在宅・施設の処遇改善が、次の介護報酬改定の議題に正式に乗りました
「訪問看護や介護施設は、病棟より給料が下がるのでは」と迷っている看護師さんに、まず結論からお伝えします。日本看護協会は2026年6月8日、厚生労働省の黒田秀郎老健局長に「令和9年度介護報酬改定に関する要望書」を提出し、要望の第1項目に「在宅・施設領域に従事する看護職員の処遇改善」を掲げました(Source: 日本看護協会「在宅・施設領域の看護職員の処遇改善と看護提供体制の強化を」2026年6月9日)。在宅・施設で働く看護師さんの給料の低さが、業界団体の声として次の改定論議に正式に持ち込まれた、ということです。
ただし、要望はあくまで「議論の出発点」です。すぐに給料が上がるわけではなく、反映されるとしても令和9年度(2027年度)の介護報酬改定からになります。この記事では、要望の中身を正確に押さえた上で、「いつ・何が変わり得るか」と「領域を選ぶ判断材料」に翻訳します。なお、日本看護協会は6月10日に幕張メッセで通常総会を、6月11日には全国職能別交流集会を開催しており(Source: 日本看護協会「通常総会・全国職能別交流集会」)、まさに今週は協会の方針が動く週でもあります。
この記事でわかること
この記事の価値:日本看護協会の老健局長宛要望について、要望4項目と背景データを一次資料から正確に確認し、在宅・施設領域で働く看護師さん・転職を迷う看護師さんの目線に翻訳します。
読むと判断できること:在宅・施設領域の処遇が今後どのタイミングで動き得るか、転職を「待つべきか・動くべきか」を考える材料が手に入ります。
今の職場で確認すること:訪問看護ステーションや介護施設にお勤めなら、処遇改善加算が自分の給与にどう配分されているかを給与明細と職場の説明で確認しましょう。病棟勤務なら、在宅・施設との給与差を本記事の数字で把握できます。
次にできること:いまの自分の年収が在宅・施設領域でどの位置にあるかを給料コンパス(適正年収診断)で確認し、求人を見る前の基準を持てます。
判断材料になる一次情報
要望の中身:4項目すべてが「在宅・施設で働く看護師さん」に直結します
要望書に掲げられた要望事項は、次の4項目です(Source: 日本看護協会「令和9年度介護報酬改定に関する要望書」2026年6月8日)。
- 1. 在宅・施設領域に従事する看護職員の処遇改善(在宅医療・介護施設等での看護に従事する看護職員の処遇改善)
- 2. 看護小規模多機能型居宅介護(看多機)の安定的なサービス提供体制の整備と機能強化(設置推進による療養支援の充実強化/緊急時の短期利用居宅介護の評価の充実/看多機における共生型サービスの推進)
- 3. 訪問看護・介護施設における持続可能な看護提供体制の整備(高齢の在宅療養者を支える訪問看護事業所の機能に対する評価/訪問看護事業所と医療・介護の情報連携に対する評価/介護老人福祉施設における緊急時対応・看取り推進に向けた看護体制の評価)
- 4. 専門性の高い看護師との協働による医療ニーズ対応の充実(専門管理加算の対象サービス・分野の拡大)
注目したいのは、要望の根拠データです。介護サービス事業所の職種別離職率は看護職員が最も高く15.9%で、前年度の15.3%から上昇しています(Source: 日本看護協会要望書、第247回社会保障審議会介護給付費分科会資料に基づく)。また、毎月勤労統計調査(2025年分結果速報)では「医療,福祉」の月間現金給与額は31万7,809円と、全産業平均の35万5,919円を10.7%(3万8,110円)下回っています(Source: 同要望書、厚生労働省「毎月勤労統計調査」に基づく)。
秋山智弥会長は提出の場で「定着のためにも看護職員の処遇改善をお願いしたい」と述べ、黒田老健局長は「介護分野の人材確保は重要だ。物価上昇対策も含めデータに基づき対応していく」と応じています(Source: 同ニュースリリース)。
数字で見る現在地:病院と在宅・施設の給与差
要望書には、就業先別の給与水準の比較も示されています。正規雇用フルタイム勤務者の平均税込給与総額(2025年1月、社会保険料等控除前の総支給額)は次のとおりです(Source: 日本看護協会「2024年度 看護職員の賃金に関する実態調査」)。
| 就業先 | 平均税込給与総額(月額) | 平均年齢 |
|---|
| 病院 | 40万9,436円 | 42.2歳 |
| 訪問看護ステーション | 38万3,262円 | 49.5歳 |
| 介護施設 | 37万3,528円 | 50.7歳 |
