60歳以上がいる職場は8割。そのうち対策まで進んでいるのは2割
厚生労働省が2026年8月7日に公表した令和7年労働安全衛生調査(実態調査)に、高年齢労働者に対する労働災害防止対策の状況が出ています。なお、この調査の対象は常用労働者を10人以上雇用する民営事業所で、10人未満や公営の事業所は含まれません。
まず前提となる数字から。60歳以上の高年齢労働者が業務に従事している事業所は、調査対象事業所の80.6%(前年78.5%)でした。5つの事業所のうち4つに、60歳以上の人が働いていることになります。
その80.6%の事業所について、備えの状況を見ると次のようになります。
| 項目 | 令和6年 | 令和7年 |
|---|
| エイジフレンドリーガイドラインを知っている | 21.6% | 24.8% |
| 高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる | 18.1% | 20.4% |
エイジフレンドリーガイドラインは、厚生労働省が令和2年3月に作成した「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」です。高年齢労働者が安心して安全に働ける職場環境づくりや、労働災害の予防的観点からの健康づくりを推進するためのものとされています。
それを知っている事業所は24.8%。約4分の3は知らないという状態です。対策に取り組んでいる事業所は20.4%ですから、5社に1社にとどまります。
どちらも前年から上がってはいます。ただ、60歳以上が働いている職場が8割を超えているのに対して、備えは2割という開きは残っています。
この記事で分かること
- 高年齢労働者への安全対策が、どれくらい広がっているか
- 取り組んでいる事業所が、実際に何をしているか
- 事業所規模による差が大きいこと
- この調査から看護職について言えること・言えないこと
- 50代以降も働き続けるために、職場で確認しておくこと
読んだあとで身体の負担が気になったら、まずは勤務先の産業医または衛生委員会に就業上の措置を相談してください。夜勤の組み方ごと見直したい場合は看護師の悩み診断で条件を整理できます。
取り組んでいる職場は、何をしているか
対策に取り組んでいる事業所(20.4%)について、取組内容の内訳が公表されています。複数回答です。
| 取組内容 | 令和6年 | 令和7年 |
|---|
| 高年齢労働者の特性を考慮した作業管理(持久性、筋力の低下等を考慮した作業内容の見直し) | 62.9% | 61.0% |
| 個々の高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応(健康診断や体力チェックの結果に基づく運動指導や栄養指導、保健指導などの実施など) | 47.8% | 45.4% |
最も多いのが作業内容の見直しで61.0%、次いで健康・体力状況に応じた対応が45.4%です。
看護の現場に置き換えると、作業内容の見直しにあたるのは、夜勤の回数、受け持ち人数、移乗や体位変換の頻度、重量物の取扱いといったところでしょう。持久性と筋力の低下を考慮して作業内容を見直す、というガイドラインの考え方は、そのまま夜勤やベッドサイドの業務に当てはまります。
もっとも、この調査は産業別の内訳を出していません。医療・福祉の事業所がどれくらいこの対策に取り組んでいるかは、この数字からは分かりません。記事中の割合はすべて全産業の数字です。ここは読み違えないでください。
規模による差が、はっきり出ている
事業所規模別に見ると、段差が大きい項目です。
| 事業所規模 | 60歳以上が従事 | GLを知っている | 対策に取り組んでいる |
|---|
| 1,000人以上 | 99.4% | 67.9% | 58.8% |
| 500〜999人 | 98.3% | 55.0% | 45.5% |
| 300〜499人 | 98.9% | 52.7% | 46.6% |
| 100〜299人 | 97.1% | 49.3% | 39.5% |
| 50〜99人 | 90.4% | 32.0% | 26.4% |
| 30〜49人 | 91.1% | 29.8% | 26.6% |
| 10〜29人 | 75.8% | 19.6% | 15.7% |
1,000人以上では67.9%が知っているのに対し、10〜29人では19.6%。3倍以上の差があります。 対策に取り組んでいる割合も、58.8%と15.7%で大きく開いています。
