「溶連菌」と聞くと、小児の咽頭炎やA群溶血性レンサ球菌を最初に思い浮かべるかもしれません。しかし、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)は、それだけを見ていればよい病態ではありません。
国立健康危機管理研究機構(JIHS)は2026年9月18日、感染症発生動向調査に届け出られたSTSSの集計を更新しました。2022年1月1日から2026年7月31日までの届出は5,724例です。血清群別ではA群2,613例、B群923例、G群1,771例で、分類不明・その他・少数のC群・複数群として届け出られた417例は血清群別集計から除かれています。
この記事の目的は、数字を見て不安を強めることでも、看護師がSTSSを診断することでもありません。外来、救急、病棟のどこで最初の変化を捉えても、いつから、どこが、どのように変わったかを切らさず、院内の緊急連絡基準に沿って医師や責任者へ届けるための確認表を作ることです。
まず押さえる結論:A群だけに絞らず「速さ」と「全身の変化」をつなぐ
JIHSの一般向け疾患解説は、STSSを、通常は菌が存在しない部位へベータ溶血性レンサ球菌が侵入して発症する感染症と説明しています。原因になり得るのはA群、B群、C群、G群などです。小児に多いA群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは区別されます。
初期には四肢の疼痛、腫脹、発熱、血圧低下などがみられ、発症後数十時間以内に軟部組織壊死や多臓器不全へ進むことがあります。つまり、現場で重要なのは、菌群を予想してから動くことではなく、次の3点を短い間隔で結び直すことです。
- 痛みや腫れなど、局所で何が起きているか
- 血圧、意識、呼吸、尿量など、全身状態がどう変わったか
- その変化が、何時からどれほどの速さで進んだか
感染症名が確定する前でも、この3点は報告できます。反対に、「皮膚所見が軽いから」「発熱が高くないから」と一つの所見だけで緊急度を下げるのは危険です。体温が目立たなくても、強い疼痛や血圧低下、意識の変化など別の異常が進んでいないかを確認します。
5,724例の新集計で分かったこと、分からないこと
9月18日更新版の範囲を、誤解しないための情報と一緒に表へまとめます。
| 確認項目 | 公式集計の内容 | 読むときの注意 |
|---|
| 集計期間 | 2022年1月1日〜2026年7月31日に診断 | 2026年だけの患者数ではない |
| データ時点 | 2026年8月14日現在 | 後日の追加・修正があり得る |
| 全届出 | 5,724例 | 入院患者だけの集計ではない |
| A群 | 2,613例、年齢中央値66歳(四分位範囲51〜76歳) | A群だけで全例を説明できない |
| B群 | 923例、年齢中央値76歳(62〜85歳) | 血清群で患者像を決めつけない |
| G群 | 1,771例、年齢中央値82歳(72〜89歳) | 高齢者でG群が多いという集計だが、個別患者の診断材料にはしない |
| 血清群別から除外 | 417例 | 分類不明、その他、少数のC群、複数群を含む |
5月14日に公開された前版は2026年3月31日までの診断例を対象とし、全届出は5,343例でした。今回との差は381例ですが、これをそのまま「5月以降に新たに発症した人数」とは呼べません。診断日の対象期間が4か月延びただけでなく、届出や情報の更新が後から加わることがあるためです。
また、この累積資料から、勤務先や地域で今週増えているか、あるいは個々の患者がどの菌群かは判断できません。地域の流行状況、検査結果、臨床経過は別に確認します。
「重い痛み」を数値だけで終わらせない観察
疼痛の訴えを受けたとき、痛みスケールの数字は大切ですが、数字だけでは変化の速さを伝えきれません。申し送りに残したいのは、少なくとも次の要素です。
| 観察する軸 | 記録する例 | 避けたい書き方 |
|---|
| 発症・増悪時刻 | 「7時は歩けた。9時から右下腿痛が急に増した」 | 「朝から痛い」だけ |
