結論:比べる相手は「平均」ではなく「公表されている分位数」です
「看護師の平均年収は約500万円」と比べて、自分が高いか低いかを判断していませんか。実はこの比べ方では、適正かどうかは分かりません。年収は地域・経験・夜勤・施設で大きく変わるため、条件の違う人の平均と比べても意味が薄いからです。
この記事を読むと、次のことができるようになります。
- 正しい適正年収診断のやり方(条件をそろえて自分の位置を知る手順)
- 結果の読み方(公表分位数との突き合わせ方)
- 診断結果を給与交渉や転職にどう活かすか
- よくある勘違いを避けるための注意点
自分の給料の位置を知る出発点は、公表されている分位数の目盛りに自分を置いてみることです。看護師については、月額の所定内給与の中位数と四分位数が実際に公表されています(令和7年賃金構造基本統計調査・職種第17表)。
ただし先に断っておきます。 この分位数は全国・企業規模計をひとまとめにした分布であって、「あなたと同じ地域・経験・施設の人の中での位置」ではありません。地域別や経験別に分けた分位数は公表されていないからです。「全国の看護師全体の中で、自分の所定内給与がどのあたりか」——分かるのはそこまでだと理解したうえで使ってください。
順序としては、まずこの目盛りに自分を当ててから、条件ごとの整理に給料コンパスの適正年収診断を補助として使うのがおすすめです。
1. なぜ「平均との比較」ではダメなのか
年収の指標には3つあります。違いを押さえましょう。
- 平均値:全員の年収を足して人数で割った値。一部の高年収(管理職・夜勤多め)に引っ張られ、実感より高く出やすい。
- 中央値:行列の真ん中に立つ人の額。外れ値の影響を受けにくいのが特徴です。
- 分位数:全員を金額の低い順に並べ、等分する目盛りのこと。中位数は行列のちょうど中央にいる人、第1・四分位数は先頭から4分の1、第3・四分位数は後ろから4分の1の位置にいる人の額です。
たとえば「平均500万円」に対し自分が470万円だと「低い」と感じますが、あなたと同じ地域・経験・施設・夜勤なしの条件で見れば、470万円は上位かもしれません。平均はあくまで全体の話。自分の条件の分布の中での位置こそが適正年収の本質です。
2. 診断の手順(無料・登録不要)
給料コンパスの適正年収診断は、次の項目を選ぶだけです。各項目が年収にどう効くかも添えます。
- 地域(都道府県):都道府県別第3表に実数があります。年収換算で最高は滋賀585万3,400円、最低は高知434万8,300円、全国は524万7,200円です。
- 経験年数:(職種)第14表の実数では、経験0年の年収換算345万2,500円に対し15年以上は531万900円。差は185万8,400円です。
- 施設形態:病院・診療所・訪問看護ステーション・介護系サービスなど。日本看護協会の調査では、非管理職の税込給与総額(月)が病院382,093円(回答1,427人・平均38.2歳)、診療所350,857円(35人・43.8歳)、訪問看護ステーション347,181円(328人・47.0歳)。平均年齢が最大9歳近く違うため、この差を「施設による差」として読むことはできません。
- 夜勤回数:夜勤手当の全国平均は二交代1回11,470円。月4回なら年55万560円が乗ります。
- 病床規模:勤続10年・31〜32歳・非管理職のモデル賃金で、500床以上の税込377,957円に対し99床以下は325,951円。診療科別の賃金は全国調査が存在しません。
- 役職:病院勤務で比べると、非管理職のスタッフ層が529万9,796円、主任・副看護師長相当が631万4,987円です。なお資格手当の相場を全国規模で示した調査は見当たりません。
- (任意)今の年収:入力すると、条件をそろえた整理結果が出ます。ただし診断が返す条件ごとの水準は編集部が置いた目安で、統計に載っている分布そのものではない点にご注意ください。