規模が小さくても、60歳以上が働いている事業所の割合は75.8%と高い水準です。つまり、高年齢の人が働いているという実態は規模を問わず共通なのに、備えのほうは規模によって大きく違うという構図になっています。
看護職に引き寄せると、大規模病院からクリニックや訪問看護ステーションへ移る場合、こうした仕組みの前提が変わる可能性があるということです。悪い職場という意味ではなく、制度として用意されているものが違うという話です。
「まだ先の話」ではない理由
50代の方にとっても、この話は先送りできるものではないかもしれません。理由が二つあります。
一つは、身体の負荷が積み上がる仕事だからです。 腰痛、膝の痛み、夜勤明けの回復の遅さ。これらは60歳を境に急に始まるものではなく、徐々に進みます。ガイドラインが「予防的観点からの健康づくり」を掲げているのは、そのためです。
もう一つは、60歳以上が働いている職場が当たり前になっているからです。 60歳以上の労働者がいる事業所は80.6%に達しています(この数字が測っているのは事業所の割合で、定年後に働く人が何人増えたかではありません)。自分が何歳まで働くつもりかにかかわらず、いま身体をどう使うかは、その後に効いてきます。
同じ労働安全衛生調査では、強いストレスを感じる事柄がある労働者の割合が60歳以上で54.5%と、20歳以上の年代のなかでは最も低くなっていました(20歳未満は39.7%とさらに低い水準です)。全体の67.5%と比べると13ポイント低い数字です。ただしこれは、ストレスの少ない働き方に移った人が含まれる可能性もありますし、ストレスの強い環境から離れた人が集計に入っていない可能性もあります。続けられている人の数字である、という読み方には注意が必要です。
相談できる相手が、いちばん少ない年代でもある
同じ調査の別の表を見ると、もう一つ気になる傾向が出ています。仕事や職業生活のストレスについて相談できる人がいるかどうか、という項目です。
| 年代 | 相談できる人がいる |
|---|
| 20〜29歳 | 98.6% |
| 30〜39歳 | 96.8% |
| 50〜59歳 | 95.4% |
| 全体 | 94.8% |
| 40〜49歳 | 94.0% |
| 60歳以上 | 88.1% |
| 20歳未満 | 72.6% |
60歳以上は88.1%で、20歳以上の年齢階級のなかでは最も低くなっています。 全体の94.8%と比べて6.7ポイント下です。なお全年代で最も低いのは20歳未満の72.6%ですが、就業したばかりの層で母集団の性格が違うため、ここでは20歳以上のなかで比べています。
相談できる相手の内訳を見ると、この年代の特徴がさらにはっきりします。60歳以上で最も多いのは家族・友人の58.5%ですが、全体の74.8%と比べると16.3ポイント低い。上司58.2%、同僚56.2%も、全体より低い水準です。
実際に相談したことがある割合も、60歳以上は67.8%で全体の71.2%を下回ります。
加齢に伴う身体機能の変化を前提に対策が求められる年代で、相談できる人がいる割合はいちばん低い。 この二つが同じ調査に並んでいる、というのが読み取れる構図です。なお、この年代の身体的な負荷が実際に最も大きいかどうかは、この調査が検証したものではありません。
理由はこの調査からは分かりません。年齢とともに職場での立場が変わり、相談する側から相談される側に回ることが増えるのかもしれません。あるいは、家族や友人の状況が変わることも関係するかもしれません。いずれも推測です。
ただ、実務的な示唆はあります。60歳前後で働き方を変えるとき、負荷の調整を誰に相談するかを、あらかじめ決めておいたほうがよいということです。産業医、衛生管理者、看護部の管理者、あるいは外部の相談窓口。どこに持ち込むかの当てがないまま体調が悪化すると、選択肢が減ってから動くことになります。
職場で確認しておくこと
備えが2割という現状を前提にすると、自分で確認する項目を持っておくのが現実的です。
| 確認すること | なぜ必要か |
|---|
| 移乗用リフト等の機器があるか、使われているか | 腰への負荷を直接減らす |
| 夜勤回数の上限や配慮の仕組みがあるか | 年齢や体調に応じた調整の余地 |
| 健康診断の結果を踏まえた面談があるか | ガイドラインが挙げる「体力の状況に応じた対応」 |
