退院支援で「限度額適用認定証を出してください」と説明したことがある人は多いと思います。その説明の前提になる数字が、今月から変わりました。自分や家族が治療を受ける側になったときにも、同じ数字を使います。
高額療養費制度が令和8年8月に見直されました。厚生労働省の案内は2026年7月31日に更新されています。変わったのは3つの方向で、それぞれ性格が違います。
その前に、この制度が何をカバーしないかを先に押さえてください。高額療養費の対象は保険適用分の自己負担です。保険外併用療養費の差額部分(いわゆる差額ベッド代など)、入院時食事療養費、入院時生活療養費の自己負担額は対象外です。「上限まで払えばあとはかからない」と説明すると、入院費の見積もりを外します。
3つに分けて理解します
- 月単位の上限額が改定されました。 医療費の伸びを踏まえた見直しです。
- 年単位の上限額(年間上限)が新設されました。 月の上限に届かない月が続く人のための仕組みです。
- 多数回該当は据え置かれました。 長く治療を続けている人の負担を増やさないための措置です。
「負担が増えた」と「負担が減った」のどちらか一方で語れる改定ではありません。区分と状況によって、増える人も変わらない人もいます。
令和8年8月から令和9年7月までの上限額(70歳未満)
自己負担限度額は次のとおりです。年収換算と健康保険の標準報酬月額で区分されます。
所得区分は、健康保険なら標準報酬月額、国民健康保険なら旧ただし書所得で決まります。年収換算は目安です。
| 年収換算 | 標準報酬月額(健保) | 旧ただし書所得(国保) | 月単位の上限額 | 多数回該当 | 年単位の上限額 |
|---|
| 約1,160万円〜 | 83万円以上 | 901万円超 | 270,300円+(医療費−901,000円)×1% | 140,100円 | 1,680,000円 |
| 約770万〜約1,160万円 | 53万〜79万円 | 600万〜901万円 | 179,100円+(医療費−597,000円)×1% | 93,000円 | 1,110,000円 |
| 約370万〜約770万円 | 28万〜50万円 | 210万〜600万円 | 85,800円+(医療費−286,000円)×1% | 44,400円 | 530,000円 |
| 〜約370万円 | 26万円以下 | 210万円以下 | 61,500円 | 44,400円 | 530,000円 |
| 住民税非課税 | — | — | 36,900円 | 24,600円 | 290,000円 |
年収約370万〜約770万円の区分では、月単位の上限が「85,800円+(医療費−286,000円)×1%」となりました。実際の区分は職業ではなく、標準報酬月額または旧ただし書所得で決まります。
具体的に計算してみます。ひと月の医療費が100万円かかった場合、85,800円+(1,000,000円−286,000円)×1%=85,800円+7,140円で、自己負担は92,940円です。約9.3万円と覚えておくと、説明のときの目安になります。
年間上限は「積み上がっても止まる」仕組みです
新設された年間上限が、今回いちばん理解しにくい部分だと思います。
これまでの高額療養費は月単位でした。ひと月の自己負担が上限を超えたら、超えた分が支給される。裏を返すと、毎月の自己負担が上限に届かない人は、いくら年間で払っても何も戻らないという構造でした。
年間上限は、この隙間を埋めるものです。厚生労働省の資料は、月単位の限度額に到達しない人であっても、年間上限に達した場合には当該年においてそれ以上の負担は不要となる、と説明しています。月ごとの自己負担額が積み上がって年間の上限額に達した後は、保険者から還付を受けることができます。
対象期間は8月から翌年7月までです。暦年でも年度でもありません。ここは間違えやすいので、説明するときに必ず添えてください。
年収約370万〜約770万円の区分なら、年間上限は530,000円です。ひと月あたりの平均に直すと4万5千円弱で、月単位の上限額よりかなり低い水準に置かれています。
多数回該当は変わっていません
多数回該当は、直近12か月で高額療養費に該当した月が3か月以上ある場合に、4か月目以降の自己負担をさらに軽くする仕組みです。今回、この金額は据え置かれました。長期に継続して治療を受けている人の経済的負担を増加させない、というのが理由として示されています。
年収約370万〜約770万円の区分なら、4回目以降は44,400円のままです。
つまり今回の改定では、多数回該当が継続して適用される月の上限額を据え置き、月単位の上限に届かない層には年間上限という新しい受け皿を設けたと整理できます。
令和9年8月からは、区分がさらに細かくなります
見直しは2段階です。令和9年8月からは所得区分が細分化されます。70歳未満では、現在の5区分が13区分程度まで分かれ、上位の区分が追加される一方、下位にも新しい区分が入ります。
低所得者への配慮として示されているのが、住民税非課税ラインを若干上回る「年収約200万円未満」の層です。この区分では多数回該当が34,500円、年間上限が410,000円に設定されます。
なお令和8年8月からの期間についても、年収換算で約200万円までの区分(健保の標準報酬月額15万円以下、国保の旧ただし書所得86万円以下)に該当することが確認できた人には年間上限41万円が適用され、令和9年8月以降に償還払いとされています。時間差がある点に注意してください。
