院内の指導箋、患者説明の資材、看護記録の定型文。そこに「自己注射薬」という言葉は何か所出てきますか。
第21回アレルギー疾患対策推進協議会が2026年8月27日にWeb開催され、資料3「アレルギー疾患対策基本指針の改正案の概要」(厚生労働省健康・生活衛生局がん・疾病対策課)が公表されました。まだ案の段階ですが、実務に効く変更が入っています。
先に確認:これは「改正された」ではありません
現行の基本指針は、平成29年3月21日厚生労働省告示第76号(令和4年改正)として存在します。今回示されたのは、その見直しに向けた改正案の概要です。協議会に示された段階であり、指針そのものはまだ改正されていません。
記事や院内の資料で扱うときは、この区別を落とさないでください。
変更がない部分から確認する
概要は、事項ごとに変更の有無を示しています。まず動かない部分です。
- 前文 — 変更なし
- 第一 アレルギー疾患対策の推進に関する基本的な事項 — 変更なし
- 第四 アレルギー疾患に関する調査及び研究に関する事項 — 変更なし
骨格は維持されています。動いたのは第二、第三、第五です。
第五に、実務が直接触れる変更が集まっています
いちばん現場に近いのは第五(その他アレルギー疾患対策の推進に関する重要事項)です。挙げられているのは次の5点です。
1. 既存のガイドラインの周知に「児童養護施設等におけるアレルギー対応ガイドライン」を追記する。
2. 「アドレナリン自己注射薬」を「アドレナリン自己投与薬」に変更する。
3. アレルギー疾患医療を受けながら、本人またはその家族が就労を維持するとともに、本人が就学および学業を継続できるような周知を図る。
4. アレルギー疾患を有する者が災害時に特別の配慮を要する「要配慮者」であることを明記する。
5. 災害時には、公益財団法人日本栄養士会等の関係団体や専門的な知識を有する関係職種の協力を得て、食物アレルギーに配慮した食品の確保等に努める。
2番の名称変更が、なぜ手間になるのか
「自己注射薬」から「自己投与薬」へ。一語の違いですが、注射という語を外したことが実務では効きます。
多くの施設で、患者説明の資材、指導箋、看護記録の定型文、院内の手順書は「自己注射」を前提に書かれています。改正が確定すれば、関連資材の表記を見直す必要が出る可能性があります。そのとき、どこを直す必要があるかを把握していない施設ほど、更新が漏れます。
なぜ変更するのかという理由は、この概要には書かれていません。推測で説明しないでください。 現時点で確かなのは、指針の改正案で用語が変更される予定である、ということまでです。
4番の「要配慮者」明記が意味すること
改正案では、アレルギー疾患を有する人が災害時に特別の配慮を要する「要配慮者」であることを、指針に明記する方向が示されています。
これは制度上の位置づけの話ですが、現場では具体的な行動につながります。避難所での食事、常用薬の確保、アレルギーがあることを周囲に伝える手段。令和8年熊本地震の支援に関わった方なら、そのまま思い当たる場面があるはずです。
同じ協議会の資料1では、災害時のアレルギー対応が別途扱われています。避難所での対応については、そちらを参照してください。
3番は、外来で聞かれる話です
アレルギー疾患医療を受けながら、本人または家族が就労を維持し、本人が就学および学業を継続できるような周知。
食物アレルギーのある子どもの保護者から「仕事を続けられるか」と相談されることや、成人喘息の患者から働き方の相談を受けることがあります。これまでは個別の困りごととして扱われてきた領域が、指針の周知対象として書かれる方向、ということになります。
第二・第三の変更
第二(啓発及び知識の普及並びに予防のための施策) では、アレルギー疾患に関する最新の知見に基づいた正しい情報を提供するために、インターネットその他の情報通信手段の整備等を通じた情報提供の充実を図る、とされています。
第三(アレルギー疾患医療を提供する体制の確保) は4点です。
- アレルギー疾患医療に携わるすべての医師に対して、講習会等を通じた最新の科学的知見に基づく適切な医療についての情報を提供する。
