ストライキと聞いても、自分には関係ないと思っていませんか
人員が足りない、休憩が取れない、賃金が上がらない。そう感じていても、「うちの職場では何を言っても変わらない」とあきらめている看護師さんは少なくないと思います。
そういう方に、統計をひとつお伝えします。厚生労働省が2026年8月3日に公表した「令和7(2025)年労働争議統計調査の概況」によると、令和7年に争議行為を伴う争議が起きた77件のうち、44件が「医療、福祉」でした。全体の57.1%です。
この記事を読むと、統計が実際に何を示していて何を示していないのかを切り分けられます。 そのうえで、いまの職場で使える相談先と、記録の残し方を整理しました。どうしても職場では解決しない場合の外部の窓口も最後にまとめています。
この記事で分かること
- 令和7年の労働争議統計で、医療・福祉がどういう位置にあるか
- 「争議行為を伴う争議」という言葉が指すもの
- この数字から言えること、言えないこと
- 職場で困ったときに使える手立て
- 相談できる公的な窓口
数字を、そのまま置きます
まず全体像です。令和7年の労働争議は次のようになっています。
| 区分 | 件数 | 参加人員 |
|---|
| 総争議 | 295件 | 100,532人 |
| うち争議行為を伴う争議 | 77件 | 行為参加人員 17,354人 |
| うち争議行為を伴わない争議 | 218件 | 総参加人員 28,435人 |
総争議の件数は前年より17件(6.1%)増、総参加人員は5,207人(5.5%)増でした。争議行為を伴う争議は件数が1件(1.3%)増、行為参加人員は8,372人(93.2%)増と大きく動いています。
そのうえで、産業別の内訳を見ます。争議行為を伴う争議について、「医療、福祉」の数字は次のとおりです。
| 項目 | 医療、福祉 | 全産業計 | 医療・福祉の割合 |
|---|
| 件数 | 44件 | 77件 | 57.1% |
| 行為参加人員 | 8,418人 | 17,354人 | 48.5% |
| 労働損失日数 | 419日 | 31,380日 | 1.3% |
さらに内訳として、半日以上の同盟罷業が12件・390人、半日未満の同盟罷業が40件・8,052人となっています。
前年(令和6年)の医療、福祉は35件・6,459人・411日でした。件数は9件(25.7%)増、行為参加人員は1,959人(30.3%)増です。
言葉の意味を、先に確認します
数字を読む前に、用語を整理しておきます。統計の分類なので、日常語とは少しずれます。
「総争議」は、労働組合と使用者との間で主張が対立し、その主張を通すために争議行為が発生したもの、または解決のために第三者が関与したものを指します。つまり、実際にストライキが起きていなくても、労働委員会などが関与すれば争議として数えられます。
「争議行為を伴う争議」は、そのうち実際に同盟罷業(ストライキ)や作業所閉鎖などが行われたものです。
「同盟罷業」がストライキにあたります。半日以上か半日未満かで分けて集計されています。
「労働損失日数」は、争議行為によって失われた労働日数を表す指標です。
この数字から言えること
言えるのは、実際に争議行為が起きた現場の半分以上が医療・福祉だった、ということです。 件数で57.1%、参加した人数で48.5%。この分野に争議が集中していることは、統計上はっきりしています。
そして前年から増えています。件数で35件から44件、参加人員で6,459人から8,418人。
もうひとつ特徴的なのは、労働損失日数の少なさです。 医療・福祉は419日で、全産業31,380日の1.3%にとどまります。件数では57.1%を占めるのに、失われた労働日数では1.3%しかない。
内訳を見ると理由が見えます。半日未満の同盟罷業が40件・8,052人で、半日以上の12件・390人を大きく上回っています。つまり、短時間のストライキが多いという形です。
統計から確認できるのは、半日未満の同盟罷業が件数・参加人員とも多かったことまでです。患者さんや利用者さんへの影響を抑えるために短時間の形が選ばれた可能性はありますが、調査は選択理由を尋ねていません。医療継続との両立が理由だったと断定はできません。
この数字から言えないこと
一方で、注意も必要です。
第一に、この統計は看護師の数字ではありません。 「医療、福祉」という産業分類で、病院だけでなく介護施設、保育所、障害福祉サービスなども含まれます。看護職がどれだけ関わっているかは、この統計からは分かりません。
第二に、争議の原因は分かりません。 統計には主要要求事項別の状況という項目がありますが、産業別に何が争点だったかまでは、概況からは読み取れません。賃金なのか、人員配置なのか、労働時間なのか。
第三に、44件という数の意味づけには慎重さが要ります。 医療・福祉は事業所数も就業者数も多い分野です。事業所あたり、あるいは労働者あたりで見たときに他産業より多いのかどうかは、この数字だけでは判断できません。
第四に、争議が起きていない職場に問題がないわけではありません。 争議は、労働組合があり、交渉の枠組みが存在してはじめて統計に現れます。組合がない職場の不満は、この統計には一切表れません。
組合がない職場のほうが、多いかもしれません
四つ目の点を、もう少し具体的に書きます。
争議として数えられるには、その前段に労働組合と使用者の交渉があります。組合がない職場では、そもそも争議という形になりません。 不満があっても、個人の退職という形で解消されるだけです。
看護師の職場は、規模も運営主体も幅があります。大きな公立病院と、職員数名の訪問看護ステーションでは、状況がまったく違います。
だから、この統計を「看護の職場は荒れている」と読むのは正確ではありません。 むしろ、声を上げる仕組みがある職場では、それが実際に使われている、と読むほうが実態に近いのではないかと考えます。
