「患者さんの暴言が、当たり前になっている」と感じている方へ
採血や処置のたびに怒鳴られる。ナースコールで呼ばれて行くと、人格を否定するような言葉を浴びせられる。家族から土下座を求められた同僚がいる――。こうした出来事を「看護だから仕方ない」「自分の対応が悪かったのかも」と飲み込んで働いている看護師さんは、少なくありません。
ですが、患者さんやご家族からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント、いわゆるカスハラ)は、看護師さん個人が我慢して解決すべきことではありません。2026年10月1日からは、改正された法律によって、事業主(病院・施設)にカスハラ対策を講じることが法的に義務づけられます(Source: 厚生労働省「令和7年の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)」)。
この記事は、患者さん・ご家族からの暴言や理不尽な要求に苦しんでいる看護師さんに向けて、「自分の職場は、組織として守ってくれる体制があるか」を確認する視点を整理するためのものです。
この記事でわかること
この記事の価値:2026年10月から義務化されるカスハラ対策の中身と、「職員を守る職場」「守る仕組みが弱い職場」の違いが分かります。
読むと判断できること:いま自分が受けている対応が「我慢すべきこと」なのか「組織が対応すべきこと」なのかを、感情ではなく制度の視点で見分けられるようになります。
今の職場で確認すること:相談窓口・記録のルール・組織としての方針が整っているかを、この記事のチェック項目で確認できます。
次にできること:職場の体制に不安が残る場合に、どんな相談先や次の選択肢があるかが分かります。
読むポイントは次のとおりです。
- 職場に義務づけられる対応とは何か
- カスハラと「正当な要望」はどう違うのか
- 職員を守る職場・守る仕組みが弱い職場の違い
- 今の職場で確認できること
- ひとりで抱え込まないための相談先
判断材料になる一次情報
この記事は、以下の一次情報をもとに整理しています。具体的な対応の義務内容は、改正法と指針、各医療機関の規程に従ってください。
この記事で確認したいポイントは、次のとおりです。
患者さん・家族からの暴言や暴力は、看護師さん個人の「対応力の問題」ではなく、組織が方針・相談体制・事後対応で守るべきことへと、制度上はっきり位置づけられた。
職場には、どんな対応が義務づけられるのか
2026年(令和8年)10月1日から、改正された労働施策総合推進法等により、顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)に対する雇用管理上の措置が、事業主の義務になります(Source: 厚生労働省「令和7年の労働施策総合推進法等の一部改正について」)。この改正法は令和7年6月11日に公布されており、対応の指針として「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」が定められています。
医療機関にとって、患者さんやご家族は「顧客等」にあたります。つまり、患者さん・家族からの著しい迷惑行為についても、病院・施設は組織として対応する義務を負う方向です。義務化される措置は、一般に次のような柱で整理されます。
| 柱 | 内容の例 |
|---|
| 方針の明確化と周知 | カスハラを許さない方針を定め、職員と利用者に周知・啓発する |
| 相談体制の整備 | 相談に応じ、適切に対応するための窓口・体制を用意する |
| 事後の迅速・適切な対応 | 発生時に被害を受けた職員へ配慮し、組織として対応する |
ポイントは、「職員個人がうまくかわす」ことではなく、「組織が体制で守る」ことが求められている点です。患者さんからの理不尽な言動に、看護師さんが一人で耐えることを前提にした職場は、この方向性から外れていきます。
なお、厚生労働省は医療現場向けに、患者やその家族からの暴力・ハラスメント対策を学べる教材(スタッフ・管理者双方の視点で学べる約20分のコンテンツ)を作成しています(Source: 厚生労働省「医療現場における暴力・ハラスメント対策について」)。また、訪問看護師の安全確保のための防犯機器(位置検索機能・緊急呼び出し機能付き防犯ブザーや防犯ボタン付き携帯電話など)の整備に、地域医療介護総合確保基金による補助が活用できることも案内されています。職場がこうした仕組みを取り入れているかは、体制の整い具合を測る目安になります。
カスハラと「正当な要望」はどう違うのか
患者さんからの訴えがすべてカスハラになるわけではありません。痛みや不安からの強い要望、説明への質問、ケアへの正当な指摘は、当然受け止めるべきものです。線引きは、医療機関や指針の考え方に沿って組織で判断するものですが、一般に次のような違いで整理されます。
