看護研究の説明文書を作り直せばよいのか。既存データを使う研究はオプトアウトでよいのか。多施設研究は、どこの倫理審査委員会へ出せばよいのか。
文部科学省、厚生労働省、経済産業省は2026年8月27日、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を改正しました。改正後の指針は2026年12月1日から適用されます。
先に結論を書くと、病棟の看護師が研究区分や同意方法を一人で決める改正ではありません。研究責任者、倫理審査委員会、研究支援部門と、研究計画・説明・記録・審査経路を見直すための改正です。
今回の主な変更
厚生労働省の施行通知は、主な改正を次のように整理しています。
- 基本方針に患者・市民の視点を尊重する考え方を追加
- 研究をリスクに応じた3つの区分で整理
- 同意手続の用語をインフォームド・コンセント(IC)へ統一
- リスクに応じたICまたはオプトアウトの扱いを整理
- 既存試料・情報の利用、他機関への提供に関する規定を見直し
- 多機関共同研究の一括審査を見直し
侵襲(軽微な侵襲を除く。)を伴う、又は介入を行う多機関共同研究では、一つの倫理審査委員会による一括審査が必須になります。その他の多機関共同研究も一括審査が原則です。
ただし、これらの言葉だけで自分の研究の手続は確定しません。研究の内容、試料・情報の取得時期と方法、侵襲・介入、機関の役割などを研究計画書と照合する必要があります。
なぜ改正されたのか
施行通知には、改正の趣旨が明記されています。現行指針は個人情報の取扱いについて規定を置いているため、個人情報保護法が改正されるたびに指針の部分改正を重ねてきました。その結果、指針の内容が複雑かつ難解となり、研究を停滞させる一因になっている可能性が指摘されていました。
もう一つは審査体制です。規制改革実施計画(令和6年6月21日閣議決定)で、多機関共同研究への一括した倫理審査が十分に普及していないこと、倫理審査委員会の審査の質にばらつきがあることが指摘され、審査の適正化のための措置を講じることとされました。
つまり今回の改正は、規制を強めるためではなく、複雑になりすぎた手続を見直し、リスクに応じた審査の適正化を図るための改正という位置づけです。「厳しくなるらしい」と身構えると読み方を誤りますが、「承認を得やすくなる」という意味でもありません。通知が掲げているのは適正化であって、緩和ではありません。
なお、パブリック・コメントは令和7年12月から令和8年1月にかけて実施されています。
研究は3つに分類されます
今回の改正でいちばん実務に効くのが、この分類です。施行通知は、研究を次の3つに分類し、それぞれがもたらし得る研究対象者等へのリスクに応じた本人同意手続を規定した、としています。
| 分類 | 該当する研究の例 |
|---|
| 侵襲を伴う研究又は介入を行う研究 | 追加採血、追加検査、ケア方法の割付など |
| 試料を用いる研究 | 残余検体など、人体から取得された試料を用いる研究 |
| 試料を用いない研究 | 診療録情報、質問紙、観察記録のみを用いる研究 |
自分の研究がどれに当たるかは、手続を考える前の入口です。「アンケートだから軽い」ではなく、試料を用いるかどうかで整理されている点に注意してください。ただし、この表は分類の名称を示したものであり、個別の研究がどれに該当するかの判定は、研究計画書と照らして研究責任者・倫理審査委員会が行います。
「適切な同意」という言葉がなくなります
用語の整理も見落とせません。施行通知によれば、同意手続について「文書IC」「口頭IC」「適切な同意」という用語がICに統一されました。あわせて、用語の定義から「適切な同意」に係る規定が削除されています。
これは書類仕事に直結します。院内の研究計画書のひな型、説明文書、標準業務手順書、教育資料に「適切な同意」という語が残っていれば、12月1日以降は改正指針にない用語を使い続けることになります。様式の文言検索で「適切な同意」を洗い出すのは、今日からできる作業です。
なお、オプトアウトについては通知に定義が置かれています。研究対象者等に一定の事項を通知し、又は研究対象者等が容易に知り得る状態に置き、かつ、原則として、研究対象者等が拒否できる機会を保障する方法、とされています。「掲示すれば済む」ではなく、拒否できる機会の保障までが定義に含まれている点が要点です。
「オプトアウトでよい」と先に決めない
オプトアウトは、研究情報を公開し、対象者が拒否できる機会を保障する方法です。今回の改正を「文書同意が不要になった」と読むのは誤りです。
確認の順番は次のとおりです。
- その活動が指針上の研究に該当するか
- 研究のリスク区分は何か
- 新たに試料・情報を取得するか、既存のものを使うか