- アレルギー疾患医療提供体制について、中心拠点病院を設置し、都道府県アレルギー疾患医療拠点病院(都道府県拠点病院)を指定することで、かかりつけ医と専門医との連携体制を整備し、アレルギー疾患医療全体の質の向上を図る。
- アレルギー疾患患者が診療科を横断して継続した医療を受けられるよう、都道府県拠点病院を中心とした診療連携や情報提供等の体制を整備する。
- 中心拠点病院、都道府県拠点病院の役割を明記するとともに、かかりつけ医と専門医との連携体制の整備に努める。
「診療科を横断して」という部分は、アレルギー疾患の実態に合っています。食物アレルギー、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎を1人が併せ持つことは珍しくなく、小児科・皮膚科・耳鼻科・呼吸器内科をまたぎます。看護職から見ると、どこが窓口になるのかが分かりにくいという日常の問題でもあります。
いま自施設で確認できること
- 「自己注射薬」という表記がどこにあるか。 指導箋、説明資材、記録の定型文、手順書。一覧にしておけば、変更が確定したときに一度で直せます。
- 自施設の位置づけ。 都道府県アレルギー疾患医療拠点病院に指定されていますか。役割が明記される方向です。
- 診療科をまたぐ患者の窓口。 誰が調整していますか。
- アレルギーのある患者・家族から就労や就学の相談を受けたときの相談先。
- 災害時の対応。 アレルギーのある患者を「要配慮者」として把握する仕組みがありますか。
- 「児童養護施設等におけるアレルギー対応ガイドライン」の存在。 該当施設と関わりがあるなら確認しておく価値があります。
1番は、案の段階の今のうちにやっておくと後が楽です。表記の棚卸しは制度が確定してからでもできますが、確定してからだと期限に追われます。
個人の記憶で運用していないか
アレルギー対応は、施設によって「詳しい人が一人いる」状態で回っていることがあります。その人がいない日に何が起きるかは、想像できるはずです。
指針が改正されれば、資材も手順も更新が必要になります。そのとき更新の担当が決まっていないと、古い表記のまま何年も残ります。誰が何を持つのかが曖昧なまま来ていると感じるなら、インシデントの不安を匿名で相談する窓口で、決まっていない部分を書き出してみてください。
よくある質問
Q. 基本指針は改正されたのですか。 いいえ。2026年8月27日の協議会に改正案の概要が示された段階です。現行の指針は平成29年3月21日厚生労働省告示第76号(令和4年改正)です。
Q. 「自己投与薬」に変わるのはなぜですか。 概要に理由の記載はありません。推測で説明しないでください。
Q. エピペンの使い方が変わるのですか。 今回示されたのは指針の記述に関する改正案であり、薬剤の適応や使用方法を変更するものではありません。
Q. 拠点病院はどう変わりますか。 中心拠点病院を設置し、都道府県拠点病院を指定して、かかりつけ医と専門医の連携体制を整備するとされています。それぞれの役割を明記する方向です。
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この記事の確認範囲
- 確認日:2026年8月30日
- 確認主体:はたらく看護師さん編集部
- 医療監修:医師・薬剤師による個別監修は実施していません
本稿は協議会に提出された改正案の概要と論点整理の紹介に限定しています。まだ決定前であり、個別疾患の治療、薬剤の適応・使用方法、院内資材の正式改訂には使用せず、確定した告示と最新の電子添文を確認してください。
参考資料
ここで紹介したのは、協議会に提出された資料の中身だけです。協議会は2026年8月27日14時から開かれ、議事録はまだ出ていません。当日どんな意見が出たかは反映していません。個々のアレルギー疾患の治療や薬剤の使い方については、主治医と最新の電子添文にあたってください。
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