「過去最多」の中身を見ないと、判断を誤る
帝国データバンクが2026年7月13日に公表した調査によると、2026年上半期に発生した医療機関の倒産は39件で、上半期としては過去最多となりました。前年同期の35件を上回り、このペースが続けば年間で初めて80件に達する可能性があるとされています。
この見出しだけを見ると、医療業界全体が崩れているように感じるかもしれません。内訳を見ると、39件のうち病院は4件で、診療所が19件、歯科医院が16件でした。
ここで、最初に大事なことをお伝えします。この数字から「小規模な医療機関のほうが危ない」と結論づけることはできません。 倒産件数は分子であって、それぞれの区分に事業者が何件あるかという分母が示されていないからです。診療所の数は病院よりはるかに多いので、件数が多くなるのは自然なことです。率を比べるには分母が要ります。
では、この数字から何が言えるのでしょうか。言えるのは、医療機関の倒産件数が増加傾向にあり、上半期としては過去最多になったということ。そして調査が示す倒産の背景に、コストの問題と事業承継の問題という性質の違う二つが並んでいるということです。
この記事では、この調査から読み取れることと読み取れないことを線引きしたうえで、看護師さんが平時にできる備えを整理します。不安を煽るための記事ではありません。むしろ、数字を正しく小さく見積もったうえで、それでもやっておく価値のあることを絞り込むための記事です。
この記事で分かること
- 2026年上半期の医療機関倒産の内訳と、前年との違い
- この調査から言えること・言えないこと(分母の話)
- 倒産の背景にある、性質の違う二つの要因
- 平時にできる備えと、その優先順位
- 転職先を選ぶときに面接で聞けること
数字の内訳:件数は増え、規模は小さくなった
まず、公表されている数字を整理します。
| 区分 | 件数 | 負債総額 |
|---|
| 病院 | 4件 | 35億5,500万円 |
| 診療所 | 19件 | 79億800万円 |
| 歯科医院 | 16件 | 9億1,700万円 |
| 合計 | 39件 | 123億8,000万円 |
前年同期は35件でしたから、件数は4件増えています。診療所の19件は、上半期として過去最多です。
一方、負債総額は123億8,000万円で、前年同期から32.6%減少しました。件数が増えているのに負債総額が減っているということは、一件あたりの規模が小さくなったということです。実際、調査では小規模な倒産の割合が高かったことが指摘されています。
この調査が集計している範囲
数字を扱う前に、集計の範囲を確認しておきます。この調査で数えられているのは、負債1,000万円以上で法的整理に入った事業者の件数です。廃業や休業、解散といった形で終わるケースや、負債額がこれに満たないケースは含まれていません。
つまり、この39件は「医療機関がなくなった件数」ではなく、「特定の条件で集計された倒産の件数」です。実際に地域から医療機関が減る動きは、これより広い範囲で起きている可能性があります。
「年80件ペース」は調査元の見通し
調査では、このペースが続けば年間で初めて80件に達する可能性があるとされています。2025年は通年で66件でした。
この見通しをどう受け止めるかですが、本記事では独自の予測を立てません。半期の件数を2倍すれば通年になるという単純な関係は成り立たず、季節性や個別の事情によって変動するためです。押さえておくべきは、66件から増加する方向にあるという調査元の見立てであり、具体的な着地点ではありません。
倒産の理由に、二つの層がある
調査では、倒産の背景として物価高や人件費の高騰による収益力の悪化、そして経営者の高齢化・後継者難が挙げられています。診療所については、経営者の病気や死亡が理由の4割を占めるという指摘もあります。
この二つは性質が違いますが、どちらか一方だけが原因になるとは限りません。実際には収益の悪化、人手不足、承継の見通しの立たなさ、経営者の健康問題が重なって最終的な判断に至ることも考えられます。調査も、これらを相互に排他的な原因として整理しているわけではありません。
一つ目はコストの問題です。 保険診療の部分は診療報酬という公定価格で単価が決まるため、材料費や光熱費、人件費が上がっても、施設の判断で価格に転嫁することができません。この価格転嫁の制約は、保険診療を行う施設に共通して効いてきます。診療報酬の引上げがあっても、コスト上昇に追いついていないという見方が示されています。
二つ目は事業承継の問題です。 診療所の4割で経営者の病気や死亡が理由になっているという数字は、収益の悪化だけが終わりの引き金ではないことを示しています。ただしこれは、収益面の事情がなかったという意味ではありません。調査は理由を一つに特定しているわけではなく、経営者の健康問題と収益の悪化が重なっている場合もあり得ます。
