介護施設や訪問看護で働く看護師さんにとって、給料の話は「今月の明細」だけでは終わりません。処遇改善加算、介護報酬改定、事業所の配分ルールによって、数年単位で給与の上がり方が変わるからです。
日本看護協会は2026年6月12日、厚生労働省「令和8年度介護事業実態調査(介護従事者処遇状況等調査)」への協力依頼を掲載しました。この調査は、介護従事者の処遇状況や処遇改善加算の影響等を評価し、令和9年度介護報酬改定の基礎資料として活用されるものです。
そして2026年9月17日、同協会は「調査票の提出期限延長」を知らせる案内を掲載しました。この記事では、その延長で何が分かり、何がまだ分からないのかを整理したうえで、施設・訪問看護の看護師が「自分の給料がどう扱われるか」「処遇改善が職員に回る職場か」を確認するための視点をまとめます。
判断材料になる情報
案内されたのは「提出期限の延長」で、賃上げの決定ではありません
日本看護協会のページからリンクされている依頼書は、厚生労働省老健局老人保健課長から同協会会長あてに出された文書です(老老発0907第1号、2026年9月7日付)。そこには、調査票の提出期限を8月28日としていたものの、引き続き提出を受け付けることとした、と書かれています。理由として挙げられているのは、現時点での回収率が前回を下回っている状況、という点です。
ここは、次の3つを分けて読んでください。
- 公式に確認できる事実:当初の提出期限は8月28日。回収率が前回を下回っているため、引き続き提出を受け付ける。この調査は令和9年度介護報酬改定の基礎資料になる。
- 確認できなかったこと(未確認):延長後の具体的な提出期限。依頼書には「引き続き提出を受け付ける」とあるだけで、新しい期限日は書かれていません。調査専用ホームページにも、2026年9月19日の確認時点で「電子調査票の提出期限は令和8年8月28日(金)です」という当初の記載が残ったままでした。新しい期限日を推測して職場に伝えないでください。
- 編集部の提案:管理者や事務担当が提出時期を確かめるなら、依頼書に記載された調査事務局のフリーダイヤル(0120-021-226、9時30分〜18時、土日祝を除く)に直接問い合わせるのが確実です。
そしてもう一つ、押さえておきたい点があります。この調査は次の改定に向けた基礎資料を集めるものであり、回答したから自分の給料が上がる、という性質のものではありません。 事業所が回答すること、報酬改定の結果が出ること、その結果を事業所が職員へ配分すること。この3つは、それぞれ別の段階です。
回収率は前回の半分以下だった(依頼書の別紙)
依頼書に添付された別紙には、令和8年8月31日受付時点の回収数・回収率が、令和6年度調査との対比で示されています。看護師が働く場の多い区分を抜き出します。
| サービス区分 | 令和8年度の回収率 | 令和6年度の回収率 |
|---|
| 訪問看護 | 41.6%(1,438件中598件) | 記載なし |
| 介護老人福祉施設 | 37.6%(2,183件中821件) | 62.6% |
| 介護老人保健施設 | 28.2%(1,178件中332件) | 54.3% |
| 特定施設入居者生活介護 | 21.3%(1,496件中318件) | 58.1% |
| 全体 | 23.0%(24,260件中5,568件) | 60.2% |
訪問看護は令和6年度調査の側が「-」で、前回との比較値は示されていません。別紙に行として載っているのは訪問介護や通所介護等を含む12区分で、看護小規模多機能型居宅介護は独立した行になっていません。自分の事業所が調査客体かどうかは、届いた調査票または調査事務局で確認してください。
この数字が示すのは回答が集まっていないという事務上の状況であって、処遇の善し悪しではありません。ただ、「うちに調査票は届いているのか」「誰が回答するのか」を職場で聞く材料にはなります。
給与明細は5つに分けて見る
同じ加算を取っていても、基本給に乗る職場もあれば、手当や一時金が中心の職場もあります。「処遇改善しています」と説明されたときに確かめたいのは、その原資がどこに乗ったのかです。次の5つに分けると、同じ「上がりました」でも意味が違うことが見えてきます。
| 区分 | 具体例 | 確認するポイント | 長い目で見たときの影響 |
|---|
| 基本給 | 基本給、本俸、号俸 | 昇給表のどこが動いたか、改定の前後で何円変わったか | 賞与・退職金・時間外単価の算定基礎になりやすい |
| 毎月の手当 | 処遇改善関連手当、資格手当、オンコール手当、訪問件数手当 | 手当の名称と金額、支給条件、毎月固定か変動か | 賞与算定に含まれるかどうかで年収差が出る |
| 賞与 | 夏・冬の賞与 | 算定基礎に手当が入るか、支給月数の実績 | 基本給が動かないと増えにくい |
| 一時金 | 〇〇一時金、特別手当など単発の支給 | 今年度限りか、翌年度も続く見込みか | 翌年に無くなっても説明されないことがある |
| 負担の変化 | 夜間対応の回数、オンコール待機、記録・委員会などの時間外 | 支給額と同じ期間で、負担が増えていないか | 時間あたりで見ると下がることがある |
