潜在看護職員は約79万人、40代以降が6割
同じ資料では、潜在看護職員の推計も示されています。平成30年の推計で、看護職員数793,884人という数字です。年齢構成を見ると、30代以降に増える傾向があり、40代以降で全体の約6割を占めます。
別の調査になりますが、看護職の離職理由も資料に載っています。全体では子育てが10.9%で最も多く、結婚が10.5%、転居が9.5%と続きます(2024年度ナースセンター登録データ、n=34,197)。年代別に見ると、30代の回答者では子育て16.2%、結婚15.9%、妊娠・出産15.6%が上位を占め、40代の回答者でも子育て17.3%が最多でした。
ここで正確を期すと、この数字が示しているのは調査時点の年代別に見た離職理由の割合です。何歳のときに離職したかという分布ではありません。したがって「30〜40代で離職する人が多い」と読むことはできず、言えるのは年代によって上位に挙がる離職理由が異なるということまでです。
潜在看護職員の推計で40代以降が約6割を占めるという先ほどの数字とも、直接はつながりません。母集団も調査時点も別のものです。
ここで一つ注意しておきます。ここまでに出てきた数字は、それぞれ別の調査です。潜在看護師306名の意向調査、平成30年の潜在看護職員推計約79万人、そしてナースセンター登録者34,197人の離職理由。母集団も調査時点も違うため、同じ人が「ライフイベントで離職し、数年後に復職意向が下がる」という一続きの経過をたどることを示したデータではありません。個人レベルの連続性は、これらの資料からは確認できません。
それでも、集団としての傾向を並べて見ることには意味があります。30代・40代の回答者では子育てや結婚が離職理由の上位に来ること、そしてブランクが長い層ほど復職希望が少ないこと。この二つが、別々の調査でそれぞれ観察されているという事実は、押さえておく価値があります。
年代によって、離れる理由が違う
同じ離職理由のデータを年代別に見ると、はっきりした違いが出ます。
20代の回答者で最も多いのは「自分の健康(主に精神的理由)」で14.5%です。次いで転居13.9%、結婚11.4%と続き、5位には夜勤の負担が大きいことが8.3%で入っています。30代・40代の回答者で子育てや結婚が上位に来るのとは、性質がまったく違います。
50代の回答者では、親族の健康・介護が13.8%で最多となり、自分の健康(主に身体的理由)が11.7%で続きます。60代の回答者では定年が26.6%と突出します。
この違いは、復職を考えるときに押さえておきたい点です。ライフイベントに関わる理由であれば、状況が変われば条件も変わります。一方、心身の不調に関わる理由の場合は、環境の条件だけでは説明がつきません。
心身の不調が理由で離職された方へ。復職の検討より先に、相談できる窓口があります。 働くことに関する心の健康については、こころの耳(0120-565-455)といった公的な相談窓口を利用できます。かかりつけの医療機関や産業医への相談も選択肢です。復職の可否や、どんな働き方であれば無理がないかは、主治医や産業医と相談しながら決めるべきことで、この記事で一般化して助言できる事柄ではありません。無理に判断を急がないでください。
ブランクが長い層で復職希望が少ないのは、なぜか
ここからは資料に書かれていない、筆者の推測です。調査は意向の割合を示しているだけで、理由までは調べられていません。それを踏まえたうえで、いくつかの要素が考えられます。
技術と知識への不安が積み上がります。 薬剤も機器も手順も変わっていきます。離れている期間が長いほど、「今の現場についていけるだろうか」という不安は大きくなります。これは、実際の能力の低下以上に、心理的な障壁として働きます。
生活の形が固まります。 数年のあいだに、家族の生活リズム、家事の分担、自分の時間の使い方が今の形で安定します。そこに交代勤務や不規則な勤務を組み込むことは、家族全体の再設計を意味します。
同期との比較が重くなります。 同じ年に免許を取った人たちが役職についていたり、専門性を深めていたりする。そこに新人と同じ扱いで戻ることに抵抗を感じる人は少なくありません。
そして、戻らなくても生活が回っている、という現実があります。 収入面で切迫していなければ、あえて負担の大きい選択をする動機は弱くなります。
