病院で働いていて、「この建物は大きな地震のときに大丈夫なのか」と気になったことがある看護師さん、そして転職先の病院を選ぶときに建物のことまで見ておきたい看護師さんに向けた記事です。
厚生労働省は令和8年9月18日、全国の病院の耐震改修状況調査の結果を公表しました。耐震化率は82.1%です。ただし、どの病院がどの区分に当たるのかは、資料のどこにも書かれていません。つまり、全国の数字をいくら眺めても、自分の勤務先がどの区分に入るのかは分かりません。
この記事を読み終えると、公表された数字が何を数えたものなのかを読み違えずに説明でき、自分の職場について「何を・誰に・どの順で」確かめればよいかが決められます。結論を先に書くと、確かめる対象は病院全体ではなく自分の病棟が入っている棟です。
結論:82.1%は病院単位の数字で、確かめるのは自分の棟
公表資料の耐震化率は、注記で「全ての建物に耐震性のある病院数を回答病院数で除したもの」と定義されています。病院を1つの単位として数えているので、同じ敷地に新しい棟と古い棟が並んでいる病院は、古い棟の状態しだいで区分が変わります。
看護師にとって意味があるのは、勤務時間の大半を過ごす棟がどういう状態かです。そこで本記事では、数字の読み方を押さえたうえで、次の順番で確認することを提案します。
- 自分の病棟がある棟は、昭和56年以前の建築かどうか
- 昭和56年以前なら、耐震診断は実施済みか、結果はどうだったか
- 病院全体では棟がいくつあり、外来・手術室・検査部門はどの棟にあるか
- 災害時の参集ルール、患者の避難手順、夜勤帯の人数での初動は決まっているか
- 転職を考えているなら、見学で同じことを聞けるか
公表された数字を4区分で読む
調査の対象は医療法第1条の5に規定する病院で、調査病院数8,030に対して回答も8,030、回答率は100.0%です。診療所は対象に入っていません。結果は次の4区分で集計されています。
| 区分 | 令和7年調査 | 構成比 | 令和5年調査 |
|---|
| 全ての建物に耐震性がある(A) | 6,596病院 | 82.1% | 6,552病院(80.5%) |
| 一部の建物に耐震性がある(B) | 500病院 | 6.2% | 543病院(6.7%) |
| 全ての建物に耐震性がない(C) | 285病院 | 3.5% | 106病院(1.3%) |
| 建物の耐震性が不明=耐震診断を実施していない(D) | 649病院 | 8.1% | 942病院(11.6%) |
| 合計(回答病院数) | 8,030病院 | — | 8,143病院 |
4区分を足すと6,596+500+285+649=8,030で、回答病院数と一致します。構成比は公表資料の推移表に載っている値で、四捨五入の関係で足しても100.0%ちょうどにはなりません。推移表には令和6年調査の行がなく、前回として比べられているのは令和5年調査です。
区分Cの前提になる「耐震性がない建物」には、別紙の注で条件が2つ付いています。建築が昭和56年以前であること、そして耐震診断の結果がIs値0.6未満であることです。Is値0.6未満について資料は「震度6強程度の地震により倒壊又は崩壊する危険性がある」と添えています。
災害拠点病院と救命救急センターの数字はどうか
地震のときに医療の拠点となる災害拠点病院と救命救急センターは、783病院すべてが回答しています。全ての建物に耐震性があるのは761病院で、耐震化率は97.2%(令和5年調査は96.0%)です。残りは、一部の建物に耐震性がある病院が20、全ての建物に耐震性がない病院が2、不明は0でした。
推移表を見ると、この区分の「全ての建物に耐震性がない」は平成28年調査から令和5年調査まで0が続いており、今回2になりました。理由は公表資料に記載がありません。
調査時点と公表日はどういう関係か
時期については、資料の中に2つの書き方があります。結果のPDFは調査時点を「令和7年9月1日」とし、報道発表ページのほうは、令和7年10月に各都道府県へ調査を行って取りまとめた、という趣旨の説明をしています。本記事では両方をそのまま紹介します。
公表は令和8年9月18日で、令和8年熊本地震の後です。ただし、数字が示しているのは令和7年9月1日時点の状態です。今年の地震の前に集計された数字なので、地震による建物への影響はこの調査に反映されていません。
読み違えやすい5つの点
82.1%に一部耐震の病院は含まれているのか