| 転倒しやすい場所の把握と対策 | 段差、手すり、照明 |
| 体力チェックの実施 | 客観的な把握の有無 |
機器があることと、使われていることは別です。 リフトが置いてあっても、準備に手間がかかる、置き場所が遠い、使い方を知らない人が多いといった理由で、実際には使われていないことがあります。見学の機会があれば、機器の場所と使用頻度をあわせて聞いてみてください。
なお、ガイドラインが挙げている取組内容には、労働災害防止を目的とした体力チェックの実施も含まれます。厚生労働省が作成した「転倒等リスク評価セルフチェック票」等を活用して体力を客観的に把握する、というものです。実施率は取り組んでいる事業所の10.6%と低い水準ですが、こうした手段があること自体は知っておいてよいと思います。
働き方を変えるという選択
身体の負荷を減らす方法は、職場の設備だけではありません。働き方そのものを変える選択肢もあります。
夜勤の負担が大きくなってきたと感じるなら、日勤中心の働き方に移ることも一つの手です。外来、健診、施設、訪問看護、企業の健康管理室など、夜勤のない、あるいは少ない職場は複数あります。日勤だけで働きたい看護師さんへで選択肢を整理しています。
常勤から非常勤へ、あるいは勤務日数を減らすという方向もあります。収入との兼ね合いは避けられませんが、常勤か非常勤かで迷うときの考え方で条件面から比較できます。
病棟以外の場を含めて広く見たい方は、病棟以外で働く選択肢もあわせてご覧ください。
大事なのは、限界が来てから動くのではなく、余力があるうちに選ぶことです。 体調を崩してからの転職は、選べる範囲が狭くなります。
「作業内容の見直し」を、看護の言葉に置き換える
取組内容の1位だった「高年齢労働者の特性を考慮した作業管理」は、抽象的な表現です。持久性、筋力の低下等を考慮した作業内容の見直し、というのがガイドラインの説明ですが、看護の現場では具体的に何を指すのか。整理しておきます。
以下はガイドラインの考え方を看護業務に当てはめた例で、資料に列挙されているものではありません。ただ、話し合いの土台にはなります。
| ガイドラインの考え方 | 看護の現場での例 |
|---|
| 持久性の低下への配慮 | 夜勤の連続回数、日勤との組み合わせ、休憩の確保 |
| 筋力の低下への配慮 | 移乗・体位変換の担当割り、リフト等の使用、重量物の運搬 |
| 平衡感覚・視力の変化への配慮 | 夜間の照明、段差やコード類、点滴・薬剤の確認作業 |
| 回復の遅れへの配慮 | 勤務間インターバル、連続勤務日数 |
このうち、いちばん相談に持ち込みやすいのは移乗の担当割りだと思います。 「腰がつらいので夜勤を減らしてほしい」は、シフト全体に影響するため即答が難しい要望です。一方、「移乗のときにリフトを使いたい」「重い方の担当を分散してほしい」は、部署内の運用で調整できる余地があります。
要望の粒度を下げると、応じられる可能性が上がる。これは年齢に関わらず使える考え方です。
なお、夜勤の回数そのものについては、勤務先の取り決めや労働協約で上限が設けられている場合があります。まず自分の職場のルールがどうなっているかを確認してから相談するほうが、話が早く進みます。
ガイドラインの存在を、職場に伝えるという手も
もし自分の職場がガイドラインを知らない75.2%の側だったとして、それを変えられるかという話です。
現実的には、一人の看護職が職場全体の方針を動かすのは簡単ではありません。ただ、衛生委員会がある職場であれば、そこが議題を持ち込む場になります。常時50人以上の労働者を使用する事業場には衛生委員会の設置義務があり、委員には労働者側の代表も含まれます。
同じ調査では、ストレスチェックの分析結果を活用している事業所の取組内容として「衛生委員会又は安全衛生委員会での審議」が34.3%挙げられていました。これは分析結果を活用した事業所に限った内訳なので、全事業所での委員会の活用度合いを示すものではありませんが、審議の場として使われている例があることは分かります。
もっとも、これは余力のある人ができることです。いま身体がつらい状態にあるなら、職場を変える議論より先に、自分の負荷を減らす手当てを考えてください。腰痛や関節の痛みが続いているなら、医療機関への受診が先です。この記事で体調について判断の指針を示すことはできません。
60歳以降の働き方には、複数の入口がある
最後に、選択肢の話をしておきます。定年後も看護職として働き続ける場合、入口はひとつではありません。
