訪問看護・看多機の賃上げを数字で示せますか|9月28日正午締切の経営調査準備
回答締切は2026年9月28日(月)正午。賃上げ額とベースアップ分の違い、給与台帳や会計のどこから数字を取るか、誰がいつまでに用意するかを準備表で整理し、職員への伝え方まで扱います。
この記事は、訪問看護ステーションと看護小規模多機能型居宅介護(看多機)の経営者、事務長、看護管理者に向けたものです。2026年9月28日(月)正午が締切の調査について、何を聞かれるのか、どの数字をどこから取るのか、誰がいつまでに用意するのかを整理します。読み終えた時点で、社内の担当者と締切前の期限を決められる状態を目指します。
先に一つ分けておきます。この調査に回答したからといって、報酬や賃上げの原資が増えることが約束されているわけではありません。調査への協力と、その後の制度改定の結果は別のものです。
公式に確認できること
以下は、全国老人保健施設協会(全老健)の協力依頼文書と、日本看護協会の掲載ページで確認した内容です(いずれも2026年9月17日確認)。
- 調査名は「【緊急!】介護分野の幅広い職種の賃上げ及び介護事業所の経営状況等調査」
- 協力依頼の文書は全老健第8-143号、日付は令和8年9月11日。全老健会長から日本看護協会会長に宛てたもの
- 日本看護協会の掲載ページでは、訪問看護事業所と看護小規模多機能型居宅介護事業所の管理者が対象とされている
- 回答締切は令和8年9月28日(月)正午
- 調査票をダウンロードして記入し、日本看護協会の指定アドレス(shogu@nurse.or.jp)へ添付して送付する
- 日本看護協会経由の案内では、事業所名・記入者氏名・電話番号の記入は不要と明記されている
- 調査内容についての質問先は全老健事務局(enquete@roken.or.jp)。日本看護協会では回答できないとされている
調査の目的について、協力依頼文書は「次期(令和9年度)介護報酬改定の議論が本格化する」局面で「現場の実態を『数字』で示せるかどうかが、今後の動向を左右します」と書いています。見出しに置いた問いは、この一文をそのまま受けたものです。
今回確認できなかったことも書いておきます。日本看護協会のページには掲載日の表示がなく、いつ掲載されたかは特定できていません。また、配布されている調査票(Excel)の設問そのものは確認していないため、以下で扱うのは公開されている「留意事項」に記載された範囲です。記入にあたっては、必ず配布された調査票と留意事項を参照してください。
名前の似た別の調査と混同しない
この時期、賃上げに関する調査が複数動いています。「もう答えた」「もう終わった」という思い込みが、いちばん起きやすい取り違えです。
| 調査 | 実施主体 | 対象 | 状態(2026年9月17日確認) |
|---|---|---|---|
| 介護分野の幅広い職種の賃上げ及び介護事業所の経営状況等調査 | 全老健 | 訪問看護事業所・看多機の管理者 | 9月28日正午まで受付中。この記事の対象 |
| 看護職員の賃上げに関する緊急調査 | 日本看護協会 | 看護職員、病院・訪問看護ステーションの看護管理者 | 2026年9月1〜14日で終了 |
| 訪問看護経営実態等調査検証事業(令和8年9月調査) | 厚生労働省保険局 | 無作為抽出された全国約300事業所 | 対象に選ばれた事業所のみ。全訪看が9月9日に協力依頼を掲載 |
3つとも別の調査です。とくに下の2つは、対象事業所でなければ回答する必要がありません。
提出前に用意する数字と担当
留意事項に記載された項目から、事前に手元へ集めておくものを整理します。社内期限は、締切当日に慌てないための目安として編集部が置いた例です。自事業所の体制に合わせて書き換えてください。
| 必要な数字 | どこから取るか | 誰が担当するか | 社内期限の目安 |
|---|---|---|---|
| 回答単位(1事業所ごとか法人単位か)、法人単位なら事業所数 | 事業所一覧、指定申請の控え | 事務長 | 9月22日 |
| 正社員1人あたりの賃上げ額(月額)※医師を除く | 給与規程、給与台帳、賃金改定の決裁文書 | 経理・人事 | 9月24日 |
| うちベースアップ分 | 賃金表の改定記録、基本給と毎月の手当の変更履歴 | 経理・人事 | 9月24日 |
| 賞与の月数分(小数点第一位まで) | 賞与支給明細、令和7年度と令和8年度の支給実績 | 経理 | 9月24日 |
| 電気代・ガス代・燃料費(各月、千円単位) | 各社の請求書、送迎車のガソリン代の精算記録 | 総務 | 9月25日 |