- ICが必要か、オプトアウトが認められる条件か
- 研究対象者へ、いつ、何を、どう示すか
- 拒否の受付と、拒否後のデータ取扱いをどう記録するか
同じ「診療録を使う研究」でも、取得経緯や研究計画で扱いが変わり得ます。過去の研究で使った掲示文を、そのまま新しい研究へ流用しないでください。
看護研究・CRCが12月1日までに確認する6項目
1. 研究か、診療・業務改善か
院内の看護ケア評価、症例検討、品質改善がすべて指針上の研究になるわけではありません。一方、「業務改善」と名付ければ研究規制を外れるわけでもありません。目的、方法、公表、一般化可能な知見を得る設計かなどを、院内の研究支援部門へ確認します。
2. 侵襲・介入・試料の有無
質問紙、面接、追加採血、ケア方法の割付、残余検体、診療録情報では、対象者への負担と手続が異なります。計画書の言葉と、実際に現場で行うことが一致しているかを確認します。
3. ICとオプトアウト
誰が説明し、いつ同意を得て、撤回をどう受け、どこへ記録するかを決めます。病棟看護師が通常診療の説明と研究参加の説明を混ぜると、患者が断りにくくなることがあります。役割と任意性を明確にします。
4. 既存試料・情報の由来
いつ、何の目的で得られたデータか、研究利用の説明がどうされていたか、他機関へ提供するかを確認します。「院内にあるデータだから自由に使える」わけではありません。
5. 多機関共同研究の審査
研究代表機関、共同研究機関、試料・情報を提供するだけの機関など、自施設の役割を整理します。侵襲(軽微な侵襲を除く。)を伴う又は介入を行う多機関共同研究は一括審査が必須、その他も一括審査が原則となるため、従来の施設ごとの申請を前提にしません。
6. 院内規程・様式・教育
研究計画書、説明文書、同意書、情報公開文書、提供記録、変更申請、逸脱報告、教育記録の改訂日を確認します。12月1日直前に様式だけを差し替えるのではなく、申請中・実施中の研究をどう扱うかも倫理審査委員会へ確認します。
既存データを使う研究の要件が変わります
既存試料・情報を扱う研究についても、整理が入りました。施行通知は、既存情報を用いる研究にも既存試料と同様の要件を適用するため、現行指針の要件を「適切な手続を経て取得された」に変更し、原則としてオプトアウトを行うこととした、としています。
ここで注意が要ります。「適切な手続を経て取得された」だけでは足りません。改正指針は、それに加えて次の①か②のどちらかを満たすことを求めています。
- ① 「個人情報」「個人データ」を「研究に用いられる情報のうち既存のもの」と読み替えて、個人情報保護法第18条第3項各号(他機関へ提供する場合は第27条第1項各号)のいずれかに該当する場合
- ② その情報の取得時に、将来の研究への利用等について同意を受けており、その同意を受けた範囲内で研究の内容(他機関へ提供する場合は提供先等を含む)が特定された場合
そのうえで、定められた事項を研究対象者等に通知するか容易に知り得る状態に置き、原則として拒否できる機会を保障する、という手続が続きます。他の研究機関へ提供する場合は、通知すべき事項の範囲が広くなり、提供のみを行う者にはさらに別の手続(所属機関の長への報告、または倫理審査委員会の意見を聴いたうえでの許可)が加わります。
整理すると、既存情報を使う研究では次の5つを順に確認することになります。
| 段階 | 確認すること |
|---|
| ① 取得 | そのデータは適切な手続を経て取得されたものか |
| ② 要件 | 個人情報保護法の該当条項に当たるか、または取得時の同意の範囲内で研究内容が特定されているか |
| ③ 通知 | 定められた事項を通知するか、容易に知り得る状態に置いているか |
| ④ 拒否機会 | 研究対象者等が拒否できる機会を原則として保障しているか |
| ⑤ 他機関提供 | 提供する場合の追加手続(通知範囲の拡大、所属機関の長への報告・許可)を踏んでいるか |
「院内にあるデータだから使える」でないのはもちろん、「説明の経緯を確認したから使える」でもありません。該当条項の判定が入るため、ここは研究者だけで完結させず、研究支援部門・倫理審査委員会と確認してください。
関連して、通知には次の整理も示されています。
| 項目 | 改正後の扱い |
|---|
| 仮名加工情報・匿名加工情報・個人関連情報 | 個人情報保護法の規定に則って行う |
| 個人関連情報を提供する際の倫理審査 | 既存試料・情報等の提供のみを行う者等が行う手続のうち、提供先の研究機関で研究計画書等の倫理審査がされていることを踏まえ、必要としない |
| 既存試料・情報等の外国提供 | 事前に外国提供に関する包括的な同意を取得している場合、オプトアウトを行うことで提供可能 |