| 部位と広がり | 「右足関節周囲から下腿中央へ圧痛が広がった」 | 「足が痛い」だけ |
| 見た目との関係 | 「発赤は限局しているが、触れない時も強い痛みを訴える」 | 皮膚が赤くないので問題ないと評価する |
| 機能の変化 | 「自立歩行から立位困難へ変化」 | 痛みスケールだけを写す |
| 全身所見 | 血圧、脈拍、呼吸数、酸素化、体温、意識、尿量の推移 | 最後の1回だけを伝える |
| 背景情報 | 創傷、皮膚トラブル、手術・処置、出産、感染症状、基礎疾患、内服 | 原因を断定してから報告する |
「見た目に比べて痛みが強い」という表現を使う場合は、何と比べたのかを具体化します。皮膚の色調、腫脹の範囲、触診時と安静時の痛み、歩行や体位変換の可否を分ければ、受け手が変化を再評価できます。
観察項目や測定間隔は、患者の状態、医師の指示、院内の急変対応基準を優先してください。この記事は、個別患者の検査や治療を指示するものではありません。
外来で拾った変化を、帰宅判断の前に一度まとめる
外来では、最初の受付、問診、診察室、処置室と、短時間に担当が変わります。その間に「来院時は会話できた」「待合で横になった」「歩けなくなった」といった変化が分断されると、診察時点の一場面だけで評価されかねません。
外来看護師がまとめるときは、次の順番が使えます。
- 来院方法と来院時の状態を確認する
- 痛みや腫れが始まった時刻、急に変わった時刻を聞く
- 待機中の歩行、会話、顔色、発汗、意識、バイタルサインの変化を並べる
- 創傷や皮膚トラブルの有無を、可能な範囲で確認する
- 「帰宅できるか」ではなく、「来院後に悪化していないか」を診察担当へ伝える
緊急性があると判断した場合は、この手順をすべて埋めるまで待ちません。院内基準に従い、現在の異常と悪化の時刻を先に報告します。問診票を完成させることが目的ではありません。
救急では「初回値」より「変化量」を共有する
救急外来では、血圧が基準範囲内に見える時点でも、搬送前や来院時から大きく低下していることがあります。救急隊記録、紹介元の測定、トリアージ時、診察後の再測定を時系列に置き、測定条件も添えます。
60秒で伝える申し送りの型
| 順序 | 伝える内容 | 例 |
|---|
| 1 | いま最も気になる変化 | 「右下腿痛が2時間で増悪し、立位不能です」 |
| 2 | 全身状態の推移 | 「搬送時から血圧が低下し、呼吸数も増えています」 |
| 3 | 局所所見 | 部位、腫脹、色調、水疱、創傷、痛みの広がり |
| 4 | 意識・尿・呼吸 | 会話の変化、最終排尿、尿量、酸素化、呼吸仕事量 |
| 5 | すでに行ったこと | 再測定、ルート確保、検体、安静、連絡先など、実施済み事実 |
| 6 | 求める判断 | 「至急診察をお願いします」「急変対応チームを要請します」など院内基準に沿う言葉 |
申し送りでは「STSSだと思います」と病名だけを先に置くより、観察した事実と時間を明確にします。病名の仮説は共有してよい場面でも、根拠となる変化がなければ受け手が再評価できません。
病棟では「別々の異常」を一つの経過へ戻す
入院中の患者では、疼痛は夜勤者、血圧低下は検査室、尿量低下は受け持ち、意識の変化は家族が最初に気付くことがあります。記録が部署や職種ごとに散らばると、それぞれは小さな異常に見えても、一本の時間軸に置くと急速な悪化が見えることがあります。
次の表は、院内の記録を置き換える様式ではなく、緊急報告前に情報をまとめるための下書きです。
| 時刻 | 局所の変化 | バイタル・呼吸 | 意識・行動 | 排尿 | 連絡・対応 |
|---|
| 例:14時 | 左前腕の痛み、腫れは手関節周囲 | 測定値を記入 | 会話は普段どおり | 最終排尿時刻 | 担当医へ報告 |
| 例:15時 | 痛みが肘側へ広がる | 前値との差を記入 | 反応が遅い | 量と性状 | 責任者と急変基準を照合 |