病院と介護施設では月額で約3万6,000円の差があります。この構造的な差こそが、要望の第1項目に「処遇改善」が置かれた理由です。訪問看護の処遇改善の経緯と現状は訪問看護の処遇改善2026年版ガイドで詳しく整理しています。
いつ・何が変わり得るか:要望から改定までの流れ
要望が給与に反映されるまでの道のりを、過去の改定の進み方に基づいて整理します。今後の日程は未確定のため、あくまで見通しです。
| 時期 | 何が起きるか |
|---|
| 2026年6月8日 | 日看協が老健局長へ要望書を提出(実施済み) |
| 2026年度中 | 社会保障審議会介護給付費分科会で令和9年度改定に向けた議論(過去の改定の例) |
| 2026年末ごろ | 政府の予算編成過程で改定率が決定(過去の改定の例) |
| 2027年1〜3月ごろ | 諮問・答申、告示・通知(過去の改定の例) |
| 2027年4月 | 令和9年度介護報酬改定の施行(見込み) |
つまり、要望が反映されたとしても、給与への影響が出るのは早くて2027年4月以降です。また、要望は審議会でそのまま採用されるとは限らず、改定率や財源の議論次第で内容が絞られることもあります。一方で、2026年度には介護職員等処遇改善加算の対象に訪問看護ステーション等が新たに含まれた経緯もあり(Source: 同要望書)、在宅・施設領域の処遇を底上げする方向性は続いています。
領域選びの判断材料:病棟から在宅・施設へ移るかどうか
転職を考えるなら、「処遇が動く前提」と「動かない前提」の両方で考えるのが安全です。判断の前に訪問看護・介護施設で働くという選択肢の全体像も合わせてご覧ください。
場所を変えると解決しやすいこと
- 夜勤中心の生活リズムから、日勤中心の働き方への転換(訪問看護・施設の多くは夜勤がないかオンコール対応)
- 一人ひとりの利用者さんとじっくり関わる看護がしたい、という希望
- 在宅・施設領域は2040年に向けて需要拡大が見込まれており(Source: 同要望書)、長期的なキャリアの選択肢が広がること
場所を変えても解決しにくいこと
- 給与水準そのもの:現時点では在宅・施設の平均給与は病院より低く、転職で月収が下がる可能性があります。要望で将来は変わり得ますが、確定ではありません
- 人員の薄さからくる責任の重さ:訪問看護は単独訪問が基本で、施設は夜間に看護師が不在の場合もあります
- 職場ごとの労務管理の質:処遇改善加算の配分やオンコール手当の水準は事業所で大きく異なります
訪問看護へ移る場合の具体的な準備と職場の見極め方は、訪問看護への転職ガイドで手順を解説しています。
まとめ
日本看護協会は2026年6月8日、厚生労働省老健局長へ令和9年度介護報酬改定に関する要望書を提出し、在宅・施設領域の看護職員の処遇改善を第1項目に掲げました。背景には、介護サービス事業所で看護職員の離職率が最も高い(15.9%)こと、在宅・施設の給与が病院より低いことがあります。反映されるとすれば2027年4月の改定からで、内容は今後の審議次第です。「処遇は改善方向にあるが確定ではない」前提で、まず自分の年収の立ち位置を確認するところから始めましょう。
よくある質問
要望が出ると、すぐに給料は上がりますか?
すぐには上がりません。要望は令和9年度(2027年度)介護報酬改定に向けたもので、過去の改定の流れでは2027年4月の施行が見込まれます。要望内容がそのまま採用されるとは限らない点にもご注意ください。
在宅・施設に移るなら、改定を待った方がいいですか?
一概には言えません。処遇を最優先するなら改定内容を見てから動く選択もありますが、働き方の転換(夜勤からの離脱など)が主目的なら、待つ理由は小さいでしょう。いまのうちに自分の適正年収を把握しておくと、どちらに転んでも判断しやすくなります。
病棟と訪問看護・介護施設では、給料はどのくらい違いますか?
日本看護協会の2024年度賃金実態調査では、月額の平均税込給与総額は病院40万9,436円、訪問看護ステーション38万3,262円、介護施設37万3,528円です。平均年齢や夜勤の有無が異なるため、個別の求人では条件をよく確認してください。
5月28日にも日看協の要望がありましたが、今回と何が違うのですか?
5月28日の要望は厚生労働大臣宛で、看護職全体の処遇改善や教育体制の強化を求めたものです(Source: 日本看護協会ニュースリリース2026年5月28日)。今回の6月9日公表分は老健局長宛で、令和9年度介護報酬改定に向けて在宅・介護施設領域に特化した要望という違いがあります。
参考資料


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