含まれていません。82.1%は区分Aだけの割合です。区分Bの500病院は、耐震性のある建物を持っていても耐震化率には数えられません。編集部でAとBを足すと7,096病院で、回答病院の88.4%になります。逆に言えば、「耐震化されていない17.9%の病院は建物が全部古い」という読み方も誤りです。Bの病院で残りの建物がどういう状態なのか、その内訳は公表資料にありません。
「不明」は危険という意味なのか
違います。区分Dの見出しは「建物の耐震性が不明である病院数(耐震診断を実施していない病院数)」です。中身は推移表の注3で説明されています。昭和56年以前に建てた建物のうち、耐震診断をまだ受けていないものが1棟でも残っている病院が、平成25年調査以降この区分に入ります。耐震性があるともないとも判定されていない、という状態です。安全とも危険とも、この資料からは言えません。
注3はこの整理のきっかけとして法改正を挙げています。注3の書き方に従うと、耐震改修促進法(建築物の耐震改修の促進に関する法律)の改正で診断が義務になったのは「階数3かつ床面積5,000㎡以上の病院」です。
「耐震性なし」が106から285に増えたのはなぜか
公表資料に理由の記載はありません。数字として確認できるのは、令和5年調査から令和7年調査にかけて、不明が942から649へ293減り、全て耐震性なしが106から285へ179増え、回答病院数が8,143から8,030へ113減った、という事実までです。「診断が進んだ結果、不明から耐震性なしに移った」と説明したくなりますが、区分間の移動を示すデータは載っていないので、本記事では断定しません。
耐震化率が低い県は危ないのか
県別の率は、その県で働くことの危険度を示す数字ではありません。率は病院の数の割合で、病床数や職員数で重みづけされていません。また、率が低い県でも過半の病院は区分Aです。勤務先がどの区分かは、県の率からは分かりません。
耐震性があれば医療は続けられるのか
この調査が集計しているのは建物の耐震性の区分だけです。定義が扱っているのは倒壊や崩壊の危険性で、停電時の電源、給水、医療機器や棚の固定、エレベーターが止まったときの搬送といった項目は調査結果にありません。建物が区分Aでも、病棟の初動手順は別に確認する必要があります。
都道府県別の数字と、自分の県の探し方
都道府県ごとの病院数は、結果PDFの3頁に47行の表で載っています。編集部で全47行を読み取り、各県の内訳の合計が回答病院数と合うこと、47県の合計が全国値(6,596・500・285・649)と一致することを確かめたうえで、率の順に並べ替えました。
| 順 | 耐震化率が高い県 | 耐震化率が低い県 |
|---|
| 1 | 島根 95.7%(46病院中44) | 福島 69.0%(126病院中87) |
| 2 | 富山 95.1%(103病院中98) | 京都 72.0%(161病院中116) |
| 3 | 山形 93.9%(66病院中62) | 長崎 76.6%(141病院中108) |
| 4 | 静岡 92.8%(167病院中155) | 兵庫 77.0%(344病院中265) |
| 5 | 秋田 92.2%(64病院中59) | 山口 77.2%(136病院中105) |
90%以上は8県、80%未満は12道府県でした。熊本県は83.8%(198病院中166)ですが、これも令和7年9月1日時点の数字です。
この表を読むときに、率と件数を分けて見ることをおすすめします。たとえば東京都の耐震化率は82.3%で全国値をわずかに上回りますが、病院数が632と多いため、全て耐震性なしが30病院、不明が58病院あります。不明の病院数がいちばん多いのは北海道の69病院です。一方、島根県は46病院と分母が小さく、1病院の区分が変わるだけで率が約2ポイント動きます。率だけで県どうしを比べても、自分の職場の判断材料にはなりません。
自分の県を探すときは、参考資料に挙げた結果PDFを開き、3頁「(3)都道府県別の病院の耐震化の状況」で県名の行を見ます。左から調査病院数、回答病院数、A、B、C、D、耐震化率の順に並んでいます。4頁には災害拠点病院と救命救急センターだけの県別表があり、47都道府県のうち31道府県が100.0%です。
自分の職場について確認する順番
ここからが本題です。病院名が公表されていない以上、勤務先のことは院内で確かめるしかありません。聞きやすく、答えが事実で返ってくる項目から順に並べました。
| 順番 | 確認すること | 誰に・何で確認するか | 分かること |
|---|
