病院で働いていて、「うちの看護師数は、そもそも法律上足りているのだろうか」と思ったことがある方に向けた記事です。材料にするのは、令和6年度に都道府県などが病院へ入った立入検査の全国集計で、厚生労働省が2026年9月18日に出したものです。
先に結論を書きます。看護師・准看護師数が医療法に基づく標準数に適合していた病院は、検査を受けた7,620病院のうち7,570病院、適合率は99.3%でした。標準を下回る病院は全体から見ればごく一部です。ただし、その数を1つの数字で言い切ることはできません。同じ資料の中で、適合施設数から引き算すると50病院、充足率の表で100%未満を足すと67病院になり、一致しないからです。
読み終えると、この数字をどこまで信じてどこから先は言えないのか、そして自分の職場について「法律の標準」「診療報酬の配置基準」「その日の実際の人数」のどれを、どの資料で、誰に確かめればよいのかが判断できます。資料でもう1つ目を引くのは、配置よりも「職員の健康管理」の適合率のほうが低い点です。こちらは自分の健診で確かめられます。
令和6年度の結果で確かめられる数字
この検査の根拠は医療法第25条第1項です。国が直接行うものではなく、資料は検査実施機関として都道府県、保健所設置市、東京23区の特別区を挙げています。令和6年度に検査を受けたのは全国8,073病院のうちの7,620病院で、実施率にすると94.4%です。前の年度は8,138病院に対して7,587病院、93.2%だったので、実施率は1.2ポイント上がっています。
| 項目 | 令和6年度 | 令和5年度 | 原典の場所 |
|---|
| 立入検査の実施率 | 94.4%(7,620/8,073病院) | 93.2%(7,587/8,138病院) | 報道発表、本体1頁 |
| 看護師・准看護師数の適合率 | 99.3%(適合7,570/検査7,620) | 99.4%(適合7,543/検査7,587) | 本体5頁 |
| 医師数の適合率 | 97.9% | 97.9% | 本体2頁 |
| 薬剤師数の適合率 | 97.7% | 97.7% | 本体8頁 |
| 職員の健康管理の適合率 | 94.1%(適合7,146/検査7,596) | 92.1% | 本体2頁 |
看護師・准看護師数の適合率は、平成30年度から順に99.0%、99.3%、99.4%、99.4%、99.5%、99.4%、99.3%と推移しています。7年間ずっと99%台で、令和6年度は前年度より0.1ポイント下がりました。なお令和2年度と3年度は検査施設数が2,609、5,515と少なく、実施率も32.1%、68.7%でした。年度を比べるときは、この母数の違いを頭に入れておく必要があります。
用語の注記も確かめておきます。資料でいう「看護師」には、主に看護業務を行う保健師と助産師が含まれます。「適合率」は立入検査を実施した病院数に対する、その項目に適合した病院数の割合です。「充足率」は、医療法施行規則に規定する標準数に対する病院の医療従事者数の割合で、標準数を下回る病院の充足率は100%未満になる、と説明されています。
同じ資料に「50」「66」「67」が並んでいます
ここがこの記事でいちばん注意してほしい点です。
- 適合施設数から計算する方法:検査7,620病院から適合7,570病院を引くと、適合しなかった病院は50です(編集部による引き算で、資料に「50」という数字の記載はありません)
- 充足率別の病院数から数える方法:50%未満が3、50〜60%未満が3、60〜70%未満が7、70〜80%未満が3、80〜90%未満が15、90〜100%未満が36で、合計すると67病院です。100%以上は7,553病院で、合わせて7,620になります
資料の注記は、医療従事者数が標準数を下回る病院の充足率は100%未満になると説明しています。その100%未満の合計67と、適合率の表から出る50との間には17の開きがあります。充足率100%以上の7,553病院を7,620で割ると99.1%になり、公表された99.3%とも合いません。
さらに、医師数と組み合わせた病床規模別の表では、看護師・准看護師数が100%未満の病院は57と9で、合わせて66です。つまり資料の中には、数え方によって50、66、67の3通りの数字があります。
PDFには、この差の理由の説明がありません。どれが正しいのか、判定の時点や定義が違うのかといった推測は、この記事ではしません。前年度も同じ形で、適合施設数からの引き算は44、充足率の表は71、病床規模別の表は70でした。前年度との比較も、充足率の表で見れば71から67へ減り、適合施設数から見れば44から50へ増えており、向きがそろいません。
言えるのは「標準を下回る病院は、資料上は50から67の範囲で示されており、7,620病院の1%に満たない」というところまでです。67病院のうち36病院は充足率90%以上100%未満の帯にあり、50%未満は3病院でした。
地域別・病床規模別の数字と、そこから言えないこと
地域別の適合率は、全国99.3%に対して関東が98.6%で最も低く、中国と九州が99.8%で最も高くなっています。病床規模別では20〜49床が98.3%で最も低く、500床以上は100%でした。150〜199床は99.3%、400〜499床は99.4%で、規模が大きいほど一律に高いという並びではありません。