いま在籍している病院で再雇用される形が最も一般的でしょう。慣れた環境で続けられる反面、勤務条件や賃金が見直されることが多く、以前と同じ働き方が続くとは限りません。どの条件がどう変わるのかを、定年より前に確認しておく価値があります。
別の場に移る選択もあります。健診機関、介護施設、外来中心のクリニック、企業の健康管理室、訪問看護。求められる手技の幅も、勤務時間の組み方も、場によってかなり違います。前の節で触れたとおり、規模の小さい職場では産業保健の仕組みが法律上の義務にならない場合がある点は、あらかじめ織り込んでおいてください。
どの入口を選ぶにしても、共通して効くのは自分の技術と経験を言語化しておくことです。何年どの領域で働いてきたか、どの手技ができるか、どんな患者層を担当してきたか。年齢が上がるほど、抽象的な「経験豊富」より具体的な内容のほうが伝わります。書き方の手順は看護師の職務経歴書のまとめ方にまとめています。
そして、身体の負荷が理由で働き方を変えるのであれば、その事実を隠す必要はありません。夜勤ができないことは、看護ができないことではありません。 日勤帯で力を発揮できる場は複数あります。
よくある質問
Q. エイジフレンドリーガイドラインとは何ですか。 A. 高年齢労働者が安心して安全に働ける職場環境づくりや、労働災害の予防的観点からの健康づくりを推進するために、厚生労働省が令和2年3月に作成した「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」です。
Q. 医療・福祉の事業所ではどれくらい知られていますか。 A. 分かりません。この項目は事業所規模別の集計のみが公表されており、産業別の内訳がないためです。本文に挙げた割合は、いずれも全産業を合わせた数値としてお読みください。
Q. ガイドラインを守ることは義務ですか。 A. ガイドラインは事業者に取組を求めるものです。個別の法令上の義務との関係については、都道府県労働局または労働基準監督署にご確認ください。
Q. 認知度は改善していますか。 A. 知っている事業所は21.6%から24.8%へ、対策に取り組んでいる事業所は18.1%から20.4%へ、いずれも前年から上昇しています。
Q. 小さい職場では対策が期待できないということですか。 A. 規模別で見ると10〜29人の事業所は19.6%と低い水準ですが、これは全体の傾向です。個別の事業所がどうかは、直接確認する必要があります。
数字の全体像を、もう一度置き直す
この記事で扱った数字を並べ直しておきます。
全事業所の80.6%に60歳以上の労働者がいます。そのうち、エイジフレンドリーガイドラインを知っているのが24.8%、高年齢労働者に特有の労働災害防止対策に取り組んでいるのが20.4%です。分母が違うので、80.6%と20.4%を並べて引き算する読み方はできません。そして60歳以上は、相談できる人がいる割合が88.1%と、20歳以上の年齢階級では最も低い水準です。
実態は広がっていて、備えは追いついていない。 一言でまとめるとそうなります。
ただし、悲観だけで終わる数字でもありません。認知度も取組率も前年の公表値を上回っていますし、規模の大きい事業所では6割前後まで来ています。ただしこれは毎年別の標本による推計値どうしの比較なので、同じ事業所で取り組みが進んだことを示すものではありません。
そのうえで、いま50代・60代にいる人にとって重要なのは、平均がどうかではなく自分の職場がどうかです。60歳以上が働く事業所のうち、高年齢者に特有の労災防止対策まで進んでいるのが2割にとどまるという数字は、自分の職場がその2割に入っているかどうかを確認する理由になります。確認しないままでいると、対策が無いことに気づくのは身体を痛めたあとになります。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r07-46-50b.html
- 厚生労働省「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)概況」(第8表) https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r07-46-50_gaikyo.pdf
本記事の数値は全産業を対象とした調査結果であり、医療・福祉や看護職に限定した集計ではありません。身体の不調については医療機関にご相談ください。