
看護過程は、患者さんに質の高いケアを提供するための重要な思考プロセスです。しかし、多くの看護学生や新人看護師の方が「情報収集の視点がわからない」「アセスメントの書き方に自信が持てない」「記録に時間がかかりすぎる」といった悩みを抱えています。
この記事では、看護過程の基礎から実践まで、4つの診療科の具体的な事例を用いて分かりやすく解説します。アセスメントのポイントや記録の書き方、よくある間違いとその改善方法まで、実践で活用できる情報を網羅的にお伝えします。
ベテラン看護師の「カンゴさん」による実践的なアドバイスと、具体的な事例展開を通じて、あなたの看護実践力を確実に向上させることができます。看護学生から経験者まで、明日からの看護実践に活かせる内容となっています。
この記事で分かること
- 看護過程の基本的な考え方から応用までの体系的な知識
- アセスメントから評価までの具体的な展開方法
- 4つの診療科での実践的なケーススタディ
- 記録の具体例と間違いやすいポイント
- すぐに活用できる実践演習問題と詳細な解説
この記事を読んでほしい人
- 看護学生および新人看護師の方
- 看護過程の基礎を学び直したい方
- 記録の書き方に自信が持てない方
- 実践的な事例で学びたい方
- より良いケアを提供したいと考えている方
看護過程の基本概念

看護過程は、科学的根拠に基づいた看護ケアを実現するための思考プロセスです。患者さんの個別性を重視しながら、系統的にケアを展開していく方法として、現代の看護実践において不可欠な要素となっています。
看護過程の定義と意義
看護過程とは、患者さんの健康上の問題を特定し、その解決に向けて計画的に看護を実践していく過程を指します。
具体的には情報収集、アセスメント、計画立案、実施、評価という5つのステップで構成されています。これらのステップを通じて、科学的で個別性のある看護を提供することが可能となります。
アセスメントの方法
アセスメントは看護過程の中核となる重要なステップです。
このセクションでは、効果的な情報収集の方法から、収集したデータの分析、問題点の抽出まで、実践的な手法を詳しく解説していきます。
効果的な情報収集の進め方
主観的情報の収集方法
患者さんからの情報収集では、信頼関係の構築が重要となります。患者さんの訴えをしっかりと傾聴し、言葉の背景にある思いや考えまで理解するように努めます。
面接時は開放的な質問から始め、必要に応じて焦点を絞った質問を行うことで、より詳細な情報を得ることができます。
客観的情報の収集方法
フィジカルアセスメントでは、視診、触診、打診、聴診の順で行います。バイタルサインの測定や身体測定のほか、検査データの確認も重要です。観察した内容は具体的な数値や状態として記録し、後のアセスメントに活用できるようにします。
情報源の活用
情報収集では、患者さん本人だけでなく、ご家族や他の医療者からも情報を得ることが重要です。また、電子カルテや看護記録、検査データなども重要な情報源となります。複数の情報源から得られたデータを統合することで、より正確な状態把握が可能となります。
データベースの整理と分析
情報の分類方法
収集した情報は、ゴードンの機能的健康パターンやヘンダーソンの14の基本的ニードなど、特定の枠組みに沿って整理します。この過程で情報の不足している部分が明確になり、追加の情報収集が必要な領域を特定することができます。
データの解釈と分析
収集したデータは、正常値や基準値と比較しながら解釈していきます。また、複数のデータ間の関連性を考え、患者さんの状態を総合的に理解することが重要です。時系列での変化にも注目し、状態の推移を把握します。
問題点の抽出と優先順位の決定
健康問題の特定
分析したデータから、現在の健康問題や今後予測される問題を抽出します。問題の種類や性質、影響範囲などを考慮しながら、具体的な表現で記述することが重要です。また、問題の原因や関連因子についても明確にします。
優先順位の設定
抽出した問題に対して、生命の危機に関わる問題、症状の重症度、患者さんの希望などを考慮しながら優先順位を決定します。マズローの基本的欲求階層説なども参考にしながら、適切な優先順位付けを行います。
看護診断の確定
看護診断の構成要素
看護診断は、問題名、関連因子、症状/徴候の3つの要素で構成されます。NANDAの看護診断を参考にしながら、患者さんの状態を最も適切に表現する診断名を選択します。
共同問題の判断
医療チームとの協働が必要な問題については、共同問題として明確に識別します。これにより、他職種との連携がスムーズになり、より効果的なケアの提供が可能となります。
