制吐薬は、指示簿に一度入るとそのまま残りやすい薬です。「吐き気時」の頓用指示が、いつ始まったのかもう誰も覚えていない。そういう状態に心当たりがあるなら、この改訂は自分の受け持ちの話です。
2026年8月25日付で改訂指示が出たのは、ドンペリドンと、塩酸メトクロプラミド/メトクロプラミドです。ナウゼリンとプリンペラン。病棟でも外来でも在宅でも登場する、あの2剤です。
先に結論
- 「8. 重要な基本的注意」に、致死性不整脈および心突然死のリスクに関する注意が新設されました。
- 「11. 副作用」の「11.1 重大な副作用」に、「重篤な不整脈」が新設されました。
- 禁忌になったわけではありません。 使い方の設計が変わりました。
- 追記された注意の芯は3つ。必要最小限にとどめて漫然と続けないこと、症状が出たら速やかに受診するよう患者へ指導すること、症状が認められたら速やかに心機能検査(心電図検査等)を行うことです。
何がどう追記されたのか
薬効分類はどちらも239、その他の消化器官用薬です。両剤の「8. 重要な基本的注意」には、これまで無かった段落が丸ごと1つ足されました。中身はこうです。
心室頻拍、心室細動等の重篤な不整脈があらわれることがあるため、
- 必要最小限の使用にとどめ、長期にわたり漫然と投与しないこと
- 関連する症状が認められた場合は、速やかに受診するよう患者に指導すること
- 観察を十分に行い、関連する症状が認められた場合は速やかに心機能検査(心電図検査等)を行うこと
あわせて「11.1 重大な副作用」には「重篤な不整脈」が加わり、「心室頻拍、心室細動等の重篤な不整脈があらわれることがある。異常が認められた場合には、本剤の中止、救命処置、除細動等の適切な処置を行うこと」とされました。両剤とも、患者向医薬品ガイドを作成する医薬品に特定されています。
2剤で、書き方が違います
ここは見落としやすいところです。リスクの根拠にあたる文章が、2剤で微妙に違います。
| 薬剤 | 改訂文の書き出し |
|---|
| ドンペリドン | 国内外疫学調査において、致死性不整脈及び心突然死のリスク増加が示唆されている |
| メトクロプラミド | 国内疫学調査において致死性不整脈が、国内外疫学調査において心突然死のリスク増加が示唆されている |
ドンペリドンは致死性不整脈も心突然死も国内外の調査でまとめて述べているのに対し、メトクロプラミドは致死性不整脈が国内調査、心突然死が国内外調査、と分けて書かれています。院内の勉強会資料などで「2剤とも同じ内容が追記された」と一文にまとめると、この差が消えます。同じ日に同じ趣旨の改訂が出たからといって、根拠の範囲まで同じとは限りません。
根拠になったのはレセプトデータの解析です
PMDAは改訂の理由を、匿名医療保険等関連情報データベース(いわゆるNDB)を用いた、ドンペリドンまたはメトクロプラミドによる致死性不整脈イベント発現のリスク評価の結果としています。この結果から両剤において重篤な不整脈のリスクが示唆されたと判断し、専門委員の意見も聴取したうえで改訂が適切と判断した、という流れです。
つまり、個別の症例報告が積み上がって危険が判明した、という経緯とは少し違います。大規模なデータベースを解析した結果としてリスクが示唆された、という性質のものです。この違いは、患者や家族から「何か事故があったんですか」と聞かれたときの答え方に関わります。
ただし、この解析が見た範囲は限定されています。
- 調査対象品目は経口剤のみ(ドンペリドン、メトクロプラミド)。注射剤や坐剤は解析されていません。
- データ期間は2012年4月1日から2023年3月31日で、Nested case-controlデザインです。
- 除外基準により、t0時点で20歳未満の患者、t0の6か月以上前に診療報酬請求がない患者、t0以前に悪性腫瘍、パーキンソン病、遺伝性不整脈(先天性QT延長症候群、Brugada症候群)の傷病名を有する患者は対象外です。
曝露の見方も知っておく価値があります。 設定されたのは2種類でした。曝露区分1は使用時期で、Index date以前の直近の処方期間終了日との関係により、Current use(処方期間終了日がIndex dateの前7日間にある、またはIndex date以降)、Past use(同8日前から67日前)、Non-use(同68日以上前)に分かれます。曝露区分2は1日処方量で、ドンペリドンのみを対象に30mg超をHigh dose、30mg以下をLow doseとしています。
つまりこの解析は、累積の投与回数や通算の投与期間を主要な曝露として見てはいません。改訂文の「長期にわたり漫然と投与しないこと」は電子添文上の注意であって、NDB解析がその点を検証した結果ではない、という区別が要ります。
