9月17日の「世界患者安全の日」に、病棟や外来で何か取り組むよう言われたものの、ポスター掲示以外に何をすればよいか決まらない。そんな担当者向けに、10分でできる点検をつくりました。
2026年のテーマは「非感染性疾患の安全なケア」、スローガンは「Safe care for life!」です。日本看護協会は、心血管疾患、がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病など、長く治療を続ける人の安全と、看護職による生活背景の把握、多職種連携を取り上げています。
今回の点検で薬の追加・中止・変更は決めません。対象患者を一人選び、いま使っている薬、処方した診療科、実際の飲み方、困ったときの連絡先が一致しているかを確かめ、ずれがあれば医師・薬剤師・関係職種へ渡すことが目的です。
今年のテーマが看護の現場に関係する理由
WHOは、非感染性疾患が世界の死亡の74%を占め、長期にわたる治療と医療機関との繰り返しの接点が患者安全上のリスクを増やすと説明しています。また、医療を受ける患者の10人に1人が害を受け、その約半分が予防可能としています。これは世界全体を対象とする説明であり、日本の各病棟で10人に1人の事故が起きるという意味ではありません。
日本看護協会は、日本では成人の約3割、65歳以上の6割以上がマルチモビディティ、多疾患並存の状態にあるとの報告を紹介しています。複数の疾患があると、受診先、検査、服薬、治療に関わる人が増えます。問題は薬の数だけではありません。
- 循環器内科で変わった薬が、整形外科の一覧へ反映されていない
- 退院時の説明と、訪問看護が受け取った情報の版が違う
- 朝食後と書かれているが、患者さんは朝食をほとんど取らない
- 頓用薬を使う条件を、本人と家族が別々に理解している
- 飲み忘れたとき、患者さんが誰へ連絡するか分からない
このような「情報の切れ目」は、処方内容が医学的に正しくても起きます。看護師は診断や処方を決める立場ではありませんが、患者さんの生活と医療者の指示が噛み合っているかを見つけ、多職種へ戻す位置にいます。
10分点検は5枚の情報を並べるところから始めます
点検対象は、複数疾患・複数診療科、退院直後、最近処方変更があった、服薬に不安を話しているなど、情報のずれが起こりやすい患者さんから一人選びます。病棟全員を一度に点検する必要はありません。
用意するのは、勤務先で閲覧権限がある範囲の五つです。
- 現在の処方・持参薬一覧
- 最新の医師指示と変更履歴
- 看護記録または服薬状況の記録
- 薬剤師による確認・説明の記録
- 退院支援、訪問看護、施設、家族など次の支援者へ渡す情報
紙へ患者情報を書き写して院外へ持ち出したり、勉強会用の私物端末へ撮影したりしないでください。点検は正式な記録環境の中で行い、共有する場合は院内の個人情報保護手順に従います。
0〜2分:薬の「最新」を一つに決める
最初に見るのは、薬の数ではなく版です。処方変更日、中止日、持参薬の扱い、入院中だけの薬、退院後も続ける薬が、一覧ごとに違っていないか確認します。
| 見る場所 | 確認する問い |
|---|
| 処方一覧 | 最終更新日時と処方医は誰か |
| 指示簿 | 中止・変更の理由と開始時刻が読めるか |
| 看護記録 | 実際に投与・内服した内容と一致するか |
| 薬剤記録 | 重複、相互作用、持参薬の確認結果が共有されているか |
| 退院文書 | 退院後に使う一覧が最新処方と一致するか |
複数の一覧が一致しないとき、看護師が正解を選んで上書きするのではありません。「どの一覧が正本か」「誰が修正するか」を医師・薬剤師へ確認し、差分があった事実を正式な方法で記録します。
2〜4分:時間と間隔を患者さんの一日に置く
「朝食後」「週1回」「眠前」という指示があっても、患者さんの生活に置いたときに実行できるとは限りません。起床、食事、通院、デイサービス、仕事、訪問支援、就寝の時刻と重ねます。
ここで探すのは、患者さんの努力不足ではなく、実行を難しくする条件です。
- 食事を取らない時間帯に食後薬が集中している
- 週1回薬の曜日を、本人・家族・施設が同じように理解していない
- 複数診療科の頓用薬があり、使い分けの説明が残っていない
- 視力、手指機能、認知機能に対して包装や管理方法が合っていない
- 夜勤のある本人や介護者の生活と服薬時刻が合っていない
具体的な投与間隔や飲み忘れ時の対応を看護師が独自に変更しないでください。見つけたずれを、薬剤師や処方医へ「患者さんの一日ではこの時間に実行が難しい」と生活情報として渡します。
4〜6分:本人の理解を「説明した」で終わらせない
服薬指導の記録があっても、本人が同じ内容を説明できるとは限りません。責める質問ではなく、普段の行動を聞きます。
- 「朝の薬は、いつ、どこに置いて飲んでいますか」
- 「飲み忘れに気づいたとき、今はどうしていますか」
- 「体調が変わったとき、最初に誰へ電話しますか」
- 「薬が変わったことを、ご家族や訪問の方は知っていますか」
答えが説明文と違っても、すぐ「間違い」と訂正する前に、そうしている理由を確認します。副作用への不安、費用、食事、仕事、嚥下、記憶、家族関係などが隠れていることがあります。医学的な対応は医師・薬剤師へつなぎます。
