何が起きたのか:地震の事実関係
気象庁によると、令和8年熊本地震の本震は2026年7月28日16時27分ごろ、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震で、最大震度7を観測しました。気象庁が公表している「最大震度5弱以上を観測した地震の発生状況」(2026年8月14日11時時点)には、この本震を含めて6回が記載されています。気象庁は、地震の発生数は増減を繰り返しながら大局的には緩やかに減少しているものの、地震活動は依然として活発な状態が継続しているとして、今後1か月程度は最大震度5弱程度以上の地震に注意するよう呼びかけています。
熊本県は、この地震により10市10町1村に災害救助法を適用しました。断水や停電といった生活基盤の被害が広範囲におよび、しかも発災が真夏だったことが、この災害の看護面での難しさを決めました。
派遣の規模:県内は7月30日、県外は8月3日から
日本看護協会が公表している派遣状況を見ると、動き出しの早さと規模が具体的な数字で確認できます。なお、以下の数字は8月15日までの派遣予定・調整分を含む公表値です。8月14日時点で完了した実績だけを取り出すことはできないため、この記事では「実績」という言い方をしません。
| 区分 | 開始日 | 公表値(8月15日までの派遣予定・調整分を含む) |
|---|
| 県内派遣 | 7月30日 | 延べ214人 |
| 県外派遣 | 8月3日 | 延べ568人 |
県内派遣の主な派遣先は宇城総合病院と避難所です。県外派遣は8月3日から始まり、8月3〜5日は10か所へ66人、8月6〜9日は20か所へ214人、8月10〜12日は20か所へ162人、8月13〜15日は21か所へ126人という推移をたどっています。派遣元は福岡、佐賀、長崎、大分、宮崎、鹿児島といった近隣の九州各県だけでなく、岡山、広島、山口、兵庫、大阪、京都の各看護協会にまでおよびます。
この数字の読み方で大切なのは、発災から2日後に県内派遣が始まり、6日後に県外派遣が始まっているという時間軸です。全国から人を集めて調整するには、事前に「誰が行けるか」の名簿が存在していなければ間に合いません。災害支援ナースの登録制度が平時の仕組みである理由が、この時間軸に表れています。
なお、これらの人数を派遣先の数で割って「1か所あたり何人」と比較することはできません。公表されているのは期間ごとの延べ人数であり、期間の長さも8月6〜9日は4日間、8月13〜15日は3日間と異なるからです。同時に何人が配置されていたのか、交代の単位がどうなっているのかは、この数字からは分かりません。支援のフェーズが変わったかどうかを、この表だけで判断することも避けるべきです。
派遣元が九州6県にとどまらず、岡山・広島・山口・兵庫・大阪・京都まで広がっている点も見逃せません。ここから確実に言えるのは、全国的な広域調整が行われたということです。遠方からの派遣が生じる理由は、近隣の不足だけでなく、交代のローテーション、専門性の配分、送り出す側の施設の事情など複数が考えられるため、理由を一つに断定することはできません。それでも、遠方の県に勤めている看護職にも派遣の可能性が現実にあるという点は、この一覧から読み取れます。「自分の県は被災地から遠いから関係ない」という前提は成り立ちません。
派遣先が「病院」か「避難所」かで、求められるものは変わる
熊本の県内派遣の派遣先として挙がっているのは、宇城総合病院と避難所です。ここから先は、日本看護協会の派遣状況ページに個別の業務内容までは示されていないため、一般に想定される活動の違いとして書きます。実際に何を担うかは派遣先の状況と指示によります。
被災した病院への応援では、通常の入院患者さんのケアを継続しながら、設備の制限のなかで業務を回すことが中心になると考えられます。病棟経験が活きる場面が多い一方、勝手の違う電子カルテや物品配置に短時間で慣れる必要が出てきます。
避難所での活動は、一般に健康観察や環境整備、生活の相談が中心になるとされ、病棟の延長ではありません。避難している方のなかには治療中の方も当然おられますが、病棟のように医療が整った環境にいるわけではない、という違いがあります。慢性疾患の内服が途切れていないか、水分がとれているか、動けているかといった観点で、こちらから声をかけて拾いにいく姿勢が求められる場面が想定されます。急性期の技術よりも、生活を見て気づく力が問われるという性質の違いです。
どちらに派遣されるかは希望どおりにならないこともあります。研修を受ける段階で、自分は病棟型と避難所型のどちらの方が力を発揮できそうかを考えておくと、現地での戸惑いが減るでしょう。なお、具体的な活動内容は災害支援ナース養成研修で扱われるため、正確な内容は研修資料と派遣元の案内で確認してください。
2024年度に変わったこと:協会事業から法律にもとづく制度へ