原典は解析の限界も明記しています。アウトカム定義のバリデーションは実施されておらず、BMIや飲酒歴といった潜在的な交絡や追跡中の交絡因子の変化を除外できず、院外での心突然死を完全には捉えられないため誤分類の可能性があること。またドンペリドンの部分集団解析では、65歳以上や既往ありの群で明確に高い傾向は認められず、CYP3A4阻害剤併用あり群は信頼区間が広く解釈が難しいこと。この調査から発生率や因果関係を読み取ることはできません。
「示唆されている」を「増加する」に読み替えない
改訂文の言葉は「リスク増加が示唆されている」です。「リスクが増加する」でも「危険な薬である」でもありません。疫学調査でそういう傾向が見えている、という段階の表現です。
ここを強めて伝えると、患者が自己判断で内服をやめる方向に働きます。制吐薬をやめれば嘔吐が止まらなくなり、脱水や電解質異常につながる患者もいます。リスクを伝えることと、薬を怖がらせることは別です。改訂が求めているのは中止ではなく、漫然と続けないことと、症状が出たときに動ける準備です。
どこでこの薬に出会うか
対象製品の適応は広く、看護のほぼ全領域に散らばっています。
ドンペリドン(協和キリン株式会社ほか)は1982年9月発売で、剤形ごとに適応が違います。錠5・錠10とOD錠5・OD錠10は、成人では慢性胃炎、胃下垂症、胃切除後症候群、抗悪性腫瘍剤またはレボドパ製剤投与時の消化器症状に、小児では周期性嘔吐症、上気道感染症、抗悪性腫瘍剤投与時に用います。ドライシロップ1%と小児用の坐剤10・30は小児向けで、周期性嘔吐症、乳幼児下痢症、上気道感染症、抗悪性腫瘍剤投与時が対象です。成人用の坐剤60は、胃・十二指腸手術後と抗悪性腫瘍剤投与時に限られます。「乳幼児下痢症」は錠・OD錠の適応には入っていません。 剤形をまとめて覚えると、ここを取り違えます。
メトクロプラミドは、プリンペラン注射液10mg(日医工株式会社ほか、1965年10月発売)が、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胆嚢・胆道疾患、腎炎、尿毒症、乳幼児嘔吐、薬剤(制癌剤・抗生物質・抗結核剤・麻酔剤)投与時、胃内・気管内挿管時、放射線照射時、開腹術後の消化器機能異常に。さらにX線検査時のバリウムの通過促進という適応もあります。錠5、シロップ0.1%、細粒2%もあります。
並べてみると、化学療法室、消化器病棟、術後、透析、小児、放射線検査、在宅と、担当領域を問わず出てくることが分かります。「自分の病棟には関係ない」と言い切れる看護職は、ほとんどいないはずです。
看護師が動ける範囲はどこか
投与するかどうかを決めるのは医師です。心電図を実施するかどうかも、中止するかどうかも同じです。ではこの改訂で、看護師の仕事は何が変わるのか。
改訂文が求めているのは「必要最小限の使用にとどめ、長期にわたり漫然と投与しないこと」と、症状が出たときの受診指導・心機能検査です。この2つのうち、看護職が最初に材料を持てるのは投与の実施状況と症状の訴えです。頓用指示が続いている事実は、実施記録を持っている側にしか見えません。
ただし、続いていること自体が危険だと断定しないでください。前章のとおり、解析が見たのは直近の使用時期と1日処方量です。Current useだけでなくPast useでもリスク増加が示唆されており、ドンペリドンでは30mg超・30mg以下のどちらでもNon-useより調整オッズ比が上昇していました。 短期だから安全、少量だから安全、という読み方はできません。
もうひとつが症状の拾い上げです。改訂文は「関連する症状」とだけ書いており、具体的な症状名を列挙していません。本稿では独自の症状一覧を補わず、何を確認事項とするかは最新電子添文、自施設の手順、医師・薬剤師の指示に委ねます。
なお、電子添文には今回の追記より前から注意すべき背景が書かれていますが、これは薬剤ごとに違います。ドンペリドンには、心疾患のある患者ではQT延長のおそれがあること、CYP3A4阻害剤との併用で血中濃度が上昇しうること、外国での報告では特に高用量または高齢の患者で重篤な心室性不整脈・突然死のリスク増加が認められたことが記載されています。NDBで年齢・心疾患・肝障害・CYP3A4阻害剤別の部分集団解析が行われたのも、ドンペリドンだけです。メトクロプラミドには腎排泄や錐体外路症状など、別の注意があります。
今回2剤に共通して加わったのは「必要最小限」「長期に漫然と投与しない」「症状時の受診指導と心機能検査」の3点です。それ以外の背景因子や相互作用は、扱っている薬剤の電子添文でそれぞれ確認してください。2剤を1枚の資料にまとめるときほど、この区別が消えます。
確認するときの順番