職場で困ったとき、何ができるか
争議という言葉は大きく聞こえますが、その手前に段階があります。ここからは統計ではなく、実務の整理です。
1. 記録を残す
何が起きているかを、日付と事実で残します。
- いつ、どの勤務帯で、何人体制だったか
- 休憩が取れなかった日と、その理由
- 時間外がどれだけ発生し、どこまで申告できたか
- 誰に何を伝え、どう返答されたか
記録は、後から作れません。 相談する段階になってから思い出そうとしても、日付と具体性が失われています。手帳やメモアプリで構いません。ただし、患者さんを特定できる情報は書かないでください。
2. 就業規則と労働条件通知書を確認する
自分の労働条件が、書面でどう定められているかを確かめます。休憩、時間外の扱い、夜勤の回数、有給の付与日数。実態と書面が食い違っている場合、その食い違い自体が話の出発点になります。
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成と周知が義務づけられています。見せてもらえない場合は、その点自体を確認できます。
3. 職場の中の窓口を使う
- 看護部の相談窓口
- 衛生委員会(常時50人以上の事業場では設置が義務)
- 労働組合がある場合は組合
- ハラスメントの相談窓口
衛生委員会は、意外と知られていない窓口です。 月1回以上の開催が求められており、労働者側の委員も参加します。議事の概要は労働者に周知することとされています。自分の職場に設置されているか、確認してみてください。
4. 外部の窓口に相談する
職場の中で解決しない場合、外部の窓口があります。
| 窓口 | 何を相談できるか |
|---|
| 総合労働相談コーナー(各都道府県労働局・労働基準監督署内) | 労働問題全般。無料・予約不要 |
| 労働基準監督署 | 労働基準法違反に関わること(賃金未払い、労働時間など) |
| 都道府県労働委員会 | 労働組合と使用者の間の問題のあっせん等 |
| こころの耳(0120-565-455) | 働く人のメンタルヘルスに関する相談 |
総合労働相談コーナーは、最初の相談先として使いやすい窓口です。 全国の労働局・労基署内に設置されており、労働問題全般について無料で相談できます。
今の職場で確認できること、職場を変えて解決しやすいこと
今の職場で確認できるのは、書面と実態の差です。 就業規則、労働条件通知書、36協定の内容。これらと現実がどれだけ離れているかは、いま調べられます。差が明確であれば、改善を求める根拠になります。
職場による差を比較しやすいのは、体制と人員です。 一人あたりの受け持ち、夜勤の人数、応援を呼べる条件は、求人票だけでなく面接や見学でも確認します。ただし転職先でも欠員や配置変更は起こるため、「移れば必ず解決する」とは限りません。
転職だけでは解決しにくいのは、地域や領域全体の人員不足です。 候補先では、欠員数だけでなく、急な欠勤時の応援体制や受け持ち調整のルールまで確認してください。
そして、争議や交渉の結果がすぐ出るとは限りません。 令和7年の統計で見た短時間ストライキも、それで直ちに条件が変わったかどうかまでは示されていません。時間がかかる前提で、記録と相談を並行して進めるほうが現実的です。
働き続けるかどうかを考える段階であれば、看護師を辞めたい時の判断基準に、辞める・休む・異動するの分け方を整理しています。人員配置そのものへの不安については看護配置基準の柔軟化と現場の負担もあわせてご覧ください。
状況を一人で整理しにくいときは、患者情報を入力せずに看護師さん向け相談チャットで「起きたこと・確認した書面・希望する対応」を順番に整理できます。法的判断は行わないため、違反の可能性がある場合は公的窓口や専門家へ相談してください。
よくある質問
Q. 医療・福祉が57.1%というのは、看護師の職場の割合ですか。 A. 違います。「医療、福祉」という産業分類での割合です。病院のほか介護施設、保育所、障害福祉サービスなども含まれ、看護職がどれだけ関わっているかはこの統計からは分かりません。
Q. 争議行為を伴う争議とは何ですか。 A. 同盟罷業(ストライキ)や作業所閉鎖などの争議行為が実際に行われた争議です。令和7年は全産業で77件、行為参加人員17,354人でした。
Q. 労働損失日数が少ないのはなぜですか。 A. 統計は理由を示していません。医療・福祉では半日未満の同盟罷業が40件・8,052人で、半日以上の12件・390人を上回っており、短時間の争議行為が多い形になっています。
Q. 自分の職場に労働組合がありません。相談先はありますか。 A. 各都道府県労働局・労働基準監督署内の総合労働相談コーナーで、労働問題全般について無料で相談できます。予約は不要です。
Q. 前年と比べて増えているのですか。 A. 医療、福祉の争議行為を伴う争議は、令和6年の35件・6,459人から、令和7年は44件・8,418人になりました。件数で9件、行為参加人員で1,959人の増加です。
参考資料
- 厚生労働省「令和7(2025)年労働争議統計調査の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/14-r07.html
- 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」 https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html
- 厚生労働省「こころの耳」 https://kokoro.mhlw.go.jp/
本記事は2026年8月18日時点で公表されている統計にもとづく整理です。統計の数値は産業分類にもとづくもので、職種別の内訳は示されていません。個別の労働条件に関する判断は、労働基準監督署や総合労働相談コーナーなどの公的窓口にご相談ください。