| 1 | 自分の病棟がある棟の建築年は昭和56年以前か | 総務・施設課、病院の沿革や施設概要 | 公表資料の定義上、「耐震性がない」「不明」の対象になり得る建物かどうか |
| 2 | 昭和56年以前の棟なら、耐震診断は実施済みか。結果と、改修や建て替えの予定 | 総務・施設課、防災担当 | 勤務先が4区分のどれに近いか |
| 3 | 病院にある棟の数と、外来・手術室・検査・透析・厨房などがどの棟にあるか | 院内の配置図、防災担当 | 自分の棟が新しくても、患者の移動先や応援先が古い棟にないか |
| 4 | 地震時の参集ルール(震度いくつで、誰が、どうやって集まるか) | 災害対策マニュアル、師長 | 休日や自宅にいるときの自分の動き方 |
| 5 | 患者の避難手順(歩ける人、介助が要る人、ベッドのまま運ぶ人の区別と避難先) | 災害対策マニュアル、病棟の防災係 | 自分の病棟で最初に動かす患者と経路 |
| 6 | 夜勤帯の人数での初動(最初の10分で誰が何をするか、応援はどこから来るか) | 師長、夜勤リーダー、防災訓練の記録 | 人数が最も少ない時間帯に手順が成り立つか |
| 7 | 直近の防災訓練は夜間想定で行われたか、自分は参加したか | 防災担当、病棟の防災係 | マニュアルが実際に試されているか |
1と2は建物の話、3は病院の構造の話、4から7は人の動きの話です。建物について明確な答えが得られなくても、4以降は今日からでも確認できます。逆に、建物が新しいと分かっても4以降を省く理由にはなりません。
誰に、どう聞けばよいか
建物のことを師長にいきなり尋ねても、師長自身が知らないことがあります。聞く相手を分けると話が早く進みます。
- 師長:病棟の災害時役割分担、夜勤帯の初動、参集ルールの運用。建物については「どこに聞けば分かりますか」と窓口を尋ねる
- 防災担当(防災委員会、災害対策委員会など):災害対策マニュアルの最新版、訓練の実施記録、棟ごとの避難先
- 総務・施設課:建築年、耐震診断の実施状況、改修や建て替えの計画
- 災害対策マニュアル:上の回答を文書で確かめるもの。口頭の説明とマニュアルの記載が食い違っていたら、どちらが現行かを防災担当に確認する
聞き方は、不安をぶつける形よりも、業務上の確認にするほうが答えが返ってきやすくなります。「夜勤のときの避難経路を確認したいので、この棟の建築年と耐震診断の状況を教えてもらえますか」と、目的を先に伝える言い方です。回答が「分からない」「診断していない」だった場合、それは公表資料の区分でいう「不明」に当たる可能性がある、という情報になります。そこで職場を見切るのではなく、診断や改修の予定があるかを続けて聞きます。
病院側がこの調査結果を受けて何を点検するかは、法人向けの記事「病院の耐震化率82.1%と院内で確認すること」にまとめています。師長や防災係の立場で院内に提案するときの材料になります。
転職や見学のときに聞く質問
転職先を探している場合も、建物の話は求人票にまず載っていません。見学や面接で、次の質問を用意しておくと比較ができます。
| 質問 | 聞く理由 |
|---|
| 配属予定の病棟がある棟は、いつ建てられましたか | 昭和56年以前かどうかが、公表資料の定義の分かれ目になるため |
| 昭和56年以前の棟がある場合、耐震診断は済んでいますか。改修や建て替えの予定はありますか | 「不明」のままなのか、計画があるのかで意味が変わるため |
| 建物の構造(耐震、免震など)と、非常用電源で動く範囲を教えてください | 建物が持ちこたえた後、病棟の業務がどこまで続けられるかを知るため |
| 夜勤は何人体制で、夜間想定の防災訓練はいつ行いましたか | 人数が少ない時間帯の初動が具体的に決まっているかを見るため |
| 災害時の参集ルールと、参集できないときの扱いはどうなっていますか | 子育てや介護、通勤距離と両立できるかを判断するため |
答えの内容と同じくらい、答え方も判断材料になります。担当者がその場で答えられなくても、後日きちんと回答が返ってくる病院は、防災の情報が院内で管理されていると考えられます。なお、建物が古いことだけを理由に候補から外す必要はありません。給与、夜勤回数、通勤、教育体制と並べて、条件のひとつとして比べてください。
災害が起きた後の給与や雇用の扱いは、建物とは別の確認事項です。「被災した病院が休業したら給料はどうなるか」で確認する順番を整理しています。地震に限らず、災害時に出勤するかどうかの考え方は「台風の日の出勤ルールと判断軸」も参考になります。
よくある質問
自分の病院がどの区分に入っているかは調べられますか?
