発熱、倦怠感、食欲不振、嘔気、下痢。よくある感染症にも見える症状の患者へ、どの時点で「最近、草むらや畑へ入りましたか」「体調の悪いネコやイヌに触れましたか」と聞けばよいのでしょうか。
国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症発生動向調査週報2026年第36週(8月31日〜9月6日)では、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が5例報告されました。推定感染地域は宮城県、兵庫県、和歌山県、広島県、長崎県が各1例で、年齢は60代1例、70代2例、80代1例、90代以上1例です。
一週分の5例だけで、全国的な増加や流行地域の拡大を断定することはできません。一方、北日本を含む複数地域から報告され、5例すべてが60代以上だったという週報は、「西日本の山間部の病気」と決めつけず、発熱患者の生活歴を聞く機会になります。
この記事では、SFTSを看護師が診断する方法ではなく、屋外活動、マダニ、動物、患者の血液・体液という4つの曝露を、発症日との関係が分かる形で申し送る順番を整理します。
最初に:第36週の5例から言えること、言えないこと
| 週報で確認できたこと | 週報だけでは確認できないこと |
|---|
| 第36週にSFTS 5例が報告された | 5例全員の発症日・診断日が同じ週か |
| 推定感染地域は5県に1例ずつ | 各県で感染が広がっているか |
| 年齢は全例60代以上 | 若い人は感染・発症しないか |
| 宮城県の報告を含む | 東日本全体で流行域が拡大したか |
| 8月31日〜9月6日の週報 | 9月20日現在の患者数や最新の自治体別状況 |
感染症週報は、個別患者の診断を確定する資料ではありません。報告の遅れは後の週の累積に反映されることがあり、一週の件数を前週と単純比較して「何倍」と示すことも避けます。
厚生労働省の「SFTS診療の手引き2025」は、国内患者は高齢者に多く、春から秋に多い傾向を示す一方、2025年には北海道、茨城県、山梨県、栃木県を推定感染地とする患者が初めて報告されたと記載しています。過去の地理的イメージだけで問診を省かないことが重要です。
刺し口が見つからなくても、SFTSは問診から外せない
厚生労働省Q&Aによると、SFTSの潜伏期間はマダニに刺されてから6日〜2週間程度です。発熱、消化器症状、血小板減少、白血球減少、AST・ALT・LDH上昇などが手掛かりになりますが、すべての症状・検査所見がそろうわけではありません。
さらに、患者がマダニに刺されたことへ気付いていない、刺し口が見つからないことも多くあります。診療の手引きでは、刺咬痕が認められるのは患者の約半数程度と説明されています。
そのため、問診で「ダニに刺されましたか」と一問だけ聞き、本人が「いいえ」と答えたところで終わらせないようにします。本人が刺咬を認識していなくても、次の生活場面があれば情報になります。
- 畑、田、山林、草むら、河川敷、墓地、公園などで作業・散歩をした
- 草刈り、農作業、山菜採り、キャンプ、狩猟、庭仕事をした
- 地面に座った、藪へ入った、落ち葉や枝を扱った
- 作業後の衣服や皮膚にダニが付いていた可能性がある
- 屋外で活動する同居者の衣服や道具を扱った
- 体調不良のネコやイヌ、野生動物へ接触した
「屋外活動はありません」という返答でも、庭仕事や墓参りを屋外活動だと本人が捉えていないことがあります。具体的な行動を挙げ、発症前2週間ほどの範囲を日付とともに確認します。
聞く順番は「症状→屋外→動物→人の体液」
受付や外来で時間が限られるときは、4段階に分けます。
1.症状と発症日を固定する
最初に、発熱、だるさ、食欲低下、嘔気・嘔吐、下痢、腹痛、頭痛、筋肉痛など、何がいつ始まったかを聞きます。SFTSの臨床像には、神経症状、リンパ節腫脹、呼吸不全症状、出血症状が含まれるため、意識、けいれん、紫斑、下血などの有無も現在の緊急度に応じて確認します。
