患者さんには「検診を受けてくださいね」と説明しながら、自分は何年も行っていない。休みの日は寝ていたいし、平日に抜けるのは気が引ける。看護の現場では珍しくない話です。
その「自分で何とかするもの」という前提を、職場の健康づくりの枠組みで扱おうという方向が示されました。厚生労働省の「事業場における労働者の健康保持増進の在り方に関する検討会」が、2026年8月21日付で報告書を公表しています。座長は聖マリアンナ医科大学予防医学教室の髙田礼子主任教授です。
最初に、決まっていないことを確認します
見出しだけを読むと制度が変わったように見えますが、現時点の位置づけは慎重に押さえてください。
これは検討会の報告書です。 報告書が対象としているのは、労働安全衛生法第70条の2第1項に基づく「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」、通称THP指針の見直しです。報告書は指針に盛り込むべき点を示した段階であり、指針そのものの改正はこれから行われます。
つまり、今日から使える制度が増えたわけではありません。 報告書には改正の時期も書かれていません。「いつから」を推測で語らないことが、この話題を扱ううえでの最低条件です。
なお、現行のTHP指針自体は別の経緯で2026年2月10日に最終改正されています。今回の報告書の提言は、その先の話です。
何が提言されたのか
報告書の中心は、健康保持増進の考え方を広げることにあります。
これまで労働者の健康保持増進は、生活習慣の改善などによる一次予防(疾病の発症予防)を主として取り組むこととされてきました。報告書は、疾病の早期発見や早期治療にあたる二次予防にも取り組むことで、発症や重症化、疾病による死亡をさらに予防できると期待されるとして、二次予防の推進を求めています。
背景として、高年齢労働者の増加や急速な技術革新といった社会経済情勢の変化があり、政府が「攻めの予防医療」を進めて健康寿命の延伸と社会保障の担い手の拡大に取り組むこととされている、という文脈が示されています。
対象になる健康課題
報告書が二次予防の対象に含めるべきとしたのは、次の健康課題です。
- がん
- 女性特有の健康課題(月経不順、月経困難症、過多月経、月経前症候群、更年期障害等)
- 歯科疾患
- 骨粗しょう症
- 眼科疾患
女性特有の健康課題が、症状名まで挙げて明記されている点は注目に値します。月経困難症も月経前症候群も更年期障害も、これまで職場では「体質」や「個人差」として処理されやすい領域でした。それを、事業場の健康保持増進が扱う対象として名指ししています。
ただし報告書は全労働者を対象にした提言であり、看護職に限った有病率や、夜勤との関係を調べたものではありません。「看護師に多いから対象になった」という読み方はできません。
取組の方法として挙がっているもの
二次予防の具体的な取組内容としては、対象となる健康課題に係る検査(がん検診等)と、その結果に基づく精密検査の受診勧奨が考えられるとされています。取組方法として挙げられているのは次の2つです。
- 事業者自らまたは医療保険者と連携して実施する健康診断の機会を活用した検診等の受診機会の提供
- 労働者の居住する市町村において実施されている健康増進法に基づく検診の受診勧奨および受診のための休暇の付与等
2つめの「受診のための休暇の付与等」は、平日に検診へ行けない働き方をしている人にとって直接的な意味を持ちます。ただしこれは報告書が挙げた取組方法の一例であり、休暇の付与が義務化されたわけではありません。ここも読み違えやすいところです。
また、二次予防の取組にあたっては、健康増進事業実施者に対する健康診査の実施等に関する指針に定められた健診・検診のプログラムに係る要件や、がん検診等を含めた健康診断の精度管理等に留意する必要があるとされています。検診を増やせばよいという話ではなく、質の担保が条件になっています。
治療しながら働く人への言及もあります
報告書は、疾病の早期発見・早期治療の強化とあわせて、疾病に罹患した労働者が離職せずに治療を受けながら働き続けられるよう、治療と就業の両立支援の取組を推進することが重要だとしています。
国の今後の取組としては、「治療と就業の両立支援指針(令和8年2月10日厚生労働省告示第28号)」に基づき、中小企業等の事業者への支援を図りつつ両立支援をさらに推進すべき、とされました。この告示は既に存在するものです。
がんの早期発見を進めるなら、見つかった人が働き続けられる仕組みも要る。この2つを対にして書いている点は、報告書の構成として筋が通っています。
