「先生から聞いていないのですが、これは何ですか」。患者さんがスマートフォンの画面を見せながらそう聞いてきたとき、答えるのはたいてい、その場にいる看護師です。
電子カルテ情報共有サービスの全国運用開始が、具体的な日程として示されました。第130回社会保障審議会医療部会が2026年8月27日に開催され、資料1「医療DXの進捗状況等について(報告)」(厚生労働省政策統括官(情報政策担当))が公表されています。
いつ始まるのか
資料の記載は明確です。現在全国10地域でのモデル事業において、運用の検証や課題の確認などを進めているところで、令和8年度冬頃に全国で利用可能な状態にすること(運用開始)を目指しているとされています。
ここは正確に読んでください。「令和8年度冬から使えるようになる」ではなく、「令和8年度冬頃に全国で利用可能な状態にすることを目指している」です。目標として示された時期であり、確定した施行日ではありません。
運用開始後の広がり方についても記載があります。医療介護総合確保法における電子診療録等情報に係る体制整備については、サービスの運用開始の段階ではまず法律上で想定された地域医療支援病院を指定したうえで、今夏に策定する普及計画の効果も踏まえながら、運用開始後も含めて努力義務の対象拡大について引き続き検討を進めていくとされています。
つまり、冬に全国のすべての病院が一斉に対応するという話ではありません。
モデル事業で出た課題が2つ、公表されました
今回の資料でいちばん現場に近いのは、ここです。健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループで、モデル事業で得られた課題を踏まえた対応策の検討が行われており、その例が2つ示されました。
課題1:感染症情報について、医師が患者に説明していない状態で共有されることの懸念。 対応策として「医療機関等向けと患者向けで共有のタイミングを整理」と書かれています。
課題2:食品アレルギーで使われる医療機関内のコードと、情報共有に用いるコードのマッピングについて。 対応策は「最低限マッピングすべきものを整理。マッピングのルールも整理」です。
どちらも、実務で最初に受け止めるのは看護職です。
課題1が、なぜ看護の問題なのか
感染症の検査結果を誰がいつ患者に伝えるかは、これまで施設内の裁量で回してきました。医師が結果を確認し、面談を設定し、必要なら家族も交えて説明する。その順序を守るために、看護師は「先生から説明があります」と待ってもらうことがあります。
情報共有サービスが動き出すと、この順序を医療機関の側だけでは決められなくなります。国は共有のタイミングを整理すると書いていますが、整理された後も、患者が自分の画面を見るタイミングまでは制御できません。
だから制度が始まる前に決めておくことがあります。画面を見た患者から質問されたとき、看護師は何をどこまで答えるのか。 「主治医から説明します」と伝えるだけでよいのか、いつ説明があるかまで答えるのか。答えられない質問を受けたときの連絡先はどこか。
これは個人の対応力の問題ではなく、施設として決める事柄です。決まっていないまま運用が始まると、一番困るのは病棟と外来です。
課題2は、アレルギー情報が「伝わらない」問題です
食品アレルギーのコードマッピングは、地味に見えて重い課題です。
院内で使っているアレルギーのコードと、全国で共有するためのコードが一対一で対応していなければ、登録した情報が正しく相手に届きません。国は「最低限マッピングすべきものを整理」するとしていますが、最低限に含まれなかったものはどうなるのかという問いが残ります。
看護記録にアレルギーを書き込む側としては、次のことを知っておく価値があります。自分が入力している選択肢が、そのまま全国共有される形式なのか。自由記載で書いた内容は共有の対象になるのか。ならないとしたら、どこに書けば伝わるのか。
運用が始まってから確かめるのでは遅い種類の話です。
「医療従事者向けの指針」が検討されています
資料には、もうひとつ看護職に直接関わる記述があります。電子カルテ情報共有サービスへの情報登録や、登録された情報の閲覧等にあたって医療従事者に参照してもらうための「医療従事者向けの指針」の検討を進めているというものです。
スケジュール表では「医療従事者向け利用指針(仮)作成」を経て「利用指針公表(仮)(準備ができ次第)」となっています。まだ存在しない文書です。
この指針が出たとき、誰が読んで、どう院内に周知するのか。添付文書の改訂と同じで、出たことを知らないまま運用が始まるのがいちばん危ない形です。周知の経路を先に決めておくと、公表されたときに動けます。
そのほか、医療機関で使用する資材の検討、コードのマッピングの支援策の検討、国民向け周知広報の検討も行われているところ、とされています。
背景として押さえておくこと
