勤可能な地域の求人を追加で確認するきっかけとして使います。隣県平均との差が、そのまま個人の増額になるわけではありません。候補先の提示額が出た段階で初めて比較できます。上位に山梨・栃木・奈良も入っており、「都市部なら必ず高い」とも言えません。
そして必ず家賃と通勤時間を並べて判断してください。東京578万5,100円と山梨555万4,500円の差は23万500円。この23万円を、家賃差と通勤時間の差が上回るかどうか——年収の表だけでは決められない部分です。
4. 過大広告の見抜き方
「誰でも100万アップ」「最高年収◯◯万円」といった表現は、上限例や特定条件のモデルである可能性があります。次を確認しましょう。
- 年収例の内訳:モデル年収が夜勤・残業・歩合込みの上限例でないか。
- 最低保証額:固定給・手当・賞与を合わせた年収合計の下限はいくらか。
- 「最高」「上限」の文言:一部の人の実績を全員に当てはめていないか。
提示額を自分の適正年収(診断結果)と照らして判断すれば、過大広告に振り回されません。
4-2. 内定通知書から、自分の上げ幅を計算する
統計は規模感を教えてくれますが、あなたの金額は教えてくれません。実額を出す手順はこれです。
ステップ1:現職の年収を確定させる。 源泉徴収票の「支払金額」を使ってください。給与明細を12倍した推測値ではなく、確定した数字です。
ステップ2:内定先の提示額を3段階に分解する。
| 分類 | 中身 | 判断 |
|---|
| 確定額 | 基本給、毎月定額で出る手当(地域手当・住宅手当・資格手当など)、固定残業代 | そのまま12倍して足せる |
| 実績値 | 前年度の賞与支給月数、前年度の平均残業時間から計算した残業代 | 変動する前提で、低めに見る |
| 上限例 | 求人票の「年収例◯◯万円」、歩合の最大額、夜勤を最大回数入った場合の手当 | 足さない |
求人広告の「年収100万アップ」がどの段で計算されているかは、表示だけでは分かりません。現職の確定額と内定先の上限例を比べていないか、同じ段どうしで確認します。
ステップ3:初年度の賞与条件を確認する。 在籍月数に応じた按分や算定期間の要件がある職場では、初年度が満額にならない場合があります。人事に確認して別に計算してください。
ステップ4:確定額どうしで引き算する。 これが、あなたが根拠を持って言える「上げ幅」です。
この4段階を踏むと、100万円という数字が自分の場合に成立するかどうかが、統計を眺めるよりはるかに正確に分かります。
5. 自分の現実的な上げ幅の見積もり方
広告の「100万アップ」を鵜呑みにせず、まず自分の所定内給与額が公表分位数のどこにあるかを確認します。ただし、第1・四分位数を下回れば上げ幅が大きい、第3・四分位数を超えれば小さいとは限りません。 全国一括の月額分布であり、地域・経験・候補先の採用条件をそろえていないためです。上げ幅は内定通知書で確定させます。
今の位置と、条件を変えた場合の年収は給料コンパスの適正年収診断で試算できます。条件別の早見表は看護師の適正年収・相場 完全ガイドに、上げ方の判断は年収を上げる「待つvs転職」の判断にまとめています。
6. 今の職場で確認すること・転職で解決しやすいこと
今の職場で確認すること
- 昇給・昇格・資格手当で、数年かけてどこまで上がるか
- 夜勤回数や部署を変えた場合の年収
転職で解決しやすいこと
- 勤務地・施設の規模・夜勤の入り方を組み替えて土台を上げること
- 賞与・手当の手厚い職場への移行
転職で解決しにくいこと
- 高水準の人がさらに大きく上げること(伸びしろは小さい)
- 「夜勤を減らしつつ年収100万アップ」の両立
- 入職初年度から提示の上限額を得ること
よくある質問
看護師は転職で本当に年収100万円上がりますか?
