2026年9月14日、厚生労働省の検討会で、愛知県の藤田医科大学病院における「昼夜遷移の少ない勤務」の実践が報告されました。3年かけて試行と改良を繰り返し、2026年4月に全病棟・全職員への適用を完了した事例です。この勤務パターンの特徴は「夜勤の回数」ではなく「勤務がどう並ぶか」という視点にあります。
同じ月に夜勤4回でも、その並び方次第で睡眠リズムと疲労感は大きく変わる——それを裏づける客観的データが同資料に示されています。一方で、検証の過程では意外な落とし穴も見つかりました。これからの勤務表で確認すべきポイントを、実際の数字とともに整理します。
9月14日に国の検討会で紹介された「勤務の並び」の話
2026年9月14日、厚生労働省「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」(第5回)の資料として、藤田医科大学病院の取組が公表されました。同病院は愛知県豊明市にあり、看護師1,717名、1日の外来患者2,600人を支える国内屈指の大規模病院です。
この報告は「新しい制度の開始」ではなく、1病院の試行成果を国が事例紹介した段階です。あくまで藤田医科大学病院での実績であり、他院への適用や業界標準化の決定ではありません。ただし、厚生労働省の検討会で報告される背景には、看護師の働き方改革と睡眠・疲労の関係性が改めて注目されていることがあります。
3年かけて広げた——試行から全職員への実装まで
藤田医科大学病院の推移は以下の通りです。
| 時期 | 実施範囲と内容 |
|---|
| 2023年度 | 2病棟で試行開始。日本看護協会の調査事業に参加 |
| 2024年度 | 新人看護師全員に導入。精神科病棟では活動量計による客観的睡眠評価を開始 |
| 2025年度 | 複数病棟へ拡大。勤務パターンの標準化と勤務表の3か月一括作成を導入 |
| 2026年4月 | 全病棟・全職員へ完全実装 |
特に注視すべきは、試行段階で「試す価値がある」と判断されたこと、そして実装にあたり1年間の見直しを経たことです。初期の満足度低下を受けて、ルール(連続日勤の上限、休息時間)を手直ししたうえでの全職員適用であり、一度決めたら変わらない固定制ではありません。
「日勤週・長勤週・夜勤週」と、夜勤後48時間以上という区切り
同病院の勤務ブロック化の骨格は以下のとおりです。
勤務区分と時間帯
| 区分 | 時間帯 | 勤務時間 |
|---|
| 日勤 | 8:30~17:00 | 7.5時間 |
| 中勤 | 12:15~20:45 | 7.5時間 |
| 夜勤 | 20:30~翌8:45 | 11.25時間 |
1か月の構成と上限
- 月4~5回の夜勤(改訂後)
- 勤務日数:月11~14日(改訂後)
- 各週1週間以上継続(週の途中で別の種類の勤務に切り替えない)
- 夜勤後48時間以上の休息を確保
- 長勤連続2日以内
- 日勤は連続3日以内を推奨
- 月1回4連休
ここで際立つのは「勤務が混在していない」という設計です。日勤と夜勤が同じ週に交互で現れるのではなく、「この週は日勤で統一」「来週は夜勤で統一」という形で、体内時計の急激な変化を避けています。
睡眠は改善し、新人の満足度は下がった——検証が示した複雑さ
藤田医科大学病院が実施した検証には、3つの重要な知見があります。
第1に、客観的睡眠指標は有意に改善しました。
資料では、活動量計による客観的な睡眠指標が有意に改善したと報告されています。昼夜の遷移が少ない勤務は睡眠リズムを安定させる、というのが2023年度の調査事業と2024年度の客観評価から得られた結論です。
第2に、しかし新人看護師の勤務満足度は下がりました。
2024年度に新人看護師224名を対象にした調査では、勤務満足度の平均値が5.8から5.2へ低下しました。資料はこれを有意な低下として示しています。つまり、客観的な睡眠は良くなったのに、看護師自身の心理的満足感は減少した、という矛盾が起こったのです。
自由回答では「連続日勤が身体的にきつい」が15%を占め、その中で4日勤以上を挙げる声が最も多くなっていました。
第3に、その原因は連続勤務日数と疲労蓄積にありました。
統計分析の結果、疲労蓄積の自覚症状が勤務満足度の低下に有意に寄与していた(β=−0.18, p=0.03)。つまり、ブロック化の利点(睡眠リズムの安定)よりも、「同じ週の間は日勤が続く」という新しい仕組みの弊害(肉体的な連続勤務負荷)が、新人には心理的な満足度を上回ってしまったということです。
そこで同院は翌年度の改善として、4日以上の連続日勤を避け、連続3日以内を推奨するルールと、夜勤後48時間以上の休息を勤務・業務へ反映しました。検証で出た不満をそのまま放置せず、翌年のルールに落とし込んだ点が、この事例の要です。
連続4日以上の日勤で睡眠効率が低下する——その先の対策