ただし、扶養の範囲で働いている人は注意が必要です。 健康保険では、被保険者本人だけでなく被扶養者の高額療養費も、被保険者の標準報酬月額による所得区分で判定されます。自分のパート収入が200万円未満だからこの区分に当たる、という判定にはなりません。配偶者の被扶養者として健康保険に入っているなら見るのは配偶者の標準報酬月額です。自分自身が被保険者として勤務先の健康保険に加入しているなら、自分の標準報酬月額になります。
70歳以上の外来特例も動いています
家族の介護や退院支援に関わる人は、70歳以上の扱いも押さえておく必要があります。
70歳以上には外来(個人ごと)の上限額があります。令和8年8月からは、年収約370万円までの区分で外来22,000円(年間上限216,000円)、住民税非課税区分で外来11,000円(年間上限96,000円)、住民税非課税で所得が一定以下の区分では外来8,000円となっています。
住民税非課税区分に外来の年間上限を導入することで、毎月上限額まで利用している人の年間の負担額が現在より増えないようにする、という考え方が示されています。
説明するときに避けたい言い方
退院支援や電話相談で、次のような言い方をすると誤解を生みます。
「みんな負担が下がりました」。 月単位の上限額は医療費の伸びを踏まえて改定されており、区分によっては上がっています。
「年間上限に達したら自動的にお金が戻ります」。 資料の記載は「保険者から還付を受けることができます」です。手続きや確認の流れは保険者によって異なります。加入している保険者に確認してもらってください。
「どの医療費も合算できます」。 合算のルールは、世帯、医療機関、入院・外来、年齢によって条件が異なります。個別の判断は保険者の領域です。
「看護師さんなら◯円です」。 上限額は職業ではなく所得区分で決まります。同じ病棟の同僚でも、標準報酬月額が違えば区分が違います。
自分と家族のために確認する順番
- 加入している保険者はどこか。 協会けんぽ、健保組合、国保、後期高齢者医療のどれか。
- 年齢区分。 70歳未満か、70歳以上か。
- 所得区分。 標準報酬月額(健保)または旧ただし書所得(国保)で決まります。給与明細や保険証関係の書類で確認します。
- 月単位の上限額。 上の表で該当する行を見ます。
- 多数回該当に当たるか。 直近12か月で高額療養費に該当した回数を数えます。
- 年間上限。 8月から翌年7月までの自己負担の積み上がりを把握します。
- 世帯合算や医療機関ごとの扱い。 保険者に確認します。
- 保険が効かない費用を別に見積もる。 差額ベッド代、入院中の食事、生活療養にかかる自己負担は高額療養費の対象外です。
- 傷病手当金や休職制度とは別の話だと切り分ける。 高額療養費は医療費の話で、収入補填の制度ではありません。
7番から9番を混ぜると、家計の見通しを立て間違えます。保険が効く分の上限、保険外の費用、働けない期間の収入。この3つは別々に計算してください。
治療しながら働くかどうかを決める前に
自分や家族の治療が始まったとき、多くの人が最初に「仕事を続けられるか」を考えます。そのとき手元にあるべき数字は3つです。保険が効く分の負担上限(この記事の内容)、保険外にかかる費用、そして休んだり勤務を減らしたりした場合の収入です。
このうち上限額だけが公的なルールで一律に決まっていて、残る2つは医療機関の設定と職場の規程で変わります。だから上限額を先に確定させると、残りの検討がしやすくなります。
勤務条件を動かす必要が出てきたときは、夜勤回数や雇用形態が収入にどう効いているかを年収診断で分解しておくと、家計の見通しと勤務の見通しを同じ表に載せられます。病気のことを職場でどう扱われるか不安で、まだ誰にも言えていないなら、カンゴさんに匿名で相談する相手をひとり作っておくのも手です。
制度の解説を読んだだけで転職を決める必要はありません。まずは今の職場で使える制度を全部確認するほうが先です。
よくある質問
Q. 年間上限の対象期間はいつからいつまでですか。 8月から翌年7月までです。暦年でも年度でもありません。
Q. 限度額適用認定証があれば年間上限も自動で適用されますか。 資料には、年間上限に達した後は保険者から還付を受けることができると書かれています。月単位の窓口負担を抑える仕組みと、年単位で還付を受ける仕組みは別のものです。手続きは保険者に確認してください。
Q. 多数回該当の金額は下がりましたか。 令和8年8月時点では据え置きです。令和9年8月からは、住民税非課税ラインを若干上回る課税世帯のうち年収約200万円までの区分について34,500円が適用されます。住民税非課税の区分は24,600円のままです。
Q. 差額ベッド代や食事代も上限に含まれますか。 含まれません。高額療養費の対象は保険適用分の自己負担です。保険外併用療養費の差額部分、入院時食事療養費、入院時生活療養費の自己負担額は対象外です。
Q. 自分の所得区分がわかりません。 健康保険なら標準報酬月額、国民健康保険なら旧ただし書所得で決まります。加入している保険者に問い合わせるのが確実です。
関連記事
参考資料
整理したのは制度の骨格です。いくら支給されるか、どこまで合算できるか、どんな手続きが要るかは、年齢と所得区分と加入する保険者、そして受診の状況で変わります。金額に関わる話なので、思い込みで進めず必ず保険者に当ててください。
はたらく看護師さん 求人
希望条件で看護師求人を探す
給与、夜勤、休み、ブランクなど、この記事で整理した悩みから求人を確認できます。
求人を探す応募前に掲載元の最新情報を確認してください