災害支援ナースという言葉自体は以前からありましたが、2024年4月から位置づけが変わりました。改正医療法にもとづく「災害・感染症医療業務従事者」として整理され、養成も国の枠組みで行われるようになっています。
変更点のうち、現場の看護師さんにとって意味が大きいのは次の2点です。
第一に、派遣の対象が自然災害だけではなくなりました。新興感染症の発生やまん延時にも派遣される想定に広がっています。第二に、研修修了者は厚生労働省医政局に登録される仕組みになりました。病院や診療所に所属している看護職は、医療法にもとづく災害・感染症医療業務従事者としても登録されます。あわせて、広域災害・救急医療情報システム(EMIS)への登録も必須とされています。
この「新興感染症も対象になった」という一文は、さらりと読み流されがちですが、登録を検討する人にとっては意味を持ちます。研修の各論に感染症が組み込まれているのも、この想定の広がりに対応したものです。登録するかどうかを考えるときは、地震のような突発的な災害だけを思い浮かべるのではなく、対象が広がっていることを前提に検討してください。
なお、派遣の期間がどれくらいになるかは、災害や感染症の状況、そして都道府県・医療機関間の協定の内容によって決まります。「自然災害なら短期、感染症なら長期」といった一般則があるわけではありません。自分がどの程度の期間なら対応できるのかは、勤務先および都道府県看護協会に確認したうえで判断してください。
もう一点、EMISへの登録が必須とされていることも押さえておきたい点です。EMISは医療機関の被災状況や支援要請を共有する仕組みで、災害時にどこへ人を送るかを判断する土台になります。
以前の枠組みで登録していた人が自動的に引き継がれるわけではない点にも注意が必要です。活動を継続する場合は、新しい研修プログラムをあらためて受講して登録し直すことが求められています。数年前に登録した記憶があるという方は、現在の登録状況を都道府県看護協会に確認してください。
登録までの手順:研修は合計30時間以上
災害支援ナース養成研修は、オンデマンド研修と集合研修の組み合わせです。日本看護協会の案内によると、オンデマンド研修は総論・災害各論・感染症各論で20時間以上、集合研修は講義と演習で10時間以上とされています。合計すると30時間以上の学習量です。
ここで多くの人が驚くのが、申し込みの単位です。原則として施設単位の申し込みで、各医療機関の看護管理者、医療機関以外であれば部門長等が代表者となります。所属施設がない場合に限って個人単位での申し込みが可能です。窓口は各都道府県看護協会になります。
つまり、病院に勤めている看護師さんが「自分で申し込んで、修了してから上司に報告する」という順番は取れません。最初の一歩が、看護部長や師長に相談することになります。この構造を知らないまま情報を探すと、申し込みフォームが見つからずに行き詰まります。
職場と話すときに、順番を間違えないために
施設単位の申し込みだということは、災害支援ナースになるかどうかは個人の熱意だけでは決まらないという意味でもあります。勤務先にとっては、災害時に自分の施設の人員が数日から数週間抜けることを事前に受け入れるかどうかの判断になるからです。
相談を持ちかけるときは、「行きたい」という気持ちだけを伝えるよりも、次の3点を整理して持っていくほうが話が進みやすくなります。
1点目は、研修の時間と時期です。オンデマンド分は業務外で進められるのか、集合研修の日程は勤務調整が必要なのかを、都道府県看護協会の募集要項で確認してから相談します。
2点目は、派遣時の勤務の扱いです。ここは原則がはっきりしているので、まずそれを押さえてください。日本看護協会の制度案内では、派遣形態は「原則として派遣元の医療機関の職員として看護業務に従事する(業務扱い)」とされています。有給休暇を使って行くことが前提の仕組みではありません。費用についても「協定に基づく災害・感染症医療業務従事者又は医療隊の派遣に要する費用は都道府県が支弁する」と公的負担が明記されており、事故補償は都道府県が傷害保険に加入する形が示されています。
そのうえで、協定で費用の対象となる範囲や、施設内での勤務の割り振り方は、勤務先の規程と協定の内容によって変わります。原則(業務扱い・公費負担)と、施設ごとに詰める部分を分けて、勤務先の事務部門と都道府県看護協会の双方に確認してください。もし「休暇を取って行ってほしい」という説明を受けたなら、それが正式な協定に基づく派遣の話なのか、協定外の自主的な活動の話なのかを、その場で確かめる必要があります。
3点目は、自分が抜けたときの代替です。夜勤の組み方や受け持ちの引き継ぎまで含めて話せると、看護管理者の側も検討しやすくなります。逆にここが空白のままだと、意欲は伝わっても具体化しません。
相談の前に自分で埋めておくと話が早い項目を、表にしておきます。
| 確認したいこと | どこで確認するか |
|---|