アセスメント時の注意点
客観性の確保
主観的な判断に偏らないよう、常に客観的なデータに基づいてアセスメントを行います。また、自己の先入観や思い込みが影響していないか、定期的に振り返ることも重要です。
継続的な評価の必要性
アセスメントは一度行えば終わりではなく、患者さんの状態変化に応じて継続的に行う必要があります。定期的な再評価により、新たな問題の早期発見や、介入の効果確認が可能となります。
このように、アセスメントは様々な要素を含む複雑なプロセスです。
次のセクションでは、具体的なケーススタディを通じて、実際のアセスメントの展開例を見ていきます
ケーススタディ:4つの診療科における看護過程の展開
実際の看護場面での看護過程の展開について、4つの異なる診療科の事例を用いて解説していきます。
それぞれの事例について、情報収集からアセスメント、計画立案、実施、評価までの一連のプロセスを詳しく見ていきましょう。
急性期患者の看護過程展開例:急性心筋梗塞
患者情報
A氏は65歳の男性で、胸痛を主訴に救急搬送されました。冠動脈造影の結果、左前下行枝の閉塞が確認され、緊急でPCIを施行されています。高血圧と脂質異常症の既往があり、タバコを1日20本、35年間続けていました。
情報収集とアセスメント
入院時のバイタルサインは、血圧160/95mmHg、脈拍95回/分、SpO2 95%(室内気)でした。
胸痛は介入により軽減しているものの、安静時でもNRS(数値評価スケール)で3程度の痛みが持続しています。不安が強く、「また胸が痛くなったらどうしよう」との訴えが聞かれます。
看護診断と計画立案
主要な看護診断として、「急性疼痛」「不安」「生活習慣の改善への取り組み不足」を特定しました。短期目標として疼痛の緩和と不安の軽減、長期目標として生活習慣の改善と再発予防を設定します。
実施と評価
疼痛スケールを用いた定期的な観察と記録を行い、医師と連携して適切な疼痛管理を実施します。また、病態や治療について丁寧な説明を行うことで、不安の軽減を図ります。
慢性期患者の看護過程展開例:2型糖尿病
患者情報
B氏は58歳の女性で、血糖コントロール不良のため入院となりました。診断から10年が経過しており、最近はHbA1cが9.5%と上昇傾向にあります。仕事が忙しく、食事時間が不規則で運動習慣もありません。
情報収集とアセスメント
体重は身長158cmに対して75kg(BMI 30.0)で、この1年で5kg増加しています。食事記録では、夜間の間食が習慣化しており、インスリン注射も時々忘れることがあります。糖尿病の合併症に対する不安は強いものの、具体的な生活改善への意欲は乏しい状況です。
看護診断と計画立案
「非効果的健康管理」「栄養摂取過剰」を主な看護診断として設定しました。自己管理能力の向上と適切な生活習慣の確立を目標に、具体的な教育計画を立案します。
実施と評価
食事療法や運動療法について、患者さんの生活リズムに合わせた具体的な方法を提案します。また、自己血糖測定やインスリン注射の手技確認も定期的に行います。
精神科患者の看護過程展開例:うつ病
患者情報
C氏は42歳の男性で、抑うつ症状の悪化により入院となりました。半年前から意欲低下や不眠が出現し、2週間前から出勤できなくなっています。「何をしても楽しくない」「周りに迷惑をかけている」との発言が聞かれます。
情報収集とアセスメント
睡眠リズムが乱れており、夜間は2-3時間程度の断眠が続いています。食事摂取量も減少し、この1ヶ月で3kgの体重減少がみられます。自責的な発言が多く、家族との会話も減少しています。
看護診断と計画立案
「睡眠パターン混乱」「栄養摂取不足」「社会的相互作用障害」を看護診断として設定し、基本的な生活リズムの確立と対人交流の促進を目標とします。
実施と評価
日中の活動を促し、睡眠衛生指導を行います。また、少人数での作業療法への参加を促すなど、段階的な対人交流の機会を設けます。
周術期患者の看護過程展開例:大腸癌手術
患者情報
D氏は70歳の男性で、上行結腸癌に対する腹腔鏡下結腸右半切除術が予定されています。高血圧で内服加療中です。術後の回復に不安を感じており、特にストーマ造設の可能性について心配されています。
情報収集とアセスメント
術前の全身状態は良好で、ASA分類はクラスⅡです。しかし、手術への不安が強く、睡眠導入剤を希望されることが増えています。また、術後の疼痛に対する懸念も強く聞かれます。
看護診断と計画立案