上記の満足度調査と並行して、同院は別の知見も得ました。それは連続3日勤務までは許容範囲だが、4日目に睡眠効率が低下する傾向です。この傾向が示されたため、「日勤は連続3日以内」という上限設定にデータの裏づけが生まれました。
この知見は、単に「休息をとりましょう」という一般的な指導ではなく、「同じ勤務の種類が4日以上続くと、その夜の睡眠が浅くなる傾向がある」という具体的な生理応答を意味しています。
自分の勤務表で確かめる5つの問い
同病院の事例から、あなたの勤務表をチェックするための5つの問いを整理します。どの項目も、改善の可能性を自分で把握するために役立ちます。
問い1:夜勤明けから次の勤務日(休日含む)までの間隔は何時間か
藤田医科大学病院では「夜勤後48時間以上の休息」を基本としています。あなたの勤務表で、夜勤終了(翌朝8:45)から次に職場に入る時刻までの時間を計算してください。例えば夜勤が翌朝8:45に終わった場合、2日後の朝8:30から日勤に入ると約47時間45分で、48時間には届きません。何時間空いているかを実際に数えると、感覚ではなく数字で職場と話せます。
問い2:連続で同じ種類の勤務(日勤または夜勤)が続く日数は
特に日勤が何日連続しているか、記録してください。4日以上続く場合、前述の研究では睡眠効率の低下が示唆されています。長勤(12:15~20:45)が混在する週の場合、「勤務の時間帯が一定か」も確認します。
問い3:同じ週の中で、勤務の種類(日勤←→夜勤)が何回切り替わるか
朝出勤して昼に帰り、翌日また夜勤、というように同じ週内で昼夜が混在していないか。ブロック化のメリットは「同じ種類の勤務を1週間単位で続ける」ことなので、小刻みな切り替えがあれば睡眠リズム安定の効果が減ります。
問い4:勤務表が出る時期と、希望休の締切が何か月前か
藤田医科大学病院は「3か月一括作成」を導入しており、この仕組みの課題として「希望休の締切が早い」という運用負担が報告されています。あなたの職場で勤務表が目に見える範囲(3か月先まで)で希望が反映できるか、それとも直近1か月分しか見えないか、でシフト調整の自由度が変わります。
問い5:夜勤回数と手当の計算方法は、給与明細のどこを見れば分かるか
同院の資料には、収入や夜勤手当への影響について記載がありません(2026年9月15日確認)。したがって、この勤務パターンで手当が増えるとも減るとも言えません。夜勤回数が変われば夜勤手当の総額は動きますから、自分の給与明細で夜勤手当の単価と回数がどう計算されているかを確認し、分からない部分は給与規程と人事・給与担当へ質問として残してください。
休息の長さ・夜勤手当・通勤・生活時間は分けて確認する
「夜勤が多いから大変」「夜勤を減らせば楽になる」と判断する時、ついつい複数の要素を一緒くたに考えてしまいがちです。ところが実際には、夜勤の辛さを決める要因は4つに分かれており、それぞれが独立して動きます。
休息の長さは最も客観的に測定できます。藤田医科大学病院が基準とした「夜勤後48時間以上」というのは、あなたの勤務表でも確かめられます。夜勤の終了時刻(この例では翌朝8:45)から次の勤務開始まで、実際に何時間あるかを計算してみてください。夜勤回数が同じでも、「今月だけ夜勤明けの翌日に日勤が入った」という一点だけで、休息時間は十数時間単位で変わります。
夜勤手当と月の手取りについては、藤田医科大学病院の資料には記載がありません。そのため「勤務の並びを変えると給料がいくら動くか」は、この事例からは判断できません。給与規程には夜勤手当の計算ルール(回数×単価、あるいは月の金額固定など、職場で異なります)が記されています。給与明細を見ながら、自分の職場ではどのように計算されているかを確認してください。もし見方が分からなければ、給与担当者に仕組みを聞くことは正当です。統計のニュースと自分の明細を混ぜずに読む手順は、2026年7月の賃金速報と給与明細の4ステップに分けて整理しています。
通勤時間は、休息時間から差し引かれる分として別に数えます。夜勤明けの帰宅に往復で2時間かかる人と、15分で帰れる人では、同じ「48時間の休息」でも、家で横になれるまでの時間も、次の出勤に向けて家を出る時刻も違います。夜勤明けの時間帯に使える交通手段があるか、仮眠してから帰れる場所があるかも、体感を左右します。
生活時間の柔軟性も、見えにくいけれど大きな影響があります。家族がいれば、子どもの送迎や家族の通院にどの曜日なら付き添えるか。院内研修や委員会が特定の曜日に固定されていないか。通学や資格取得の勉強をしていれば、勤務が週単位でまとまることで予定を立てやすくなる面と、その週は動かせなくなる面の両方が出ます。これらは勤務の「楽さ」に直結します。
つまり、「夜勤を減らせば改善する」のではなく、この4つの軸それぞれで自分たちの条件を見比べて、どれが最も大切かを優先順位をつけることが、働き方改善の出発点になります。
現職で勤務の組み方を相談するときに聞くこと
