百日咳は「乳児を守ること」と「自分の就業判断」の両輪で見る
百日咳は2025年に報告数が8万9千件を超え、全数報告が義務づけられた2018年以降で最大の流行となりました。2026年に入っても流行は続いており、特徴は10代を中心とした学童期・青年層の感染急増です(Source: AMR臨床リファレンスセンター ニュースレター「急増する百日咳感染」2026年3月17日、JIHS感染症発生動向調査)。看護師さんにとって大切なのは、流行の数字を眺めることではなく、現場で何を見るかです。
ポイントは2つです。1つは、乳児で重症化しやすい感染症だという前提で外来・小児科・産科・NICUの患者対応を点検すること。もう1つは、自分や家族に長引く咳が出たときに「出勤してよいのか」を職場の規程に沿って冷静に判断することです。百日咳は感染症法上の五類感染症で、法律による就業制限の対象ではありません。出勤可否は職場の就業規則と施設の感染対策マニュアル、そして主治医・産業医の判断で決まります。
この記事でわかること
この記事の価値:百日咳の流行状況を一次情報の確認できた数値だけで整理し、看護師さんが患者対応と自分の就業の両面で迷わないようにまとめます。
読むと判断できること:乳児の重症化サインをどう見るか、自分が咳で疑わしいときにまず何をするか、家族が罹ったときにどう考えるかの目安がつかめます。
今の職場で確認すること:感染対策マニュアルに百日咳の扱い(咳症状職員の就業基準・抗菌薬療法後の復帰目安)が書かれているか、誰に相談する運用かを確認します。
次にできること:判断に迷う点は自己判断せず、感染管理担当者・産業医・主治医に相談します。職場の感染対策の悩みは看護師の掲示板でも共有できます。
判断材料になる一次情報
数字は予測ではなく、上記で確認できた範囲のみを使っています。流行の局地的な状況は地域差が大きいため、勤務地の自治体感染症情報も合わせて確認してください。
流行状況の要点(確認できた数値のみ)
| 項目 | 確認できた内容 |
|---|
| 2025年報告数 | 8万9千件超。2018年の全数報告開始以降で最大の流行 |
| 年齢分布(2025年累積) | 10代が全体の約6割、1〜9歳が約2割、20歳以上が1割強 |
| 年齢層別の特徴 | 2025年第12週時点で10〜19歳が60.3%、5〜9歳が21.0%と学童期中心 |
| 感染力 | 麻疹に匹敵するとされ、免疫のない家族内接触者の2次発病率は80%以上 |
| 治療 | 第1選択はマクロライド系抗菌薬、第2選択はST合剤 |
| 耐性株 | 2025年に地方衛生研究所で検査した株の約8割がマクロライド耐性変異株 |
(Source: AMR臨床リファレンスセンター ニュースレター「急増する百日咳感染」2026年3月17日/JIHS「百日咳のリスクアセスメント」)
成人や青年は典型的な「コンコンという連続した咳に続くヒューという笛のような吸気音」が出にくく、長引く咳だけのことも多いため、診断が難しい点が特徴です。ワクチン接種者でも典型的な咳発作が出にくく、見過ごされやすいことが知られています。報道や一部メディアでは前年比で数十倍といった表現も見られますが、ここでは一次情報で確認できた上記の数値のみを採用しています。
百日咳の経過を知っておくと、現場での声かけや受診勧奨がしやすくなります。潜伏期は7〜10日程度で、まず2週間ほど感冒様症状が続くカタル期があり、その後に発作性の激しい咳が続く痙咳期、約2〜3週間でおさまる回復期へと進み、全経過は2〜3カ月に及びます。抗菌薬が最も効果を発揮するのは症状の軽いカタル期で、この時期に治療を始めれば咳の進行と感染拡大の両方を抑えやすくなります(Source: AMR臨床リファレンスセンター ニュースレター)。長引く咳の患者さんを「ただの風邪」で片付けず、百日咳の可能性を頭の片隅に置くことが、結果的に乳児を守ることにつながります。
患者対応チェックリスト(外来トリアージ・乳児)
外来・小児科・産科・NICUでは、乳児の重症化リスクを前提に見ます。百日咳は乳児期早期(特に新生児や生後早期)では典型的な咳がなく、息を止めるような無呼吸発作からチアノーゼ・けいれん、ときに呼吸停止へ進展することがあります。0歳で発症すると半数以上が入院加療になると報告されています(Source: AMR臨床リファレンスセンター ニュースレター)。
外来トリアージで確認したいこと:
- 2週間以上続く咳、夜間に強くなる発作性の咳がないか
- 同居家族(特に小学生〜高校生世代)に長引く咳の人がいないか、学校で流行していないか
- 月齢の低い乳児では、咳より「無呼吸」「哺乳時の顔色不良」「けいれん」を見逃さない
