乳腺外来の薬と、希少疾患外来の薬。診療科が離れているからこそ、同じ患者の処方として並ぶ可能性を想定しにくい組み合わせがあります。
PMDAは2026年8月28日、ツカチニブとパロバロテンの使用上の注意を改訂し、相互の併用を禁忌とするよう指示しました。
- ツカチニブ:販売名「ツカイザ錠」
- パロバロテン:販売名「ソホノスカプセル」
疑わしい組み合わせを見つけたとき、看護師がどちらかを選んで中止する話ではありません。投与・服用前に処方全体を確認し、医師・薬剤師へ照会するための安全情報です。
なぜ併用禁忌になったのか
PMDAの改訂資料では、ツカチニブの強いCYP3A阻害作用により、CYP3Aで代謝されるパロバロテンの曝露量が増加し、副作用が増強するおそれがあることが理由です。
今回の指示から言えるのは、この2成分の組み合わせが禁忌になったということです。「同じ疾患に使う全薬剤が禁忌になった」「重篤な事故が多数起きたため改訂された」と広げてはいけません。
どちらも発売から数か月の薬です
PMDAの改訂資料には、2剤の販売開始年月が記載されています。
| 成分名 | 販売名 | 承認取得者 | 販売開始 |
|---|
| ツカチニブ エタノール付加物 | ツカイザ錠50mg、同錠150mg | ファイザー株式会社 | 2026年4月 |
| パロバロテン | ソホノスカプセル1mg、1.5mg、2.5mg、5mg、10mg | IPSEN株式会社 | 2026年7月 |
ここに、この改訂の実務的な難しさが表れています。ソホノスの販売開始は2026年7月で、併用禁忌の指示が出たのは翌月の8月28日です。2剤がそろって市場に存在するようになってから、長い期間は経っていません。(資料には販売開始の年月までしか示されていないため、正確な日数は分かりません。)
発売から間もない薬は、院内の医薬品マスター、持参薬鑑別の参照資料、病棟に置かれた薬剤一覧、看護師への周知に反映されるまで時間差が生じることがあります。「聞いたことがない薬名だから、たぶん関係ない」と流さず、名前を知らない薬こそ一般名と最新情報を確認する対象にします。
ソホノスカプセルには1mg、1.5mg、2.5mg、5mg、10mgの5規格があります。規格が多い薬は、持参薬鑑別で規格を取り違えたまま記録されることがあります。カプセルの規格まで薬袋とお薬手帳で照合してください。
電子添文の2か所が変わりました
改訂指示は、両剤それぞれについて2か所の追記を求めています。
| 改訂対象 | 追記された項 | 追記内容 |
|---|
| ツカイザ錠 | 2. 禁忌 | 次の薬剤を投与中の患者:パロバロテン |
| ツカイザ錠 | 10.1 併用禁忌 | パロバロテン |
| ソホノスカプセル | 2. 禁忌 | ツカチニブ エタノール付加物を投与中の患者 |
| ソホノスカプセル | 10.1 併用禁忌 | ツカチニブ エタノール付加物 |
確認の実務では、この「2か所」が意味を持ちます。電子添文を開いたとき、相互作用の項(10.1)だけを見て終わる読み方があるためです。改訂後は禁忌欄と相互作用欄の双方に明記されたので、どちらか一方だけでなく、最新の版で両方を確認します。改訂前の版には今回の禁忌が記載されていないため、院内資料や保存済みPDFの版番号・改訂日も確認してください。
もう一点、表記の非対称に注意してください。ツカイザ側には「パロバロテン」と一般名だけが、ソホノス側には「ツカチニブ エタノール付加物」と塩・付加物まで含む名称が入っています。院内システムで成分名を検索するとき、「ツカチニブ」だけでヒットしない設定になっていないかを薬剤部と確認しておくと安全です。
2剤の対象を混同しない
ツカチニブの効能・効果は「化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳癌」です。「化学療法歴のある」は適応を限定する条件で、省略できません。パロバロテンの効能・効果は進行性骨化性線維異形成症(FOP)です。