ここから「この地域は人手不足だ」「小さい病院は危ない」とは言えません。資料が示しているのは適合した病院の割合だけで、理由は書かれていません。ブロック単位の数字なので、個々の病院や都道府県の状況も分かりません。自分の職場がどうかは、次の章の方法で直接確かめるほうが確実です。
「法律の標準」「診療報酬の配置基準」「その日の人数」は別のものです
立入検査が見ているのは1つ目だけです。病棟で話題になる「7対1」「10対1」は2つ目で、夜勤中に感じる忙しさは3つ目です。混ぜて考えると、資料の読み方も職場への質問もずれてしまいます。
| 層 | 何を決めているか | 根拠 | 確認する主体 | 看護師が見られるもの |
|---|
| 1 法律の標準 | 病院全体として置くべき看護師・准看護師の員数 | 医療法第21条、医療法施行規則第19条の基準に従って定める都道府県の条例 | 都道府県、保健所設置市、特別区の立入検査 | 全国集計は今回の公表資料。自院の結果は院内の管理部門に聞く |
| 2 診療報酬の配置基準 | 入院基本料などを算定するための届出区分ごとの看護配置 | 診療報酬の施設基準 | 地方厚生局への届出 | 病棟や院内の掲示、病院のウェブサイト |
| 3 その日の実際の人数 | 勤務帯ごとに実際に何人いて、何人受け持つか | 院内の勤務計画と当日の運用 | 看護部、病棟の管理者 | 勤務表、当日の受け持ち表 |
1層目の中身を原典で確かめます。医療法施行規則第19条第2項第2号は、看護師および准看護師の基準を次のように定めています。療養病床、精神病床、結核病床の入院患者数を4で割った数と、感染症病床、一般病床の入院患者数(入院している新生児を含む)を3で割った数を足し、端数は切り上げ、さらに外来患者数が30またはその端数を増すごとに1を加えた数です。入院患者数と外来患者数は前年度の平均値を使います(同条第5項)。特定機能病院には別の条文(第22条の2)があります。
この式から分かるのは、1層目が前年度の平均患者数から出す病院全体の員数だということです。病棟ごとの数字でも、勤務帯ごとの数字でもありません。したがって、標準数を満たしていることは、ある病棟のある夜勤が楽であることを意味しません。逆に、今日の夜勤がきついことだけで、病院が法律の標準を割っているとも言えません。
2層目については、厚生労働省保険局の通知(令和8年3月27日、保医発0327第6号)が、入院基本料に係る届出内容の概要として、看護要員の対患者割合と看護要員の構成を院内に掲示し、原則としてウェブサイトにも載せることを求めています。通知の掲示例は「朝9時~夕方17時まで、看護職員1人当たりの受け持ち数は6人以内です」のように、時間帯ごとの数字を示す形です。掲示の数字は届出に基づく「以内」の表示で、その日の実数とは限りません。3層目は勤務表で見ることになります。
配置より低かった「職員の健康管理」94.1%
資料には適合率の低い項目の上位10が載っており、「職員の健康管理」は3番目です。検査7,596施設のうち適合は7,146施設、適合率94.1%で、引き算すると450施設が適合していません。前年度の92.1%からは上がっています。精神科病院だけを取り出した再掲の表では、1,179施設のうち1,106施設が適合で93.8%でした。病院全体の表でこれより低いのは、医療法許可事項の変更(92.7%)とサイバーセキュリティの確保(92.8%)の2項目だけです。
公表資料には、「職員の健康管理」で具体的に何を検査し、何が足りずに不適合とされたのかの内訳は記載がありません。健診の未実施なのか、記録の不備なのかは、この資料からは分かりません。
それでも、看護師数の適合率99.3%と並べると、人数の標準よりも職員の健康管理のほうが、適合しない病院の割合が高いことは読み取れます。そして健康管理は、配置と違って自分のこととして確かめられます。
夜勤をしている方は、健診の回数から見てください。根拠は労働安全衛生規則第45条の「特定業務従事者の健康診断」です。対象は同規則第13条第1項第3号に並ぶ業務に常時就いている人で、そのヌに「深夜業を含む業務」が挙がっています。事業者は、その業務に配置替えするときと、その後は6か月を超えない間隔で、定期の健診を実施しなければなりません。また労働安全衛生法は、異常の所見があった労働者について医師の意見を聴くこと(第66条の4)、その意見を勘案して必要なときは就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じること(第66条の5)を事業者に求めています。受診後の流れは9月の健康診断実施強化月間を扱った記事で順を追って整理しています。
自分の職場で確かめる順番と、聞く相手
全国の集計をいくら読んでも、自分の職場のことは分かりません。手元で見られるものから始め、聞く必要があるものを後に回します。
| 順 | 確かめること | 見るもの | 聞く相手 | どの層の話か |
|---|
| 1 | 病棟の届出区分と、時間帯ごとの受け持ち数の表示 | 病棟や院内の掲示、病院のウェブサイト | 見当たらなければ師長、医事課 | 2層目 |
