健診の問診票に、これまでなかった質問が並んでいて、少し手が止まった。そんな経験はありませんか。月経のこと、更年期の症状のこと。書いたら職場に伝わるのだろうか、と思ったなら、その疑問には公的な答えがあります。
厚生労働省が2026年8月21日、9月の「職場の健康診断実施強化月間」について周知しました。全国労働衛生週間(10月1日から7日)の準備月間という位置づけで、都道府県労働局と労働基準監督署から事業者に協力が依頼されます。根拠となる通知は、令和8年8月21日付け基安発0821第2号です。
この記事の要点
- 健診の実施、有所見者への医師からの意見聴取、医師の意見を勘案した事後措置は、すべて労働安全衛生法に基づく事業者の義務です。
- 一般健康診断の問診票に、女性特有の健康課題に関する質問が追加されています。
- その回答が、健診機関から事業者に直接提供されることはありません。
- 労働者数50人未満の事業場には、地域産業保健センターという相談先があります。
受けて終わり、になっていませんか
強化月間の周知資料は、健診をひと続きの流れとして示しています。健康診断の実施、健康診断結果の記録、健康診断結果の通知、健康診断結果についての医師からの意見聴取、そして健康診断実施後の措置です。
ここで重要なのは、この流れ全体が事業者の義務だと明記されている点です。資料は「健康診断の実施、有所見者に対する医師からの意見聴取、医師の意見を勘案した必要な事後措置の実施は、全て労働安全衛生法に基づく事業者の義務です」と書いています。受けさせるところまでではありません。
事後措置については、医師の意見を勘案し、必要があると認めるときに、労働者の実情を考慮して必要な措置を実施するとされ、具体例として就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等が挙げられています。詳細は「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」で定められています。
夜勤をしている人にとって、この「作業の転換」「労働時間の短縮」という言葉は他人事ではありません。有所見の結果を受け取ったあと、医師の意見を聴く手続きが実際に行われたか。その意見が勤務にどう反映されたか。ここまでが制度の想定です。
なお資料は「一般的に小規模事業場での実施率が低くなっています」とも述べ、事業場の規模にかかわらず事後措置まで徹底するよう求めています。診療所やクリニック、小規模な訪問看護ステーションで働いている人ほど、確認する価値があります。
女性の健康問診が追加され、扱いも決まっています
今回の重点事項でとくに知っておきたいのが、女性の健康課題に関する部分です。
周知資料には、一般健康診断における問診票に女性特有の健康課題に関する質問が追加されたと書かれています。根拠は、令和8年4月28日付け基発0428第14号・保発0428第8号「『定期健康診断等及び特定健康診査等の実施に係る事業者と保険者の連携・協力事項について』の一部改正について」です。
そのうえで、位置づけが2点、明確に書かれています。
ひとつめ。この問診は事業者に義務付けられているものではありません。 目的は、女性自身の健康状態への気づきを促し、必要に応じて労働者が医療機関へアクセスできるよう支援することにある、とされています。
ふたつめ。回答は健診機関から事業者に直接提供されることはありません。 ここが、書くかどうか迷った人にとっていちばん大きい情報だと思います。答えた内容が職場の担当者に渡る仕組みではない、と国の資料が明記しています。
事業者側には「女性特有の健康課題に関する問診を活用した女性の健康管理支援実施マニュアル~事業者向け~」が用意されており、困っている労働者への相談対応、理解促進のための研修、職場環境改善の取組を進めることが求められています。
夜勤や交代勤務と体調の関係に悩んでいる人が、これまで「個人の問題」として抱えてきたものを、職場の健康管理の土俵に載せる入口ができた、という見方ができます。ただし、この問診が具体的に何を変えるかは職場によって差が出ます。マニュアルを使って相談体制を整えている職場もあれば、問診票が変わったことに誰も気づいていない職場もあるはずです。
5つの重点事項の全体像
周知資料が挙げる重点事項は次のとおりです。細目まで見ると、対象の広さが分かります。
(1)一般健康診断 実施・医師からの意見聴取・事後措置等の徹底/結果の記録の保存と労働基準監督署への報告の徹底/必要な労働者に対する医師または保健師による保健指導の実施/小規模事業場における留意事項/地域保健との連携(コラボヘルス)/外国人労働者に関する留意事項/派遣労働者の健康診断/個人事業者等に関する留意事項
(2)ストレスチェック制度の適切な実施等
(3)健康保持増進措置等の適切な実施 事業場における労働者の健康保持増進のための指針に基づく措置/職場におけるがん検診の推進/女性の健康課題に関する理解の促進/口腔の健康の保持増進/眼科検診等の実施の推進
(4)職場環境に起因する疾病の防止の推進 騒音障害防止のための取組の推進/職場における感染症に関する理解と取組の促進
(5)治療と仕事の両立支援の周知
(1)に派遣労働者と外国人労働者が並んでいる点は、看護の現場でも意味を持ちます。派遣で働く看護職、技能実習や特定技能で来ている介護職・看護補助者が同じ職場にいる場合、健診の対象と実施主体が分かりにくくなりがちです。
(4)の感染症も、医療機関では日常の話です。ただしこの重点事項は職場環境に起因する疾病の防止という枠組みなので、患者への感染対策ではなく、働く人自身が職場で病気にならないための取組を指しています。