看護師さんにとって押さえておきたいのは、外部から収益の状況だけを見ても、経営者の健康や承継の見通しまでは判断できないという点です。診療所の倒産で経営者の病気や死亡が理由の4割を占めるという数字は、収益以外の要因が最終的な契機になりうることを示しています。「経営が苦しそうかどうか」だけを見ていると、この部分は視野に入りません。
勤務先を見るときの、現実的な着眼点
とはいえ、勤務先の財務状況を働く側が詳しく調べるのは簡単ではありません。実務的に確認できる範囲で、着眼点を整理します。
| 見るところ | 確認したい仮説(単独では判断できない) |
|---|
| 医療法人か個人開設か | 経営者個人への依存度が高くないか |
| 後継者の存在が話題に上るか | 事業承継の見通しがあるか |
| 常勤医師が院長ひとりか | 診療の継続が一人に依存していないか |
| 設備投資が止まっていないか | 更新の方針が変わった可能性(別の理由もある) |
| 給与や賞与の支払い時期の変化 | 遅配や減額という客観的な事実があるか |
| 職員の採用を止めていないか | 方針の変化(採用難という別の理由もある) |
ただし、これらは調査で検証された「倒産の兆候」ではありません。 この調査は、設備投資の停止や採用の停止といった事象が倒産をどれだけ予測するかを、単独でも組み合わせでも検証していません。したがって、いくつ重なったから危ないという判断もできません。ここに挙げているのは、あくまで自分の職場について事実を確認するための切り口です。
そのなかで扱いやすいのは、給与や賞与の支払いに関する事実です。遅配や減額は解釈の余地が小さく、記録にも残ります。逆に「雰囲気が悪い」「院長の元気がない」といった印象は、確認できる事実ではありません。
このうち、案外見落とされるのが「常勤医師が院長ひとりかどうか」です。診療所では珍しくない体制ですが、これは診療の継続が一人の健康状態に依存しているという意味でもあります。同じことは、事務長や看護師長が一人で全体を回している職場にも当てはまります。
なお、実際に給与の未払いが起きたときにどんな制度で守られるのかについては、病院の経営悪化の前兆と、看護師が守られる権利で整理しています。制度の内容を知っておくと、いざというときの不安が減ります。
「不安だから今すぐ辞める」は、答えではない
ここまで読んで、勤務先が心配になった方もいるかもしれません。ただ、倒産の可能性を理由にすぐ動くことをおすすめしているわけではありません。
先ほど確認したとおり、この39件は限定された条件で集計された事業者の件数です。全国の医療施設数と単純に割り算をして「自分の職場が該当する確率」を出すことはできません。数えている単位(事業者と施設)が違ううえ、集計の条件も反映されないからです。この記事で確率を示さないのは、そのためです。
そして実のところ、確率が分かったとしても、やるべきことは変わりません。大切なのは、万が一そうなったときに、自分がどれだけ動けるかです。同じ状況に置かれても、看護師免許があり、直近の職務経歴が整理されていて、地域の求人状況を知っている人は、次の職場を選ぶ余裕を持てます。逆に何も準備していなければ、条件を吟味せずに決めることになります。
言い換えれば、この記事で身につけてほしいのは「危ない職場を見抜く目」ではなく、「どこにいても動ける状態を保っておく習慣」です。前者は当たり外れがありますが、後者は確実に自分の資産になります。倒産が起きなくても、体調を崩したとき、家族の事情が変わったとき、部署が再編されたときに、同じ準備が効いてきます。
備えとしてやっておく価値があるのは、次のような地味な作業です。職務経歴を年表の形で書き出しておくこと。担当してきた領域と使える技術を言語化しておくこと。自分の地域にどんな種類の医療機関があるかを把握しておくこと。これらは転職を決めていなくてもできますし、やっておけば選択肢が増えます。書き方の手順は看護師の職務経歴書のまとめ方で整理しています。
閉院が決まると、看護師の周りで何が起きるか
倒産や閉院という言葉は抽象的ですが、現場で起きることはかなり具体的です。ここを知っておくと、兆候に気づいたときに何を優先すべきかが分かります。
閉院にあたっては、一般に次のような手続きが発生します。患者さんの引き継ぎ(他の医療機関の案内、紹介状の用意、在宅で診ている方については訪問看護や介護の事業者との調整)、診療録の保存、職員の退職手続きです。誰がどこまで担うかは施設の体制によって異なり、看護職の関わり方も一律ではありません。
自分の側で必要になりうるのは、離職票や源泉徴収票といった書類です。離職票は雇用保険の基本手当を受給する場合に必要となるもので、すぐに次の職場が決まっていれば使わないこともあります。閉院に伴う手続きでは事務職員も同時に離職することがあり、平常時のようには進まない場合があります。何を受け取る必要があるかを把握していないと、後から取り寄せに苦労します。必要な書類は退職時に受け取る書類のチェックリストで確認できます。
