47億円は「あなたの口座」ではなく「都道府県と研修機関」に向かうお金です
厚生労働省は2026年8月31日、令和9年度の概算要求を公表しました。そのうち医政局の概要資料には「看護職員の確保及び質の向上の推進」として47億円が並び、令和8年度予算の10億円から大きく増えています。
この記事は、特定行為研修を受けるか迷っている看護師、離島・へき地や在宅の現場で働く看護師、訪問看護ステーションで記録に追われている看護師、そして復職を考えている潜在看護師に向けて書いています。
先に結論です。47億円のうち約29億円は、都道府県が人材確保のモデル事業を行うための新しい事業に向かいます。あなたの受講料や給与に直接届くお金ではありません。一方で、特定行為研修の予算は5.8億円から9.9億円へ増え、「離島・へき地の受講支援」と「共通科目の受講促進」が項目として立ちました。受講の費用と時間が壁になっていることを、国が予算の形で認めた、と読める内容です。
読み終えると、次の三つを判断できます。この要求のどの部分が自分に関係するのか。今の職場で、誰にまず何を聞けばよいのか。年末の予算編成まで、何が決まっていて何が決まっていないのか。職場への聞き方に迷ったら、記事の後半にあるチェックリストとカンゴさんで言葉にしてから動いてください。
概算要求は「要求」であって「決定」ではありません
最初に、数字の性格をそろえておきます。概算要求は、各省庁が翌年度に必要だと考える金額を財務省に示す段階のものです。医政局の概要にも「医療機関における物価高騰への支援及びその他重要政策については、予算編成過程で検討する」と書かれています。つまり、ここに載っている金額は年末の予算編成で削られることも、形を変えることもあります。
医政局全体の要求額は6,016億78百万円で、令和8年度予算額の1,836億50百万円に対して327.6%です。ただし、この伸びの多くは創薬・先端医療や医薬品の安定供給といった、看護師の日常とは離れた分野です。看護職員の確保47億円は、その中の一項目にすぎません。
もう一つ、見落としやすい注記があります。地域医療介護総合確保基金は消費税を財源とするため、概算要求の段階では「事項要求」として前年と同じ額が置かれています。都道府県が行う看護師等の確保・養成の事業にも、この基金(事業区分Ⅳ)が充てられますが、その中身は別途、予算編成の過程で決まります。47億円だけを見て「看護師確保の予算が4.7倍になった」と読むと、全体像を取り違えます。
看護職員の確保47億円の内訳
医政局の概要には、看護関連の三つの事業が並んでいます。括弧内は令和8年度の予算額です。
| 事業名 | 令和9年度要求額 | 令和8年度予算額 | 主な中身 |
|---|
| 潜在人材の活用含む看護職員の確保(一部新規) | 3,376百万円 | 303百万円 | 中央ナースセンター事業394百万円、医療従事者の安定的な養成・確保支援事業2,938百万円(新規・再掲) |
| 特定行為に係る看護師の研修修了者加速的養成事業(一部新規) | 990百万円 | 582百万円 | 研修機関の導入促進・運営・拡充、共通科目の受講促進、離島・へき地の受講支援、在宅での活躍推進 |
| 地域の訪問看護現場におけるデジタルトランスフォーメーション実証事業(新規) | 159百万円 | 0百万円 | 訪問看護ステーションのICT機器導入経費の支援 |
三つを足すと4,525百万円で、47億円の大半を占めます。残りは「等」に含まれる別の事業で、概要には内訳が示されていません。
次の節から、この三つを「自分に関係するか」という目で一つずつ見ていきます。
増えた37億円のうち29億円は、都道府県のモデル事業です
10億円から47億円への増分は37億円です。その大半にあたる2,938百万円が「医療従事者の安定的な養成・確保支援事業」という新規事業で、これは看護の項目に再掲されたものです。
この事業が何を問題にしているかを、概要の説明から三つに分けて拾うと、次のようになります。
- 起点は18歳人口です。少子化で入学者の母集団が縮み、看護師等の養成施設で定員が埋まりにくくなっている、という現状認識から始まっています
- 対策の単位は都道府県です。環境が地域で大きく違うため、国が一律に決めるのではなく、県ごとに医療関係者と養成・教育関係者が集まる協議の場を作り、需給を把握してから手を打つ設計です
- 国が用意するのはガイドラインと好事例集です。県が動けるようにするための型を、モデル事業で作るところまでが国の役割です
見落としてほしくないのは、県が実施する養成体制安定化策の中身として、養成施設の連携や再編が例示されていることです。つまりこの29億円は、看護学校の定員を増やす方向だけでなく、埋まらない定員をどう整理するかを県が話し合う方向にも使われ得ます。あなたの出身校や、地域の看護学校の統合や縮小が協議の対象になる可能性は、頭に置いておいたほうがよいでしょう。
