SFTS疑い患者の受入れ前に|曝露歴聴取・検体・PPE・職員曝露後対応を部門横断で確認
マダニの刺し口がなくても、体調不良の動物や患者体液への接触が手掛かりになります。受入れ要請の電話から検体搬送、死後処置、職員の健康管理までを一つの運用として点検します。
SFTS疑い患者の受入れで最初に起こりやすい問題は、「確定していないので通常受入れ」「刺し口がないので可能性は低い」と、疑い情報が受付段階で薄まることです。患者が到着してから個室、PPE、検体、保健所連絡を考えると、救急外来、検査室、病床管理、清掃、職員健康管理へ連絡が一斉に集中します。
JIHSがまとめた2026年第36週(8月31日〜9月6日)の週報には、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)5例が掲載されています。推定感染地域は宮城県、兵庫県、和歌山県、広島県、長崎県が各1例。年齢は60代1例、70代2例、80代1例、90代以上1例でした。
一週分の届出だけで感染地域の拡大や増加傾向は判断できません。しかし、厚生労働省の「SFTS診療の手引き2025」では、2025年に北海道、茨城県、山梨県、栃木県を推定感染地とする患者が初めて報告されたとされており、過去の地域イメージだけで受入れ準備を省くのは適切ではありません。
この記事は、病院管理者、救急・病床管理、感染管理、検査、看護管理、職員健康管理が、紹介電話から退院・転院・死後対応までを部門横断で点検するためのものです。患者ごとの診断・治療・感染対策は、最新の手引きと専門職の判断を優先します。
受入れ電話で集めるのは「刺し口の有無」だけではない
厚生労働省Q&Aでは、マダニに刺されてからの潜伏期間は6日〜2週間程度とされます。ただし、患者が刺されたことに気付かず、刺し口が見つからない場合も多くあります。診療の手引きは、刺咬痕が認められるのは患者の約半数程度と説明しています。
受入れ要請時は、次の4経路を分けて聞きます。
| 曝露経路 | 確認する事実 | よくある見落とし |
|---|---|---|
| マダニ・屋外 | 発症前2週間の畑、庭、山林、草むら、散歩、墓地清掃等 | 「山へ行っていない」で終了 |
| 発症動物 | 体調不良のネコ・イヌ等、咬傷、引っかき、唾液・血液・排泄物 | ペット飼育の有無だけを聞く |
| 患者・遺体 | SFTS患者の介護、医療処置、体液接触、死後処置 | 家庭内介護や葬祭業務を聞かない |
| 職業 | 農林業、獣医療、動物保護、医療・介護、葬祭等 | 職種名だけで実際の作業を聞かない |
併せて、発熱、食欲不振、嘔気・嘔吐、下痢、腹痛、頭痛、筋肉痛、意識、出血、呼吸状態などの経過と、白血球・血小板、AST・ALT・LDH等の検査情報を受けます。すべての所見がそろわなくてもSFTSは否定できないため、「基準を完全に満たすか」ではなく、「到着前に何を準備するか」の判断材料にします。
受入れ可否を個室の有無だけで決めない
感染管理上の個室が用意できても、重症患者の診療、検体、曝露対応ができなければ受入れは完結しません。逆に、感染症病床がないことだけで受入れ不能と決める前に、院内で対応できる範囲と転院条件を確認します。
受入れ判断の6領域
- 診療能力:救急、集中治療、臓器障害への対応、必要な専門診療
- 病室:個室、移動経路、トイレ、面会、区域管理
- 人員:PPE着脱を含めて安全にケアできる人数、夜間の支援
- 検査:一般検査、検体包装、保健所・地方衛生研究所との連携
- 感染管理:接触・飛沫予防策、環境、曝露者管理
- 転院:自院能力を超える場合の相談先、搬送条件、受入れ情報
受入れを決める医師・管理者へ、感染管理、病床、検査、看護の情報が同時に届く仕組みを用意します。電話の伝言を順に回すだけでは、患者到着が先になる可能性があります。
到着前ブリーフィングは5分で役割を固定する
患者到着前に、関係者が次を確認します。
| 担当 | 到着前に決めること |
|---|---|
| 受付・警備 | 到着口、案内先、待機させない動線 |
| 救急・診療 | 初期評価場所、担当医、急変時の支援 |
| 看護 | 受入れ人数、PPE、物品、記録係、家族対応 |
| 感染管理 | 予防策、個室、立入者、着脱場所、廃棄 |
| 検査 | 採取予定、容器、包装、搬送、行政検査 |
| 病床管理 | 入院先、ICU等への移動条件、清掃時間 |
| 職員健康管理 | 曝露時の報告先、夜間連絡、記録様式 |
患者名や診断名を必要以上に広いグループへ送らず、役割に必要な範囲で共有します。確定していない場合は「SFTS疑い」「曝露歴あり」「検査調整中」のように段階を示します。
PPEは一覧表だけでなく、処置別に決める
厚生労働省は、血液・分泌物への直接接触による二次感染事例を示し、標準予防策だけでなく接触感染予防策を重ねる重要性を説明しています。診療の手引きでは、重症患者を診療・ケアする場面について、接触と飛沫の両予防策が望ましいとされています。
