結論:新しい検査が入っても、輸血前に製剤を見る手順は残る
2026年9月2日に開かれた薬事審議会血液事業部会の安全技術調査会に、日本赤十字社の資料「日本赤十字社におけるヘモビジランス2025」が提出されました。この資料で、看護師の手元の動きに直接関わる記載がひとつあります。
血小板製剤には2025年7月から細菌スクリーニングが導入されました。それでも、スクリーニングで陰性と判定された製剤について、血液センターの供給前確認や医療機関の輸血前確認で外観異常が認められたという連絡が届いています。そのうち無菌試験が陽性となった事例では、いずれも採血後5・6日目に著しい凝集物が確認され、黄色ブドウ球菌が検出されたと記載されています。
資料は、この菌が偽陰性になりやすい理由まで踏み込んで説明しています。つまり、検査を1つ足したことで看護師の確認作業が1つ減る、という話にはなっていません。むしろ、なぜベッドサイドで製剤を見る手順が残るのかが、今回の資料ではっきりしました。
この記事は、2025年の副作用報告の内訳と細菌スクリーニングの速報値を、病棟で使える確認の順番に置き直すものです。数字を覚えるための記事ではありません。
この記事でわかること
- 血小板製剤の細菌スクリーニングが導入後に何を検出しているか、速報値の読み方
- 陰性でも外観異常が報告される理由と、黄色ブドウ球菌の性質
- 2025年の副作用報告で、TACOとTRALIがどう分かれていたか
- 開始前・開始直後・異常時の3場面で、看護師が何を確認するか
- 異常を見つけたとき、どこまでが看護師の判断で、どこからが医師・輸血部門の判断か
判断材料になる一次情報
この記事は、以下の一次情報をもとに整理しています。輸血の具体的な手順・基準は、最新の指針と各施設のマニュアルに従ってください。
確認を重ねるのは、看護師個人が責められないための手続きではありません。検査で拾いきれない例外が残るからこそ、患者さんに最も近い場所での確認に意味があります。
細菌スクリーニングは、導入後に何を見つけているか
まず速報値から見ます。以下は導入後から2026年7月31日までの数字で、2025年の通年値とは集計期間が違います。混ぜて読まないでください。
| 項目 | 件数 | 割合 |
|---|
| 検査実施数 | 589,593本 | — |
| 陰性数 | 589,515本 | — |
| 陽性数 | 78本 | 0.013% |
| 真の陽性数 | 54本 | 0.009% |
| 偽陽性数 | 21本 | 0.004% |
資料は「約1/10,900本が陽性」と記載しています。この比率は真の陽性54本に対応する数字です。スクリーニングで陽性と判定された78本で計算するとおよそ7,560本に1本になるため、どちらの数字の話かを区別してください。なお検体量不足で追加検査が実施できなかったものが3本あります。
資料の円グラフでは、真の陽性54本の内訳をブドウ球菌24、連鎖球菌17、その他12、同定不能1と整理しています。菌種別の表は同定できた53本を掲載しているため、本記事では同定不能1本の詳細を資料以上に推測しません。
ここまでは「新しい検査が働いている」という話です。実際、細菌スクリーニング済みの血小板製剤による輸血後細菌感染の特定例は、2026年7月まで確認されていないと記載されています。
それでも陰性製剤で外観異常が報告されている
問題はこの先です。資料には、細菌スクリーニングで陰性と判定された血小板製剤について、血液センターにおける供給前の確認や、医療機関における輸血前の確認で外観異常が認められたという連絡が届いた件数が、月別に整理されています。
そして、そのうち無菌試験が陽性となった事例について、次のように書かれています。
いずれも採血後5・6日目に著しい凝集物が確認され、黄色ブドウ球菌(S.aureus)が検出された。
保存日数が経った血小板製剤で、目に見える凝集が出ていた、ということです。これは検査結果ではなく、人が見て気づいた異常です。