対象疾患も、対象となる治療段階も大きく異なるため、同じ診療科の処方一覧だけを見ていると、組み合わせに気づきにくくなります。がん治療の開始、入院、救急受診、手術、施設入所など、薬歴をまとめ直す場面が確認の機会です。
持参薬・処方確認の6項目
1. 一般名と販売名を両方見る
「ツカチニブ/ツカイザ」「パロバロテン/ソホノス」を対応させます。お薬手帳、薬袋、紹介状、電子カルテで表記が異なることがあります。
2. 他院処方を含める
乳腺外科、希少疾患の専門外来、かかりつけ、調剤薬局をまたぐ場合があります。自院採用薬だけで確認を終えず、持参薬と患者・家族の申告を照合します。
3. 開始・中止・休薬の記録を見る
処方歴に名前があるだけで、現在服用しているとは限りません。逆に「休薬中」と聞いても、再開予定や残薬がある場合があります。最新の指示を処方医・薬剤師へ確認します。
4. 最新電子添文を開く
院内の医薬品マスターや紙の一覧が改訂前のままの場合があります。PMDAの最新電子添文と院内採用情報を照合し、改訂が処方監査へ反映されたかも確認します。
5. 投与前の照会経路を使う
両剤の併用が疑われた場合は、患者へ自己判断で中止を勧めず、投与・服用前に医師・薬剤師へ共有します。夜間・休日の連絡先、回答をどこへ記録するかまで確認します。
6. 患者説明を統一する
「危険な薬だった」と伝えると、患者が必要な治療まで自己中断するおそれがあります。「新しい組み合わせの注意が出たため、処方医と薬剤師が確認する」と説明し、正式な指示を待ちます。
システムで止められるかを確認する
併用禁忌の安全対策を、持参薬を見た人の記憶だけに頼ることはできません。
| 確認場所 | 見ること |
|---|
| 電子カルテ | 成分名・販売名のどちらでも相互作用警告が出るか |
| 薬剤部 | 持参薬鑑別と処方監査へ改訂が反映されたか |
| 外来・病棟 | 他院処方を誰が入力し、誰が照合するか |
| 患者説明 | お薬手帳・マイナポータル・薬袋を持参する案内があるか |
| 夜間休日 | 投与を待てない場面の照会先と記録先が決まっているか |
警告が出ても、薬歴が入力されなければ検知できません。システムと聞き取りの両方が必要です。
「強いCYP3A阻害薬」という視点を持つ
今回の改訂理由は、ツカチニブの強いCYP3A阻害作用により、CYP3Aで代謝されるパロバロテンの曝露量が増加し、副作用が増強されるおそれがある、というものでした。
この記事から、他の薬の組み合わせについて可否を判断することはできません。ただし、確認の習慣としては一般化できます。ある薬が「強いCYP3A阻害作用を持つ」と説明されているとき、その患者が同時に飲んでいる薬のうち、CYP3Aで代謝されるものは血中濃度が上がる方向に動く可能性がある、という当たりの付け方です。
看護師がこの見立てで判断を下すわけではありません。「気になるので薬剤師に見てほしい」と言うための言語として持っておくと、照会の精度が上がります。「なんとなく心配です」より、「ツカイザを開始する患者で、他院処方が3剤あります。相互作用の確認をお願いします」のほうが、薬剤師は動きやすくなります。
薬歴をまとめ直す場面を決めておく
併用禁忌は、処方が1か所にそろった瞬間にしか見つかりません。逆に言えば、薬歴が分散したままの期間は、誰も気づけません。
| 場面 | 起こりやすい抜け | 確認の担当を決める |
|---|
| 予定入院の入院時 | 持参薬の申告漏れ、頓用・注射薬の未申告 | 入院時面談の看護師と薬剤師 |
| 緊急入院・救急外来 | 家族が薬を持参していない、お薬手帳が自宅 | 受け入れ看護師、家族への依頼者 |
| 外来化学療法の開始時 | 他院の専門外来の処方が見えていない | 外来看護師、レジメン監査 |
| 手術・検査の前 | 休薬指示の対象外の薬が確認されない | 術前外来、麻酔科 |
| 退院時・転院時 | 変更後の処方が次の施設へ伝わらない | 退院支援、薬剤師、連携部門 |
| 施設入所・訪問開始 | 複数医療機関の処方が並列のまま | 訪問看護、施設看護職、ケアマネジャー |
自部署で「誰が薬歴をそろえるか」が決まっていない場面があれば、それがこの改訂で最も危ないところです。