同じ「人材育成」の柱には、ほかにも新規の事業が二つあります。医療従事者の資質向上と定着・復職等推進調査等事業が250百万円、医療関係職種へのキャリアチェンジ推進モデル事業が122百万円です。前者は、入職以降の離職・復職の実態や各施設の定着の取組を把握し、地域として定着・復職を進めるモデルを構築する調査です。後者は、医療従事者が別の資格で就業したり、他産業の社会人が新たに資格を取って医療関係職種に就いたりできるよう、養成課程の受講を支援して実態を把握する事業です。いずれも「調査」「モデル」と付いている通り、全国一律の給付ではありません。
看護師の側から見ると、この29億円は「自分の給与や受講料には来ないが、自分の県で人材確保の議論が本格的に始まる」お金です。県の協議の場に現場の声がどう届くかは、看護協会や勤務先の管理者を通じた間接的な経路になります。
特定行為研修の9.9億円は「機関」「受講者」「修了後」の三層に分かれます
特定行為に係る看護師の研修修了者加速的養成事業は、582百万円から990百万円へ増えました。概要は目的を、在宅医療等の需要への対応と、離島・へき地の医療確保のために、指定研修機関の確保と質の充実を図り、受講環境の整備と受講機会の提供によって修了者を加速的に養成する、と書いています。
主な内訳は六つです(概要資料が「主な予算の内訳」として掲げるもので、六つを足すと989百万円になり、事業総額990百万円とは1百万円の差があります)。
- 看護師の特定行為に係る研修機関導入促進支援事業 119百万円
- 看護師の特定行為に係る指定研修機関運営事業 417百万円
- 看護師の特定行為に係る研修機関拡充支援事業 30百万円
- 看護師の特定行為研修修了者の加速的養成のための共通科目受講促進事業 228百万円
- 離島・へき地における看護師の特定行為研修受講支援等事業 119百万円
- 在宅医療の現場における特定行為研修を修了した看護師の活躍推進事業 76百万円
この六つを、お金が向かう先で分けると読みやすくなります。上の三つは研修機関側に向かうお金で、合わせて566百万円です。研修を提供する機関を増やし、運営を支え、規模を広げるためのものです。四つ目と五つ目は受講者側の壁に向かうお金で、合わせて347百万円です。共通科目の受講を促す事業と、離島・へき地からの受講を支える事業です。最後の一つは修了後に向かうお金で、在宅医療の現場で修了者が働けるようにする76百万円です。
読み解きたいのは、受講者側の壁が独立した項目として立ったことです。共通科目は全区分に共通する部分で、ここに時間がかかることが受講をためらう理由になります。離島・へき地では、研修機関まで通う距離そのものが壁になります。国がこの二つを名指しで予算化したことは、費用と時間の壁を認識している証拠と読めます。
ただし、概要に書かれているのは事業名と金額だけです。受講料が無料になる、勤務先に代替人員の費用が出る、といった具体的な支援内容は示されていません。また、これらは指定研修機関や都道府県に向かうお金で、看護師個人が国に申請する仕組みではありません。
受講を検討している人が確認する順番は、次の通りです。
- 勤務先の研修支援。受講費用の負担、研修期間中の勤務調整、代替人員の確保について、制度として決まっているか、前例があるか
- 都道府県の支援。離島・へき地の受講支援事業がどの形で実施されるかは予算成立後に決まるため、県の看護担当課や都道府県ナースセンターに、令和9年度の予定を尋ねる
- 指定研修機関の受講形態。共通科目をどのように受講できるか、自分の勤務と両立できる時間割か
この順番にするのは、国の予算が付いても勤務先が受講を認めなければ動けないからです。逆に、勤務先に支援制度があれば、国の事業を待たずに動けます。研修そのものの中身と、修了後の役割については、特定行為研修の受講前に確認したいことを整理した記事で扱っています。
訪問看護のICT実証159百万円は、ステーションに向かうお金です
三つ目の「地域の訪問看護現場におけるデジタルトランスフォーメーション実証事業」は新規で、159百万円です。概要によれば、訪問看護ステーションにおいてICT機器等を活用した効果的・効率的な看護業務の検証に資するエビデンスを収集し、全国の訪問看護の業務効率化を推進するため、ICT機器の導入に必要な経費を支援する事業です。
これは、8月に国の戦略文書に看護記録が載ったことの続きとして読めます。記録の負担が国の課題になった経緯はその記事に書きましたが、今回の要求では訪問看護に絞って、機器導入の経費という具体的な形が付きました。