5つ目の「負担の変化」を一緒に見るのが、この表の要点です。(編集部の提案)支給額だけを並べると増えて見えても、オンコール当番が月2回から4回になっていれば、1回あたりの評価は下がっています。明細を見るときは、直近3か月の勤務実績を横に置いてください。
名前の似た調査を取り違えない
2026年の秋は、対象も締切も違う調査が同時期に動いています。職場で話題になったとき混ざらないよう、整理しておきます。
| 調査 | 実施主体 | いまの状況 |
|---|
| 介護従事者処遇状況等調査(この記事の調査) | 厚生労働省老健局 | 当初期限は8月28日。引き続き受付中で、延長後の期限は未確認 |
| 看護職員の賃上げに関する緊急調査 | 日本看護協会 | 2026年9月1日〜14日で終了 |
| 介護分野の幅広い職種の賃上げ及び介護事業所の経営状況等調査 | 全国老人保健施設協会(日本看護協会が9月15日に訪問看護・看多機の管理者へ協力を呼びかけ) | 管理者が事業所単位で回答するもの。締切は9月28日(月)正午。次の節で明細との対応を説明 |
| 介護サービス事業者経営情報(介護経営DB)の報告 | 厚生労働省 | 令和8年10月より報告を再開すると資料に記載 |
終了した緊急調査の結果と自分の明細の見方は、夜勤手当と賃上げを給与明細で確認する記事にまとめています。各調査の最新の受付状況は、それぞれの実施主体の案内を確認してください。
9月15日掲載の全老健調査で、明細のどの数字が聞かれているか(2026年9月19日追記)
日本看護協会は2026年9月15日、訪問看護事業所と看護小規模多機能型居宅介護事業所の看護管理者に向けて、全国老人保健施設協会(全老健)が行う「介護分野の幅広い職種の賃上げ及び介護事業所の経営状況等調査」への協力を呼びかけました。全老健の依頼文(令和8年9月11日付)によれば、これは介護関係団体が春に続いて行う共通調査で、次期(令和9年度)介護報酬改定の議論に向けて現場の実態を数字で示すことを目的にしています。回答締切は令和8年9月28日(月)正午です。
先に立場をはっきりさせておきます。この調査に答えるのは管理者で、看護師個人が記入するものではありません。 また、事業所の実態を数字で集めるための調査であり、回答すると自分の給料が動くという関係にはありません。それでも看護師がこの調査を知っておく意味があるのは、調査票(Excel)に「看護職」の行が独立して用意されていて、そこに書かれる3つの数字が、自分の給与明細のどこかに対応しているからです。
調査票の看護職の行にある欄は、「賃上げ額(月額:円)」「うちベースアップ分」「賞与(月数分)」の3つです。留意事項に書かれた定義と、明細で見る場所を並べます。
| 調査票の欄 | 留意事項の定義 | 自分の明細で見る場所 | 見分け方の目安(編集部) |
|---|
| 賃上げ額(月額) | 月例で設定された増額分。ベースアップ分と定期昇給分のどちらも含む | 基本給と、毎月固定で付く手当の合計を、前年度の同じ月と比べた差 | 昇給の通知や辞令に「定期昇給」「号俸」とあれば、その分は定期昇給 |
| うちベースアップ分 | 賃金表の改定で基本給または決まって毎月支払われる手当を一律に引き上げた分。定期昇給、毎月支払われる手当以外の手当、一時金は含まない | 賃金表(号俸表)そのものが書き換わった通知があるか。基本給の同じ号俸の額が去年と違うか | 全員に同じ額や同じ率で上がる説明ならベースアップの可能性。個人差のある昇給は定期昇給 |
| 賞与(月数分) | 賞与の総額を月数で。小数第1位まで(例:令和7年度3.0か月、令和8年度4.0か月) | 賞与明細の「○か月分」の表記、または算定基礎額と支給額の関係 | 算定基礎に手当が入るかどうかで、同じ「3か月」でも金額が変わる |
| どの欄にも入らないもの | 一時金、毎月支払われる手当以外の手当 | 「特別」「臨時」「一時」と付く支給 | 来年度も続くかどうかは明細からは読めない |
この表で押さえてほしいのは、調査が「賃上げ額」と「うちベースアップ分」を分けて聞いている点です。同じ「月給が上がった」でも、賃金表を書き換えて全員の水準を上げたのか、毎年の定期昇給で自分の号俸が1つ進んだだけなのかは、調査上は別の数字として扱われます。自分の明細で見るときも、この2つを分けて考えると、職場から「処遇改善しています」と説明されたときに、どちらの話をしているのかを聞き返せるようになります。
自分の事業所がこの調査に回答しているかどうかは、看護師の側からは分かりません。全老健の調査は日本看護協会経由では事業所名や記入者氏名を書かずに送る形なので、外から確かめる方法もありません。知りたい場合は、管理者に「全老健の共通調査には答えましたか。看護職の行にはどの数字を入れましたか」と聞くのが早い方法です。答えが返ってくれば、自分の明細と照らす材料になりますし、答えられない職場なら、それ自体が上の「職場で聞くこと」の一つの答えになります。
管理者の側で、この調査と期限が延びた処遇状況等調査を分けて数字を用意する段取りは、訪問看護・看多機の管理者向けに2つの賃上げ調査を整理した記事にまとめています。管理者と看護師が同じ言葉で数字を見られる状態にしておくと、賃上げの説明の食い違いが減ります。
職場で聞くこと、判断の目安
在職中でも転職前でも、聞き方は同じです。
- 処遇改善加算やベースアップ分は、基本給・手当・賞与のどこに反映されていますか?