| 例:15時30分 | 色調・水疱・圧痛範囲 | 再測定値 | 呼名への反応 | 未確認なら未確認と書く | 要請時刻、受け手、指示 |
「尿が出ていない」と「確認できていない」は同じではありません。未確認事項を無理に埋めず、最後に確認できた時刻を伝えます。家族から得た情報も、看護師が直接観察した内容と分けて記載します。
こんな思い込みが、連絡を遅らせる
「溶連菌ならA群」と決める
新集計では、B群とG群の届出も合計2,694例あります。血清群を看護師が推定する必要はありませんが、A群の迅速検査や咽頭症状の有無だけでSTSS全体を除外できないことは共有できます。
「高熱がなければ劇症ではない」と考える
JIHSが挙げる初期症状は、四肢の疼痛、腫脹、発熱、血圧低下です。全員に同じ順番、同じ強さで現れるという意味ではありません。一つの症状の有無だけではなく、全身状態の変化を見ます。
「皮膚が派手になるまで待つ」
軟部組織の変化は急速に進む可能性があります。色調変化や水疱がまだ目立たなくても、痛みの急増、腫脹の拡大、血圧・意識・呼吸・尿の変化があれば、院内の報告基準に照らします。
「若いから可能性が低い」と下げる
累積集計の年齢中央値は血清群で異なりますが、これは個々の患者の除外基準ではありません。年齢だけで緊急度を下げず、症状と経過で判断します。
患者・家族には、未確定の病名より「いま行う確認」を説明する
急変が疑われる場面では、患者や家族も不安になります。看護師の説明では、診断前に恐怖を強める呼び方を使わず、確認できている事実と次の行動を分けます。
- 「痛みが短い時間で強くなり、血圧にも変化があるため、すぐに医師へ伝えています」
- 「感染症を含めて原因を確認する段階です。検査や診察の順番は担当医から説明します」
- 「今は飲食や移動について確認が必要なので、指示があるまでお待ちください」
- 「いつからどんな変化があったか、分かる範囲で教えてください」
メディアで使われることがある刺激的な呼称は、状態の理解や意思決定に役立ちません。公式の疾患名と、目の前で確認している変化を使います。
チームで一度決めておきたい5つの連絡条件
記事を読んだ個人だけが注意しても、勤務交代で途切れます。所属部署で次を確認すると、学びを実務へ移しやすくなります。
| 確認事項 | 部署で決める問い |
|---|
| 緊急連絡 | どの変化なら担当医、当直医、責任者、急変対応チームへ連絡するか |
| 再評価 | 変化がある患者を誰が、どの条件で再測定するか |
| 記録 | 部署をまたぐ時系列をどこに残すか |
| 移動 | 検査室・病棟・手術部へ何を先に伝えるか |
| 振り返り | 連絡が遅れた事例だけでなく、早くつなげられた事例をどう共有するか |
診療科や施設規模で運用は異なります。感染管理認定看護師、救急看護の担当者、医師、検査部門などと、既存の敗血症・急変対応手順にSTSSをどう位置づけるか確認してください。
新集計を院内学習へ使うなら、10分でここまで確認する
朝礼や短い勉強会では、5,724という数字を読み上げるだけで終わらせず、次の順に扱います。
- 期間が2022年1月から2026年7月までの累積であることを確認する
- A群だけでなくB群・G群も含まれることを共有する
- 「四肢の疼痛、腫脹、発熱、血圧低下」「数十時間以内に進展し得る」という公式説明を読む
- 自部署の急変連絡基準を開く
- 痛み、全身状態、時刻を誰にどう報告するか、架空例で1回練習する
特定の患者記録を学習資料へ転記するときは、院内規程と個人情報保護の手続を優先します。部署外へ持ち出す資料に、患者を特定できる情報を載せないでください。
感染症週報を日々の観察へ読み替える方法は、感染症週報を朝礼で使う看護師向けガイドでも整理しています。
交代勤務で情報を薄めないための記録点検
日勤者が「何となく悪い」と感じても、その根拠が記録されなければ、夜勤者は新しい基準点から観察を始めることになります。急速な変化を扱うときは、看護記録の量より、比較できる情報が残っているかを確認します。
記録に残す6つの比較点
- 最初に異常を認識した時刻と、その前に普段どおりだった時刻