制度の骨格も動いています。昨年成立した医療法等改正法により、厚生労働大臣は医療情報化推進方針(対象期間3年以上6年以内)を作成することとされました。また同改正法により、支払基金は本年10月にDX審査支払機構に改組され、中期計画および年度計画を策定することとされています。年度計画は厚生労働大臣の評価の対象です。
電子カルテそのものについては、「遅くとも2030年には概ねすべての医療機関において必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す」という目標が置かれ、2026年夏までに電子カルテと共有サービスの具体的な普及計画を策定するとされています。
2026年9月12日追記:「2030年」は一律の導入命令ではない
厚生労働省の工程表・会議資料で使われている表現は「2030年には概ねすべての医療機関において」「導入を目指す」という政策目標です。少なくとも本記事で確認した資料は、すべての医療機関へ同じ期限・同じ製品・同じ費用負担で導入を命じる通知ではありません。
一方、目標だから何も準備しなくてよいという意味でもありません。施設の種別、病床規模、地域医療支援病院等の指定、共有サービスへの接続、標準仕様、補助・支援、既存システムの更改時期で対応順が変わります。ベンダーへ見積もりを取る前に、次を一枚にします。
- 現行システムの契約終了・更改時期
- 自施設に現在適用される義務・施設基準
- 国の普及目標と、自施設の決定を分けた日程
- 共有する情報と院内コード・説明手順
- 初期費用、移行、教育、保守、停止時手順
「国が2030年までと言っている」という説明だけで契約を急がず、適用根拠と総費用を確認してください。
看護の実務から見れば、この先数年は電子カルテが入れ替わり続けるということでもあります。入力の手順が変わるたびに現場が消耗しないかどうかは、施設ごとの準備の差になって出ます。
いま確認しておく7項目
- 自施設がモデル事業に参加しているか。 全国10地域で実施されています。
- 感染症の検査結果を誰がいつ説明する運用か。 文書化されていますか。
- 患者が画面を見て質問してきたときの答え方。 決まっていますか。
- 院内のアレルギーコードと共有用コードの対応。 誰が把握していますか。
- アレルギーを自由記載で書いている箇所がないか。
- 自施設が地域医療支援病院かどうか。 運用開始の段階で指定される対象です。
- 「医療従事者向けの指針」が公表されたときの周知経路。 非常勤と夜勤者まで届く形になっていますか。
2番と3番が空欄なら、そこが運用開始で最初に問題になる場所です。
記録の負担そのものが心配なら
情報共有が進むほど、記録は「自分の施設のためのもの」から「他の施設や患者本人が読むもの」へ変わります。書き方が変われば、時間も変わります。
すでに記録残業が慢性化している職場では、この変化が上乗せになる可能性があります。現状の記録負担がどこから来ているのかを分けて考えたい場合は、カンゴさんに匿名で相談する相手を使って、業務量の内訳を言葉にしてみてください。制度の変化を止めることはできませんが、自分の職場の準備状況を知っておくことはできます。
よくある質問
Q. 令和8年度冬から全国で使えるようになるのですか。 資料の記載は「令和8年度冬頃に全国で利用可能な状態にすること(運用開始)を目指している」です。目標として示された時期であり、確定した日付ではありません。
Q. すべての病院が対応しなければならないのですか。 運用開始の段階では、まず法律上で想定された地域医療支援病院を指定するとされています。努力義務の対象拡大は引き続き検討されます。
Q. 医療従事者向けの指針はどこで読めますか。 現在検討中で、まだ公表されていません。スケジュール上は「準備ができ次第」公表とされています。
Q. モデル事業で事故が起きたのですか。 そうは書かれていません。示されたのは、モデル事業で得られた課題と、それに対する対応策の例です。
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この記事の確認範囲
- 確認日:2026年8月30日
- 確認主体:はたらく看護師さん編集部
- 個別専門家監修:実施していません
本稿は2026年8月27日に公表された医療部会資料の確認に限定しています。全国運用の時期、指定対象、利用指針は今後変わる可能性があるため、実装や患者説明では厚生労働省の最新資料と自施設の決定を優先してください。
参考資料
なお本記事は、公表された資料の内容のみに基づいています。医療部会は2026年8月27日16時からの開催で、議事録は未公表です。当日どのような議論が行われたかは含んでいません。制度の詳細は今後の公表資料で確認してください。
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