照会するときにそろえる情報
投与・服用前に医師・薬剤師へつなぐと決めたあと、手が止まりやすいのが「何を伝えればよいか」です。次の項目をそろえてから連絡すると、回答までの往復が減ります。
- 患者氏名・ID、年齢、現在の状態(バイタル、症状の有無)
- 疑っている2剤の一般名と販売名の両方、規格、用法
- それぞれの処方元(自院の診療科/他院の名称)と処方日
- 最終服用時刻と、次の予定投与時刻
- 情報の出どころ(お薬手帳、薬袋、家族の申告、紹介状、薬局への照会)
- すでに投与してしまったのか、まだ投与前なのか
- 回答をどこに記録し、誰に伝えるか
特に4と6は、緊急性の判断を左右します。「まだ投与前で、次は3時間後」と「30分前に投与済み」では、医師・薬剤師が返す指示が変わります。
「現場への影響は大きくない」と判断された改訂です
PMDAの資料には、改訂の検討過程について、この併用を禁忌とすることの医療現場への影響を関連学会に意見聴取し、特段大きな問題はないことを確認した、と記載されています。
この記載から確認できるのは、PMDAが関連学会へ意見を聴取し、併用禁忌とすることについて特段大きな問題はないと確認した、という検討経過までです。対象となる患者数、併用が必要になる場面の頻度、各施設の運用負荷、学会から寄せられた個別意見は資料に示されていません。「影響はない」「現場の反対はなかった」とまでは読み替えないでください。
現場で必要なのは、影響の大小を記事から推測することではなく、改訂後の禁忌が処方監査、持参薬鑑別、院内周知へ反映されたかを確かめることです。日常的に出会う組み合わせでなくても、薬歴を一か所へ集め、最新情報で照合できる手順にします。
改訂情報が自部署に届くまでを確認する
PMDAが改訂を指示してから、夜勤帯の看護師がその内容を使える状態になるまでには、いくつもの中継点があります。
- PMDAが改訂指示を公表する
- 製造販売業者が電子添文を改訂し、医療機関へ情報提供する
- 薬剤部が院内の医薬品マスターと処方監査へ反映する
- 医薬品安全管理責任者・医療安全部門が院内へ周知する
- 各部署の管理者が申し送り・掲示・電子カルテのお知らせで共有する
- 日勤・夜勤・非常勤・応援者を含む全員に届く
抜けやすいのは5から6です。日勤の申し送りで共有された内容が、夜勤専従、非常勤、他部署からの応援者、産休明けの復帰者に届かないことがあります。自部署で「先月の安全情報を、夜勤専従の人はどこで知りましたか」と一度確認してみてください。答えられなければ、そこが穴です。
患者・家族への説明を用意しておく
患者から「その薬、危ないんですか」と聞かれたときに、その場で言葉を組み立てると、不安を強める説明になりがちです。あらかじめ言い回しを決めておきます。
| 避けたい説明 | 置き換える説明 |
|---|
| 危ない薬だとわかりました | 新しい注意が出たので、処方した先生と薬剤師が確認します |
| 一度飲むのをやめましょう | 自己判断で中止せず、確認の結果が出るまでお待ちください |
| たぶん大丈夫だと思います | 確認できていないことは、確認できてからお伝えします |
| こちらではわかりません | 誰が、いつまでに回答するかをお伝えします |
「わからない」で終わらせず、誰がいつ答えるかを渡すのが、待てる説明の条件です。他院で処方されている薬がある場合は、次の受診時にお薬手帳をまとめて持参するよう依頼しておくと、次回以降の確認が早くなります。
個別患者の服薬可否は記事で決めない
患者がこの記事を見て「両方飲んでいるかもしれない」と感じた場合も、自己判断で服用を中止せず、処方した医療機関または薬局へ速やかに確認してください。次の服用時刻が迫っている場合は、そのことも伝えます。
看護師も、中止薬や代替薬を選ぶ立場ではありません。照会に必要な薬剤名、用量、最終服用時刻、処方医、薬局、患者の状態をそろえ、医師・薬剤師へ渡します。
「知らない薬名」を止められる仕組みがあるか