2025年7月から2026年7月までに連絡があった外観異常は、献血数ベースで合計94件、そのうち無菌試験陽性は5件です。2026年7月の外観異常11件は資料作成時点で調査中とされ、8月24日時点では陽性は確認されていません。無菌試験陽性5件では、いずれも採血後5・6日目に著しい凝集物と黄色ブドウ球菌が確認されています。
なぜ黄色ブドウ球菌だけ、すり抜けやすいのか
資料は、菌の性質の違いで説明しています。ここは看護師が外観確認の意味を納得するうえで重要な部分です。
多くの細菌は、増殖するとバッグの中に分散していきます。だからスクリーニング用に一部を抜き取ったとき、その検体に菌が入りやすい。検査で拾えるわけです。
一方、黄色ブドウ球菌は増殖しても菌同士が目に見えないレベルで凝集したり、バイオフィルムを形成したりします。資料は、そのため菌量が少ない場合はサンプリング検体に取り込まれる確率が低いと考えられる、としています。バッグの中で塊になっているので、抜き取った一部には入ってこない、というイメージです。
さらに、海外でもスクリーニングを実施しているにもかかわらず黄色ブドウ球菌の偽陰性事例が複数報告されており、偽陰性になるリスクの高い菌と認識されている、とも記載されています。日本だけの現象ではありません。
資料が示しているのは、ここまでの2点です。ひとつは黄色ブドウ球菌が偽陰性になりやすいという機序、もうひとつは陰性判定の製剤で外観異常が報告され、無菌試験陽性の事例では著しい凝集と黄色ブドウ球菌が確認されたという事実です。
この2点から言えるのは、細菌スクリーニングは陰性であっても、外観確認が拾いうる異常が残るということです。ただし、「偽陰性になりやすい菌ほど肉眼所見が出やすい」という一般的な関係が確かめられているわけではありません。資料はそこまでは述べていません。
逆向きの誤読にも注意が必要です。外観が正常であることは、細菌がいないことの証明にはなりません。外観確認は、検査をすり抜けた異常を拾う可能性がある手順であって、安全を保証する手順ではありません。
開始前・開始直後・異常時に、何を確認するか
以上を踏まえて、3つの場面に分けて整理します。具体的な方法・基準は自施設の輸血マニュアルと製剤の説明書に従ってください。
| 場面 | 確認すること | 気をつけたい点 |
|---|
| 開始前 | 患者本人確認、血液型と交差適合試験の結果、製剤の種類・血液型・製造番号・有効期限、指示内容、複数名での照合 | 照合に加えて、製剤そのものの外観(凝集物、色調の変化、バッグの破損や漏れ)も見る |
| 開始直後 | 開始後5分間はベッドサイドで観察し、15分程度経過した時点でも再度観察する | 観察の時間・頻度は施設の基準に従う。バイタルだけでなく患者さんの訴えを聞く |
| 異常時 | 施設手順に沿って直ちに輸血を中止し、バイタルを測定・記録して医師と輸血部門へ連絡する | 自己判断で廃棄しない。製剤・ルートの扱いは施設手順に従う |
開始前の欄に「外観」を1行足しただけに見えるかもしれません。しかし今回の資料は、その1行が検査では代替できないことを示しています。
外観確認で見るポイントは、資料が挙げた事例に沿えば、著しい凝集物が中心になります。あわせて色調の変化、バッグやシール部の破損・漏れなど、自施設の手順と製剤の説明書に定められた項目を確認します。何をどう見るかの具体的な方法は製剤ごとに異なるため、血小板製剤については血小板製剤の取扱情報と自施設の手順を確認してください。
判断に迷ったときは、迷ったまま接続しないことが唯一の正解です。輸血部門に電話で確認する数分は、後から取り返せない事態を防ぎます。
2025年の副作用報告:TACOとTRALIを分けて見る
次に、2025年通年の副作用報告です。ここからは集計期間が変わります。
2025年の非溶血性副作用の報告は3,025症例でした。資料は、昨年と同程度の報告数であり、重篤と評価された症例数にも変動はなく、約25%の報告であったとしています。内訳は重篤778件、非重篤2,247件です。
この数字を発生率として扱わないでください。報告された症例数であり、輸血件数を分母にした頻度ではありません。製剤別の供給本数で割って比較することもできません。