| 次回の養成研修の募集時期 | 都道府県看護協会の募集要項 |
| オンデマンド研修を業務時間内に受講できるか | 勤務先の看護部・教育担当 |
| 集合研修の日程と勤務調整の要否 | 募集要項+自部署の勤務表 |
| 勤務先が都道府県と協定を結んでいるか | 勤務先の事務部門 |
| 派遣中の勤務の扱いと費用負担の考え方 | 勤務先の規程+都道府県看護協会 |
| EMISの入力担当が誰か | 勤務先の防災担当・看護管理者 |
この表のうち、多くの人が事前に調べずに相談してしまうのが「勤務先が協定を結んでいるか」です。制度が改正医療法にもとづく枠組みになったということは、派遣の実務が都道府県と医療機関の間の取り決めの上で動くということでもあります。勤務先がその枠組みにどう関わっているかを知らないまま「災害支援ナースになりたい」と伝えても、答える側も判断材料を持ちません。逆に、そこを調べたうえで相談に行けば、看護管理者にとっては施設としての備えを点検する機会にもなります。
「登録しない」という選択も、備えの一つになる
家庭の事情や体調、勤務先の状況から、今は登録が難しいという方も当然います。それは支援に関心がないということではありません。派遣される人がいるということは、その間、送り出す側の職場を回す人も必要だということです。
登録しない立場でできる備えとしては、勤務先の災害対応マニュアルの保管場所と、発災時の参集基準を確認しておくことが挙げられます。参集基準は「震度いくつで、誰が、どこへ」という形で定められていることが多く、自分が該当するかどうかを平時に把握しているかどうかで動きが変わります。あわせて、勤務先がEMISに情報を入力する担当をどう決めているかを知っておくと、災害時に自分の役割が見えやすくなります。
そのうえで、看護職として見落とされがちなのが「自分の家庭側の段取り」です。参集基準に該当する立場であれば、発災時には自分の家族の安全確認と職場への移動が同時に発生します。子どもの引き取りを誰が担うか、家族との連絡が取れないときにどこで落ち合うかを事前に決めていないと、参集できるかどうかの判断そのものに時間を取られます。今回の熊本の地震が平日の夕方に発生していることを思い出してください。勤務中の人、通勤中の人、休みの人がそれぞれ別の場所にいる時間帯です。
さらに、自宅と勤務先の双方のハザード情報を確認しておくと、想定できる範囲が広がります。断水が起きたとき、自宅の備蓄で何日もつのか。停電したときに医療的ケアが必要な家族がいないか。こうした条件は人によって大きく異なり、それによって「派遣に行ける人」か「地元を守る人」かが変わります。どちらが上ということではなく、自分がどちらの側に立てるのかを自覚しておくことが備えになります。
また今回の熊本のように真夏の災害では、暑さへの対応が課題になると考えられます。今回の派遣で実際にどんな活動が行われたかは公表されていませんが、断水と停電が重なれば、空調も水分の確保も平時と同じようにはいきません。夏の体調管理や環境調整の視点は、災害支援に限らず日々の看護と地続きです。訪問看護や夜勤帯での暑さ対策の考え方は、夏の訪問と夜勤で確認したい暑さ対策でも整理しています。
「支援に行かない側」の負荷を、事前に言葉にしておく
災害支援の話題では、派遣される側の準備ばかりが語られます。しかし職場では、同僚が抜けた状態で通常業務を回すことになります。その負荷を引き受けるのは、残る側のスタッフです。派遣の期間は災害の状況と協定によって決まるため、どれくらいの期間になるかは事前に勤務先へ確認してください。
ここを曖昧にしたまま送り出すと、帰ってきた本人が居づらくなることがあります。派遣を検討する段階で、「その期間の夜勤をどう埋めるか」「委員会や係の仕事を誰が引き取るか」を明文化しておくと、送り出す側と行く側の双方が納得しやすくなります。災害支援は個人の善意で完結する活動ではなく、職場の体制で成立する活動だという前提を、平時のうちに共有しておく価値があります。
制度を知ったうえで、自分のキャリアに置き直す
災害支援ナースの登録は、キャリアの選択肢としても意味を持ちます。急性期の経験を活かせる場面がある一方で、避難所での生活支援や慢性疾患の管理など、病棟とは異なる視点も求められます。研修そのものが、日常業務では触れない知識に触れる機会になります。
一方で、災害支援に関心があることと、今の職場に無理をして残ることは切り分けて考えてください。研修の日程調整すら相談できない職場環境が続いているなら、それは災害支援の問題ではなく、平時の勤務環境の問題です。自分の働き方の条件そのものを見直したい場合は、看護師の転職・退職の進め方や年代別のキャリアの考え方もあわせて読んでみてください。
