分娩の介助、陣痛期の付き添い、産後の授乳支援、退院前の生活指導。産科病棟と助産所で行われているケアのうち、どこまでが「評価される医療」として数えられているかを、意識したことはあるでしょうか。
その線引きを見直す作業が始まります。中央社会保険医療協議会の総会(第655回)が2026年8月26日に開かれ、議題のひとつとして「出産検討会の立ち上げについて」が扱われました。示されたのは「妊娠・出産・産後における診療やケアの内容等に関する検討会」の開催要綱です。
「保険適用が決まった」ではありません
この話題は要約されるときに歪みやすいので、順番を正確に押さえます。
開催要綱はまず、前提としてこう書いています。出産に係る給付体系の見直し等を内容とする「健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)」が成立した、と。そのうえで、同法の施行に向けては出産に係る給付体系を新たに構築する必要があるとしています。
つまり、給付体系を作ること自体は法律で決まっています。決まっていないのは、その中身です。
要綱は続けて、中央社会保険医療協議会等で「出産に係る診療・ケアの体制や内容等を新たな給付体系でどのように評価するかを検討する際には」、出産に係る診療・ケアの実情や、関連する妊娠から産後にわたる支援体制、自費と保険診療が併用されている中での出産に関連する保険診療の現状等を踏まえる必要があるとしています。
だから現状を分析し、提供体制や実施内容に応じた評価の設計に関する論点整理を行う。それがこの検討会の役割です。「出産費用が保険適用になりました」という一文で片づけると、この段階の議論が全部消えます。
何を検討するのか
要綱が挙げる検討事項は4つです。
- 出産に係る診療・ケアの体制や内容等について
- 施設基準等の検討に必要な着眼点等について
- (1)(2)に関連する、妊娠から産後にわたる支援体制等について
- その他
2番目に注目してください。施設基準の着眼点が検討事項に入っています。施設基準は一般に、人員配置や設備、実施体制の要件を含みます。何をもって「その体制がある」と認めるかが論点になるということです。
分娩取扱施設で働く看護職にとって、これは自分の配置と直結します。助産師が何人いるか、夜間の体制がどうか、産後のケアを誰がどれだけ提供しているか。そうした要素が評価の枠組みに入るかどうかが、この先の議論で決まります。
構成員に、看護職の団体が入っています
構成員は50音順で全15名です。この検討会の性格を知るうえで、名簿の顔ぶれは重要な情報です。
医療提供側からは、日本産婦人科医会(石渡勇会長)、日本産科婦人科学会(亀井良政常任理事)、日本小児科医会(佐藤好範会長)、日本病院会(島弘志副会長)、日本医師会(濵口欣也常任理事)、日本周産期・新生児医学会(水野克己理事長)が参加します。
そして看護職からは、公益社団法人日本看護協会の片岡弥恵子常任理事と、公益社団法人日本助産師会の宮川祐三子理事が構成員に入っています。ケアの内容を評価の対象として言語化する場に、看護と助産の職能団体が最初から席を持っている、ということです。
このほか、青森県健康医療福祉部の秋野桂部長、東京大学名誉教授の岩村正彦氏、NPO法人子育てひろば全国連絡協議会の奥山千鶴子理事、早稲田大学の野口晴子教授、日本労働組合総連合会の平山春樹局長、国立成育医療研究センター・成育こどもシンクタンクの山縣然太朗副所長、健康保険組合連合会の米川孝副会長が名を連ねています。支払側と利用者側の双方が入る構成です。
議事は、別に会議において申し合わせた場合を除き公開とされています。検討会は保険局長が構成員の参集を求めて開催し、庶務は厚生労働省保険局医療課が、医政局地域医療計画課・保険局保険課・こども家庭庁成育局母子保健課の協力を得て処理します。
スケジュールは12月とりまとめの案
要綱には今後の検討スケジュール案も示されました。検討会は月1回から2回程度開催するとされ、次の進め方が案として挙がっています。
| 時期 | 検討内容 |
|---|
| 10月初旬 | キックオフ/これまでの議論、前提の確認等 |
| 10月〜11月 | 出産に係る診療・ケアの体制や内容等/施設基準等の検討に必要な着眼点/関連する妊娠から産後にわたる支援体制等(※実態調査の結果を順次報告) |
| 12月頃 | とりまとめ |
短期決戦です。10月に始まって12月にとりまとめる想定なので、現場の実態が反映されるとすれば、議論の材料になる調査を通じてということになります。
その調査も要綱に明記されています。令和8年度厚生労働行政推進調査事業費補助金の政策科学総合研究事業「出産に係る妊産婦への総合的な支援並びに費用及び給付に関する研究」(研究代表者 野口晴子)と、厚生労働省保険局医療課による令和8年度分娩取扱施設における医療やサービスの実態調査です。
分娩を扱う施設で働いている人は、この実態調査の依頼が自施設に来る可能性があります。回答を求められたとき、それが12月のとりまとめの材料になると分かっていれば、書き方への向き合い方も変わるはずです。
産科の現場で、いまできること
制度の中身が決まるのは先ですが、待っているだけの期間ではありません。
自施設で提供しているケアを棚卸ししておく。 分娩期、産褥期、退院後のフォローで、実際に誰が何をどれだけ提供しているか。記録に残っているもの、残っていないものを分けておくと、実態調査が来たときに答えられます。
自費と保険の切り分けを確認する。 要綱は「自費と保険診療が併用されている中での出産に関連する保険診療の現状」を踏まえる必要があるとしています。自施設で何が自費で何が保険なのか、説明できる状態にしておくと議論を追いやすくなります。
夜間・休日の体制を言語化しておく。 施設基準の着眼点が検討事項に入っている以上、体制の記述が論点になります。何人で、どう回しているか。
議事を追える状態にしておく。 議事は原則公開です。10月初旬から動き始めます。
制度の議論を追っているうちに、自分の働く場所そのものへの不安と混ざってしまうことがあります。混ざったまま考えると結論が出ません。制度への関心と、自分のキャリアの心配は、いったん別々に置いてみてください。ひとりで分けきれないときはカンゴさんに匿名で相談するという手もあります。
よくある質問
Q. 出産費用が保険適用になるのですか。 出産に係る給付体系の見直しを含む健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)は成立しており、施行に向けて新たな給付体系を構築する必要があるとされています。ただし、その体系で何をどう評価するかは、この検討会を含めてこれから議論されます。通常の意味での「保険適用が決まった」と同じ意味ではありません。
Q. いつ決まりますか。 検討会のスケジュール案では12月頃のとりまとめです。ただしこれは検討会の論点整理であり、その後の中央社会保険医療協議会等での議論が続きます。
Q. 助産所や産後ケア事業も対象ですか。 検討事項には「妊娠から産後にわたる支援体制等」が含まれています。具体的にどこまでが対象になるかは、今後の議論を確認してください。
Q. 現場の声は届きますか。 構成員に日本看護協会と日本助産師会が入っています。また、分娩取扱施設における医療やサービスの実態調査が議論の材料になるとされています。
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参考資料
※上記の議事次第ページは、本文・見出しが第655回である一方、ページの`<title>`が「第654回」と表示されています。検索結果や自動取得で回次を取り違えないようご注意ください。
本稿が扱えたのは開催要綱までで、制度の中身はこれからの議論で決まります。いま出産を控えている方の費用や給付の扱いは、加入している医療保険者と分娩を扱う医療機関に直接確認してください。
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