術前は「不安」「知識不足」、術後は「急性疼痛」「術後回復遅延のリスク状態」を看護診断として設定します。術前準備から術後回復までの包括的な看護計画を立案します。
実施と評価
術前オリエンテーションを丁寧に行い、術後の経過について具体的にイメージできるよう支援します。術後は早期離床を促進し、合併症予防に努めます。
各事例からの学び
これらの事例を通じて、患者さんの個別性に応じた看護過程の展開の重要性が理解できます。診療科や疾患によって必要な観察項目や介入方法は異なりますが、系統的なアプローチと継続的な評価の重要性は共通しています。
次のセクションでは、これらの事例で使用した記録の書き方について詳しく解説していきます。
記録の書き方のポイント

看護記録は看護実践の証明となる重要な文書です。このセクションでは、法的要件を満たしながら、チーム内で効果的に情報共有できる記録の書き方について解説していきます。
看護記録の基本原則
記録の目的と意義
看護記録は、提供した看護ケアの内容と患者さんの反応を正確に記載し、継続的なケアを可能にするためのツールです。また、看護の質を評価し、法的証拠としても機能する重要な文書となります。
記録の要件
看護記録では、正確性、簡潔性、客観性、適時性、完全性の5つの要件を満たすことが求められます。事実と看護師の判断を明確に区別し、必要な情報を漏れなく記載することが重要です。
SOAP記録の書き方
主観的情報(S)の記載
患者さんやご家族から得られた情報は、できるだけ話された言葉をそのまま記載します。「」を用いて発言内容を明確にし、誰からの情報なのかを明記します。
客観的情報(O)の記載
観察した事実や測定値は、具体的な数値や状態として記載します。バイタルサインや検査データ、観察された症状や徴候を時系列で記録します。
アセスメント(A)の記載
収集した情報を分析し、患者さんの問題や状態をアセスメントした内容を記載します。根拠となる情報と看護師の判断を明確に区別して記載することが重要です。
計画(P)の記載
アセスメントに基づいて立案した看護計画や、実施予定の看護介入について具体的に記載します。次の勤務者への申し送り事項も含めて記載します。
電子カルテでの記録のポイント
テンプレートの活用
電子カルテのテンプレート機能を効果的に活用し、必要な情報を漏れなく記載します。ただし、テンプレートに頼りすぎず、患者さんの個別性を反映した記載を心がけます。
記録の修正方法
誤記載があった場合は、施設の規定に従って適切に修正を行います。修正履歴が残る形で訂正し、修正理由を明記することが重要です。
効果的な記録のための工夫
時間管理
タイムリーな記録を心がけ、ケア提供直後に記録することで正確性を確保します。長時間経過してからの記録は、重要な情報の欠落や誤記載のリスクが高まります。
簡潔で分かりやすい文章
必要な情報を簡潔かつ正確に記載します。長文を避け、重要なポイントが伝わりやすい文章構成を心がけます。
記録における注意点
看護記録は法的な文書であり、後から確認することも多いため、読み手を意識した分かりやすい記載が重要です。
次のセクションでは、よくある間違いと改善方法について解説していきます。
よくある間違いと改善方法
看護過程の展開において、経験の浅い看護師がつまずきやすいポイントと、その改善方法について解説していきます。これらの内容を理解することで、より効果的な看護過程の展開が可能となります。
アセスメントにおける間違い
情報の解釈の誤り
情報の解釈において、経験や知識の不足から誤った判断をしてしまうことがあります。例えば、「食欲不振」という情報から、すぐに「栄養摂取不足」と判断するのではなく、その原因や関連する要因を十分に検討することが重要です。
情報の統合不足
収集した情報を個別に見るだけで、情報同士の関連性を見落としてしまうことがあります。複数の情報を統合し、患者さんの全体像を把握することが必要です。
看護計画立案での間違い
具体性の不足
看護計画が抽象的で実行可能性が低いものになってしまうことがあります。「安静を促す」ではなく、「食後30分は臥床して休息をとっていただく」というように、具体的な内容を記載することが重要です。
個別性の欠如
標準看護計画をそのまま使用し、患者さんの個別性を反映できていないことがあります。標準看護計画は参考にしつつ、その患者さんの状況に合わせた修正が必要です。
実施段階での間違い
計画との不一致
立案した計画と実際のケアにずれが生じることがあります。計画を定期的に見直し、実施可能な内容に修正することが重要です。
観察不足
計画に基づいたケアは実施できていても、その効果の観察が不十分になりがちです。実施後の患者さんの反応を詳細に観察し、記録することが必要です。