投与前後や、指示簿を見直すタイミングで確認する項目を挙げます。判断そのものではなく、報告に必要な材料をそろえるための順番です。
- 一般名と製品名。 ドンペリドンかメトクロプラミドか。後発品も多く、製品名だけでは判断できません。
- 投与目的と、いつから始まったか。 化学療法に伴う制吐か、術後か、原疾患の症状か。開始日をカルテで確認します。
- 投与の実施状況。 頓用指示の場合、実際に何回使われているかは実施記録を数えないと分かりません。「漫然と投与していないか」を医師と話すための材料になります。
- 1日投与量。 ドンペリドンでは1日30mgを超えているかどうかが、解析上の区分になっていました。
- 心疾患の有無と年齢。 ドンペリドンの電子添文が従来から挙げている背景です。
- 併用薬。 ドンペリドンではCYP3A4阻害剤との併用がないか。あわせてQT延長に関わる薬剤が重なっていないか。メトクロプラミドは腎排泄であり、注意点が異なります。
- 関連する症状の有無。 具体的な確認項目は、本記事ではなく自施設の手順で確認します。
- 症状が認められた場合の心機能検査の指示と連絡経路。 改訂文は速やかな心電図検査等を求めていますが、実施判断は医師が行います。
- 報告と申し送り。 誰に、何を、どの経路で伝えるか。夜間ならどうするか。
3番を単独で拾えるようにしておくと、医師との会話が具体的になります。頓用の実施回数は、日々の記録には残っていても集計されていないことが多いからです。
指示簿と申し送りの設計を見る
この種の変更を注意力だけに任せると、確認漏れが生じるリスクがあります。人ではなく仕組みが検知できる形になっているか、次の4点で確かめてください。
- 頓用指示に期限や上限回数が設定されているか。 「吐き気時」だけで開始日も上限もない指示は、漫然投与を検知できません。
- 電子カルテの投与実施記録から、実施回数を出せるか。 出せないなら、何をもって「漫然」と判断するのかを決めておく必要があります。
- 添付文書改訂の情報が、夜勤者と非常勤にも届く経路があるか。 日勤帯の申し送りだけで完結していると、改訂を知らない人が投与を続けます。
- 患者向医薬品ガイドをどう案内・活用するか。 両剤ともガイドを作成する医薬品に特定されました。患者への説明にどう用いるかを、医師・薬剤師を含む院内手順で確認します。
確認してみて空欄が多かったなら、そこは個人の努力で埋める場所ではありません。医師と薬剤師と看護管理者を巻き込んで、運用そのものを決める段階です。とはいえ、言い出す前に頭の中を整理したいこともあります。その用途でインシデントの不安を匿名で相談する窓口を使ってもかまいません。
よくある質問
Q. 明日から使えなくなるのですか。 今回の改訂だけで一律に使用不可になったわけではありません。禁忌への追加ではなく、重要な基本的注意と重大な副作用への追記です。個別患者への投与可否は、最新電子添文と医師・薬剤師の判断を確認してください。
Q. 患者さんに何と説明すればいいですか。 説明の主体は医師や薬剤師です。改訂文が求めているのは「関連する症状が認められた場合は、速やかに受診するよう患者に指導すること」で、具体的な症状名は挙げられていません。看護職としては、自施設で定めた説明内容が患者・家族に届いているかを確認する立場になります。リスクの大きさを自分の言葉で評価して伝えることは避けてください。
Q. 短期間の使用なら関係ありませんか。 改訂文は長期の漫然投与を避けるよう求めていますが、重大な副作用の追記に期間の条件はありません。根拠になったNDB解析でも、直近まで使っていたCurrent useだけでなく、処方期間が8日前から67日前に終わっていたPast useでもリスク増加が示唆されています。短期だから対象外、とは読めません。
Q. 後発品も対象ですか。 一般名が同じであれば、原則として同様の改訂が行われます。ただし製品ごとの反映状況は電子添文で確認してください。
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この記事の確認範囲
- 確認日:2026年8月27日
- 確認主体:はたらく看護師さん編集部
- 医療監修:医師・薬剤師による個別監修は実施していません
本稿はPMDA・厚生労働省の改訂資料とNDB調査結果の紹介に限定しています。個別患者の投与継続・中止、検査、症状評価は、最新の電子添文、医師・薬剤師、自施設の手順を優先してください。
参考資料
投与を続けるか止めるか、心電図をいつ取るかは、いずれも医師が決めることです。本稿はその判断材料を看護の側からどう集めるかを扱いました。実務では製品ごとの電子添文を開き、薬剤師と自施設の手順に確認を通してください。
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