受け止めるべき「正当な要望」の例
- 治療やケアの内容についての質問・確認
- 待ち時間や説明不足への、節度ある申し出
- 不安や痛みからくる、一時的な強い訴え
組織として対応すべき「著しい迷惑行為」の例
- 暴力(殴る・蹴る・噛むなど)や、暴力をほのめかす言動
- 人格を否定する暴言、土下座などの不当な要求の繰り返し
- 業務に関係のない私的な誘いや、性的な言動
- 長時間の拘束、繰り返される不当なクレーム
殴る・噛むといった身体的な暴力や、食事・デートへの執拗な誘い、不当な要求の繰り返しは、看護師さんが受けるハラスメントの典型例として挙げられています(Source: 公益社団法人日本看護協会「看護現場におけるハラスメント対策」)。「自分が我慢すれば収まる」と判断する前に、それが組織で対応すべき範囲かを、一人で抱え込まずに共有することが大切です。
職員を守る職場・守る仕組みが弱い職場の違い
同じ「患者さんからのクレームが多い職場」でも、職員の守られ方は大きく変わります。違いを生むポイントを整理します。
職員を守る職場の特徴
- 「暴言・暴力を許さない」「悪質な場合は警察と連携する」といった方針を、院内掲示などで患者・家族に明示している
- カスハラを受けたときの相談窓口と、報告のルートが決まっている
- 出来事を記録し、組織として事実確認・対応する仕組みがある
- 防犯機器や複数名での訪問・対応など、現場の安全に予算と人を割いている
- 「対応が悪かったあなたが悪い」と個人を責めない文化がある
守る仕組みが弱い職場の特徴
- クレーム対応を、現場の看護師さん個人の力量任せにしている
- 相談しても「もう少し優しく対応して」と、個人の問題に戻されてしまう
- 出来事が記録されず、繰り返されても組織が動かない
- 管理者がトラブルを「なかったこと」にしたがる
「組織として方針・記録・相談体制があるか」「個人を責めずに守る文化があるか」――この2点が、職場ごとの差を一番大きく分けます。2026年10月以降は、これらが法的な義務に裏づけられた「あって当然のもの」になっていきます。
今の職場で確認できること
すぐに転職を考えなくても、いまの職場で確認・相談できることがあります。
- カスハラ・暴力に対する方針や規程が、文書として整備されているか
- 相談窓口(院内・外部)がどこにあり、誰に相談できるか
- カスハラを受けたときの報告・記録の方法が決まっているか
- 2026年10月の義務化に向けて、院内で説明や研修が予定されているか
- 訪問看護なら、単独訪問時の安全確保(防犯機器・連絡体制)がどうなっているか
公式な仕組みが見当たらないときは、「自分の我慢が足りない」と決めつけず、まず信頼できる先輩・上司・労働組合・院内の相談窓口に共有してみてください。記録を残しておくことも、組織が動くための大切な材料になります。
「働き方を変える」で解決しやすいこと・しにくいこと
カスハラへの不安をきっかけに転職や働き方の見直しを考えるなら、何が変わって何が変わらないかを分けて考えると、後悔の少ない判断につながります。
場所を変えると解決しやすいこと
- 組織として方針・相談体制・記録の仕組みが整った職場へ移ること
- 個人を責める文化から、職員を守る文化のある職場へ移ること
- 単独訪問の安全対策や、複数名対応の体制が整った環境を選ぶこと
場所を変えても解決しにくいこと
- 対人援助である以上、患者さん・家族との関わりそのものがなくなるわけではないこと
- どの職場でも、一定の頻度で難しい場面は起こりうること
- 「相談する」「記録する」という自分の側の動き方は、どこでも必要になること
転職は「人と関わらない仕事に変える」ことではなく、「つらい場面が起きたときに、組織が守ってくれる場所を選ぶ」ことだと捉えると、現実的な比較ができます。
まずは、カンゴさんに気持ちを整理してみる
「患者さんに怒鳴られたのが、ずっと頭から離れない」「これくらいで傷つく自分が弱いのかも」「上司に言っても、わがままだと思われそう」。こうした気持ちは、職場の同僚にも家族にも話しづらいものです。
はたらく看護師さんのカンゴさんには、匿名で気持ちを話せます。患者さんからの暴言に傷つくのは、あなたの対応力の問題ではありません。「何があって、どう感じたのか」を言葉にするところから、一緒に整理してみてください。気持ちの整理は、職場に相談するときの材料にもなります。
「職員を守る体制があるか」を知る材料に
カスハラへの守られ方は、就業規則の文言だけでなく、相談したときに組織が実際に動くか、現場の安全に予算と人を割いているかで決まります。記録しても動かない、個人の問題に戻される、という職場で消耗し続けるかどうかは、別途考える価値がある問いです。