50人未満の職場には、相談先があります
産業医の選任義務は労働者数50人以上の事業場にかかります。ではそれ未満の職場はどうするのか。周知資料は地域産業保健センターを案内しています。
同センターは労働者数50人未満の小規模事業場への支援として産業医・保健師を配置し、次のような対応をしています。
- 健診結果についての医師からの意見聴取
- 長時間労働者・高ストレス者に対する面接指導
- 産業医等の事業場訪問による保健指導
- 労働者の健康に係る各種相談
クリニックや小規模な訪問看護ステーション、有床診療所で「うちには産業医がいないから」と諦めていた場合、この窓口の存在は知っておく価値があります。事業者が使う制度ですが、存在を知っているかどうかで職場に提案できることが変わります。
健診結果は、保険者に渡ることがあります
もうひとつ、周知資料が扱っているのが医療保険者との連携です。
協会けんぽ、健保組合、市町村国保、国保組合、共済組合などの保険者は、高齢者医療確保法に基づく特定健康診査・特定保健指導や、健康保険法に基づく保健事業を実施しています。これらの取組を進めるため、保険者から労働者の健康診断結果を求められた場合は、その写しを提供することが事業者に義務づけられています。
資料は「法律に基づく提供の場合は、第三者提供に係る本人同意は不要です」とも注記しています。前の章で触れた女性の健康問診の回答が事業者に直接渡らないという話と、健診結果そのものが保険者へ渡るという話は、まったく別の経路です。片方を根拠にもう片方を推測しないでください。
自分の健診を確認する順番
- 直近の健診はいつ受けたか。 日付を思い出せますか。
- 夜勤をしている場合、年2回受けているか。 労働安全衛生規則第45条は、同規則第13条第1項第3号に掲げる業務に常時従事する労働者について、当該業務への配置替えの際および6月以内ごとに1回、定期に健康診断を行うことを事業者に義務付けています。この第3号には「深夜業を含む業務」(ヌ)が含まれます。職場の規程だけを見て「年1回」と思い込まないでください。 なお同じ号には「病原体によつて汚染のおそれが著しい業務」(ワ)も挙げられています。
- 有所見の項目があったか。 結果票を手元で開いてください。
- 有所見について、医師からの意見聴取が行われたか。 結果を渡されただけで終わっていないか。
- 意見を踏まえた措置の話があったか。 就業場所、作業の転換、労働時間について何か言われたか。
- ストレスチェックを受検したか。 高ストレス判定だった場合、面接指導の申出方法を知っているか。
- 問診票の女性の項目に、答えられたか。 答えなかったとしたら、理由は「職場に伝わりそうだから」でしたか。
- 治療しながら働いている場合、両立支援の窓口を知っているか。
4番と5番は、多くの人が飛ばしている段階です。ここが行われていないなら、それは制度上あるべき手続きが抜けているということになります。
職場に言いにくいときは
有所見のまま夜勤を続けている、体調のことを相談できる相手がいない、という状況は、個人の我慢の問題として処理されがちです。ただ、ここまで見てきたとおり、健診と事後措置は事業者の義務として組み立てられています。「言い出しにくい」と「言ってはいけない」は違います。
とはいえ、職場の空気は制度どおりには動きません。体調のことを言えないまま何年も過ぎている人もいます。まだ誰にも打ち明けていないなら、カンゴさんに匿名で相談する相手に、いま起きていることを話してみるところからで十分です。
体調と勤務条件のバランスが取れなくなっていて、夜勤回数や勤務形態そのものを見直す段階に来ているなら、条件を分解してから動いたほうが失敗しません。健康を理由に働き方を変えることは、逃げでも甘えでもありません。
よくある質問
Q. 9月に健診を受けないと違反になりますか。 なりません。9月は強化月間であって、健診の法定期日ではありません。実施の徹底を呼びかける月間です。
Q. 夜勤をしていると健診は年2回ですか。 労働安全衛生規則第45条により、深夜業を含む業務に常時従事する労働者には、配置替えの際および6月以内ごとに1回の健康診断が義務付けられています。自分が「常時従事」に当たるかどうかは勤務実態によるため、勤務先の担当部署に確認してください。
Q. 問診票の女性の項目は、答えなければいけませんか。 周知資料は、この問診が事業者に義務付けられているものではなく、目的は女性自身の気づきを促すことにあると説明しています。答えるかどうかは本人の判断です。
Q. 答えた内容は職場に知られますか。 資料には、女性の健康問診の回答は健診機関から事業者に直接提供されることはない、と明記されています。ただし健診結果そのものは、法律に基づき保険者へ提供されることがあります。
Q. 有所見だったのに何も言われません。放っておいていいですか。 医師からの意見聴取と、意見を勘案した事後措置は事業者の義務とされています。何も行われていないなら、職場の衛生管理者や担当部署に確認してみてください。産業医がいない小規模事業場では、地域産業保健センターが相談先になります。
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参考資料
紹介したのは国が事業者に向けて出した周知の中身です。あなたがどの検査を受けるべきか、有所見をどう治療するか、どんな就業上の措置が妥当かには答えていません。その部分は勤務先の担当部署、産業医、地域産業保健センターが持っています。
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