今回のように、発売直後の薬どうしが短期間で併用禁忌になる事例は、これからも起こります。個別の薬名を覚え続けることはできません。覚えるべきなのは、知らない薬名に出会ったときの動き方です。
自部署で次の5つが即答できるか、確認してみてください。
- 持参薬に知らない薬名があったとき、投与前に照会する相手は誰か
- その相手が不在の夜間・休日は、誰にどう連絡するか
- 照会中に予定投与時刻が来たとき、投与を保留してよいか、誰が決めるか
- 照会の結果は、どこに記録され、次の勤務者にどう伝わるか
- 「確認できないまま投与した」という事象は、記録に残る形になっているか
3と5に即答できない場合は、照会中の投与保留と記録の手順を優先して確認します。照会したこと自体は安全行動ですが、回答を待つ間に投与してしまえば意味がありません。保留の可否を現場の判断に丸投げしている状態は、その場にいた人の責任になりやすい構造です。
これは個人の注意力の問題ではなく、手順が決まっているかどうかの問題です。決まっていないと分かったら、それ自体を医療安全部門・看護管理者へ挙げてください。
安全確認が個人任せの職場かを見分ける
新しい改訂が夜勤者へ届くまで何日もかかる、持参薬鑑別の担当が曖昧、警告を解除した理由が残らないという状態は、個人の暗記では解決できません。
改訂が届く速さも、鑑別の担当も、警告解除の記録も、看護師個人が決められる範囲の外にあります。それでも投与するのは自分だ、という位置に立たされるのが持参薬確認です。
その居心地の悪さを言語化したいときは、氏名や施設が分かる記載を外して持参薬確認の不安を匿名で共有することができます。処方への照会そのものと、院内の仕組みの見直しは、医師、薬剤師、医療安全管理部門、看護管理者へ渡してください。
この改訂から持ち帰る一般則
個別の薬名を覚えるより、次の3つを習慣にするほうが長く効きます。
- 知らない薬名は、一般名で引き直す。販売名だけで「関係ない薬」と判断しない。
- 他院処方は、自院の処方一覧に出てこない。患者・家族・お薬手帳・薬局からしか入ってこない情報がある。
- 投与前に止められるかどうかが分かれ目。気づいても、照会中に投与してしまえば結果は同じになる。
3つとも、特定の薬の知識ではなく手順の話です。次に別の組み合わせが併用禁忌になったときも、同じ手順がそのまま使えます。
よくある質問
ツカイザかソホノスのどちらかを看護師判断で中止しますか?
いいえ。自己判断で中止薬を選ばず、服用・投与前に医師・薬剤師へ照会し、正式な指示を確認します。
同じ日に飲まなければ併用ではありませんか?
服用間隔を含む個別判断は、薬物動態と患者の処方全体を確認する必要があります。記事から安全な間隔を設定しないでください。
実際の事故が多数起きたのですか?
PMDA資料は、ツカチニブのCYP3A阻害作用によりパロバロテンの曝露量が増えるおそれを改訂理由に示しています。多数の事故発生を根拠にした改訂とは記載されていません。
発売直後の薬は、院内の相互作用チェックに入っていますか?
自動的に入るとは限りません。院内の医薬品マスターや持参薬鑑別の参照資料が更新されるまでに時間差が生じることがあります。改訂が処方監査へ反映されたかどうかは、薬剤部へ確認してください。
一般名で検索したのにヒットしません。見落としでしょうか?
塩や付加物を含む名称(例:ツカチニブ エタノール付加物)で登録されていると、成分名の一部だけでは検索に掛からないことがあります。ヒットしないことを「処方されていない」の根拠にせず、販売名でも検索し、薬剤師へ相談してください。
患者が「もう飲んでしまった」と言いました。
自己判断で対応を決めず、最終服用時刻と現在の症状を確認し、直ちに医師・薬剤師へ連絡してください。症状の有無にかかわらず、投与済みであることを明確に伝えます。
関連記事
この記事の確認範囲
- 確認日:2026年8月31日
- 確認主体:はたらく看護師さん編集部
- 医療監修:医師・薬剤師による個別監修は実施していません
この記事で扱ったのは、8月28日付で示された改訂指示そのものの読み方と、院内で確認をつなぐ手順です。個別の服薬継続、中止、代替治療の可否を判断する材料にはなりません。
参考資料