発症日が曖昧なら、「最後に普段どおり食事ができた日」「農作業を休み始めた日」「家族が様子の違いに気付いた日」など、生活上の目印から絞ります。
2.屋外活動を具体的な動作で聞く
「山へ行ったか」だけでなく、庭の草取り、家庭菜園、畑の見回り、犬の散歩、墓地の清掃などを聞きます。場所の住所を細かく聞く前に、日付、活動時間、服装、皮膚へ付着した虫の有無を確認します。
3.体調不良の動物との接触を聞く
診療の手引きは、SFTSを発症したネコやイヌから人への感染事例を示しています。咬傷や引っかき傷がなくても感染した報告があり、発症動物の血液、唾液、尿などの体液にウイルスが多く含まれることが知られています。
次のように、飼育の有無より接触場面を聞きます。
- 最近、発熱、食欲不振、嘔吐、元気消失などがある動物に触れたか
- 動物の口、鼻、目の周囲を拭いたか
- 吐物、排泄物、血液、唾液を素手や傷のある手で扱ったか
- 咬まれた、引っかかれた、舐められたことがあるか
- 動物病院で働く、保護活動をする、野生動物を扱う機会があるか
「ペットは室内飼いだから関係ない」と決めつけません。動物が屋外へ出たか、マダニの付着があったか、体調不良時の世話を誰がしたかを確認します。
4.SFTS患者や体液への接触を聞く
患者から家族や医療従事者への感染は、血液・体液への直接接触が原因と考えられる事例が報告されています。家族内で重症の発熱患者を介護した、医療・介護・葬祭の業務で血液や体液に触れた、死後処置に関わったなどの情報があれば、業務上の曝露も含めて伝えます。
受付・トリアージで使う曝露歴の一枚表
| 項目 | 患者・家族へ聞く言葉 | 記録のポイント |
|---|
| 症状開始 | 「普段と違うと最初に感じたのは何日ですか」 | 最初の症状と日付 |
| 屋外 | 「この2週間、庭・畑・草むら・山へ入りましたか」 | 場所、日付、活動内容 |
| マダニ | 「虫の付着や刺し口に気付きましたか」 | 無いという回答も記録 |
| 動物 | 「体調の悪いネコやイヌの世話をしましたか」 | 咬傷だけでなく体液接触 |
| 人 | 「発熱した人の介護や血液・体液への接触はありましたか」 | 家庭・仕事の両方 |
| 現在の状態 | 食事、水分、排尿、意識、出血、呼吸 | 普段との差、急変時刻 |
| 検査 | 白血球、血小板、肝酵素など | 採取時刻と前値との差 |
この表は診断基準ではありません。緊急性が高い場合は、問診を完成させるより先に医師、責任者、急変対応チームへ連絡します。
「胃腸炎らしい」で帰宅説明を終えない
SFTSの初期症状は、急性胃腸炎やインフルエンザ様疾患と区別しにくいことがあります。発熱と消化器症状があり、屋外・動物接触歴がある患者については、医師がSFTSを疑っているか否かにかかわらず、帰宅後の再相談条件を具体的にします。
説明内容は診断と医師の指示に沿いますが、聞き返しで次を確認できます。
- どの症状が出たら、通常予約を待たずに連絡するか
- 夜間・休日の連絡先はどこか
- 本人だけでなく家族が見る変化は何か
- 体調不良の動物へ再び接触しないため、誰に相談するか
- 皮膚にマダニが付いているのを見つけた場合、どう医療機関へ相談するか
- 自宅で記録するのは体温、摂取、排尿、意識など何か
患者へ恐怖を与えるためにSFTSの重篤例を列挙するのではなく、「現時点では診断が確定していない」「変化したときの連絡方法を決めておく」という二つを分けて説明します。
病棟で疑いが出たら、後からPPEを考えない
厚生労働省Q&Aは、患者の血液や分泌物との直接接触が原因と考えられる人から人への感染事例を踏まえ、標準予防策に加えて接触感染予防策を実施することが重要としています。診療の手引き2025は、重症患者の診療・ケアでは接触および飛沫感染予防策も望ましいとしています。
看護師個人がPPEの組み合わせを独自に決めるのではなく、疑った時点で感染管理部門と院内手順を確認します。そのうえで、次の作業を「通常のケア」として無意識に始めないことが大切です。