病態評価が行われた130件のうち、TACO(輸血関連循環過負荷)は80件で、6割を占めました。そのうち63件(78.8%)が60代以上で、6割以上が新生物(血液がんを含む)または循環器疾患だったと記載されています。
TRALI関連は、TRALI Type Ⅰが7件、Type Ⅱが1件、TRALI/TACOが5件です。資料は2025年のTRALI確定例を13例としています。そしてTRALIによる死亡が1件報告されています。
現場で意味があるのは、この2つを混同しないことです。どちらも輸血中・輸血後に呼吸状態が悪くなりますが、背景が違います。TACOは循環の量的な負荷、TRALIは肺の傷害です。実際の鑑別は医師が行いますが、看護師が観察・報告する内容は鑑別の材料になります。
ここで注意したいのは、この内訳の読み方です。資料が示しているのは報告されたTACO 80例がどういう構成だったかであって、その属性の患者さんでTACOが起きやすいという発生率の話ではありません。年齢別・疾患別の輸血件数も対照群もないため、この数字からリスク因子を導くことはできません。TACOのリスク因子として何を見るかは、輸血療法のガイドや自施設の基準で確認してください。
したがって、この80例の年齢・疾患構成だけを根拠に、個々の患者さんの投与速度や観察間隔を決めることはできません。輸血の実施計画は、医師の指示、最新の輸血療法実践ガイド、自施設の基準、患者さんごとの評価にもとづいてチームで確認します。看護師は、その計画と異常時の連絡経路を開始前に共有し、輸血中・輸血後の変化を具体的に記録して報告します。
溶血性副作用24件と、ABO不適合1件が示したもの
2025年の溶血性副作用の報告は24件でした。資料は、報告数に大きな変動はなく例年同様であったとしています。うち13例で不規則抗体が検出されています。
注目したいのは、ABO不適合輸血が1件報告されていることです。資料には、調査から患者検体の取り違えという人的要因の可能性が示されたと記載されています。
検査技術がどれだけ進んでも、患者さんと検体を結びつけるところは人が担っています。採血管のラベル、ベッドサイドでの本人確認、検体の運搬。ここで取り違えが起きれば、その後の検査は正しく行われても正しくない答えを出します。
本人確認の具体的な方法は施設の手順によりますが、患者さんの取り違えを防ぐ設計になっているかは確認する価値があります。今回の1件は、検査より手前の段階が結果を左右しうることを示しています。
輸血感染症の2025年の状況
2025年に確認された輸血後感染は2件です。ひとつはID-NATのウインドウ期に献血された血液によるHBV感染、もうひとつは細菌スクリーニング導入前の血小板製剤による大腸菌感染でした。
このうち後者は、細菌スクリーニング導入前の製剤による事例です。導入後の製剤による輸血後細菌感染の特定例は2026年7月まで確認されていません。ただし、導入後の限られた観察期間に特定例がなかったという事実だけで、対策の効果の大きさや将来の発生リスクまで断定することはできません。
一方、前者のウインドウ期の問題は、検査の感度をどれだけ上げても理論上ゼロにはなりません。輸血に残余リスクがあるという前提は変わっていない、ということです。
職場の体制として確認したいこと
ここまでは手順の話でした。手順を守れるかどうかは、体制の問題でもあります。
- 血小板製剤の外観確認が、自施設の手順書に項目として書かれているか
- 外観異常を疑ったときの連絡先(輸血部門・血液センター)が、夜間・休日を含めて明確か
- ダブルチェックが、繁忙時でも形だけにならずに機能しているか
- 副作用・インシデントを報告しやすい仕組みと雰囲気があるか
- 輸血に関する勉強会や、新人へのフォローがあるか
「確認したいが人手が足りない」「報告すると責められる雰囲気がある」と感じるなら、それは個人の注意力の問題ではありません。安全に確認できる体制があるかどうかが、患者さんの安全とあなた自身の安心の両方を左右します。
まずは、カンゴさんに気持ちを整理してみる
「輸血のたびに緊張する」「一度ヒヤリとしてから自信がなくなった」「忙しくて確認が雑になっていないか不安」。こうした気持ちは職場では流されがちで、言葉にしづらいものです。