2行目は、「個人関連情報なら倫理審査は要らない」という一般則ではありません。既存試料・情報等の提供のみを行う者等が行う手続という限定が付いています。提供のみを行う者には、提供について所属機関の長へ報告する、あるいは倫理審査委員会の意見を聴いたうえで所属機関の長の許可を得る、といった別の手続が改正指針に定められています。倫理審査が消えるのではなく、どこで誰が審査するかが整理された、と読んでください。
いずれも、看護師が単独で判断する事項ではありません。多施設のデータ収集や海外共同研究に関わる場合に、研究支援部門へ確認すべき論点として名前を知っておくためのものです。
倫理審査の形が研究の種類で分かれます
審査の実施形態も、リスクに応じて整理されました。
| 研究の種類 | 新規申請の審査 | 多機関共同研究の場合 |
|---|
| 侵襲(軽微な侵襲を除く)を伴う研究、介入を行う研究 | 通常審査 | 一の倫理審査委員会による一括審査が必須 |
| その他の研究 | 迅速審査が可能 | 一の倫理審査委員会による一括審査が原則 |
この括弧書きを落とさないでください。軽微な侵襲のみを伴い、介入を行わない研究は「その他の研究」の側です。改正指針は、軽微な侵襲を伴い介入を行わない研究を迅速審査が可能な類型に含めています。
ただし通知には、倫理審査委員会の判断で実施形態を迅速審査から通常審査とすることは妨げない、と書かれています。「迅速審査が可能」は「迅速審査になる」ではありません。委員会が通常審査と判断することがあり得ると理解しておくと、スケジュールの見積もりを誤りません。
変更申請については、新規申請時に通常審査を実施した研究のうち、研究対象者等への影響が見込まれる変更内容は引き続き通常審査とされています。
進行中の研究には経過措置があります
今回の公表だけから「全研究が12月1日に再審査」とは言えません。施行通知には経過措置が置かれています。
現行指針及びそれ以前の指針(廃止前の疫学研究に関する倫理指針、臨床研究に関する倫理指針、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針)の規定により実施中の研究については、個人情報保護関連法令及びガイドラインの規定が遵守される場合に限り、なお従前の例によることができるとされています。
読むときの注意は2つです。第一に、対象は「実施中の研究」です。12月1日以降に新規申請する研究は改正指針に沿います。第二に、無条件ではありません。「個人情報保護関連法令及びガイドラインの規定が遵守される場合に限り」という条件が付いています。
自分の研究が経過措置の対象かどうか、対象だとして従前の例によるのか改正指針に合わせるのかは、機関の方針にも関わります。経過措置があるから何もしなくてよい、と読まないでください。変更申請の要否、次回継続審査での扱いは、研究の状況と機関の運用により確認が必要です。
ガイダンス改訂と照会窓口
施行通知は、改正指針の各規定の解釈や具体的な手続の留意点等について、今後ガイダンスを改訂し、3省のホームページに掲載するので必ず参照願いたいとしています。この記事を読んでいる時点でガイダンスが未掲載であれば、解釈が固まっていない部分が残っているということです。掲載後に、研究区分、経過措置の適用、様式の記載を読み直してください。
また、改正指針の規定の解釈に関する質問等は、文部科学省、厚生労働省、経済産業省のいずれの窓口でも受け付けるとされています。医学的または技術的に専門的な事項は厚生労働省で検討し、必要に応じ専門家の意見も踏まえて対応するとされています。
現場の順序としては、まず自施設の研究責任者・倫理審査委員会・研究支援部門へ相談してください。院内で解釈が割れたときに、公式の照会先が用意されていることを知っておくと、判断を保留にしたまま進めずに済みます。
研究者側で結論を作る前に、次を一枚にまとめて問い合わせると整理しやすくなります。
| 項目 | 記載する内容 |
|---|
| 研究番号 | 倫理審査の承認番号 |
| 進行状況 | 申請前、審査中、登録中、解析中など |
| 研究区分 | 現行計画書の記載 |
| 同意方法 | 文書IC、電磁的IC、オプトアウトなど |
| 試料・情報 | 新規取得か既存か、他機関提供の有無 |
| 確認したいこと | 変更申請、再同意、掲示更新、記録更新の要否 |
患者・市民の視点は、説明の「わかりやすさ」だけではありません
改正指針の基本方針に置かれたのは、患者・市民の視点を尊重し、社会的及び学術的意義を有する研究を実施すること、という規定です。計画段階での意見聴取や成果の還元を今回の改正が直接義務づけた、とまでは指針本文と施行通知からは読み取れません。解釈や具体的な手続の留意点は、今後改訂されるガイダンスで示されます。