繰り返しますが、これらはいずれも検証された理由ではありません。ただ、どれも本人の意思の強さとは別の次元の話です。復職に踏み切れないことを、意思の問題として自分を責める必要はないと考えます。
復職支援として、何が用意されているか
では、支援があれば戻れるのでしょうか。同じ資料に、具体的な取り組みの実績が紹介されています。
関西医科大学(大阪府枚方市)では、医療現場を離れた潜在看護師の知識と技術を習得・実践する「学び直しの場」としてリカレントスクールを開講しています。資料によれば、これまでに修了生86名中53名が復職して活躍している(令和7年度時点)とされています。割合にすると6割を超えます。
ただし、この6割という数字を冒頭の22.2%と比べることはできません。リカレントスクールを受講した人は、自分で申し込んで通った人たちです。もともと復職の意思が強い層が集まっており、受講しなかった人との比較もありません。つまり「研修に効果があった」ことを示すデータではなく、「この修了生の中では53名が復職した」という実績の記録です。
それでも、この数字には意味があります。ブランクを抱えた人が実際に現場へ戻っている例が、具体的な人数として示されているからです。
このほか、ナースセンターによる復職支援研修や就職相談、ハローワークの巡回相談があり、近年は病院見学や実地での体験を行う例もあると記載されています。三重県ナースセンターの例では、高齢者施設等における看護職の役割を理解する施設訪問型の潜在看護職復職研修が行われています。
つまり、「独学で不安を埋めてから戻る」以外の道は用意されているということです。ただし、その存在を知らなければ使えません。
「学び直しの場」に含まれている要素を分解する
こうした場が何を提供しているのかを分解しておくと、近くに同じ仕組みがない場合でも代わりを探せます。以下は資料に効果として記載されているものではなく、構成要素の整理です。
一つは、技術と知識に触れ直す機会です。もう一つは、同じ立場の人と出会う機会。そして三つ目に、現場の今を実際に見る機会があります。ブランク中の不安の多くは想像によるもので、実物を見ないかぎり確かめようがありません。
四つ目として、日程が決まることそのものも要素です。「いつか」と考えている状態から、「この研修が終わったら探す」という具体的な時間軸に変わります。
これらは別々に手当てすることもできます。ナースセンターの相談、病院見学、施設訪問型の研修。組み合わせ方は自分で決められます。
「戻る」の形は、病棟だけではない
復職を考えるときに、多くの人が病棟のフルタイム勤務を思い浮かべます。しかし、それが唯一の戻り方ではありません。
厚生労働省の資料では、年齢階級別の看護職員の就業場所について、年齢階級が低くなるほど病院で就業する割合が高く、年齢階級が高いほど介護保険施設等で就業する割合が高くなると整理されています。実際、25歳未満では92.7%が病院で働いているのに対し、65歳以上では28.8%にとどまります。
これは、年齢を重ねた看護職が病院以外の場で活躍しているということです。介護保険施設、訪問看護、健診、保育所、企業の健康管理室。それぞれ求められる技術も勤務形態も違います。ブランクからの復職先として、急性期病棟以外を最初から視野に入れておくほうが現実的な場合があります。
一方で、資料には転職するうえで必要な支援についての調査も載っています。病院・診療所に勤務していて、介護保険サービス等への転職を希望する人(421名)では、マッチングを求める割合が72.7%と非常に高くなっていました。これは在職中の看護職を対象にした数字で、潜在看護職や未経験者一般のデータではありません。それでも、勤務先の種類を変えようとするときに条件のすり合わせが求められている、という傾向は読み取れます。
働く場所の選択肢を広げて考えたい方は、病棟以外で働く選択肢やブランクからの復職の進め方もあわせて読んでみてください。
迷っている段階で、負担の小さい行動から
「戻るかどうか決めていない」という段階の方に、いきなり求人に応募することをすすめるつもりはありません。決めていないうちにできる、負担の小さいことから並べます。