| 給食関係費と令和8年6月の提供食数 | 委託契約書、給食委託の有無、材料費と調理員人件費の内訳 | 総務・栄養部門 | 9月25日 |
| 収支の状況(令和7年度の年間、令和7年6月と令和8年6月の単月) | 決算書、月次試算表 | 経理・顧問税理士 | 9月25日 |
| 次期介護報酬改定に向けたQ1〜Q4の回答 | 管理者の判断(各設問から1つ選択) | 管理者・経営者 | 9月26日 |
給食関係費は、訪問看護ステーションには該当しない項目です。留意事項には「調査に記載の職種で該当するものがない場合は、記載不要です」とあり、該当しない欄を無理に埋める必要はありません。
「賃上げ額」と「ベースアップ分」を混ぜない
この調査でいちばん間違えやすいのが、この2つの区別です。留意事項の定義はこうなっています。
- 賃上げ額(月額):月例で設定された賃上げ幅(増額分)。ベースアップ分と定期昇給分のいずれも含む。賃上げ総額を人数で割って平均を出すのが基本で、処理が難しい場合は千円単位など概ねの規模感でもよい。整数で記入し、医師の賃金は除いて算出する
- うちベースアップ分:賃金表の改定により基本給または毎月決まって支払われる手当の額を変更し、賃金水準を一律に引き上げた分。定期昇給や、毎月支払われる手当以外の手当・一時金は含まない
つまり定期昇給は、上の欄には入りますが下の欄には入りません。ここを同じ数字で埋めると、賃金表を改定していないのに改定したように見える回答になります。
「正社員」の定義も確認が必要です。留意事項では、パート・日雇・季節労働者・嘱託社員を除く常勤職員を指します。訪問看護の現場は短時間勤務や非常勤の比率が高いため、いつもの人員集計とは母数が変わる点に注意してください。
法人単位で回答する場合は、収支の欄に書いた数字が「1事業所あたりの平均額」なのか「対象事業所の総額」なのかをプルダウンで選ぶ必要があります。集計担当と記入担当が別の人なら、どちらで出したのかを必ず書き添えて渡してください。
職員にどう説明するか
管理者が数字を集めている最中、現場には「何かの調査をしている」という気配だけが伝わります。説明がないと、人事評価や人員削減の準備ではないかと受け取られることがあります。伝える内容は、次の3つに絞れば足ります。
- 次の介護報酬改定の議論に向けて、事業所の実態を数字で出す調査であること
- 集めるのは給与・光熱費・収支といった事業所単位の数字で、個人の評価には使わないこと
- 日本看護協会経由のこの案内では、事業所名・氏名・電話番号の記入は不要とされていること
3つ目は、職員の不安を下げるうえで実際に効きます。個人が特定される形で提出するわけではない、と具体的に言えるためです。
集めた数字を定着の課題に戻す
この調査のために集める数字は、提出して終わりにするにはもったいないものです。賃上げ額、ベースアップ分、賞与の月数が一覧になった状態は、普段の業務ではなかなか作れません。
提出後に、次の3つを並べて見てください。
- 賃上げの原資が、基本給と一時金のどちらに寄っているか。一時金に寄っている場合、募集時の提示額には反映されにくい
- 賞与の月数が前年度からどう動いたか。増えていても、基本給が据え置きなら退職金や時間外単価には効かない
- 常勤と非常勤で、賃上げの反映に差がついていないか
ここで見えた偏りは、求人への応募が集まらない理由や、採用できても定着しない理由と重なることがあります。給与制度そのものの見直し手順は、看護職員の賃上げ緊急調査を給与制度改善へ生かす記事にまとめています。厚生労働省の訪問看護経営実態等調査の対象に選ばれている場合は、抽出約300事業所向けの提出準備の記事も合わせて確認してください。
自事業所の数字の整理、職員への説明の組み立て、定着の課題の切り分けについて相談したい場合は、お問い合わせからご連絡ください。
なお、この記事は調査への回答方法を代行・助言するものではありません。設問の解釈や記入方法の疑問は、案内に記載された全老健事務局へ直接お問い合わせください。
出典
- 日本看護協会「看護職員の処遇改善に向けて」(全老健の調査への協力依頼の掲載ページ)(掲載日の表示なし/2026年9月17日確認)
- 全国老人保健施設協会「介護分野の幅広い職種の賃上げ及び介護事業所の経営状況等調査へのご協力のお願い」(全老健第8-143号)(令和8年9月11日付/2026年9月17日確認)
- 同調査「留意事項」(日付の記載なし/2026年9月17日確認)
- 全国訪問看護事業協会「訪問看護経営実態等調査検証事業(令和8年9月調査)への協力依頼について」(2026年9月9日掲載/2026年9月17日確認)