- 採血、ルート確保、吸引、口腔ケアなど、血液・分泌物へ接触する処置
- 嘔吐物、便、尿の処理
- 出血部位のケア
- 急変時の気道管理や心肺蘇生
- 検体容器の外装、搬送袋、依頼票の取り扱い
- 死後のカテーテル抜去、創部処置、清拭など
必要なPPE、個室、動線、検体搬送、環境清掃、廃棄は、患者の状態と処置内容をもとに感染管理担当者と決めます。PPEは着ければ終わりではなく、脱ぐ順番、介助者、汚染した場合の中止手順まで確認します。
検体は「採れた」だけでなく、連絡線を残す
厚生労働省Q&Aでは、SFTSが疑われる場合、最寄りの保健所へ報告し検査を依頼するとされています。地方衛生研究所やJIHSでウイルス学的検査が実施されます。
現場では、検体採取そのものに加えて次の記録をつなぎます。
| 段階 | 確認すること |
|---|
| 疑いの共有 | 誰が、何時に、どの曝露歴と所見から相談したか |
| 行政連絡 | 保健所へ誰が連絡し、どの検体・様式を案内されたか |
| 採取 | 種類、時刻、採取者、使用したPPE、患者の状態 |
| 包装・搬送 | 院内手順、容器外装の汚染確認、受け渡し先 |
| 結果 | 受領者、受領時刻、主治医・感染管理部門への連絡 |
| 継続対応 | 結果判明までの病室・ケア・職員管理を誰が決めたか |
外部検査だからといって、院内の検査部門へ連絡せず通常ルートへ流さないようにします。検査を受ける部署が、疑い情報と取り扱い方法を把握できる運用が必要です。
職員が血液・体液へ曝露したら、本人の自己判断で様子を見ない
診療の手引きは、日本国内で2024年3月にSFTS患者から医療従事者への感染が初めて報告されたと記載しています。患者の死後、中心静脈カテーテルの抜去と刺入部縫合を行った際の血液曝露が示唆され、処置中にアイガードを着用していなかったことが指摘されています。
血液・体液が粘膜や傷のある皮膚へ触れた、針刺しがあった、PPEの破損・脱落があったなどの事象は、SFTSが確定してから申告するのではありません。発生時点で洗浄など院内の曝露後手順を実施し、上司、感染管理部門、職員健康管理部門へ報告します。
曝露記録には、次を含めます。
- 患者との接触日時と処置内容
- 血液・体液の種類と量について分かる範囲
- 接触した部位、皮膚・粘膜の状態
- 着用していたPPEと、外れ・破損・汚染の有無
- 直後に行った洗浄等の対応
- 報告した相手と時刻
- 以後の健康観察と相談先について受けた指示
健康観察の期間や検査、就業上の対応は、最新の手引きと専門部署の指示で決めます。同僚間の口頭共有だけで終わらせず、所定の報告経路へ乗せます。
高齢患者の「いつもの不調」に埋もれさせない
第36週の5例は全員60代以上でした。高齢患者では、発熱や消化器症状があっても「暑さ」「食欲の波」「持病」と解釈され、受診が遅れることがあります。本人から屋外活動を聞きにくい場合は、家族、介護職、ケアマネジャーなど、日常を知る人へ確認します。
特に、次の変化は生活情報として申し送れます。
- 毎日の畑仕事へ行かなくなった日
- 食事を残し始めた日
- 歩行、着替え、会話の速度が変わった時刻
- ペットの世話を他の人へ頼み始めた理由
- 発熱前後の転倒や、皮膚の傷
- 通所・訪問サービスで確認された体温や活気の推移
年齢が高いことだけでSFTSと判断せず、逆に若いことだけで除外もしません。発症時期、曝露、症状、検査の組み合わせを診療担当へ渡します。
部署で行う15分の点検
この記事を個人の知識で終わらせず、次の順で部署の運用を確認できます。
- 発熱・消化器症状の問診票に屋外活動と動物接触があるか見る
- 「ダニに刺されたか」だけでなく具体的な活動を聞けるか確認する
- SFTS疑いを誰へ連絡するか、夜間を含めて読む
- 接触・飛沫予防策、検体搬送、保健所連絡の正本を開く
- 職員曝露時の報告先と連絡先を確認する
- 架空患者を使い、受付から病室まで一度情報を流す