ただし「実証事業」です。エビデンスを集めるための事業なので、対象になるステーションは検証に協力できるところに限られる可能性があります。全国すべてのステーションに機器が配られる事業ではありません。自分のステーションが手を挙げるかどうかは、管理者に聞かないと分かりません。
在宅医療については、別の項目でもICTが登場します。概要は、退院支援、日常の療養支援、急変時の対応、看取りという在宅医療の四つの機能について、ICT技術等を活用した業務効率化と多職種連携のあり方を検討するモデル事業を実施する、と書いています。訪問看護のICT実証とあわせて、在宅の現場で記録や情報共有の道具が変わる可能性はあります。一方で、一人訪問の不安やオンコールの負担は、機器が入っても変わらない部分です。病棟から訪問看護へ移りたい人向けの整理では、その部分を分けて書いています。
これから訪問看護へ移ることを考えている人は、面接や見学で「記録や情報共有にどの機器を使っているか」「国や県の実証事業に参加する予定があるか」を聞いておくと、そのステーションが業務効率化にどれだけ関心を持っているかの手がかりになります。
復職を考えている人に関係するのは、中央ナースセンターの394百万円です
潜在人材の活用含む看護職員の確保3,376百万円のうち、看護師個人に近い部分は中央ナースセンター事業の394百万円です。概要は、今後増大する看護ニーズに対応するため、中央ナースセンターにおいて迅速な就業支援に向けたNCCS改修や、求人倍率の高い領域への就業支援等を実施する、と書いています。
概要には「迅速な就業支援に向けたNCCS改修」とだけ書かれており、NCCSというシステムのどの機能がどう変わるのかは示されていません。復職を考えている人にとって大事なのは、システムが変わることそのものではなく、都道府県ナースセンターの無料職業紹介と復職支援が使えることです。ナースセンターとeナースセンターの使い方は別の記事にまとめてあります。
もう一つ読み取っておきたいのは、「求人倍率の高い領域への就業支援」という言葉です。求人倍率が高い領域とは、施設側の求人に対して求職者が少ない領域のことです。ナースセンターを通すと、そうした領域への就業を勧められる場面が増える可能性があります。それが自分の希望と一致するとは限りません。復職の相談では、自分が働きたい領域と勤務条件を先に言葉にしてから窓口に行くと、勧められる求人に流されにくくなります。
復職の意向がブランクの長さで大きく違うことは、以前の記事で扱った調査に出ています。ブランク5年以上の層の復職希望を読んだ記事とあわせて読むと、今回の要求にある「定着・復職等推進調査」が、どの層の何を調べようとしているのかが見えやすくなります。
まだ決まっていないこと、書かれていないこと
この記事で「決まった」と書ける事実は、要求の金額と事業名だけです。決まっていないことを、はっきり分けておきます。
- 各事業の最終的な金額。年末の予算編成で変わる可能性があります
- 離島・へき地の受講支援や共通科目の受講促進の具体的な支援内容と、誰がどう申請するのか
- 訪問看護のICT実証事業の対象ステーションの選び方と、機器の種類
- NCCS改修で変わる機能
- 医療機関における物価高騰への支援。事項要求として、予算編成過程で検討するとだけ書かれています
基金についても触れておきます。地域医療介護総合確保基金のうち、医師や看護師等の確保・養成を助成する事業区分Ⅳは、公費54,400百万円(国36,267百万円、地方18,133百万円)の内数として置かれています。勤務医の労働時間短縮に向けた事業区分Ⅵは公費14,300百万円です。都道府県の看護師等確保・養成の事業にもこの基金が充てられますが、概算要求の段階では前年同額の事項要求なので、増減はここからは読めません。
国立病院機構で働いている人には、別の項目が関係します。賃上げ環境整備として、国立病院機構が提供する医療体制基盤の維持・強化に151億円が新規で要求されており、概要は医療従事者の処遇改善や人材確保、育成等の取組を支援すると書いています。これも国立病院機構という組織に向かうお金で、職員一人ひとりの給与がどう変わるかは書かれていません。
今の職場で確認すること
自分に当てはまる見出しだけ読めば足りるように、四つの立場に分けて並べます。
特定行為研修を検討している人
- 勤務先に受講支援の制度があるか。費用負担、勤務調整、代替人員の三点を分けて聞く
- 過去に受講した人がいるか。いる場合、修了後にどの区分で活動しているか
- 受けたい区分の特定行為を、今の部署で実際に使う場面があるか
- 都道府県ナースセンターや県の看護担当課に、令和9年度の受講支援の予定を尋ねたか
離島・へき地や在宅で働いている人
- 「離島・へき地における看護師の特定行為研修受講支援等事業」が自分の地域でどう実施されるか、県に問い合わせる窓口があるか
