保健師の働き方の「国の設計図」が約13年ぶりに全部改正されました
厚生労働省は2026年(令和8年)5月15日付けで、自治体で働く保健師の活動の基本を定めた通知「地域における保健師の保健活動について」(健生発0515第1号)を全部改正しました(Source: 厚生労働省「地域における保健師の保健活動について」健生発0515第1号)。前回の通知は2013年(平成25年)4月19日付けで、約13年ぶりの全面的な見直しです。日本看護協会の保健師ページでも、この改正が案内されています(Source: 日本看護協会「保健師に関する情報」)。
結論からお伝えすると、この改正で保健師さんの日々の仕事が急に変わるわけではありません。基本的な方向性(地域診断、予防的介入、地区活動など10項目)は維持されています。一方で、(1)市町村を人口構造で「A類型・B類型」に分けた、(2)「保健師のマネジメント」の章が新設され、統括保健師を事務分掌に明記し権限のある職位に充てるよう求めた、(3)退職後の保健師や非常勤を含む多様な採用・雇用形態での人材確保を明記した、という3点は、現役保健師さんのキャリアと、保健師を目指す看護師さんの「どの自治体を選ぶか」に直結する変化です。
この記事でわかること
この記事の価値:改正通知の本文と新旧対照表(厚生労働省公表)を直接確認し、確認できた範囲の改正点だけを原文ベースで整理しています。
読むと判断できること:保健師活動指針がそもそも何か、今回の改正が保健師の配属・キャリア・採用にどう効くかを判断できます。
今の職場で確認すること:現役保健師さんは、自治体で統括保健師が事務分掌に明記されているか、体制整備の動きがあるかを確認してください。
次にできること:通知本文と新旧対照表を自分の目で確認し、転職を考える場合は後述のチェックリストで応募先を見比べることです。
判断材料になる一次情報
そもそも保健師活動指針とは?保健師の働き方にどう効くか
「地域における保健師の保健活動について」は、地域保健法と「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」のもとで、都道府県・市町村で働く保健師の活動の基本的な方向性を国が示す通知です。別紙として「地域における保健師の保健活動に関する指針」が付いており、今回の改正後は「第一 保健師の保健活動の基本的な方向性」「第二 活動部署に応じた保健活動の推進」「第三 保健師のマネジメント」という三部構成になりました(Source: 厚生労働省「地域における保健師の保健活動について」健生発0515第1号)。
法的には地方自治法第245条の4に基づく「技術的助言」で、自治体を直接拘束するものではありません。ただし実務では、保健師の配置・研修体制・地区担当制などを自治体が整備する際の根拠として広く参照されるため、保健師さんの配属や育成のされ方に長期的に効いてくる文書です。
注意したいのは、この通知が直接対象とするのは自治体(行政)の保健師だという点です。保健師の活動領域は大きく分けると次の通りで、産業保健師・学校保健師は「職域保健」「学校保健」として連携先の位置づけで登場します。
| 活動領域 | 主な勤務先 | 主な仕事の例 | 今回の通知との関係 |
|---|
| 行政保健師 | 都道府県(本庁・保健所)、市町村(本庁・保健センター) | 地区活動、健康相談・健診、母子保健、精神保健、感染症・難病対応、計画策定、健康危機管理 | 直接の対象(中心) |
| 産業保健師 | 企業の健康管理部門、健康保険組合など | 従業員の健康管理、保健指導、メンタルヘルス支援 | 直接の対象外(連携先として記載) |
| 学校保健師 | 大学などの保健室・健康管理センター | 学生・教職員の健康管理、健康相談 | 直接の対象外(連携先として記載) |
なお、小中高の保健室で働く「養護教諭」は教員免許に基づく別の職種で、保健師免許とは制度が異なります。
今回の改正ポイント(新旧対照表で確認できた範囲)
新旧対照表で確認できた主な変更点は次の通りです。
| 項目 | 改正前(2013年通知) | 改正後(2026年通知) |
|---|
| 第二の構成 | 「活動領域に応じた」保健活動の推進 | 「活動部署に応じた」推進へ再編(本庁・保健所等・市町村保健センター等の部署別に整理) |
| 市町村の捉え方 | 一律 | 高齢人口が増え生産年齢人口が減る「A類型」と、両方が減る「B類型」に大別して活動のあり方を提示 |
| 統括保健師 | 組織横断的に総合調整する部署への保健師配置に「努める」 | 「第三 保健師のマネジメント」を新設。統括保健師を事務分掌に明記し、一定の権限を有する職位・役職に充てるよう求める。統括保健師補佐の配置も新設 |
| 保健所 | 規定なし | 保健所長を補佐する「総合的なマネジメントを担う保健師」を各保健所に配置 |
| 人材確保 | 計画的かつ継続的な確保 | 退職後の保健師や非常勤を含む多様な採用・雇用形態の活用、学生実習・インターンシップでの魅力発信を明記 |
| 業務の進め方 | — | 業務の簡素化やICTの活用、関係部門とのデータ連携を明記 |
(Source: 厚生労働省「地域における保健師の保健活動について」新旧対照表)