ポイントは、できるだけ正確に今の条件を選ぶこと。曖昧に選ぶと結果もぼやけます。
公表されている5つの目盛り(全国・企業規模計)
| 区分 | 所定内給与額(月額) |
|---|
| 第9・十分位数 | 431,900円 |
| 第3・四分位数 | 376,700円 |
| 中位数 | 321,500円 |
| 第1・四分位数 | 278,800円 |
| 第1・十分位数 | 250,700円 |
企業規模1,000人以上に限った分位数も公表されており、こちらは全体より上にシフトします。
| 区分 | 所定内給与額(月額・1,000人以上) |
|---|
| 第9・十分位数 | 438,700円 |
| 第3・四分位数 | 386,100円 |
| 中位数 | 334,200円 |
| 第1・四分位数 | 289,600円 |
| 第1・十分位数 | 260,800円 |
給与明細のどこを当てるかも、統計の定義どおりに決めておきます。
賃金構造基本統計調査の「きまって支給する現金給与額」は、あらかじめ定められた支給条件と算定方法で支払われた現金給与のこと。基本給、職務手当、精皆勤手当、通勤手当、家族手当、そして超過労働給与額まで含みます。
そして「所定内給与額」は、そこから超過労働給与額(時間外手当、休日手当、深夜割増、宿日直手当、交替手当など)を差し引いた額です。
つまり給与明細でいうと——
| 分類 | 所定内給与額に含めるか |
|---|
| 基本給 | 含める |
| 職務手当・役職手当・資格手当・地域手当 | 含める |
| 住宅手当・家族手当 | 含める |
| 通勤手当 | 含める |
| 時間外手当・休日出勤手当 | 含めない |
| 深夜割増・夜勤手当・当直手当 | 含めない |
| 賞与 | 含めない(この分位数は月額のみ) |
通勤手当を除いてしまうと、自分の位置を実際より低く判定してしまいます。 統計の定義に合わせて、含めて計算してください。
なお、年収の分位数は公表されていません。 「看護師の年収中央値は約◯◯万円」という数字を見かけたら、それは公的統計に直接載っているものではない、と考えてください。
3. 結果の読み方
診断結果は次の3点で見ます。
| 見る項目 | 意味 | 読み方の例 |
|---|
| 適正年収レンジ | 入力条件から計算した目安の幅。編集部の係数によるシミュレーションで、実測された分布ではありません | レンジの外にいるかどうかの当たりをつける道具として使う |
| 分位数との比較 | 全国・企業規模計の所定内給与月額の分布のどこに入るか | 所定内給与額が278,800円未満=全国の下から4分の1の範囲 |
| 中央値との差 | 全国の中位数321,500円と比べた月額の差 | 「−30,000円/月」のように月額で見る。年収の中央値は公表されていません |
平均より上か下かではなく、公表されている分位数のどこに入るかで読むほうが位置は掴めます。所定内給与額が278,800円(第1・四分位数)を下回っていれば全国の下から4分の1の範囲、376,700円(第3・四分位数)を超えていれば上から4分の1の範囲です。
ただし、この順位から「転職でいくら上がるか」は分かりません。 分布上の位置と、実際に動かせる金額は別の話です。位置を掴んだら、次は求人票の固定給と賃金表の実額を比べる段階に進んでください。
適正年収の考え方や条件別の早見表は看護師の適正年収・相場 完全ガイドで詳しく解説しています。
4. 診断結果を「今の職場で上げる」に活かす
診断結果は、給与交渉や働き方の見直しの材料になります。
- 昇給・処遇改善の確認:自分が中央値より低いと分かったら、ベースアップ評価料・処遇改善が給与明細に反映されているかを確認。2026年の賃上げを現場目線で確認が参考になります。
- 夜勤・部署の見直し:夜勤を増やす/減らす、夜勤の少ない部署へ異動するなど、条件を動かす判断に使う。