転職先を選ぶときの観点としても、災害対応は使えます。面接や見学の場で「災害時の参集基準はどう決まっていますか」「災害支援ナースの登録者は施設にいますか」と聞くと、その施設が地域の中でどんな役割を引き受けているか、教育にどれだけ資源を割いているかが見えてきます。求人票の待遇欄には出てこない情報です。答えに詰まる施設が悪いとは限りませんし、二つの質問だけで施設の姿勢が分かるわけでもありません。ただ、聞けばその分だけ判断材料は増えます。
逆に、今の職場で災害対応の役割を任されているのに、平時の人員が慢性的に足りていないという状態なら、その負荷は災害時にさらに強く出ます。備えの議論は、平時の人員配置の議論と切り離せません。
よくある質問
Q. 経験年数が浅くても登録できますか。 A. 研修の対象者は、災害および新興感染症の発生時に他の医療機関等に派遣されて業務に従事することを目指す者とされています。具体的な経験年数の運用は都道府県看護協会の募集要項によって案内されるため、直接確認してください。
Q. 訪問看護ステーションや施設に勤めていても登録できますか。 A. 申し込みは原則として施設単位で、医療機関以外であれば部門長等が代表者となります。所属施設がない場合に限り個人単位での申し込みが可能とされています。
Q. 以前に災害支援ナースとして登録していましたが、そのまま活動できますか。 A. 2024年度から制度の位置づけが変わっており、活動を継続する場合は新しい研修プログラムの受講と登録が必要とされています。現在の登録状況を都道府県看護協会に確認してください。
Q. 熊本の被災地に、個人で応援に行くことはできますか。 A. 派遣は都道府県や関係機関の調整のもとで行われます。受け入れ体制のない個人での訪問は、現地の負担になる場合があります。
Q. 今から研修を受けると、いつから活動できますか。 A. 募集時期と研修日程は都道府県看護協会ごとに設定されます。次年度の募集要項の公表時期を含めて、窓口に問い合わせるのが確実です。
Q. 研修はオンラインだけで完結しますか。 A. 日本看護協会の案内では、オンデマンド研修が総論・災害各論・感染症各論で20時間以上、集合研修が講義と演習で10時間以上とされています。集合研修があるため、オンラインのみでは完結しません。
Q. 登録すると、必ず派遣に応じなければいけませんか。 A. まず個人についてお答えします。日本看護協会は登録者向けの説明で、「災害支援ナースに登録すると派遣要請に必ず応じなければいけないというわけではなく、ご自身のタイミングや状況に合わせて無理をせず判断をしていただけます」としています。登録しただけで、あなた個人に応諾義務が生じるわけではありません。
そのうえで、施設側の話はこれとは別だと知っておいてください。この仕組みは、改正医療法にもとづき都道府県知事と医療機関が締結する協定の上で動いています。都道府県から要請を受けた協定締結施設は、正当な理由がある場合を除いてこの要請に応じなければならないとされています(災害等の状況や医療機関の実情に即し、協定に沿った対応が困難であることがやむを得ないと都道府県が判断する場合は、この限りではありません)。
したがって「個人は無理をせず判断できる」「施設としては任意参加ではない」の二つが同時に成り立っています。その枠組みの中で実際に誰が行くかは施設内の調整で決まるため、自分の勤務状況や家庭の事情がどう扱われるかは、勤務先および都道府県看護協会に確認してください。
参考資料
- 気象庁「令和8年熊本地震 ポータルサイト」 https://www.jma.go.jp/jma/menu/20260728_kumamoto_jishin.html
- 日本看護協会「令和8年熊本地震 関連情報」 https://www.nurse.or.jp/nursing/kikikanri/r8kumamoto/index.html
- 日本看護協会「災害支援ナースを目指す皆様へ」 https://www.nurse.or.jp/nursing/kikikanri/saigai/aim
- 日本看護協会「看護管理者の皆様へ(災害支援ナースの登録・派遣)」 https://www.nurse.or.jp/nursing/kikikanri/saigai/manager
- 日本看護協会「大規模自然災害、新興感染症の発生・まん延時の災害支援ナースの派遣体制の概要」 https://www.nurse.or.jp/nursing/kikikanri/saigai/cmn/img/saigai_info_2026.pdf
- 熊本県「令和8年熊本地震に係る災害救助法の適用について」 https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/27/274494.html
協定に基づく派遣は原則として業務扱いで、費用は都道府県が支弁するとされていますが、施設内での具体的な運用は勤務先の規程と都道府県ごとの協定によって異なります。個別の条件は、勤務先の看護管理者および都道府県看護協会にご確認ください。