- 在宅の現場で特定行為研修修了者が活躍できる体制が、勤務先にあるか
訪問看護ステーションで働いている人
- 記録や情報共有に、どの機器や仕組みを使っているか
- 管理者が国や県の実証事業に手を挙げる予定があるか
- ICT機器が入った場合、記録の時間がどう変わる見込みか。機器が入っても変わらない業務は何か
復職を考えている人
- 都道府県ナースセンターに登録しているか
- 働きたい領域と勤務条件を、自分の言葉で書き出したか
- 勧められた求人が、自分の希望と一致しているか
聞き方に迷うときは、カンゴさんで「誰に、何を、どの順で聞くか」を先に整理すると、職場での会話がまとまりやすくなります。
転職で解決しやすいこと、しにくいこと
今回の要求を受けて、職場を変えることを考える人もいると思います。変えることで動きやすくなることと、変えても変わらないことを分けておきます。
転職で解決しやすいこと
- 特定行為研修の受講支援制度が整っている法人で働くこと。国の事業を待たずに、勤務先の制度で受講に踏み出せます
- 修了後に手順書のもとで動ける体制がある職場へ移ること。在宅医療の現場では、修了者の活躍推進が国の項目に立っています
- 記録や情報共有にICTを取り入れている訪問看護ステーションを選ぶこと
転職で解決しにくいこと
- 研修そのものにかかる時間。どの職場で受けても、共通科目と区分別科目の学習時間は必要です
- 離島・へき地の受講の壁。地域の壁は職場ではなく、県と研修機関の支援で下がるものです
- 養成施設の再編や人材確保の議論。都道府県のモデル事業として進むもので、個人の転職で動く話ではありません
- 一人訪問やオンコールの負担。機器の導入では変わらない部分です
転職を考えるときは、「今の職場に受講支援がないから」と「今の職場がつらいから」を分けてください。前者は制度の有無を確認すれば答えが出ます。後者は、受講支援のある職場に移っても、別の理由で同じつらさが続くことがあります。
よくある質問
概算要求の47億円は、看護師の給料に反映されますか?
反映される仕組みにはなっていません。47億円の内訳は、都道府県の人材確保モデル事業、中央ナースセンター事業、特定行為研修の研修機関と受講支援、訪問看護ステーションのICT機器導入経費です。いずれも組織や機関に向かうお金で、個人の給与に配分される事業ではありません。処遇改善は診療報酬や勤務先の賃金制度の話で、この要求とは別の経路です。
特定行為研修の受講料は無料になりますか?
概要にはそのような記述はありません。書かれているのは「共通科目受講促進事業 228百万円」「離島・へき地における特定行為研修受講支援等事業 119百万円」という事業名と金額だけです。具体的な支援内容は、予算成立後に決まります。今の時点で確認できるのは、勤務先の受講支援制度と、指定研修機関の受講形態です。
離島・へき地の受講支援は、看護師が自分で申請するのですか?
申請の仕組みは、概要には書かれていません。事業は指定研修機関や都道府県に向かうお金として組まれているため、看護師個人が国に申請する形ではないと考えられます。自分の地域でどう実施されるかは、都道府県の看護担当課や都道府県ナースセンターに、予算成立後の予定を尋ねるのが確実です。
訪問看護ステーションのICT機器は、全事業所に配られますか?
配られません。今回の159百万円は「実証事業」で、ICT機器を活用した看護業務の検証に資するエビデンスを収集することが目的です。検証に協力するステーションに導入経費を支援する形になると読めますが、対象の選び方は概要に書かれていません。自分のステーションが対象になるかは、管理者に確認してください。
復職を考えているのですが、この要求で何が変わりますか?
直接変わるのは、中央ナースセンターのシステム改修と、求人倍率の高い領域への就業支援です。どちらも「迅速な就業支援」を目的としており、あなたが使える窓口は今も都道府県ナースセンターです。変わるのを待つより、今のうちに働きたい領域と勤務条件を書き出し、ナースセンターに登録しておくほうが、次の一歩につながります。
まとめ
令和9年度概算要求の医政局分では、看護職員の確保及び質の向上の推進が10億円から47億円に増えました。増分の大半は都道府県の人材確保モデル事業に向かう新規の29億円で、個人の給与や受講料には届きません。
それでも、特定行為研修の予算が9.9億円に増え、共通科目の受講促進と離島・へき地の受講支援が項目として立ったこと、訪問看護のICT機器導入に新規の159百万円が付いたことは、受講の壁と記録の負担を国が認めた形です。
いま動けるのは、勤務先の受講支援制度の確認、都道府県への問い合わせ、ナースセンターへの登録です。国の予算は年末まで確定しません。確定を待つ間に、自分の職場で何が使えるかを先に調べておいてください。
参考資料