「人手が足りないのはうちだけ?」に、国の検査データで答えが出ました
毎日の業務で「人が足りない」と感じながら、「でもどこも同じなのかな」「うちが特別おかしいのか確かめようがない」と思っている看護師さんは多いはずです。実は、病院の人員配置には医療法で定められた最低ラインがあり、保健所などが毎年立入検査でチェックしています。
2026年6月に公表された2023年度の検査結果では、医師の配置標準を満たす病院の割合は97.9%(前年度比0.4ポイント低下)、看護師・准看護師は99.4%(同0.1ポイント低下)でした(Source: 厚生労働省「医療法第25条に基づく病院に対する立入検査結果について(令和5年度)」)。裏を返せば、法律の最低ラインすら満たせない病院が全国に確かに存在し、医師・薬剤師ではその割合が増えているということです。この記事では、その最低ラインの意味と、自分の職場を確かめる方法を整理します。
この記事でわかること
この記事の対象:慢性的な人手不足を感じていて、「自分の職場は普通の範囲なのか」を客観的に確かめたい看護師さんです。
読むと判断できること:医療法の「配置標準」と診療報酬の「配置基準」の違い、自分の病院がどちらの水準にいるか、人手不足が「我慢の範囲」か「構造的な問題」かの見分け方です。
今の職場で確認すること:病床数と夜勤帯の実働人数、勤務表から計算できるおおよその配置です。
次にできること:確認の結果、負担が構造的だと分かったときの、職場との話し合い方と、職場を比較するときの質問リストを案内します。
判断材料になる一次情報
「医療法の標準」と「診療報酬の基準」は別物です
看護師さんが普段耳にする「7対1」「10対1」は診療報酬(入院基本料)の施設基準で、病院が届け出て報酬を受け取るための条件です。一方、今回の立入検査が見ているのは医療法の人員配置標準で、病院として備えるべき法律上の最低ラインです。混同しやすいので、違いを表で整理します。
| 項目 | 医療法の配置標準 | 診療報酬の配置基準(入院基本料など) |
|---|
| 性格 | 病院運営の法律上の最低ライン | 報酬を算定するための届出条件 |
| 一般病床の目安 | 入院患者3人に看護師・准看護師1人(3対1) | 7対1・10対1など届出区分による |
| 確認する主体 | 都道府県・保健所等の立入検査 | 地方厚生局への届出・適時調査 |
| 満たさない場合 | 指導・改善命令の対象になり得る | その区分の報酬を算定できない |
つまり、「7対1の病棟がきつい」という話と、「医療法の3対1すら割っている」という話は深刻さの次元が違います。後者は、2023年度の検査で全国の0.6%(看護師・准看護師)の病院が該当した状態です。なお、2026年6月からの診療報酬には、ICT導入を条件に配置を9割まで認める特例も登場しています。特例の対象かどうかの確かめ方は配置9割特例を確かめる方法の記事で別に整理しているので、本記事は「法律の最低ライン」に絞ります。
2023年度の検査結果を看護師さんの目線で読む
公表された結果のうち、働く側の判断に関係するポイントは次の4つです(Source: 厚生労働省 令和5年度立入検査結果・GemMed解説)。
- 看護師・准看護師の適合率は99.4%。高く見えますが、検査を受けた約7,600病院のうち数十病院が法律の最低ラインを下回っている計算です。配置が標準の50%未満という深刻な病院も3病院ありました。
- 医師は97.9%、薬剤師は97.7%で、いずれも前年度より低下。医師や薬剤師が足りない病院では、本来それらの職種が担う業務が看護師に寄ってくることがあり、看護配置が「適合」でも現場の負担は重くなりがちです。
- 規模が小さい病院ほど適合率が低い傾向がはっきりしています。看護師・准看護師の適合率は300床以上で100%に対し、20〜49床では98.1%。医師は20〜49床で95.3%まで下がります。
- 地域差が大きい。医師の適合率は近畿99.6%に対し北海道・東北94.2%。地方の中小病院では、複数職種の人員不足が同時に起きやすい構造です。
自分の病院のおおよその配置を確かめる3ステップ
正確な常勤換算の計算は複雑ですが、働きながらでも次の手順でおおよその見当はつけられます。
- ステップ1:病床数と職員数の公開情報を見る。都道府県の「医療機能情報提供制度(医療情報ネット)」で、自分の病院の許可病床数と看護職員数が公開されています。患者数ではなく病床数ベースの概算なら、一般病床で「病床数÷3」より看護職員数が明らかに少ない場合は黄信号です。
- ステップ2:勤務表で夜勤帯の実働を見る。配置標準は常勤換算の「員数」なので、日中は足りていても夜勤帯が極端に薄いことがあります。夜勤1人あたりの受け持ち患者数を病棟ごとに書き出してみてください。
- ステップ3:欠員時の運用を見る。退職者が出たとき、補充までの間に「病床を減らす」「入院を制限する」対応を取る病院は、配置を守る意思がある病院です。何も変えずに残った人の負担だけが増える病院は、構造的な問題を抱えている可能性があります。