第一段階は、情報を見るだけです。 都道府県ナースセンターに復職支援研修があるか、自分の地域でどんな研修が行われているかを調べる。申し込まなくても、選択肢の存在を知るだけで判断材料になります。
第二段階は、話を聞くことです。 ナースセンターの就職相談は、就職を決めていなくても利用できます。「戻るか迷っている」という前提で相談すること自体が可能です。
第三段階は、見ることです。 病院見学や施設訪問型の研修が用意されている地域であれば、実際の現場を見てから考えられます。想像していた不安と、実際の現場の姿は違うことがあります。
第四段階で、初めて研修や応募を検討します。 ここまで進んで「やはり今ではない」という結論になったとしても、それは無駄ではありません。次に考えるときの出発点が変わります。
この順番の利点は、どの段階でも引き返せることです。応募から始めると、断りにくさが生じます。情報から始めれば、自分のペースを保てます。
期限を切るとしたら、「いつ戻るか」ではなく「いつ調べるか」に設定するのが現実的です。復職の時期は家庭の状況に左右されますが、調べることは今日でもできます。決断を早める必要はありません。情報に触れられる状態を保っておくことのほうが、現実的な備えになります。
離職するときに、届出を出しましたか
もし今まさに離職を考えている、あるいは最近離職したという方であれば、押さえておきたい制度があります。看護師等の人材確保の促進に関する法律にもとづく届出制度です。
看護職が離職したときなどに、都道府県ナースセンターへ届け出ることが努力義務とされています。届け出ておくと、ナースセンターから研修や求人の情報を受け取ることができ、復職を考えたときの入口になります。
この届出は、義務ではなく努力義務とされているため、出さなくても罰則はありません。届け出ておくと、ナースセンターからの案内を受け取れる状態になります。届出をしていない場合でも、自分からナースセンターに登録したり相談したりする経路は残っています。
すでに離職から時間が経っている方でも、届出は可能です。「もう何年も経っているから」と諦める必要はありません。復職を決めていなくても出せますし、出したからといって就職を迫られるものでもありません。復職の意思が固まる前に、情報が届く状態を作っておくという使い方ができます。
冒頭の調査でブランクが長いほど復職意向が下がるという結果が出ていることを踏まえると、この「情報が届く状態を保つ」ことの意味は小さくありません。何も情報が入らないまま5年が経つのと、研修の案内を見ながら5年を過ごすのとでは、判断の材料がまったく違います。
ナースセンターという選択肢を知っているか
転職サイトは広告で目にする機会が多い一方、都道府県ナースセンターは知られていないことがあります。看護師等の届出制度にもとづく公的な仕組みで、求人紹介だけでなく相談や研修を担っています。
資料でも、潜在看護職を支援する取り組みとして、ナースセンターによる復職支援研修や就職相談、ハローワークの巡回相談が挙げられています。公的機関として、無料で相談や紹介を受けられます。
一方で、資料の論点には、ミスマッチを減らすために潜在看護職員の特性・傾向を踏まえた丁寧なマッチングや復職支援を行うといった方策が、検討すべき事項として挙げられています。支援のあり方が現在も検討されている段階だということです。
使い方についてはナースセンターの活用方法で整理しています。
「戻らない」という結論も、選択のひとつ
ここまで復職の話を続けてきましたが、戻らないという結論を否定するつもりはありません。
看護師の資格を持ちながら別の道を選ぶ人はいますし、家庭の状況や体調によって、現場に戻ることが最善ではない時期もあります。冒頭の調査で「再就職したくない」と答えた人たちは、それぞれの事情のなかで納得して選んでいるかもしれません。
お伝えしたいのは、復職の時期を急いで決める必要はないということです。療養中の方、育児や介護の最中にいる方が、いま決断しないことに引け目を感じる必要はまったくありません。
一方で、情報を集めることだけは、決断とは切り離して先に始められます。どんな戻り方があるのか、どんな支援が使えるのか、自分の地域に何があるのか。それを知ったうえで「戻らない」と決めたなら、それは立派な選択です。