6〜8分:診療科と生活支援者の役割を確認する
多疾患の患者さんは、複数の診療科、かかりつけ医、薬局、訪問看護、介護職、家族が関わります。全員が関わっていても、最終判断者が不明なら安全とは言えません。
確認するのは次の四点です。
- 薬全体を通して確認する医師または薬剤師は誰か
- 処方変更を他の診療科へ伝える担当は誰か
- 在宅で飲めているかを最初に確認する人は誰か
- 夜間・休日に困ったとき、患者さんが連絡する先はどこか
役割が空欄なら、退院前カンファレンス、病棟薬剤師、退院支援部門、地域連携担当など、勤務先の正式な場へ課題として出します。「家族が見てくれる」「訪問看護に伝わるはず」と推測で埋めません。
8〜10分:一つだけ次の行動を決める
10分点検の最後は、すべてを解決することではなく、担当と期限のある行動を一つ決めることです。
| 見つかったずれ | 次の行動例 | 完了の確認 |
|---|
| 薬の一覧が一致しない | 医師・薬剤師へ正本確認を依頼 | 修正日時と確認者が残る |
| 本人の飲み方と指示が違う | 生活状況を共有し、再説明を依頼 | 本人の理解を再確認する |
| 家族・在宅支援者へ変更が未共有 | 正式な連絡方法で更新情報を送る | 受領者と受領日が分かる |
| 夜間連絡先が不明 | 退院文書・説明資料を更新 | 本人が連絡先を言える |
| 同じずれが繰り返す | インシデント・改善活動の経路へ出す | 責任者と再評価日を決める |
「注意する」「気をつける」は完了条件になりません。誰が、どの記録を、いつまでに直し、誰が確かめるかまで決めます。
患者安全の日のミニハドル進行例
朝礼やカンファレンスで使うなら、10分を次のように配分できます。
- 1分:2026年のテーマと、処方判断をする場ではないことを共有
- 2分:対象患者の選定理由と、最新の薬一覧を確認
- 3分:生活上の実行困難と本人の理解を共有
- 2分:診療科・薬剤師・在宅支援者の役割を確認
- 2分:次の行動、担当、期限、再確認日を決める
症例を教育目的で共有する場合も、必要な人だけが必要な情報へアクセスする原則は変わりません。公開SNSや院外資料へ個人を推測できる情報を載せないでください。
10項目の患者安全チェック
一人の患者さんについて、はい・未確認・該当なしで記録します。
- 最新の薬一覧と更新日時が分かる
- 中止・変更薬が古い一覧に残っていない
- 複数診療科の処方が一つの一覧で確認されている
- 実際の服薬時刻と生活リズムが把握されている
- 本人が薬の目的と基本的な飲み方を説明できる
- 飲み忘れや体調変化時の連絡先が分かる
- 認知、視力、手指、嚥下などに管理方法が合っている
- 家族・訪問看護・施設へ最新情報が渡っている
- 夜間休日の相談先が文書で示されている
- ずれを見つけたときの担当者と期限が決まる
点数を患者さんや職員の評価に使わないでください。未確認が多い場所を、情報設計の改善対象として見つけるための表です。
個人の注意だけで終わらせない
飲み忘れや投与間隔の誤りが起きたとき、「確認不足だった」で終えると、同じ切れ目が残ります。薬の正本が複数ある、変更通知が一方向、夜間の問い合わせ先が空欄、退院時に時間がないといった仕組みを見ます。
日本看護協会は、看護職に生活背景を踏まえた個別支援と、多職種・地域を横断する調整役を期待しています。これは看護師がすべての責任を負うという意味ではありません。生活上の情報を医療判断へ渡し、判断結果を生活へ戻す接点を担うということです。
同じ情報のずれが繰り返す場合は、正式なインシデント報告や改善活動へつなぎます。医療事故を個人責任だけにしない考え方と薬剤安全の夜勤申し送りも、仕組みを見る材料になります。
点検で「手順が分からない」「報告すると責められそう」という職場の悩みが見えた場合は、まず院内の医療安全管理、薬剤部、所属長へ正式に確認してください。そのうえで、聞き方や状況を整理したいときはカンゴさんを使えます。患者さんの薬を変更する相談や緊急対応を代替するものではありません。
よくある質問
どの患者さんを選べばよいですか?
複数疾患・複数診療科、退院直後、最近処方変更があった、本人が服薬不安を話しているなど、情報の接点が多い人から一人選びます。薬の数だけで決めません。
看護師だけで点検してよいですか?
情報のずれを見つけるところまではできますが、薬の追加・中止・用量・間隔の変更は決めません。医師・薬剤師と、勤務先の正式な手順へ戻してください。
10分で終わらなかった場合は失敗ですか?
いいえ。10分で問題を解決するのではなく、未確認事項と次の担当を一つ決める方法です。追加の確認は正式なカンファレンスや薬剤確認へ引き継ぎます。
WHOの「10人に1人」は自院にも当てはまりますか?
世界全体についての説明で、自院の発生率ではありません。院内のインシデント件数や患者安全指標とは分けて扱ってください。
患者安全の日が終わったら点検も終わりですか?
啓発日はきっかけです。見つけた課題には担当、期限、再評価日を付け、退院、転棟、処方変更など情報が切れやすい場面で繰り返します。
参考資料
はたらく看護師さん 求人
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