台風の日に「出勤すべきか」迷うのは、あなただけではない
先に結論からお伝えします。法律には「災害時でも必ず出勤しなければならない」という一律の規定はありません。台風や大雨の日に出勤するかどうかも、出勤できなかった日の扱いも、職場の就業規則・労働契約・災害時の体制(参集基準やBCP=業務継続計画)で決まります。看護師さんが最初にやるべきことは「自分の職場の規程と災害時ルールの確認」です。
一方で、医療機関には災害時にも止められない機能があり、入院患者さんがいる以上、全員が一斉に休むことはできません。この記事は「出勤しなくてよい」とも「出勤すべき」とも断定せず、労務の基本ルールとケース別の判断軸、平時に確認しておくべきことを整理します。
2026年6月3日には台風6号が接近し、日本看護協会自身も、JNAビル(原宿)や看護研修学校・図書館(清瀬)を終日リモートワーク勤務日に切り替えたと公表しました(Source: 日本看護協会「台風第6号の接近に伴う対応について」)。職員の安全を最優先にした判断です。ただし、臨床の看護はリモートにできません。だからこそ「事前にルールを知っておくこと」が何よりの備えになります。
この記事でわかること
この記事の価値:台風・大雨のときの「出勤すべきか」「休んだら欠勤か」「事故にあったらどうなるか」という不安を、厚生労働省・労働局の一次情報に基づき労務目線で整理します。
読むと判断できること:警報発令時・公共交通の停止時・子どもの休校休園時のケース別の判断軸と、出勤できなかった日の賃金の考え方(労働基準法26条の休業手当を含む)がわかります。
今の職場で確認すること:災害時の参集基準・連絡手順・賃金の扱い・前泊やタクシー代の負担・夜勤帯のルールの5項目。本文のチェックリストをそのまま使えます。
次にできること:就業規則と災害時マニュアルを確認し、不明点を師長や労務担当に質問しておくこと。同じ不安を抱える看護師さんの声は、看護師さん同士で相談できる掲示板でも知ることができます。
判断材料になる一次情報
「災害時は必ず出勤」という法律はない——決めるのは就業規則と職場の災害時体制
労働基準法にも他の法律にも、「台風や地震のときに労働者は出勤しなければならない」と定めた条文はありません。出勤義務の根拠は労働契約と就業規則にあり、災害時にどこまで求められるかは職場ごとの規程と災害時体制で決まります。
ただし、医療機関には他業種と違う事情があります。厚生労働省は平成29年3月の通知で、災害拠点病院の指定要件に「被災後、早期に診療機能を回復できるよう、業務継続計画(BCP)の整備を行っていること」を追加し、災害拠点病院では策定率100%が確認されています。一方、全病院でみた策定率は25.0%(平成30年12月1日時点の調査)にとどまり、整備状況には職場間で大きな差があります(Source: 厚生労働省「医療機関におけるBCP策定について」)。
つまり、警報発令時の出勤基準・災害時の参集基準・出勤免除と賃金の扱いが明文化されているかは職場次第です。明文ルールがない職場では、その場の雰囲気で「来られる人は来て」となりがちで、これが一番危険です。ネット上の一般論ではなく、まず自分の職場の規程を確認することが最優先の行動です。
ケース別の判断軸——警報発令時・交通停止時・子どもの休園時
共通する原則は、①自分と家族の安全確保が最初、②職場への早めの連絡・相談、③扱いは就業規則の規定に従う、の3つです。
| ケース | まず確認すること | 労務上の考え方 | 注意点 |
|---|
| 暴風警報・特別警報が出た | 警報発令時の規定の有無。職場からの指示連絡 | 警報発令だけで出勤義務がなくなるわけでも、強制されるわけでもないのが原則。職場の規程と指示で決まる | 危険な状態での移動は避け、出勤可否を早めに連絡・相談する |
| 電車・バスが計画運休/停止した | 振替輸送や再開見込み。職場の連絡手順 | 出勤できない場合の扱い(欠勤・年休・特別休暇など)は就業規則の定めに従う(Source: 厚生労働省「自然災害時Q&A」Q10-2) | 冠水路を徒歩や自転車で進むなど危険な代替手段は選ばない |