同じ職場の同僚が同時期に転職を検討する状況になることも考えられます。ただし、求人がどの順番で埋まるかは地域や時期によって異なり、一般化はできません。確実に言えるのは、準備がある人のほうが条件を比較する時間を持てる、ということだけです。
だからこそ、平時のうちに情報を集めておくことに意味があります。実際に何も起きなければ、それはそれで良いのです。
勤務先が続いても、病棟が変わることはある
もう一つ知っておきたいのは、施設が存続していても働く場所の中身が変わる場合があるということです。
厚生労働省が2026年7月23日の検討会に提出した資料では、地域医療構想及び医療計画等に関する検討会のとりまとめ(令和8年3月19日)をもとに、新しい地域医療構想が目指す方向が紹介されています。そこでは、急性期拠点機能、高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、専門等機能といった形で、医療機関の機能を地域ごとに確保していく考え方が示されています。病床機能の分化・連携が進むということは、同じ病院でも病棟の位置づけが変わりうるということです。
ただし、これは制度の方向性であり、個々の病院がいつどう変わるかを示すものではありません。実際の再編は地域ごとの協議を経て進みます。
看護師にとっては、勤務先が倒産しなくても、配属先の診療科や病棟の性格が変わることがあり得ます。急性期病棟が高齢者救急を受け入れる病棟に変われば、求められる看護の中身も変わります。倒産という分かりやすい形だけでなく、こうした静かな変化のほうが、実際には多くの人に影響します。
働く場所の変化にどう備えるかについては、病棟の機能が変わるときに看護師が確認することもあわせて読んでみてください。
転職先を選ぶときに、規模と設置主体をどう見るか
転職先を検討している方にとって、この記事の使い方をはっきりさせておきます。
「規模の大きい職場を選べば安全」という結論にはなりません。 冒頭で確認したとおり、この調査からは規模別のリスクの高低を導けないからです。件数の違いは、そもそもの事業者数の違いを大きく反映しています。
一方で、調査が示した倒産の背景は、応募先を見るときの視点になります。とくに事業承継の問題は、規模ではなく体制の問題です。診療の継続が特定の一人に依存している体制かどうかは、規模とは別の軸で確認できます。
判断するときは、次の順序で考えると整理しやすくなります。まず自分にとって譲れない条件(勤務時間、通勤、夜勤の有無など)を決める。次にその条件を満たす候補を挙げる。そのうえで、候補それぞれの体制を確認する。継続性を最初の絞り込み基準にすると、選択肢がほとんどなくなってしまいますし、そもそも外から正確に測れるものでもありません。
見学や面接の場で聞ける質問としては、「常勤の医師は何名いますか」「開設から何年目ですか」「今後の設備更新の予定はありますか」といったあたりが自然です。経営を詮索する形にならずに、施設の体制を知ることができます。求人票と面接で確認すべき項目は求人票と内定条件の確認手順にまとめています。
質問と、そこから読み取れることを整理しておきます。
| 面接で聞くこと | 読み取れること |
|---|
| 常勤医師の人数と体制 | 診療の継続が一人に依存していないか |
| 開設からの年数 | 事業としての経過年数 |
| 直近の設備更新や改装の予定 | 更新の計画があるかどうか |
| 看護職員の平均勤続年数 | 定着の状況 |
| 直近1年の職員の増減 | 人員の動き |
| 今後力を入れたい分野 | 施設としての方針が語られるか |
これらは経営状態を判定するための指標ではなく、施設の体制について事実を集めるための質問です。聞いた分だけ判断材料が増える、という性質のものだと考えてください。
面接は選ばれる場であると同時に、選ぶ場でもあります。聞きにくいと感じるかもしれませんが、これらは働く側が知っておくべき当然の情報です。
診療所で働くという選択を、否定しない
ここまでリスクの話を続けましたが、診療所での勤務を避けるべきだという結論にはなりません。
倒産件数が多いのは、そもそも診療所の数が病院よりはるかに多いからでもあります。母数が違うものを件数だけで比べると、印象が歪みます。また、外来中心で夜勤がなく、生活のリズムを保ちやすいという理由でクリニック勤務を選ぶ看護師さんは多く、それは合理的な選択です。
重要なのは、規模で決めつけずに、体制を確認することです。診療所を選ぶなら、診療を担う医師の人数や後継者の話題、法人化しているかどうかといった点に目を向ける。病院を選ぶなら、組織としての意思決定や異動の運用がどうなっているかを見る。どちらもリスクをゼロにはできませんが、確認した範囲だけは判断材料になります。
クリニック勤務の実際についてはクリニック勤務の働き方でも整理しています。
兆候に気づいたときに、どの順番で動くか
もし勤務先に気になる兆候が出てきたとき、慌てて動くと選択を誤ります。順番を決めておくと落ち着いて対応できます。