- 看護職への配分ルールは職員に説明されていますか?
- 昨年度から今年度で、看護職の平均給与はどの程度変わりましたか?
- オンコール手当や訪問件数手当は、賞与算定に含まれますか?
- 昇給は毎年ありますか。それとも制度改定時だけですか?
答えが曖昧な職場は、給与の見せ方も曖昧な可能性があります。どう切り出せばよいか迷う、聞いた答えをどう受け取ればよいか分からない、というときは、カンゴさんに匿名で相談するで明細の項目を並べながら整理することもできます。
いまの職場で確認を続けてよい状態
- 処遇改善の配分ルールが説明されている
- 基本給や昇給に一定程度反映されている
- オンコールや資格の負担が手当で評価されている
- 給与明細の項目を質問しても答えてもらえる
比較を始めた方がよい状態
- 処遇改善の説明が「上がっています」だけで終わる
- 基本給が長く変わらず、一時金だけで調整される
- 看護師資格やオンコール負担が評価されていない
- 聞くと「お金の話ばかり」と嫌な顔をされる
ここに挙げたのは、転職を勧める基準ではありません。転職で変わりやすいのは、給与テーブルと手当の設計、そして配分を説明してもらえるかどうかです。変わりにくいのは、介護報酬という原資の枠そのものと、改定の時期です。制度が動くのを待つのか、いまの職場で説明を求めるのか、条件の違う職場を見るのか。順番を決めるために、まず直近3か月の給与明細と勤務表から年収と負担を整理し、訪問看護の賃上げ原資については訪問看護ステーションの賃上げ本気度を見抜く記事も確認してください。
まとめ
介護従事者処遇状況等調査は、施設・訪問看護で働く看護師にとって、次の改定に向けた材料になる調査です。2026年9月に案内されたのは提出期限の延長であって、賃上げが決まったという知らせではありません。延長後の期限日は資料から確認できないため、分かっていないことは分かっていないまま扱ってください。
そのうえで手元でできるのは、自分の明細を基本給・毎月の手当・賞与・一時金・負担の変化の5つに分けて見ることです。9月28日正午締切の全老健の調査が聞いている「賃上げ額」「うちベースアップ分」「賞与の月数」も、この分け方の中に収まります。施設や訪問看護へ移るなら、求人票の月給だけでなく、この5つと配分の説明まで確認しましょう。
提出期限はいつまで延長されたのですか
依頼書にも調査専用ホームページにも、延長後の具体的な日付は記載されていません(2026年9月19日確認)。「引き続き提出を受け付ける」という案内までが、公式に確認できる内容です。提出時期は調査事務局(0120-021-226)へ確認してください。
全老健の調査は看護師個人が回答するものですか
いいえ。日本看護協会の案内では、訪問看護事業所と看多機の管理者が調査票を記入して送る形です。看護師個人に回答が求められているわけではなく、自分の事業所が回答したかどうかも外からは分かりません。気になる場合は管理者に直接聞いてください。
介護従事者処遇状況等調査は看護師にも関係ありますか?
関係があります。介護施設、訪問看護などで働く看護師は、介護報酬や処遇改善加算の影響を受けることがあります。回答するのは事業所ですが、自分の職場で看護職にどう配分されているかを確認することが大切です。
処遇改善は基本給に入る方がよいですか?
一般的には、基本給に反映される方が賞与や退職金、将来の昇給にもつながりやすいです。ただし職場の制度によって異なるため、手当・一時金・賞与算定の扱いまで確認してください。
面接で給料の配分を聞いてもよいですか?
聞いてよいです。むしろ処遇改善の配分を説明できない職場は、給与制度の透明性に不安があります。「基本給・手当・賞与のどこに反映されていますか」と具体的に聞くと判断しやすくなります。
参考資料
最終確認日:2026年9月19日。全老健の調査の欄と給与明細の対応を追記し、調査専用ホームページの提出期限の表記を再確認しました。延長後の提出期限は、公表されている資料からは確認できませんでした。提出時期・提出先は、届いた調査票または調査事務局でご確認ください。
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