| 子どもの学校・保育園が休校・休園 | 家族内の分担、預け先、職場の特別休暇制度 | 災害による休校・休園は子の看護等休暇の対象事由(感染症に伴う学級閉鎖等)に原則含まれない。年休や特別休暇を検討(Source: 厚生労働省「改正育児・介護休業法」) | 預け先がない事情は当日朝でなく早めに職場へ伝える |
夜勤と台風が重なるケースは特に悩ましく、「早めに出て院内で待機する」「夜勤明けの帰宅を遅らせる」といった調整が必要になることがあります。夜勤帯の体制に不安がある看護師さんは、夜勤の仕組みと安全管理を整理した夜勤完全ガイドも確認してみてください。
無理して向かった出勤途中の事故は「通勤災害」の対象になり得ます
労災保険は、「労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害又は死亡」を通勤災害として保護しています。「通勤」とは住居と就業場所との往復などを「合理的な経路及び方法」で行うことを指し、「当日の交通事情により迂回した経路」も合理的な経路と認められます(Source: 東京労働局「通勤災害について」)。いつもの電車が止まり、別ルートで向かう途中に事故にあった場合も対象になり得ます。ただし、私用での寄り道(逸脱・中断)の後は原則として通勤と認められないなどの例外があり、認定は個別の事情で判断されます。
強調したいのは「労災が出るから無理してよい」ではない、ということです。労災保険は事故の後の補償であって、事故そのものは防げません。飛来物や冠水のリスクが高い状況での移動は、補償の有無にかかわらず避けるべきです。
前泊・タクシー利用の費用負担の決まり方
台風の前夜に病院近くへ前泊する、運休時にタクシーで出勤する——こうした費用負担に法律上の一律のルールはなく、原則として職場の旅費規程・災害時規程や、その都度の職場の指示で決まります。
確認のポイントは「誰の判断だったか」です。病院から前泊やタクシー利用を指示された場合は、費用負担や待機時間の扱い(労働時間に当たるか)を職場へ確認しましょう。自己判断の前泊は自己負担になる職場が多いと考えられますが、災害時の宿泊費補助や院内仮眠室の利用を認める病院もあります。
出勤できなかった日・休まされた日の給料はどうなる?
厚生労働省のQ&Aは、災害で出勤できなかった日の賃金について「労働契約や労働協約、就業規則等に定めがある場合は、それに従う必要がある」とし、定めがない場合も労使で話し合い、労働者の不利益をできる限り回避するよう求めています(Source: 厚生労働省「自然災害時Q&A」Q10-2)。働かなかった分の賃金が法律上当然に保障されるわけではないのが出発点で、有給の災害時特別休暇などがあればその活用が考えられます。
逆に、病院側の判断で休業させた場合、労働基準法26条により、使用者の責に帰すべき事由による休業では平均賃金の60%以上の休業手当が必要です。ただし、①原因が事業の外部から発生した事故で、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けられない、という2要件を満たす天災事変等の不可抗力の場合には支払義務はありません(Source: 厚生労働省「自然災害時Q&A」Q1-4)。どちらに当たるかは、被災状況や休業回避の努力を踏まえて個別に判断されます。
もうひとつ、年休は労働者が請求する時季に与えるものであり、使用者に命じられて取得するものではありません(Source: 厚生労働省「自然災害時Q&A」Q9-1)。「台風で休みになった日は年休で処理しておく」と職場が一方的に決めることは、原則としてできない扱いです。看護師さん自身が希望して使うことは問題ありません。
平時に職場へ確認しておきたい5項目チェックリスト
台風が来てから就業規則を探すのでは遅すぎます。次の5項目を平時に確認し、規程になければ師長や労務担当に質問しておきましょう。
- 1. 災害時の出勤・参集基準:どの警報・状況で出勤免除や自宅待機になるか。参集対象に自分が入っているか。根拠規程の名前とページ。