第一に、事実を確認します。 噂と事実は違います。給与の支払いが遅れた、賞与が出なかった、業者への支払いが滞っているといった具体的な事実があるのか、それとも「経営が厳しいらしい」という話だけなのか。ここを分けないと、不確かな情報で人生の判断をすることになります。
第二に、自分に関する記録を整えます。 雇用契約書、自分の給与明細、自分の勤務時間の記録。これらは、万が一の際に自分の権利を主張するための土台になります。ここで注意していただきたいのは、他の職員の情報や患者さんの情報を持ち出さないことです。勤務表そのものには他のスタッフの氏名や勤務が含まれます。記録するのは自分の勤怠と労働時間にとどめ、勤務先の規程に反しない方法で行ってください。記録の残し方は職場の出来事を記録として残す方法で整理しています。
第三に、情報を集めます。 地域の求人状況、自分の条件で選べる範囲、通える距離にどんな施設があるか。応募するかどうかは別として、選択肢の地図を持っているかどうかで気持ちの余裕が変わります。
第四に、判断します。 ここでようやく、残るか動くかを決めます。順番を逆にして「まず辞める」から入ると、条件を選べない状態で次を探すことになります。
この順番は、倒産に限らず、職場に不安を感じたときの汎用的な進め方でもあります。焦って動いた結果として、前より条件の悪い職場に移ってしまうことは避けたいところです。転職を後悔しないための確認手順もあわせて参考にしてください。
経営の話は、賃金の話とつながっている
医療機関の収益力が落ちているという指摘は、賃上げの議論と隣り合わせで語られがちです。ただし調査が挙げているのは「人件費の高騰」であって、個々の施設が賃金を上げたことを倒産の原因として特定しているわけではありません。人件費には、採用にかかる費用、派遣職員の費用、時間外勤務、必要な人員数の増加なども含まれます。2026年度の改定で賃上げの原資がどう手当てされたかについては、診療報酬改定と賃上げの反映を確認するで整理しています。
したがって、この調査を「賃上げを求めるべきではない理由」として読むのは適切ではありません。医療機関の費用構造にどんな要素があるかを知っておくと、賃金の話をするときの前提が整理できる、という程度に受け取ってください。
よくある質問
Q. 39件というのは多いのですか。 A. 上半期としては過去最多で、前年同期の35件を上回っています。ただしこれは法的整理などに入った事業者の件数で、休廃業や解散は含まれません。多い少ないを判断するには比較の基準が必要で、この数字だけでは決められません。
Q. 病院よりも診療所のほうが危ないということですか。 A. この調査からは判断できません。件数では診療所が19件と最多ですが、区分ごとの事業者数(分母)が示されていないため、率の比較ができないからです。診療所は施設数そのものが病院より多いことにも注意してください。
Q. 負債総額が減っているのはよいことですか。 A. 一件あたりの規模が小さくなったという意味です。大型の倒産が減った一方で、小規模な倒産が増えているという読み方になります。
Q. 勤務先が倒産したら、給与はどうなりますか。 A. 未払い賃金について国が一定割合を立て替える制度があります。詳しい要件は関連記事で整理していますので、そちらを確認してください。
Q. 経営状態を職員が確認する方法はありますか。 A. 医療法人であれば事業報告書等が都道府県で閲覧できる場合があります。ただし個人開設の診療所では公開情報が限られるため、勤務実感からの兆候の把握が中心になります。
Q. 倒産の理由として「人件費の高騰」が挙がっていますが、賃上げが原因ということですか。 A. 調査では、物価高とあわせて人件費の高騰が収益力悪化の要因として挙げられています。ただしこれは、賃上げをしなければよかったという意味ではありません。保険診療の部分は診療報酬という公定価格で単価が決まっており、コストが上がっても施設の判断で値上げできないという構造上の問題として示されています。
Q. 大きな病院なら安心ですか。 A. この調査から規模別の安全性を導くことはできません。上半期の倒産のうち病院は4件でしたが、ゼロではありません。規模ではなく、診療の継続が特定の一人に依存していないかといった体制面を確認するほうが実務的です。
参考資料
- 帝国データバンク「医療機関の倒産動向調査(2026年上半期)」(2026年7月13日公表) https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260713-iryoukikan2025/
- 厚生労働省「看護職員の確保策について」第4回2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会 資料3(令和8年7月23日) https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001719356.pdf
本記事は公表された調査結果の解説であり、特定の医療機関の経営状態を評価するものではありません。勤務先の状況については、勤務先にご確認ください。