| 2 | 掲示の数字と、実際の勤務帯ごとの人数が合っているか | 直近1か月の勤務表、受け持ち表 | 師長、主任 | 3層目 |
| 3 | 欠員や長期休みが出たとき、どう埋めているか | 勤務表の変更履歴、応援の記録 | 師長、看護部 | 3層目 |
| 4 | 病院全体として法律の標準を満たしているか | 個人が見られる資料は通常ない | 看護部、事務部門 | 1層目 |
| 5 | 夜勤をしている自分が、6か月以内ごとに健診を受けているか | 自分の健診結果票の日付 | 健診の担当部署、衛生管理者 | 健康管理 |
| 6 | 所見があったとき、医師の意見聴取と措置の話があったか | 結果票、面談の記録 | 産業医、健診の担当部署 | 健康管理 |
1と2で差があったときは、感想ではなく事実で聞くと話が進みます。「掲示では深夜帯の受け持ちは◯人以内となっていますが、先月は◯人の日が◯回ありました。応援の基準はありますか」のように、◯に自分の勤務表の数字を入れて聞く形です。時間外の記録が残っていないことが同時に起きているなら、前残業や研修時間を打刻と給与明細で照合する手順も合わせて使えます。
4は、聞いても数字が返ってこないことがあります。標準数は病院全体の前年度の平均患者数から計算するもので、病棟の看護師が手元の勤務表から再現するのは現実的ではありません。「直近の立入検査で、看護職員数について指摘はありましたか」と聞くのが近道です。
立入検査の結果を、個人が見られるとは限りません
今回公表されたのは全国と地域ブロックの集計です。看護師・准看護師数については、都道府県別の数字も、病院ごとの結果も載っていません(都道府県別の表があるのは医師の充足状況だけです)。自分の勤務先が適合だったかどうかを、この資料で調べることはできません。
検査をするのは都道府県や保健所設置市、特別区で、医療法第25条第1項が報告を命じる相手としているのは病院の開設者や管理者です。検査結果を職員にどこまで共有するかについては、公表資料に記載がありません。病院側がこの結果をどう点検に使うかは、法人向けの適合率が低かった10項目を院内で点検する記事にまとめています。管理職の立場にある方や、委員会で話題にしたい方はそちらも参考にしてください。
よくある質問
適合率99.3%なら、ほとんどの病院は人手が足りているということですか?
そうは言えません。99.3%が示すのは、前年度の平均患者数から計算した病院全体の員数の標準を満たした病院の割合です。病棟ごとの人数、夜勤帯の人数、患者の重症度は、この数字に入っていません。
標準を下回る病院は50ですか、67ですか?
資料からはどちらとも言い切れません。適合施設数からの引き算では50、充足率別の表の合計では67、病床規模別の表では66で、差についての説明はPDFにありません。引用するときは、どの表の数字かを添えてください。
「7対1」の病棟で働いています。法律の標準とは関係がありますか?
別の制度です。7対1や10対1は診療報酬の施設基準で、入院基本料を算定するための届出区分です。立入検査で見る医療法の標準数とは、根拠も、確認する行政機関も、計算の単位も違います。
夜勤があるのに健診が年1回だけです。どうすればよいですか?
まず自分の結果票で、直近2回の受診日を確かめてください。そのうえで健診の担当部署に「深夜業を含む業務に常時従事する場合は6か月以内ごとに1回と理解していますが、私は対象でしょうか」と尋ねます。自分が対象に当たるかどうかを職場で確かめ、納得のいく説明が得られないときは労働基準監督署に相談できます。
まとめ
令和6年度の立入検査結果が示したのは、看護師・准看護師数の適合率が99.3%であること、標準を下回る病院数は同じ資料の中で50、66、67と表によって違い理由の説明がないこと、そして職員の健康管理の適合率が94.1%で人数の標準より低いことでした。
自分の職場については、掲示で2層目を、勤務表で3層目を、健診結果票で健康管理を確かめ、1層目は看護部に聞く、という順番が現実的です。確かめた事実は、まず今の職場での相談に使ってください。
配置のこと、夜勤のこと、体調のことが重なって、何から手を付ければよいか分からなくなっているときは、お悩み診断で今の困りごとを分けてみると、最初に確かめる項目を決めやすくなります。
参考資料
未確認の事項:適合施設数から計算した不適合(50)と充足率100%未満の病院数(67、別表では66)が一致しない理由。「職員の健康管理」の検査内容と不適合の内訳。看護師・准看護師数の都道府県別・病院別の結果。地域別・病床規模別に適合率が違う理由。立入検査結果の職員への共有に関する取り扱い。いずれも公表資料に記載がなく、本文では扱っていません。各都道府県の条例が定める具体的な員数も確認していません。
最終確認日:2026年9月19日。本文の「50」「450」などの引き算と「67」「66」の合計は、公表された表の数字を編集部が計算したもので、資料に直接の記載はありません。勤務先の個別の状況は、院内の担当部署や労働基準監督署などの窓口で確認してください。
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