確認した結果は、まず職場との話し合いに使えます。師長や看護部に伝えるときは、「つらい」という感覚ではなく「夜勤帯の受け持ちが◯人になっている」「欠員後の補充計画を知りたい」と事実で聞くほうが動いてもらいやすくなります。労働組合や職員代表がいる職場なら、そちらを通す方法もあります。
「配置は適合しているのにきつい」場合に見るべきこと
実は多くの看護師さんの実感はこちらのはずです。法律の最低ラインは満たしていても、きつさは消えません。その場合に見るべきは次の3点です。
- 患者の重症度と業務範囲:同じ配置でも、急性期か慢性期か、看護補助者が何人いるかで負担はまったく違います。
- 医師・薬剤師の不足のしわ寄せ:今回の検査で医師・薬剤師の適合率は低下しています。他職種の不足が看護業務に流れ込んでいないか、具体的な業務(薬剤の混注、検査搬送、書類業務など)で数えてみてください。
- 負担と報酬の釣り合い:負担が構造的に重い職場なら、せめて給与がそれに見合っているかを確かめる価値があります。夜勤・残業・手当を分けて整理するには年収診断が、地域・経験年数に対する自分の年収の立ち位置を知るには給料コンパスの適正年収診断が使えます。
職場を比較するときに聞くべき質問
転職を考える段階になったら、求人票の「配置基準7対1」という表示だけでなく、面接や見学で次を聞くことをおすすめします。
- 夜勤帯は何人体制で、1人あたりの受け持ちは平均何人か
- 直近1年で退職者が出たとき、補充までどんな運用をしたか
- 看護補助者は各病棟に何人いて、夜勤帯にもいるか
- 医師・薬剤師の欠員はないか(医師事務作業補助者などの配置はあるか)
これらは今回の立入検査結果が示した「構造的に人が足りなくなりやすい病院」を入職前に見分けるための質問です。職場選び全体のチェックポイントは職場選び・求人票の完全ガイドにまとまっています。
場所を変えると解決しやすいこと
病床規模・地域による人員の厚みの差は、個人の努力では変えられません。300床以上の病院は配置標準の適合率が100%で、看護補助者や他職種の体制も厚い傾向があります。「最低ラインぎりぎりの職場」から「余裕のある職場」への移動は、転職で解決しやすい類いの問題です。
場所を変えても解決しにくいこと
看護師全体の需給が厳しい地域では、どの病院に移っても一定の負担は残ります。また、急性期の忙しさそのものは配置が厚くても消えません。「人手不足がつらい」のか「業務内容と負担の組み合わせがつらい」のかを分けて考えないと、転職しても同じ不満を繰り返す可能性があります。判断に迷うときは、お悩み掲示板で似た状況の看護師さんの経験を見るのも一つの方法です。
まとめ
2023年度の立入検査結果は、「法律の最低ラインを割る病院が存在し、医師・薬剤師では増えている」「小規模・地方ほど厳しい」という構造をデータで示しました。自分の職場の人手不足が我慢の範囲なのか構造的な問題なのかは、病床数・夜勤帯の実働・欠員時の運用の3点である程度確かめられます。確認した事実は、まず職場との話し合いに使い、それでも変わらないときに職場を比較する材料として使ってください。負担に給与が見合っているかは給料コンパスで先に確かめておくと、どちらの場面でも判断の軸になります。
よくある質問
配置標準を満たしていない病院で働き続けると、自分に不利益はありますか?
直ちに看護師個人が責任を問われるものではありません。配置標準は病院(開設者・管理者)の義務です。ただし、慢性的な人員不足は業務負担や安全リスクとして自分に返ってくるため、勤務表や受け持ち数の記録を残し、職場に改善を求める材料にすることをおすすめします。
「7対1」の病院なら医療法の標準は必ず満たしていますか?
通常はそうです。診療報酬の7対1・10対1は医療法の3対1(一般病床)より手厚い水準なので、入院基本料を正しく届け出て算定している病棟なら、医療法の標準は満たしているのが普通です。問題は、届出と実態がずれている場合や、特定の時間帯・病棟に負担が偏っている場合です。
自分の病院が立入検査で何を指摘されたか知る方法はありますか?
検査結果の病院別の詳細は原則公表されませんが、院内では管理部門が把握しています。職員として配置や安全管理の改善状況を尋ねること自体は不当なことではありません。公開情報としては、都道府県の医療機能情報提供制度で病床数・職員数の概要を確認できます。
人手不足を理由に転職するのは「逃げ」でしょうか?
人員配置は個人の頑張りでは変えられない経営の問題です。事実を確認し、職場に伝え、それでも改善の見込みがないなら、より体制の整った職場を選ぶことは合理的な判断です。その際は本文の質問リストで「次の職場が本当に体制が厚いか」を確かめてから動いてください。
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※本記事は2026年6月12日時点の公表資料に基づいています。個別の労務判断・法的判断が必要な場合は、労働基準監督署や弁護士などの専門窓口にご相談ください。


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