「この薬品には、どの手袋なら使えるのか」。病院の手順書に「手袋を着用」とだけ書かれていて、材質まで答えられないことがあります。防毒用なのか防じん用なのか、呼吸用保護具の種類も製品名だけでは決められません。
厚生労働省は2026年8月24日、労働安全衛生規則の一部改正案について意見募集を始めました。対象となる化学物質のSDS(安全データシート)に、識別番号や保護具選択に関する情報などを追加する案です。
先に線を引くと、病院で使うすべての薬や製品が対象になるわけではありません。医薬品、医薬部外品、化粧品など、法令上SDS交付義務の対象外となる製品があります。製品名や用途だけで決めず、実際のSDSと対象物質リストを確認することが出発点です。
何が追加される案なのか
省令案は、労働安全衛生法第57条の2第1項に基づく危険性・有害性情報の通知事項について、次の4項目を追加する内容です。
| 追加する情報 | 現場で確認しやすくなること |
|---|
| CAS登録番号など、成分を特定できる一般的な番号 | 同じ物質の別名や製品名に惑わされず、成分を照合する |
| 使用すべき呼吸用保護具の種類 | 防じん用・防毒用などの区分や、必要な吸収缶を確認する |
| 不浸透性保護手袋として適当でない材料 | 「手袋をした」だけで終わらず、透過しやすい材質を避ける |
| 成分ごとに適用される法令・化学物質の区分 | どの規制を根拠に管理するかを追えるようにする |
意見募集は2026年9月23日15時20分まで。概要では2026年10月の公布、2030年4月1日の施行が予定されています。2026年8月30日時点では案であり、確定した省令ではありません。
2030年施行でも、今見る理由
施行まで時間があるのは、SDSを作る供給者だけでなく、受け取る事業者側にも準備が必要だからです。
病院では、SDSを購買部門や委員会が保管していても、実際に製品を扱う部署の手順書とつながっていないことがあります。SDSの更新日が古い、製品を切り替えたのに旧製品のSDSだけ残っている、手袋の材質が書かれていない、といった状態です。
今回の案は、個々の看護師に保護具を選定させるものではありません。事業者が化学物質のリスクアセスメントを行い、その結果に基づく対策を決めるための情報を増やすものです。現場の役割は、取扱製品とSDS、手順、実際の保護具が一致しているかを確認し、不一致を管理者へ渡すことです。
病院で「対象かもしれない」ときの見分け方
病院には、医薬品以外にも洗浄剤、消毒用途の化学製品、検査・病理で使う試薬などがあります。厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」には、たとえばホルムアルデヒドのモデルSDSが掲載されています。
ただし、ホルムアルデヒドを含むものなら何でも同じ扱い、あるいは病院用なら必ず対象という意味ではありません。濃度、形状、供給形態、用途、他法令による位置づけで扱いが変わります。グルタラールなど別の成分も同様に、製品ごとのSDSで確認してください。
一方、厚生労働省のQ&Aは、医薬品医療機器等法に定められる医薬品、医薬部外品、化粧品などを、労働安全衛生法上のラベル表示・SDS交付義務の対象外となる例に挙げています。抗がん剤や一般の医薬品を、今回のSDS追加案の対象だと一括りにするのは誤りです。 ハザーダスドラッグの安全対策は重要ですが、この記事の省令案とは根拠と対象を分けてください。
看護現場で確認する7項目
- 製品名とメーカー名。 容器、発注情報、手順書の表記が同じか。
- 最新版のSDSがあるか。 改訂日と入手日を確認し、旧製品のものと混ざっていないか。
- 対象物質か。 CAS登録番号や成分名を対象物質リストと照合した記録があるか。
- 作業が具体化されているか。 開封、希釈、浸漬、廃液、こぼれたときなど、ばく露しうる場面が洗い出されているか。
- 手袋の材質。 「不浸透性手袋」だけでなく、製品と作業時間に合う材質を管理者が決めているか。
- 呼吸用保護具と換気。 必要性をリスクアセスメントで判断し、種類、吸収缶、フィット、交換条件まで手順化されているか。
- 更新を夜勤・非常勤まで伝える経路。 SDSや手順が変わったとき、誰が教育し、旧版を回収するか。
3番、5番、6番を看護師個人の判断にしないでください。化学物質管理者、保護具着用管理責任者、衛生管理者、産業医、感染管理担当、薬剤師、臨床工学技士など、自施設で担当する職種へつなぎます。
「手袋をしているから安全」ではありません
化学物質用の手袋は、素材によって浸透し始めるまでの時間が異なります。厚生労働省の通知も、洗浄・払拭作業では、化学物質と手袋の組合せにより透過時間が大きく異なると注意しています。
だから今回の案には「適当でない保護手袋の材料」が入っています。SDSに情報が増えても、院内手順が「手袋着用」の一行のままなら、現場の安全は変わりません。SDS、リスクアセスメント、採用している保護具、教育の4点がつながっているかを確認してください。
もし、SDSがどこにあるか分からない、こぼしたときの連絡先も決まっていないという状態なら、個人の注意力では解決できません。インシデントの不安を匿名で相談する前に、まず「製品」「作業」「SDS」「担当者」の4欄を書き出すと、院内へ伝える材料になります。
よくある質問
Q. 2026年10月からSDSが変わりますか。 まだ案です。概要では2026年10月公布、2030年4月1日施行の予定とされています。意見募集後の確定文書を確認してください。
Q. 病院で使う医薬品も対象ですか。 医薬品医療機器等法に定める医薬品などは、ラベル表示・SDS交付義務の対象外となる例に挙げられています。用途や名称だけで判断せず、製品ごとの法的位置づけを確認してください。
Q. SDSに書かれた手袋を買えば、それで十分ですか。 十分とは限りません。作業、濃度、接触時間、交換時期などを含むリスクアセスメントが必要です。選定は自施設の担当者が行い、看護師個人の判断にしないでください。
Q. いま何をすればよいですか。 自部署で使う医薬品以外の化学製品を一覧にし、最新版SDS、実際の手順、使用している保護具が一致しているかを確認してください。
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この記事の確認範囲
- 確認日:2026年8月30日
- 確認主体:はたらく看護師さん編集部
- 個別専門家監修:労働衛生・化学物質管理の専門家による個別監修は実施していません
本稿は省令案と厚生労働省のQ&A・通知に基づく一般的な確認手順です。対象該当性、リスクアセスメント、保護具の選定を代替するものではありません。製品の最新版SDSと、自施設の化学物質管理担当者の判断を優先してください。
参考資料
はたらく看護師さん 求人
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