現場を離れたときの気持ちの整理については、看護師を辞めた後の選択肢でも扱っています。
数字を、自分の話に戻す
最後に、冒頭の表をもう一度見てください。ブランク5年以上で「再就職したい」と答えたのは18人、22.2%でした。少数派です。
しかし、この18人は存在します。5年以上離れていても戻りたいと考えている人が、確かにいるということです。統計は多数派の傾向を示しますが、あなたがどちらに属するかを決めるものではありません。
同時に、「再就職したくない」と答えた63人も、それぞれの事情のなかでその答えに至っています。その選択が誤りだという話ではありません。
この記事でお伝えしたかったのは、ブランクが長い層ほど復職希望が少ないという関連が、実際のデータとして存在するという一点です。それが自分に当てはまるかどうかは、あなたが決めることです。いつ何を調べるかを自分で決められれば十分で、戻るかどうかはそのあとで決めればよいことです。
よくある質問
Q. ブランク5年以上でも復職できますか。 A. この調査で示されているのは意向の割合であり、復職の可否を示すものではありません。またリカレントスクールの修了生53名についても、そのうち何人がブランク5年以上だったかは示されていないため、この問いの直接の根拠にはなりません。可否は個別の状況によります。まずは都道府県ナースセンターの復職支援研修や就職相談で、自分の条件を伝えて相談してみてください。
Q. 潜在看護職員は何人いますか。 A. 平成30年の推計で793,884人とされています。30代以降に増える傾向があり、40代以降が全体の約6割を占めます。
Q. 復職研修はどこで受けられますか。 A. 都道府県ナースセンターが復職支援研修や就職相談を行っています。大学が独自にリカレント教育を提供している例もあります。地域によって内容が異なるため、お住まいの都道府県のナースセンターに問い合わせてください。
Q. 費用はかかりますか。 A. 実施主体や研修内容によって異なります。ナースセンターの相談や研修は公的な仕組みですが、個別の費用は各実施機関に確認してください。
Q. 病棟以外から復職してもよいのでしょうか。 A. 復職先の選択に決まりはありません。なお資料には、年齢が上がるほど介護保険施設等で就業する割合が高くなるというデータがありますが、これは就業中の看護職全体の勤務場所を示したもので、復職者がどこへ戻ったかを調べたものではありません。復職先の傾向を知りたい場合は、都道府県ナースセンターに相談してみてください。
Q. 離職時の届出を出していませんでした。今からでも出せますか。 A. 都道府県ナースセンターへの届出は、離職から時間が経っていても行えます。復職を決めていない段階でも届け出ることができ、研修や求人の情報を受け取れるようになります。
Q. 復職したいと思っていますが、家族の理解が得られません。 A. 勤務形態によって家族への影響は大きく変わります。日勤のみ、短時間勤務、週の日数を絞るなど、複数の形を具体的に示したうえで話すほうが、抽象的に「働きたい」と伝えるより理解を得やすくなります。復職支援の相談窓口では、こうした働き方の選択肢も含めて相談できます。
Q. 5年以上離れていると、技術的にもう無理でしょうか。 A. 資料に示されているのは復職の意向であり、能力の評価ではありません。復職支援研修や施設訪問型の研修は、まさにブランクのある方を対象に設計されています。無理かどうかを一人で判断する前に、そうした場を見てみることをおすすめします。
参考資料
- 厚生労働省「看護職員の確保策について」第4回2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会 資料3(令和8年7月23日) https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001719356.pdf
- 厚生労働省「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000161127_00103.html
調査結果は特定の集団を対象としたものであり、個々の状況にそのまま当てはまるものではありません。復職の可否や条件については、都道府県ナースセンター等の窓口にご相談ください。