誰が取り残されやすいかにも触れています
報告書には、雇用形態による差を意識した記述があります。
改正後のTHP指針に基づく取組は、非正規雇用労働者も含めたすべての労働者の健康保持増進が進むよう、産業保健総合支援センターや労働災害防止団体等と連携し、中小企業等の事業者への支援を図りつつ推進すべきとされています。
さらに、短時間労働者等のうち医療保険者が保健事業等で実施するがん検診等の対象とならない者についても、自治体が実施するがん検診等が利用可能であることを事業者が示すこと、労働者がデジタルツール等を活用して生涯にわたる自身の保健医療情報(PHR:Personal Health Record)の把握に努めるよう促すことが挙げられています。就業形態にかかわらず全ての労働者の行動につながるよう留意する必要がある、という書き方です。
非常勤やパートで働く看護職、扶養の範囲で勤務している人は、保険者の検診対象から外れることがあります。その場合に自治体の検診が使えるという情報が職場から示されるかどうかで、実際に受けられるかが変わります。
決まったあとに何が起きるか
報告書は、国の今後の取組として次の点も挙げています。
- 経済産業省が推進する健康経営との連携等により、「攻めの予防医療」に取り組む企業の見える化や社会的評価の向上を図る
- 「職場における心とからだの健康づくりのための手引き」の改定や情報提供を通じ、科学的根拠等を踏まえた正しい理解に基づく予防や検診受診が行われるよう、健康教育に係る教材等の情報を提供する
- 改正後のTHP指針を踏まえた取組状況を把握するため、企業規模や地域ごとのがん検診等の取組状況等に係る事業所調査を行う
最後の事業所調査は、実効性を測る仕組みです。指針を改正して終わりにせず、どれだけ実施されたかを調べる、という設計になっています。
いま自分にできること
制度が変わるのを待つ必要はありません。報告書が示した方向を、現在使える手段に置き換えると次のようになります。
自治体の検診を調べる。 住んでいる市町村が健康増進法に基づく検診を実施しています。職場の健診の対象外でも、こちらは使えることがあります。費用や対象年齢は自治体ごとに違うので、自分の市区町村のサイトで確認してください。
検診で休みが取れるかを確認する。 就業規則に検診や通院のための休暇があるか。年次有給休暇の時間単位取得ができるか。制度があっても使われていないだけ、という職場は珍しくありません。
女性特有の症状を、体調管理の話として記録しておく。 報告書が対象に挙げた領域です。いつ、どの程度の症状が、どの勤務帯で出ているか。記録があると、産業医面談や受診のときに話が早くなります。
治療しながら働く可能性を、前もって考えておく。 両立支援指針は既にあります。いざというときに調べ始めるより、窓口の存在だけでも知っておくほうが動けます。
体調と勤務の折り合いがつかなくなっているとき、問いはたいてい2つに分かれます。今の職場に、まだ使っていない制度が残っているのか。それとも夜勤回数や勤務形態そのものを変えないと無理なのか。この2つを分けないまま悩むと、答えが出ないまま体だけ削れていきます。分ける作業に付き合ってほしいときは、カンゴさんに匿名で相談する窓口があります。
よくある質問
Q. 検診のための休暇がもらえるようになったのですか。 いいえ。報告書が二次予防の取組方法の一例として「受診のための休暇の付与等」を挙げた段階です。義務化されたものではありません。
Q. 更年期障害が労災や病気休暇の対象になるのですか。 そうした内容の提言ではありません。報告書は、職場の健康保持増進が扱う二次予防の対象疾病に女性特有の健康課題を含めるべきだとしています。
Q. いつから変わりますか。 報告書に改正時期の記載はありません。THP指針の改正が行われるまでは現行の指針が適用されます。
Q. 中小の医療機関でも対象ですか。 報告書は中小企業等の事業者への支援を図りつつ推進すべきとしており、産業保健総合支援センターや労働災害防止団体等との連携を挙げています。規模で対象外になるという整理ではありません。
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参考資料
繰り返しになりますが、これは報告書の紹介であって確定した制度の説明ではありません。実際に何が使えるかは、改正後のTHP指針と勤務先の規程で決まります。症状そのものについては、記事ではなく医療機関で相談してください。
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