- 来院前連絡・動線分離・マスク着用案内で待合の飛沫曝露を減らせているか
- ワクチン未接種・接種途中の乳児は、疑わしければ早期に診断できる体制へつなぐ
産科・NICUで特に意識したいこと:
- 新生児・低出生体重児は重症化しやすいため、咳のある面会者・職員の接触を最小化する
- 接触予防・飛沫予防のPPEが切れていないか。手袋やマスクの運用は医療用手袋と感染対策の整理も参考にしてください
- 抗菌薬が最も効くのは症状が軽いカタル期。疑い時の検査・治療開始の流れを医師と共有しておく
百日咳菌の排出は咳の出現から3週間程度続くとされます。乳児に接する部署では、咳のある職員・面会者を「念のため離す」運用が現場を守ります。
自分が疑わしいときの行動フロー
看護師さん自身に長引く咳が出たとき、自己判断で「まだ大丈夫」と出勤を続けるのは避けたい行動です。以下の順で動きます。
- まず受診と報告:2週間以上続く咳や発作性の咳があれば医療機関を受診し、職場(感染管理担当者・上長)にも報告する。
- 就業の扱いを確認:百日咳は感染症法上の五類で、法律による就業制限の対象ではありません。出勤可否は施設の感染対策マニュアルと就業規則に従います。多くの施設では「適切な抗菌薬療法の開始後一定期間」を復帰目安にしていますが、基準は施設ごとに異なるため必ず確認します。
- 配置の調整を相談:乳児・新生児・妊婦・免疫不全患者に接する部署では、咳が続く間の配置転換やマスク徹底を上長・産業医と相談する。
- 家族内の状況も共有:同居家族に咳がある場合は受診先・職場にも伝える。学童期の家族の学校状況も診断のヒントになります。
- 記録を残す:症状の経過、受診・検査・治療開始日、上長への報告日を記録しておくと、復帰判断や労務上の確認がスムーズです。
学校保健安全法では百日咳は第二種感染症で「特有の咳が消失するまで、または5日間の適切な抗菌薬療法が終了するまで出席停止」とされていますが、これは児童生徒に対する規定です。労働者である看護師さんに直接適用されるものではないため、職場の規程・CDCや学会の推奨に基づく運用と混同しないことが大切です。
まとめ
百日咳は2025年に過去最大規模となり、2026年も学童期・青年層を中心に流行が続いています。看護師さんが見るべきは、乳児の無呼吸・重症化を見逃さない患者対応と、自分が疑わしいときに自己判断で無理に出勤しないことの2点です。法的な就業制限の対象ではないからこそ、復帰の目安は施設のマニュアルと主治医・産業医の判断で決めます。咳が続く間の配置や対応に迷ったら、一人で抱えず感染管理担当者に相談してください。日々の感染対策運用は新型コロナ報告更新時の職場点検とあわせて見直すと、流行のたびに慌てずに済みます。
よくある質問
咳が続いていますが、出勤してよいですか?
百日咳は感染症法上の五類感染症で、法律による就業制限の対象ではありません。そのため出勤可否は職場の就業規則と感染対策マニュアル、主治医・産業医の判断によります。多くの施設では適切な抗菌薬療法を開始してから一定期間を復帰目安にしていますが、基準は施設で異なります。乳児・新生児・妊婦に接する部署では特に慎重に、自己判断せず上長と感染管理担当者に相談してください。
家族が百日咳に罹りました。私はどうすればよいですか?
同居家族の発症は職場(上長・感染管理担当者)に共有してください。百日咳は感染力が強く、免疫のない家族内接触者の2次発病率は80%以上との報告があります(Source: AMR臨床リファレンスセンター ニュースレター)。自分に咳症状が出ていないかを観察し、長引く咳が出たら受診します。乳児に接する部署では、症状がなくても主治医や産業医に予防的対応の要否を相談すると安心です。
ワクチンは打ち直すべきですか?
百日咳ワクチンの追加接種の在り方については、免疫の持続性を踏まえて学会等から提言が示されている段階で、ここで一律に「打ち直すべき」とは言えません。接種歴や勤務部署、妊娠の有無によって判断が変わるため、所属施設の産業医や主治医に相談して個別に検討してください(Source: AMR臨床リファレンスセンター ニュースレター)。
成人でも重症化しますか?
成人は医療機関を受診するほど症状が悪化しないことが多く、長引く咳だけで非典型的な経過をたどる場合があります。一方で乳児、特に0歳児は重症化しやすく、入院加療になることも少なくありません。成人看護師さん自身のリスクより、自分を介して乳児や免疫不全患者に広げないことを重視して行動するのが安全です。
参考資料


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