そのうえで、編集部として実務に落とすなら、専門用語を言い換えるだけで終わらせないことだと考えます。参加しないことで不利益を受けない設計になっているか、断る方法が実際に使えるか、説明を受ける場面に十分な時間があるか。ここは規定の紹介ではなく実践例なので、院内で採用するかどうかは倫理審査委員会・研究支援部門の判断に沿ってください。
CRCや研究看護師は、説明を短くする役ではなく、対象者の理解・任意性と研究運用の間をつなぐ役割を担います。説明時間、相談先、通訳・配慮、撤回受付が現場で機能するかを確認してください。
12月1日までの逆算スケジュール
適用日は2026年12月1日です。9月からの3か月を、次のように区切ると動きやすくなります。
| 時期 | やること | 主担当 |
|---|
| 9月 | 進行中・申請予定の研究を一覧化し、区分と同意方法を書き出す | 研究責任者、CRC |
| 9月 | 院内様式・SOP・教育資料から「適切な同意」を検索する | 研究支援部門 |
| 10月 | ガイダンス改訂の掲載を確認し、解釈が変わる箇所を洗い出す | 研究支援部門、倫理審査委員会 |
| 10月 | 多機関共同研究の一括審査先と自施設の役割を確定する | 研究代表機関、各施設 |
| 11月 | 経過措置の適用可否を研究ごとに判断し、記録に残す | 倫理審査委員会 |
| 11月 | 説明文書・情報公開文書・掲示の改訂版を用意する | 研究責任者、CRC |
| 12月1日以降 | 新規申請を改正指針で運用し、実施中研究の扱いを継続確認 | 全員 |
看護研究に関わる人が最初に着手できるのは、1行目と2行目です。どちらも、指針の解釈を待たずに始められます。研究一覧と用語検索は事務作業であり、ガイダンス改訂の内容に左右されません。
研究・教育環境を職場選びの軸にする
看護研究を「勤務時間外に各自でやるもの」とし、倫理申請も統計も個人任せにする職場では、研究の質と働き続けやすさの両方に無理が出ます。
研究支援時間、倫理審査の相談窓口、統計・データ管理支援、大学院進学支援を比べたい場合は、カンゴさんの匿名相談で希望条件を整理できます。正式な指針解釈と申請判断は、自施設の研究責任者・倫理審査委員会・研究支援部門へ確認してください。
よくある質問
看護研究はすべて倫理審査が必要ですか?
研究に該当するか、どの審査が必要かは活動内容で判断します。名称だけでは決まりません。計画段階で院内窓口へ相談してください。
オプトアウトなら同意書は不要ですか?
オプトアウトが使える条件を満たすかの判断が先です。研究者が手間を減らす目的で自由に選べる方法ではありません。
12月1日までに何をすればよいですか?
自分で様式を改変する前に、研究一覧、進行状況、同意方法、既存試料・情報、多機関共同研究の有無を整理し、機関の方針と改訂様式を確認します。
実施中の研究は、そのまま続けてよいのですか?
経過措置により、実施中の研究は個人情報保護関連法令及びガイドラインの規定が遵守される場合に限り、なお従前の例によることができるとされています。条件付きの規定であり、自動的に対象になるとは限りません。適用の可否は倫理審査委員会・研究支援部門へ確認してください。
「文書同意」と書いてある院内様式は使えなくなりますか?
用語が「IC」に統一されたことと、様式が無効になることは別です。院内様式をいつ、どの範囲で改訂するかは機関の判断です。ただし「適切な同意」は用語の規定そのものが削除されたため、この語が残っている文書は優先的に確認対象になります。
迅速審査で通ると考えて日程を組んでよいですか?
避けてください。その他の研究は迅速審査が可能とされていますが、倫理審査委員会の判断で通常審査とすることは妨げないと明記されています。通常審査になった場合の日程も見込んでおくと、学会発表や年度末の締切に間に合わなくなる事態を防げます。
指針の解釈がわからないとき、どこに聞けますか?
まず自施設の研究責任者・倫理審査委員会・研究支援部門です。そのうえで、改正指針の規定の解釈に関する質問は、文部科学省、厚生労働省、経済産業省のいずれの照会窓口でも受け付けるとされています。個別の研究の可否ではなく、規定の解釈に関する窓口である点に注意してください。
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この記事の確認範囲
- 確認日:2026年8月31日
- 確認主体:はたらく看護師さん編集部
- 残余確認:改訂ガイダンスは公表時点で今後掲載予定。掲載後に運用例を再確認します
本稿は施行通知の主な改正点を確認作業へ置き換えたものです。研究該当性、リスク区分、同意方法、審査の要否を個別に判定するものではありません。
参考資料