「必ず上がる」と言える公的データはありません。 公表されているのは集団平均どうしの差だけで、そのうち100万円を超えているのは都道府県(高知の集団と滋賀の集団で150万5,100円)と役職(スタッフ群と主任相当群で101万5,191円)の2つです。ほかは50万〜70万円台。つまり100万円は、公表データの中では大きい部類の差にあたります。実際にいくら上がるかは、現職の源泉徴収票と、内定通知書の固定給・保証賞与を突き合わせて計算するしかありません。
夜勤を増やさずに年収100万アップは可能ですか?
夜勤は二交代・月4回でも55万560円で、単体では100万円に届きません。したがって夜勤を増やす/増やさないにかかわらず、都道府県・役職・基本給の等級といった、より大きく動く要素を見る必要があります。ただし前述のとおり複数の要素の差を足し算することはできないため、最終的には内定通知書の実額で判断してください。
「最高年収◯◯万円」の求人は信用できますか?
上限例の場合もあります。求人票では年収合計の最低保証額、固定給と歩合の内訳、モデル年収の前提を確認しましょう。
年収100万アップと働きやすさ、どちらを優先すべきですか?
人それぞれですが、夜勤を増やしての100万アップは健康とのトレードオフです。実質時給や生活の質も含めて、優先順位を先に決めると後悔が減ります。
何年くらいで100万円上げられますか?
一概には言えません。「◯年で100万円」と示せる公的データはありません。 日本看護協会の調査では、病院勤務・非管理職の看護師の平均基本給が2012年と2024年で5,868円(+2.3%)違いましたが、同じ人を追った昇給額ではなく、2時点の回答者平均です。個人の上げ幅は示さないため、自分の職場の賃金表で3年後・5年後の金額を確認し、転職先の提示額と比べてください。
まとめ
- 公表データは集団平均どうしの差であって、条件を変えた個人の増減ではない。足し算もできない(病床規模と設置主体は別々の切り口の集計)。
- 集団平均差で100万円を超えるのは都道府県(150万5,100円)と役職(101万5,191円)の2つだけ。
- 夜勤は55万560円で届かない。しかも69.6%の病院に回数増での増額制度がない。
- 自分の上げ幅は源泉徴収票と内定通知書で計算する。統計は「規模感」を知るための道具にすぎない。
- 現在の水準や夜勤削減だけから上げ幅を決めず、内定条件で計算する。
- 「最高年収◯◯万円」は上限例。最低保証額と内訳を確認する。
- 上げ幅の見当をつけるなら適正年収診断、交渉や求人比較に使う根拠は適正年収ガイドの実数から取ってください。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」結果の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2025/index.html
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和7年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 第1表」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011429
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和7年賃金構造基本統計調査 職種(小分類)第14表・第17表」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?cycle=0&tclass=000001229512
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
- 公益社団法人日本看護協会「2024年度『看護職員の賃金に関する実態調査』結果」(2025年6月24日 News Release、図表3・4・5・22・23・24) https://www.nurse.or.jp/home/assets/20250624_nl02.pdf
- 公益社団法人日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」報告書(調査研究報告No.102、2026年3月31日公表) https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/102.pdf
この記事に載せた金額は、上記2つの調査の原表の値と、その値だけを使った単純計算(差額、月額×12、単価×回数×12)です。すべて「条件ごとに分けた集団の平均どうしの差」であり、条件を変えた個人の増減ではありません。
母集団と給与項目は表ごとに異なります。設置主体別・病床規模別(日本看護協会 図表4・5)は「勤続10年・31〜32歳・非管理職」のモデル賃金の月額、役職別(同 図表3)は正規雇用フルタイム勤務者の年収、経験年数別(賃金構造基本統計調査 第14表)は所定内給与額と年間賞与、都道府県別(同 都道府県別第3表)はきまって支給する現金給与額と年間賞与です。異なる表の差額を足し合わせることはできません(交差集計が公表されていないため)。本文でもその旨を明記しています。