評価での間違い
評価基準の不明確さ
目標が抽象的なため、適切な評価ができないことがあります。目標は具体的な指標を用いて設定し、評価可能な内容にすることが重要です。
評価時期の遅れ
計画した評価時期を逃してしまい、タイムリーな計画修正ができないことがあります。評価時期を明確にし、確実に実施することが必要です。
改善のためのアプローチ
これらの間違いを防ぐためには、実践を振り返り、指導者からのアドバイスを受けることが重要です。また、継続的な学習を通じて、アセスメント能力や看護計画立案能力を向上させていくことが必要です。
おしえてカンゴさん!よくある質問と回答

看護過程の展開において、多くの看護師が共通して抱く疑問や悩みについて、具体的な事例を交えながら解説していきます。ベテラン看護師の「カンゴさん」が、実践的なアドバイスを提供します。
情報収集に関する質問
情報収集のタイミング
Q:入院時の情報収集はどのくらいの時間をかけるべきですか。
A:患者さんの状態や緊急度によって異なりますが、基本的な情報収集には30分から1時間程度を目安とします。ただし、すべての情報を初回で収集しようとせず、患者さんの状態や疲労度に応じて、複数回に分けて実施することも検討しましょう。
効率的な情報収集
Q:限られた時間で効率よく情報を集めるコツはありますか。
A:事前にカルテ情報を確認し、重点的に聴取すべき項目を整理しておくことが重要です。また、日常生活援助の場面を活用して情報収集を行うことで、自然な会話の中から必要な情報を得ることができます。
アセスメントに関する質問
関連図の作成
Q:関連図はどのように作成すればよいですか。
A:まず中心に患者さんの主要な健康問題を置き、そこから関連する症状や要因を放射状に広げていきます。矢印の向きや線の種類を使い分けることで、因果関係や相関関係を表現することができます。
優先順位の決定
Q:複数の問題がある場合、優先順位の付け方に迷います。
A:生命に関わる問題、症状の重症度、患者さんの希望を考慮して優先順位を決定します。マズローの基本的欲求階層説も参考になりますが、患者さんの個別性も重要な判断基準となります。
看護計画に関する質問
目標設定
Q:具体的な目標の立て方を教えてください。
A:目標は「いつまでに」「どのような状態になるか」を具体的に記載します。例えば「1週間後には自力で階段昇降ができる」というように、評価可能な形で設定することが重要です。
計画の修正
Q:立案した計画の修正のタイミングはいつがよいですか。
A:患者さんの状態変化時や、定期的な評価時期には必ず計画の見直しを行います。また、実施したケアの効果が得られない場合も、早めに計画の修正を検討する必要があります。
実施・評価に関する質問
効果の評価
Q:ケアの効果をどのように評価すればよいですか。
A:目標に対する達成度を、具体的な指標を用いて評価します。数値化できる項目(バイタルサイン、疼痛スケールなど)だけでなく、患者さんの主観的な反応も重要な評価指標となります。
記録の要点
Q:看護記録で特に気をつけるべきポイントは何ですか。
A:事実と判断を明確に区別して記載することが重要です。また、実施したケアとその結果、患者さんの反応を具体的に記載し、次のケアにつながる情報を残すようにします。
その他の重要な質問
時間管理
Q:看護過程の展開に時間がかかりすぎてしまいます。
A:日々の業務の中で少しずつ情報を整理し、定期的にアセスメントを更新していくことが効率的です。また、電子カルテのテンプレート機能を活用することも有効です。
これらの質問と回答を参考に、より効果的な看護過程の展開を目指しましょう。実践を重ねることで、徐々にスキルアップを図ることができます。
実践演習問題
これまでの学習内容を確認するための演習問題です。実際の臨床現場で遭遇しそうな状況について、看護過程を展開してみましょう。
演習問題:術後患者の看護展開
術後1日目の患者さんに対する看護過程の展開について検討してください。深部静脈血栓症予防の観察項目とアセスメントのポイント、必要な看護計画について考察してみましょう。実際の看護記録も作成してください。
解説とポイント
この演習を通じて、情報収集の視点、アセスメントの方法、具体的な計画立案のプロセスを確認することができます。特に術後合併症予防の視点から、優先順位の高い看護問題をどのように抽出するかを学ぶことができます。
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