背景には、「2040年を見据えた保健師活動のあり方に関する検討会」が2026年2月18日に取りまとめた報告があります。人口構造の変化の中で、保健師の確保・育成と持続可能な保健活動をどう両立するかが改正の軸です(Source: 厚生労働省「地域における保健師の保健活動について」健生発0515第1号)。
統括保健師については、都道府県では複数部署での業務経験、市町村等への出向経験、災害派遣経験、国立保健医療科学院の公衆衛生看護研修(統括保健師等)の修了が「望ましい」と要件像も示され、キャリアの到達点が通知レベルでより明確になりました。
保健師への転職を考える看護師さんは、ここを確認してください
同じ「保健師募集」でも、自治体の規模や類型によって働き方とキャリアの描き方は大きく違います。応募前に次の点を確認してください。
- 応募先が都道府県か、保健所設置市・特別区か、一般の市町村か(担う業務の範囲が異なります)
- 募集要項の配属先(本庁・保健所・保健センター)と、異動の範囲
- 地区担当制か業務分担制か、地区活動にどれだけ出られるか
- 統括保健師が事務分掌に位置づけられているか(キャリアパスの整備度の目安になります)
- 新任期の研修体制(通知は「新人看護職員研修ガイドライン~保健師編~」等に基づく研修体制の整備を求めています)
- 正規採用か会計年度任用職員(非常勤)か、中途採用枠の年齢要件
- 災害時・健康危機発生時の応援派遣体制
人口減少が進む小規模自治体(B類型に近い自治体)では、少人数の保健師に幅広い実践とマネジメントの両方が期待されます。「幅広く任されたい」のか「専門分野を深めたい」のかで、合う自治体は変わります。
また、行政保健師は地方公務員のため給与体系が勤務先の条例で決まり、夜勤手当がなくなる分、病棟勤務より年収が下がる場合もあれば、長期的には安定する場合もあります。転職した場合の年収の立ち位置は、看護師の適正年収診断「給料コンパス」で現在の給与と比べながら確認してみてください。病院内でのキャリアアップと迷っている看護師さんは、認定看護師・専門看護師の資格ガイドと並べて検討すると、進む方向を整理しやすくなります。
場所を変えると解決しやすいこと
夜勤・オンコールから離れた生活リズム、予防に軸足を置いた仕事への転換、地域や行政の仕組みに関わる経験は、保健師への転職で得やすい変化です。とくに今回の通知が多様な採用・雇用形態を明記したことで、看護師経験者の中途採用の門戸は制度上広がる方向にあります。
場所を変えても解決しにくいこと
人間関係の悩みや業務量への不安は、職場が変われば自動的に解決するものではありません。行政保健師も計画策定・調整業務・健康危機対応など負荷の高い仕事があり、自治体によっては一人で複数分野を担います。「看護師がつらいから」だけで決めず、保健師の仕事内容そのものに関心が持てるかを先に確かめてください。実際に転職した人の体験談は看護師掲示板でも聞いてみることができます。
まとめ
保健師活動指針が約13年ぶりに全部改正され、統括保健師の位置づけ強化、市町村のA・B類型化、多様な採用形態の明記など、保健師のキャリアと採用の前提が更新されました。現役保健師さんは自分の自治体の体制整備を、転職を考える看護師さんは応募先の配属・研修・キャリアパスを、通知の原文と新旧対照表で確認しておくと判断を誤りにくくなります。
よくある質問
看護師から保健師になるには何が必要ですか?
保健師は保健師助産師看護師法に基づく国家資格で、保健師免許の取得には保健師国家試験と看護師国家試験の両方への合格が必要です(Source: 保健師助産師看護師法)。すでに看護師免許を持っている場合は、指定された保健師養成課程(1年制の専攻科・別科や大学院など)を修了して保健師国家試験に合格するルートが一般的です。行政保健師として働くには、さらに自治体の採用試験に合格する必要があります。
保健師に転職すると給料は下がりますか?
一概には言えません。行政保健師は地方公務員のため給与は自治体の条例で決まり、夜勤手当がなくなる分、夜勤の多い病棟看護師より当初の年収が下がる例は珍しくありません。応募前に募集要項の初任給格付けと経験加算を確認し、給料コンパスで今の年収の立ち位置と比べて判断してください。
今回の改正で保健師の仕事は増えますか?
通知は新しい業務を一律に追加するものではなく、効果的・効率的で持続可能な保健活動への重点化を求めるもので、業務の簡素化やICTの活用も明記されています(Source: 厚生労働省「地域における保健師の保健活動について」健生発0515第1号)。ただし体制整備は各自治体の判断で進むため、職場での実際の変化は所属自治体の動きを確認する必要があります。
統括保健師とはどんな役割ですか?
自治体内に分散配置された保健師全体を取りまとめる保健師で、保健活動の組織横断的な総合調整、人材確保、人材育成、健康危機管理体制の整備で中核的な役割を担うとされています。今回の改正で、事務分掌への明記と一定の権限を有する職位・役職に充てることが求められ、統括保健師補佐の配置も新たに盛り込まれました(Source: 厚生労働省「地域における保健師の保健活動について」健生発0515第1号)。
参考資料


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