- 疼痛の部位、広がり、安静時・動作時の違い
- 皮膚所見を確認した範囲と、印を付けるなど院内で行った観察方法
- 血圧・脈拍・呼吸・酸素化・意識・尿の前値と最新値
- 誰へ、何時に、どの情報を報告し、相手がどう受領したか
- 次の再評価時刻、未完了の検査・診察・搬送
「変化なし」と書く場合も、何を前回と比べたのかを示します。疼痛は同じでも血圧が下がった、発赤範囲は同じでも歩けなくなった、といった異なる軸の変化を一つにまとめます。
交代時には、通常の患者一覧とは別に、次の再評価時刻が決まっている患者を明示します。受け持ち変更、休憩、検査出棟があっても、再評価の責任が宙に浮かないよう、引き取った人の名前または役割を記録します。
3つの場面で報告の遅れを振り返る
場面1:診察待ちの外来患者
受付時は歩けていた患者が、待合で下肢痛のため立てなくなった場合、「診察順を早める」だけでなく、急変評価が必要かを判断する連絡へ切り替えます。待ち時間は診療前ではなく、患者状態が変化し得る観察期間です。
場面2:術後病棟の疼痛増強
術後痛や創部痛という説明が成立していても、短時間での増悪、腫脹の拡大、循環・意識・尿量の変化が加われば、同じ説明のまま鎮痛効果を待ち続けないようにします。手術部位感染、血腫など他の原因も含め、再評価を要請します。
場面3:転院搬送を待つ患者
受入れ先が決まった後も患者は変化します。紹介時の情報をそのまま搬送資料へ写すのではなく、出発直前の状態と途中で起き得る問題を更新します。搬送延期や支援追加を判断する連絡先も、出発前に確認します。
これらの振り返りは、STSSを見抜けたかではなく、状態変化を認識してから上位評価につなぐまでに何が障害になったかを見ます。病名が違ったとしても、連絡線の改善は他の急変対応に活用できます。
応援者へ渡す情報を1枚に限定する
急変時に他病棟や急変対応チームから応援が来ても、記録画面が多いと全体像をつかむまで時間がかかります。応援者が最初に見る場所を決め、発症・増悪時刻、初回値と最新値、局所変化、実施済みの対応、未完了タスクを一枚に集約します。
この一枚は正式記録を省略するためではありません。複数画面の情報を短時間で共有する入口です。作成者、更新時刻、参照した記録を明示し、患者移動後は転記ミスがないか照合します。紙を使う場合は、個人情報の回収・廃棄方法も決めてください。
管理者・感染管理・救急・検査をまたぐ院内手順は、STSSの急変対応を個人技にしない部門横断フローで確認できます。
よくある質問
STSSはA群溶血性レンサ球菌の病気ではないのですか?
A群は主要な原因の一つですが、届出対象はA群に限られません。2026年9月18日更新の累積集計には、A群2,613例に加えてB群923例、G群1,771例が含まれます。血清群別から除外された417例もあります。
5,724例は2026年の患者数ですか?
違います。2022年1月1日から2026年7月31日までに診断された届出の累積です。データは2026年8月14日現在です。
第36週の22例、死亡7例から致命率を計算できますか?
この記事では計算しません。週報の22例はその週に報告された届出で、死亡の注記も届出時点の情報です。発症時期や追跡期間がそろった集団ではないため、単純な割り算を一般的な致命率として示すのは不適切です。致命率を説明する場合は、JIHSの疾患解説など、定義と対象期間が明記された資料を使います。
看護師は何を一番先に伝えればよいですか?
院内の急変基準を優先したうえで、現在最も危険な変化、変化が始まった時刻、直前との違いを短く伝えます。病名を確定させてから連絡する必要はありません。
参考資料
最終確認日:2026年9月20日。数値は公表資料の対象期間とデータ時点を併記しました。個別患者の診断・検査・治療、観察間隔、緊急連絡は、最新の診療情報、勤務先の手順、医師・感染管理部門・急変対応チームの判断を優先してください。
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