はたらく看護師さんのカンゴさんには匿名で話せます。何が一番怖いのか、それが手順の問題なのか、安心して確認できない職場環境の問題なのか。まずは一緒に整理してみてください。臨床判断そのものは、自施設の輸血マニュアル、医師、輸血部門を最優先にしてください。
まとめ
- 血小板製剤の細菌スクリーニングは導入後2026年7月31日までに589,593本を検査し、真の陽性は54本(0.009%)だった。導入後の輸血後細菌感染の特定例は確認されていない
- それでも陰性製剤で外観異常の報告があり、無菌試験陽性の事例ではいずれも採血後5・6日目に著しい凝集物と黄色ブドウ球菌が確認された。この菌は凝集・バイオフィルム形成により検体に取り込まれにくく、偽陰性になりやすい
- 2025年の非溶血性副作用報告は3,025症例。病態評価130件のうちTACOが80件を占め、その78.8%が60代以上だった
- ABO不適合輸血1件では、患者検体の取り違えという人的要因の可能性が示された
検査が増えても、看護師の確認・観察・報告はなくなりません。今回確認できたのは、黄色ブドウ球菌にはサンプリング検体へ取り込まれにくくなる機序があり、陰性製剤の外観異常例の中にも同菌が検出された事例があった、という2つの事実です。外観確認は細菌汚染の有無を保証する検査ではありませんが、接続前に拾える異常を見逃さないための手順として残ります。
よくある質問
細菌スクリーニングが入ったのに、なぜ外観を見る必要があるのですか?
黄色ブドウ球菌は凝集やバイオフィルム形成により、菌量が少ない場合にスクリーニング用のサンプリング検体へ取り込まれる確率が低いと資料は説明しています。これとは別に、陰性と判定された製剤で外観異常が報告され、無菌試験陽性例では著しい凝集と黄色ブドウ球菌が確認されています。資料は「偽陰性になりやすいほど外観に現れる」という一般的な因果関係までは示していません。それでも、陰性判定だけで接続前の外観確認を省略できないことは分かります。
血小板製剤の外観で、具体的に何を見ればよいですか?
資料の事例では、採血後5・6日目に著しい凝集物が確認されています。凝集のほか、色調の変化、バッグやシール部の破損・漏れなど、自施設の手順書と製剤の説明書に定められた項目を確認してください。判断に迷う場合は接続せず、輸血部門に確認します。
外観がおかしいと思ったら、自分で廃棄してよいですか?
いいえ。自己判断で廃棄せず、施設の手順に沿って医師・輸血部門へ連絡してください。製剤は原因調査の対象になります。使用済みのバッグやルートの扱いも施設手順に従います。
TACOとTRALIは、看護師としてどう見分ければよいですか?
鑑別は医師が行います。看護師の役割は、呼吸状態、バイタル、水分出納、実際の投与速度、症状が出た時刻を具体的に観察・記録して報告することです。2025年の資料では、病態評価130件のうちTACOが80件で、その78.8%が60代以上、6割以上が新生物または循環器疾患のある報告例でした。ただし、これは報告例の構成であり発生率ではありません。この内訳だけで個別患者のリスクや投与条件を決めず、医師の指示、最新のガイド、自施設の基準に従ってください。
報告された副作用の件数から、自分の病棟のリスクを計算できますか?
できません。3,025症例などの数字は報告された症例数であり、輸血件数を分母にした発生率ではありません。製剤別の供給本数で割って比較することもできません。自施設のリスクは、自施設の輸血件数、患者背景、手順の運用状況から検討する必要があります。
この記事の確認範囲
- 数値はすべて2026年9月2日の安全技術調査会 資料3に基づきます。細菌スクリーニングの589,593本などは導入後から2026年7月31日までの速報値、副作用報告3,025症例などは2025年通年の値で、集計期間が異なります
- 陰性製剤の外観異常について、月別の件数は資料に表として記載されていますが、本記事では月ごとの内訳を数値として断定していません
- 輸血の具体的な手順、外観異常の判断、輸血の中止、製剤・ルートの保管、検体採取は、自施設の手順、医師の指示、最新の製剤情報を優先してください
参考資料