- 資格取得の検討:資格手当の対象と金額、取得費用、研修時間を給与規程で確認し、費用対効果を見積もる。
4-2. 診断より確実な一手:賃金表を見せてもらう
自己診断も統計との照合も、あくまで外から自分を測る方法です。いちばん確実なのは、自分の職場の賃金表(等級ごとの賃金額を定めた表)を見ること。 何年目・何等級でいくらになるかが、そこに書いてあります。
日本看護協会の病院調査によると、看護職員について賃金表がある病院は75.0%。ただし、そのうち職員に公開しているのは54.0%にとどまります。
| 病床規模 | 賃金表がある | 賃金表を公開している |
|---|
| 500床以上 | 91.7% | 80.7% |
| 400〜499床 | 90.1% | 68.9% |
| 300〜399床 | 86.3% | 72.2% |
| 200〜299床 | 78.5% | 53.8% |
| 100〜199床 | 74.0% | 45.2% |
| 99床以下 | 63.8% | 43.0% |
設置主体別ではさらに差が開きます。賃金表がある割合は国94.5%・公立94.4%・公的医療機関93.9%に対し、医療法人は63.5%。公開している割合は国94.7%・公立91.2%に対し、医療法人は26.1%です。
医療法人の病院では、賃金表があると答えた病院のうち、それを職員に公開しているのは26.1%にとどまります。 国立94.7%・公立91.2%と比べると、差は歴然です。なお、この割合はいずれも病院単位のもので、看護師の人数で数えた割合ではありません。
だから、次の順序をおすすめします。
- 人事や上司に「賃金表はありますか」と聞く。 ある・ないの答えだけで、自分がどちら側にいるかが分かります。
- あるなら「見せていただけますか」と聞く。 公開されていれば、昇給の道筋と上限が具体的に見えます。
- 無い、または見せられないと言われたら、 昇給の見通しを事前に確認できる材料が限られます。代わりに雇用契約書、就業規則の賃金規程、募集要項の記載を確認してください。加えて、この記事で紹介した公表値との比較がいっそう重要になります。
聞きにくいと感じるかもしれませんが、賃金表の有無は待遇の話ではなく制度の話です。「今後のキャリアを考えるうえで、等級と昇給の仕組みを知っておきたい」と伝えれば、不自然な質問にはなりません。そして返ってきた答えそのものが、待つか動くかの材料になります。
5. 診断結果を「転職」に活かす
転職エージェントの提示額を見るときも、自分の適正年収(診断結果)と照らして判断すると、過大広告に振り回されません。
6. よくある勘違い・注意点
- 「診断額=必ずもらえる額」ではない:診断は、基準額に条件ごとの係数を掛けて目安を出す編集部のシミュレーションです。公表された条件別の分布から計算しているわけではありません。交渉や求人比較の根拠にするなら、診断結果ではなく公表されている実数(第17表の分位数、都道府県別第3表、日本看護協会のモデル賃金)を使ってください。
- 平均と比べて一喜一憂しない:見るのは分位数のどこに入るか。
- 1要素だけで判断しない:年収は複数条件の掛け合わせ。夜勤だけ、地域だけでは決まりません。
- 手取りと額面を混同しない:診断は額面ベース。手取りは税・社保・手当で変わります。
7. 今の職場で確認すること・転職で解決しやすいこと
今の職場で確認すること
- 給与明細のどの項目が処遇改善・ベースアップで増えたか
- 夜勤回数・部署を変えた場合の年収シミュレーション
転職で条件を選び直せること
- 地域・施設形態・夜勤条件の異なる求人を比較すること。実際に上がるかは内定条件で確認する
転職で解決しにくいこと
- 第3・四分位数(376,700円)を超えていることだけから、転職後の上げ幅を判断すること
- 働きやすさ・人間関係(入職してみないと分からない)
よくある質問
看護師の適正年収診断は無料ですか?