今回の公表資料では調べられません。資料が示すのは全国集計と47都道府県の集計で、病院ごとの区分の一覧は付いていません。勤務先については、前の章の確認表のとおり、総務・施設課や防災担当に建築年と耐震診断の状況を尋ねるのが確実です。
勤務先が「不明」や「耐震性なし」に当たりそうなら、辞めたほうがよいですか?
すぐに結論を出す必要はありません。まず、対象の建物が自分の病棟の棟なのか別の棟なのか、診断や改修、建て替えの予定があるのかを確認します。そのうえで、夜勤帯の初動や避難手順が具体的に決まっているかを見ます。予定も手順も示されず、尋ねても回答が得られない状態が続くときに、異動や転職を選択肢に入れて考える、という順番で十分です。
災害拠点病院で働いていれば心配はいりませんか?
災害拠点病院と救命救急センターの耐震化率は97.2%で、全病院より高い水準です。それでも、一部の建物に耐震性がある病院が20、全ての建物に耐震性がない病院が2あります。また、災害拠点病院は地震のときに患者を受け入れる側になるので、参集や受け入れの手順を確認しておく意味はむしろ大きくなります。
夜勤中に地震が起きたときの動きは、何を見れば分かりますか?
災害対策マニュアルの夜間・休日の章と、病棟のアクションカード(役割ごとの行動手順を書いたカード)があるかを確認します。どちらも見当たらない場合は、師長か防災担当に、夜勤の人数で最初に何をするかが文書になっているかを尋ねてください。
まとめ:数字を見たら、次は自分の棟を調べる
今回の調査で分かったのは、令和7年9月1日時点で、全ての建物に耐震性がある病院が8,030病院中6,596病院(82.1%)、一部に耐震性がある病院が500、全ての建物に耐震性がない病院が285、耐震診断を実施しておらず不明の病院が649ある、ということです。病院名は公表されていないので、この数字は自分の職場を調べるきっかけとして使います。
最初の一歩は、自分の病棟がある棟の建築年を施設課に聞くことと、災害対策マニュアルの夜間の章を読むことの2つです。確認した結果をどう受け止めればよいか、師長への切り出し方に迷うときは、カンゴさんに相談して、聞きたいことを整理してから動くこともできます。
参考資料
未確認の事項:個別の病院がどの区分に入るか、区分Bの病院で耐震性のない建物や未診断の建物がどれだけあるか、令和5年調査から「全ての建物に耐震性がない」病院が増えた理由は、いずれも公表資料に記載がありません。病院の耐震改修に関する補助制度の要件、自治体による耐震診断結果の公表の有無、令和8年熊本地震による病院建物への影響は、本記事では確認しておらず、扱っていません。
最終確認日:2026年9月19日。本記事の数値は令和7年9月1日時点の調査結果で、その後の改修・建て替え・診断の進み具合は反映されていません。勤務先の建物の状態は、必ず院内の担当部署で確認してください。
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