転院や受診のために病院所有の車両へ同乗するよう急に頼まれたとき、看護師が一人で「何を持っていくか」「どこまで判断するか」を背負う状態は安全とはいえません。出発前に必要なのは、運転者、患者観察、急変時連絡、交通事故時対応、到着先への引継ぎを職場の手順で分けることです。
日本病院会は2026年9月15日、「病院救急車に係わる提言」を公表しました。同会の調査結果として、安全運転の指導者が置かれている施設は34.2%、事故発生時の対応マニュアルを準備している施設は48.5%、院外へ教育を委託している施設は18.7%と示しています。
ただし、3ページの提言には調査の回答数・回収率・施設属性が載っていません。これらは全国すべての病院の割合ではなく、日本病院会が提言の根拠に示した調査結果です。この記事も、看護師の同乗を義務としたり、個別の搬送可否を判断したりするものではありません。
病院救急車と消防救急車を同じものとして考えない
日本病院会の提言は、病院救急車を、患者の上り搬送、下り搬送、病院間の水平搬送などに使われる病院所有の搬送手段として扱っています。消防機関の救急車と同じ制度、権限、運用だとは書かれていません。
提言では、転院搬送に占める75歳以上の割合を、上り搬送63.3%、下り搬送82.9%、水平搬送73.4%としています。また、医師が同乗しない搬送でも、病院勤務の救急救命士や看護師が搬送を支えている実態に触れています。これも「すべての搬送に看護師が必要」という意味ではありません。患者の状態、車両の位置づけ、院内規程、指示系統に応じた判断が必要です。
出発前に7項目を声に出して確認する
病院ごとの規程や指示を優先したうえで、少なくとも次を関係者で共有します。
| 確認項目 | 出発前に決めること |
|---|
| 搬送の位置づけ | 転院、受診、退院などの目的と、緊急性 |
| 患者の状態 | 観察項目、安静度、酸素・点滴等、急変リスク |
| 同乗者の役割 | 運転、観察、記録、連絡、家族対応を誰が担うか |
| 携行物 | 指示書、診療情報、連絡先、必要な物品・電源・残量 |
| 急変時 | どの状態で停車・要請し、誰へ何を連絡するか |
| 交通事故時 | 患者安全の確保、通報、院内連絡、記録の順序 |
| 到着後 | 誰へ何を引き継ぎ、帰院後に何を報告するか |
持参物や対応をこの記事だけで決めないでください。車両内で使用できる機器、医師の指示、搬送先の受入条件は施設ごと・患者ごとに異なります。
搬送中の観察と運転を一人に重ねない
看護師が運転と患者観察の両方を任される運用では、走行中にできることが限られます。運転者と同乗者の分担、乗車位置、シートベルトや固定、機器の固定、会話・連絡の方法を手順に落とします。
看護師側では、出発時の状態、搬送中の変化、行った連絡、到着時の状態を時系列で残せる様式があるかを確認します。電子カルテへ帰院後に記録する場合も、一時メモに患者情報をどう扱うかは院内の情報管理ルールに従います。私物端末への保存や撮影を本人判断で行わないでください。
急変と交通事故は別の手順にする
搬送中の患者急変と、車両の交通事故では、必要な通報・連絡・記録が異なります。1つの「緊急時対応」にまとめると、誰がどこへ連絡するかが曖昧になりやすくなります。
- 患者急変:観察、停車判断、救援要請、医師・搬送先への連絡
- 交通事故:二次事故防止、患者・同乗者の安全確認、通報、院内報告
- 機器トラブル:電源・残量・予備手段、継続可否の連絡
- 搬送先で受入不能:待機場所、患者観察、代替先を決める権限
事故時マニュアルの有無だけでなく、夜間・休日にも連絡がつながるか、実地または机上訓練を行ったかまで確認します。
研修は運転者だけの課題ではない
日本病院会は、安全運用指針の作成と、その指針に基づく研修を提言しています。安全運転の技術に加え、同乗者には患者固定、観察、急変時の連携、事故後の報告、搬送先への引継ぎが関わります。
職場へ相談するときは、「不安です」だけで終わらせず、次のように不足を特定すると改善につながりやすくなります。
- 自分が最後に搬送訓練を受けた日
- 現行マニュアルの版と保管場所
- 夜間に連絡できる責任者
- 実際の車両・物品で確認していない操作
- 過去のヒヤリハットと、手順へ反映された内容
安全上の懸念は、まず所属部署の責任者、医療安全部門、搬送を管理する部門へ共有してください。インシデントを報告できる職場かを見分けるガイドも、相談内容を整理する材料になります。患者を特定できる情報は個人端末や外部サービスへ入力しないでください。
この記事の確認範囲
- 原典公表日:2026年9月15日
- 最終確認日:2026年9月19日
- 確認済み:日本病院会の提言本文3ページと、同資料に記載された数値・要望
- 未確認:調査の回答数、回収率、施設属性、個別施設の規程、現行の補助制度
- 本文の確認表:原典の義務一覧ではなく、編集部が搬送業務を整理するために作成したもの
参考資料
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