感染症週報を職場の確認へ変える方法は、感染症週報を朝礼で使う看護師向けガイドにもまとめています。発熱患者を「感染症か熱中症か」の二択にしない問診は、夏の感染症と熱中症を分けて申し送る確認表を参照してください。
動物接触歴を医療と獣医療の間で途切れさせない
体調不良のネコやイヌへの接触が分かったとき、患者側の医療機関が動物の診断を推測したり、家族が動物を連れて人の病院へ来たりする運用にはしません。人の診療と動物の診療には、それぞれ適切な相談先があります。
患者・家族には、次の事実を整理してもらいます。
- 動物の種類、飼育・保護の状況
- 動物が体調を崩し始めた日と、人の発症日
- 動物病院を受診したか、検査・診断の説明を受けたか
- 血液、唾液、吐物、便、尿へ触れた場面
- 咬傷・引っかき傷、皮膚の傷、粘膜への飛散
- 同じ動物を世話した家族・職員の体調
動物の個体情報や診療情報を、本人の同意と必要性を確認せずに広く共有しません。医師、保健所、必要に応じ獣医療側の相談窓口が連携できるよう、誰が連絡を担うかを決めます。
家族へは、体調不良の動物へ素手で触れること、口移しや過度な接触、体液の処理を避け、動物病院へ事前に連絡して指示を受けるよう説明します。動物を遺棄したり、自己判断で処置したりしないことも伝えます。
季節の終わりを、問診の終了日にしない
国内では春から秋に患者が多い傾向がありますが、気温、地域、屋外活動、動物との接触は暦どおりに終わりません。「9月だからまだ聞く」「冬になったから聞かない」という一律運用ではなく、症状と生活歴から判断します。
問診票を季節限定で表示する場合も、医療者が必要と考えたときは年間を通じて曝露歴を追加できるようにします。新しい推定感染地域が報告された場合は、地域名だけを追加するのではなく、庭仕事、農作業、伴侶動物などの行動質問が機能しているかを見直します。
問診の答えが変わっても「最初と違う」と責めない
初回に「屋外活動なし」と答えた患者が、家族との会話で庭仕事を思い出すことがあります。体調不良や緊張の中では、本人が何を医療者のいう「曝露」と捉えるかも一定ではありません。
追加情報が出たら、初回回答を虚偽と扱わず、いつ、誰から、どの具体的行動が分かったかを追記します。問診者が交代しても、以前の回答を削除せず、更新の経過が分かるようにします。患者・家族が後から話しやすい雰囲気を作ることも、感染症の情報収集には必要です。
病院の受入れ責任者・感染管理・検査・職員健康管理向けには、SFTS疑い患者の受入れ前に確認するPPE・検体・職員曝露対応をまとめています。
よくある質問
マダニの刺し口がなければSFTSではありませんか?
刺し口が見つからなくても否定できません。診療の手引きでは刺咬痕が認められるのは患者の約半数程度とされています。屋外活動と動物接触を含めて確認します。
ネコに咬まれていなくても、動物接触を伝える必要がありますか?
必要です。発症動物の血液、唾液、尿などの体液との接触が感染に関与したと考えられる事例があり、咬傷や引っかき傷がなくても感染した報告があります。接触場面を具体的に伝えます。
第36週の宮城県1例は、東日本へ流行が広がった証拠ですか?
一週の一例だけでは判断できません。推定感染地域、発症日、過去の報告、自治体の調査などを合わせた評価が必要です。この記事では、地理だけで問診を省かない理由として扱っています。
SFTS疑い患者は全員N95マスクが必要ですか?
この記事で一律には決めません。標準予防策に加え、患者の重症度、処置、飛沫・体液曝露の可能性を踏まえ、最新の手引きと院内感染管理部門の判断に従います。PPEの種類だけでなく、着脱と廃棄まで含めて確認してください。
参考資料
最終確認日:2026年9月20日。週報5例は一週の届出であり、増加傾向を示すものとしては扱っていません。個別患者の診断、検査、治療、感染対策、職員の曝露後対応は、保健所、医師、感染管理・職員健康管理部門と最新の公式手引きに従ってください。
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