- 2. 連絡の手順と判断者:出勤できないとき、誰に・いつまでに・どの手段で連絡するか。出勤可否を最終判断するのは誰か。
- 3. 出勤できなかった日の賃金・休暇の扱い:欠勤・年休・特別休暇・休業手当のどれになるか。災害時の有給特別休暇制度はあるか。
- 4. 前泊・タクシー・宿泊費のルール:職場の指示で利用した場合の費用負担。院内の仮眠室・宿泊設備は災害時に使えるか。
- 5. 夜勤帯の災害時ルール:夜勤中に被災した場合の残留・交代の基準、夜勤明けで帰宅できないときの扱い、子育て・介護中の職員への配慮規定。
特に5番目は切実です。台風の直撃が夜勤帯と重なると、「交代要員が来られない」「明けでも帰れない」事態が起こります。夜勤にまつわる悩みは幅広いので、夜勤の悩みを整理した記事の一覧も参考にしてください。
まとめ
台風・大雨・災害のとき、看護師さんに法律上の一律の出勤義務はなく、扱いは就業規則と職場の災害時体制で決まります。無理な出勤途中の事故は通勤災害として労災保険の対象になり得ますが、補償より安全の確保が先です。出勤できなかった日の賃金は職場の規程に従い、病院都合の休業には労働基準法26条の休業手当の枠組みがあります(不可抗力の例外あり・個別判断)。
医療は災害時にも止められない仕事であり、だからこそ病院にはBCPや参集基準という組織の備えが求められています。個人の無理で埋めるのではなく、組織のルールを知って使うことが、患者さんと自分・家族の安全や生活を両立させる現実的な道筋です。まずは職場の規程確認から始めてください。情報交換や同じ悩みの相談は看護師掲示板でもできます。
よくある質問
台風で出勤できなかったら欠勤扱いになりますか?
職場の就業規則等に定めがあればそれに従います(Source: 厚生労働省「自然災害時Q&A」Q10-2)。欠勤とする職場もあれば、特別休暇や本人希望の年休で処理できる職場もあります。法律でどちらとも決まっていないため、平時のルール確認が大切です。なお、職場が一方的に年休消化を命じることは原則としてできません。
前泊やタクシー代は病院が出してくれますか?
法律上の一律のルールはなく、職場の旅費規程・災害時規程によります。病院の指示で利用した場合は費用負担を職場へ確認しましょう。自己判断なら自己負担の職場が多いと考えられますが、災害時の宿泊費補助や院内仮眠室の利用を認める病院もあります。
休みの日に災害で呼び出されたら断れますか?
一概には言えません。労働基準法33条には、災害等で臨時の必要がある場合に労働基準監督署長の許可(急迫時は事後届出)を得て時間外・休日労働をさせられる規定があり(Source: 厚生労働省「自然災害時Q&A」Q7-1)、就業規則に参集規定がある職場では業務命令となる場合があります。一方、自分や家族が被災している、移動自体が危険といった事情があれば、状況を伝えて相談すべきです。参集対象者や免除事由を平時に確認しておきましょう。
病院から「今日は来なくていい」と言われた日の給料はどうなりますか?
使用者の責に帰すべき事由による休業なら、労働基準法26条により平均賃金の60%以上の休業手当が必要です。ただし、天災事変等の不可抗力の場合には支払義務はないとされています(Source: 厚生労働省「自然災害時Q&A」Q1-4)。どちらに当たるかは個別判断のため、職場の説明を確認し、疑問があれば労働基準監督署や総合労働相談コーナーに相談できます。
子どもの保育園が台風で休園になったら「子の看護等休暇」は使えますか?
原則として使えません。2025年4月施行の改正育児・介護休業法で対象事由に追加されたのは「感染症に伴う学級閉鎖等」であり(Source: 厚生労働省「改正育児・介護休業法」)、台風など災害による臨時休園・休校は含まれないと考えられます。年休や職場独自の特別休暇を検討し、預け先がない事情は早めに職場へ相談しましょう。
参考資料


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