いますぐ転職を決めなくても、ほかの職場の体制を知っておくことには意味があります。レバウェル看護のような看護師専門の転職紹介サービスでは、求人票だけでは分からない次のような点を、職場に確認して教えてもらえます。
- カスハラ・暴力に対する方針や相談窓口の整備状況
- トラブル発生時に、組織としてどう対応しているか
- 単独訪問時の安全確保(防犯機器・連絡体制)の有無
- 「個人を責めない」文化があるか、離職理由に何が多いか
「いまの職場が嫌だから」ではなく、「つらい場面で守ってくれる場所はどこか」を考える材料として、選択肢を知っておくのがおすすめです。患者さん・家族からの具体的な対応に悩んでいる方は、患者・家族からのハラスメントへの対応をまとめた記事や、患者ハラスメントから守られる職場の選び方の記事もあわせて読むと、確認の精度が上がります。ハラスメント全般の整理は、看護師のハラスメントを網羅した記事が参考になります。
まとめ
2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法等により、患者さん・ご家族を含む「顧客等」からの著しい迷惑行為(カスハラ)への対策が、病院・施設の義務になります(Source: 厚生労働省「令和7年の労働施策総合推進法等の一部改正について」)。看護師さんが個人で耐えるのではなく、組織が方針・相談体制・事後対応で守ることが、制度として求められる方向です。
確認の3ステップは次のとおりです。
- いまの職場に、カスハラ・暴力への方針と相談窓口、記録のルールがあるかを確認する
- つらい出来事は一人で抱え込まず、信頼できる相手に共有し、記録を残す
- 体制に不安が残るなら、職員を守る仕組みのある職場を「知っておく」ところから始める
患者さんの暴言に傷つくのは、あなたが弱いからではありません。我慢の前に「組織が対応すべきことかどうか」で線を引き、守られる環境を選んでいきましょう。
よくある質問
2026年10月から、患者さんからのカスハラも対象になるのですか?
対象になる方向です。2026年10月1日施行の改正労働施策総合推進法等により、顧客等からの著しい迷惑行為への雇用管理上の措置が事業主の義務とされます(Source: 厚生労働省「令和7年の労働施策総合推進法等の一部改正について」)。医療機関にとって患者さん・ご家族は「顧客等」にあたるため、患者さん・家族からの著しい迷惑行為についても、病院・施設が組織として対応する義務を負う方向です。具体的な運用は各医療機関の規程と指針によります。
患者さんからの強い訴えは、すべてカスハラになるのですか?
すべてがカスハラになるわけではありません。治療やケアへの質問、説明不足への節度ある申し出、不安や痛みからくる一時的な強い訴えは、受け止めるべき正当な要望です。一方で、暴力や暴力をほのめかす言動、人格を否定する暴言の繰り返し、業務に関係のない私的・性的な言動などは、組織として対応すべき著しい迷惑行為に当たりえます。線引きは指針の考え方に沿って組織で判断するものなので、一人で抱え込まず共有することが大切です。
カスハラを受けたとき、まず何をすればよいですか?
ひとりで抱え込まないことが第一歩です。何があって、どう感じたかを記録に残し、信頼できる先輩・上司・院内の相談窓口・労働組合などに共有してください。記録は、組織が事実確認や対応をするための材料になります。日本看護協会も看護職向けの相談窓口を設けています(Source: 公益社団法人日本看護協会「看護現場におけるハラスメント対策」)。緊急で身の危険がある場合は、無理をせず安全の確保を最優先にしてください。
「対応が悪いあなたが悪い」と言われてしまいます。これは普通ですか?
カスハラを個人の対応力の問題に戻してしまう対応は、2026年10月以降に求められる組織の責務とは方向が異なります。本来は、組織が方針・相談体制・事後対応で職員を守ることが求められます。相談しても個人の問題に戻される状態が続くなら、記録を残したうえで外部の相談窓口に相談する、あるいは職員を守る体制のある職場を知っておく、といった選択肢を持っておくと安心です。
訪問看護で、単独訪問の安全が不安です。
訪問看護師の安全確保のために、位置検索機能・緊急呼び出し機能付きの防犯ブザーや防犯ボタン付き携帯電話などの防犯機器の整備に、地域医療介護総合確保基金による補助が活用できることが案内されています(Source: 厚生労働省「医療現場における暴力・ハラスメント対策について」)。職場がこうした機器や、複数名訪問・連絡体制を整えているかは、安全への姿勢を測る目安になります。整備状況を確認し、不十分なら改善を求めることや、体制の整った職場を検討することも選択肢です。
参考資料


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