もし自分の職場で勤務の改善を相談するなら、具体的で測定可能な質問を持っていくことで、話が進みやすくなります。看護師長や看護部へは、以下のような項目を聞いてみてください。
- 勤務表は何か月分まとめて作るのか、希望休の締切はいつか。 藤田医科大学病院は勤務表を3か月一括で作る方式にしており、資料では「休み希望の締切が早い」という不満が課題として挙がっています。自分の職場が1か月単位か複数月単位かで、希望の出し方も変わります。
- 夜勤明けから次の勤務(休日含む)までの間隔について、院内に最低基準があるか。 決めがなければ「48時間以上確保することは可能か」と、改善の余地をさぐります。
- 連続日勤の上限について、ルールがあるか。 ある場合は「何日までか」「それをどうやって勤務表に反映しているか」。ない場合は、経営層や看護部で検討の予定があるか確認します。
- 勤務の並びを変える試行をした場合、夜勤回数と手当がどう動くかを、事前に試算してもらえるか。 「やってみたら給料が想定と違った」という後付けを避けるためです。
- 試行的に一部の病棟だけ、あるいは一部の期間だけ別の並び方を試すことは可能か。 藤田医科大学病院も2病棟から始めました。いきなり全職員ではなく、まず小さく試せると、見直しのチャンスが生まれます。
これらの質問は「職場にクレームをつける」のではなく、「自分たちの働き方改善に何が必要かを一緒に考えよう」という姿勢で伝えることがポイントです。データ(自分の勤務表)と具体例(藤田医科大学病院の事例)があれば、話はぐんと具体的になります。
日勤への変更・異動・ほかの職場の比較は、結論を急がずに並べる
「夜勤が辛い」と感じた時、対応策は大きく3つあります。ただし「どれが正解」という答えはなく、何を優先するかで選択肢が変わります。
まず試すべきは、現職で勤務の並びを相談することです。 制度が変わらなくても、運用で調整できる部分があります。希望休の取り方や連続日勤の配置を工夫するだけで、体感が改善する場合も多くあります。この段階は「職場を変えない」という選択肢なので、試行錯誤もしやすくなります。
次に、院内での異動や日勤中心の部署への配置換えを考えるなら、2つのことを同時に見ます。 日勤主体になると睡眠リズムは安定しますが、その一方で給与や経験、キャリアの道筋がどう変わるかも重要です。「楽になるけれど、数年後の自分のキャリアは?」という問いも同じ天秤に載せて、判断します。
ほかの職場と比べるなら、夜勤回数だけで判断しないことが重要です。 比較対象にするときは、夜勤の本数だけでなく「夜勤後の最短休息時間は何時間か」「連続日勤は何日までか」「勤務表は何か月単位で見えるか」という同じ条件をそろえて並べてください。一つの数字(夜勤4回 vs 5回)で判断すると、入職後に「こんなはずじゃなかった」という落差が生まれやすくなります。
大切なのは、必要な収入と眠れる時間の両方のバランスです。片方だけで判断すると、数か月後に「選択が間違っていた」と感じることになりかねません。焦らずに、自分の勤務表から具体的な数字を抽出し、その数字を見ながら判断することをお勧めします。
勤務の並び方が、疲労と睡眠に直結している
藤田医科大学病院の事例が示す重要な点は、看護師の疲労や睡眠は『夜勤の回数』だけでは決まらないということです。月4回でも5回でも、その間に十分な休息があり、勤務が大きく切り替わらなければ、体内リズムの安定が期待できます。
一方で、ブロック化による「連続日勤」は、新人や身体が弱い時期には新たなストレスになり得ることも、同院の検証は正直に示しています。だからこそ、1年間の試行後に「連続3日まで」という上限が設定され、2026年4月の完全実装に至ったのです。
自分の勤務表を見るとき、「夜勤が多い少ない」という観点だけでなく、「今月の日勤はいつまで続くのか」「夜勤明けから何日休めるのか」という勤務の質的な並び方に目を向けることで、疲労や睡眠の課題が見えてくるかもしれません。もし職場の勤務表にこうした工夫の余地があれば、データと具体例を示して相談する材料になります。
この記事と合わせて読むと役立つ他の記事としては、夜勤時間と睡眠の関係についての完全ガイドや、あなたの職場の条件をチェックするための項目、そして夜勤明けの不調が続く場合の対応があります。これらと組み合わせて、自分の働き方を立体的に把握することをお勧めします。
参考資料
最終確認日:2026年9月15日。この記事は同院の試行結果を紹介したものであり、すべての医療機関への適用や、あなたの職場での導入の可否を示すものではありません。勤務の改善について相談するなら、データと具体的なルール(連続日勤の日数、夜勤後の休息時間)を自分の勤務表から抽出したうえで、看護管理者と対話することをお勧めします。
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