給料コンパスの適正年収診断は登録不要で使えます。勤務地・経験年数・施設の種類・夜勤の回数を入力すると、目安のレンジが表示されます。これは基準額に条件ごとの係数を掛けて算出したシミュレーションで、実際に測定された条件別の分布ではありません。 位置の根拠として使うのは、この記事に載せた第17表の分位数のほうです。
平均年収と比べるのではダメなのですか?
平均値は、上振れした少数がいるだけで全体が引き上がる性質があります。中央値はその影響を受けにくい。だから位置を知るなら、月額の所定内給与を目盛り(中位数321,500円/第1・四分位数278,800円/第3・四分位数376,700円)に当てて、自分がどの区間にいるかを見るほうが向いています。ただしこの分布は全国・企業規模計をひとまとめにしたもので、地域や経験をそろえた分布ではありません。
診断結果の年収はどこまで正確ですか?
診断が返す条件別の金額は編集部が置いた目安で、統計上の分布そのものではありません。 実額は勤務先・手当・残業で動きます。使いどころは「自分の位置を把握し、どこを動かすか決める」ところまで。数字を根拠として誰かに示す場面では、この記事に載せた公表値(月額所定内給与の分位数、都道府県別の年収換算、日本看護協会のモデル賃金)を持っていってください。
診断結果は給与交渉に使えますか?
交渉に持っていくなら、診断結果より賃金表です。 日本看護協会の調査では、看護職員について賃金表がある病院は75.0%、そのうち職員に公開しているのは54.0%(500床以上では公開率80.7%、99床以下では43.0%)。まず自分の職場に賃金表があるか、見せてもらえるかを確認してください。 賃金表があれば「何年目・何等級でいくら」が決まっているので、交渉の余地がどこにあるか(等級を上げるのか、手当を付けるのか)が具体的になります。賃金表がない、あるいは見せてもらえない職場では、そもそも交渉の土台が作れません。
分位数の上のほうにいる場合はどうすればいいですか?
上位にいるという事実だけでは、転職後の上げ幅は分かりません。地域・経験・施設規模をそろえた分布ではないためです。内定時の固定給、賞与、夜勤、労働時間を現在と並べ、金額以外の目的も含めて判断してください。
まとめ
- 適正かどうかは平均比較ではなく、公表されている分位数に当てはめて見る。
- 手順は地域・経験・施設・夜勤・資格を選ぶだけ(無料・登録不要)。
- 結果は「今の職場で上げる」「転職で動く」のどちらにも活かせる。
- 診断結果は編集部の試算。交渉や比較の根拠には、分位数・都道府県別・日本看護協会のモデル賃金という実数を使う。
- 職場に賃金表があるか、公開されているかを確認する。あるのは75.0%、公開は54.0%。
- 適正年収ガイドや待つvs転職の判断につなげ、いますぐ診断で次の一歩を選びましょう。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」結果の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2025/index.html
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和7年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 第1表」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011429
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和7年賃金構造基本統計調査 職種(小分類)第14表・第17表」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?cycle=0&tclass=000001229512
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
- 公益社団法人日本看護協会「2024年度『看護職員の賃金に関する実態調査』結果」(2025年6月24日 News Release、図表1・3・4・23・29・31) https://www.nurse.or.jp/home/assets/20250624_nl02.pdf
- 公益社団法人日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」報告書(調査研究報告No.102、2026年3月31日公表) https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/102.pdf
手順の説明で使った金額は、読み方を示すための例示です。実際にご自身の位置を確認する際は、令和7年賃金構造基本統計調査における職種第1表の看護師の値と、給与明細を直接つき合わせてください。
NEXT ACTION FOR CLINICS
応募が来ない求人票を、看護師が確認したい内容に直せます
この記事で触れた不安を、自院の求人票ではどこまで先回りして説明できていますか?
給与・夜勤・休日の見せ方応募前に離脱される不安求人票に足すべきFAQ