「SFTSはこのセット」と一枚のPPE表を貼るだけでなく、処置の飛散・接触リスクを評価します。
| 場面 | 想定する曝露 | 運用上の確認 |
|---|---|---|
| 問診・非接触観察 | 飛沫、環境接触 | 距離、患者の症状、マスク、手指衛生 |
| 採血・ルート | 血液、針刺し | 眼の防護、鋭利物、介助者、廃棄容器 |
| 嘔吐・排泄ケア | 体液、便、尿、環境 | ガウン、手袋、顔面防護、清掃 |
| 吸引・気道管理 | 分泌物、飛沫・エアロゾルの可能性 | 必要な呼吸用防護具、人数制限、換気 |
| 心肺蘇生 | 血液・分泌物、大量の飛散 | 緊急カート、PPE即応、訓練 |
| 死後処置 | 血液・体液、鋭利物 | 処置内容、立会者、遺体搬送、説明 |
具体的なPPEは、最新の手引き、患者状態、処置、院内感染管理部門の判断で決めます。着用中の作業だけでなく、脱衣場所、監視者、汚染した場合の停止、廃棄、手指衛生を含めます。
国内の医療従事者感染事例を運用へ反映する
診療の手引き2025は、日本国内で2024年3月にSFTS患者から医療従事者への感染が初めて報告されたと記載しています。感染源となった患者の死亡後、中心静脈カテーテルの抜去と刺入部縫合を行った際の血液曝露が示唆され、処置中のアイガード不着用が指摘されました。
ここから病院が点検すべきなのは、「ゴーグルを追加する」という一点ではありません。
- 死後も血液・体液を感染性があるものとして扱うか
- カテーテル抜去や創部処置の必要性、担当者、時期を誰が判断するか
- 死後処置に入る全職種へ、診断・疑い情報が伝わるか
- 葬祭事業者や家族へ必要な注意を誰が説明するか
- PPEが外れた、体液が飛散した場合に作業を中断・申告できるか
- 曝露した職員の相談先が休日・夜間にもつながるか
生前の病室で対策できていても、死亡後に通常手順へ戻ると連絡が切れます。死後対応を受入れフローの最後まで含めます。
検体の採取・包装・搬送に責任者を置く
SFTSの確定にはウイルス学的検査が必要です。厚生労働省Q&Aは、SFTSが疑われる場合に最寄りの保健所へ報告し、検査を依頼するよう案内しています。
検体運用を次の工程へ分けます。
- 疑いを共有し、保健所へ相談する責任者を決める
- 検体の種類、量、採取容器、時期を確認する
- 採取者と介助者のPPE・鋭利物対策を決める
- 容器外面の汚染を確認し、定められた包装を行う
- 院内検査部門と外部搬送先へ事前連絡する
- 受け渡し時刻、担当者、搬送者を記録する
- 結果の受領者と、夜間の連絡先を固定する
- 結果判明までの患者管理と職員対応を明示する
行政検査だからといって、臨床検査室を経由せず個人の判断で運ばないようにします。院内の病原体等安全管理、包装・搬送手順、保健所の指示を照合します。
一般検査の結果も「SFTSか否か」だけに使わない
診療の手引きでは、白血球減少、血小板減少、AST・LDH・CK上昇などが示され、重症例では第7病日頃に臓器不全を合併しやすいと説明されています。検査値は確定診断の代わりではありませんが、患者の経過と必要な診療レベルを判断する情報になります。
検査部門と臨床側で、次を確認します。
- 緊急値の報告先と、受領確認
- 前値からの急変を誰が見るか
- 検体再採取が必要な場合の連絡
- 血小板減少がある患者の採血・処置での出血リスク共有
- 検査結果待ちでも臨床悪化を優先して報告すること
- 他のダニ媒介感染症や敗血症等の鑑別を妨げないこと
確定検査の結果が出る前に状態が変わる可能性を前提に、診療・病床・感染管理の判断を更新します。
環境・清掃は「特殊消毒」という言葉で終わらせない
SFTSウイルスは患者の血液のほか、尿、便、呼吸器分泌物から検出されることがあります。環境対応では、どこを、いつ、誰が、何を使って処理するかを具体化します。
清掃仕様に含める項目
- 血液・体液で汚染された区域の立入制限
- 汚染物を先に除去する方法
- 使用する消毒薬の種類、濃度、接触時間
- 高頻度接触面と共用機器の対象
- 清掃担当者のPPEと着脱場所
- リネン、廃棄物、再使用器材の搬出経路
- 作業完了の記録と、病室を再使用する判断者
委託会社の標準手順が院内のSFTS対応と一致するか、契約担当と感染管理が確認します。「感染症病室なので特別清掃」とだけ連絡して、具体的な仕様を委託職員へ推測させないようにします。
職員曝露後対応は、患者確定前から記録する
曝露が疑われる出来事は、患者の検査結果を待たずに申告します。時間がたつほど、着用PPE、飛散の方向、皮膚や粘膜の状態、同席者を正確に再現できなくなります。
| 記録項目 | 内容 |
|---|---|
| いつ・どこで | 日時、病室・処置場所 |
| 何をしたか | 採血、吸引、蘇生、排泄ケア、死後処置等 |
| 何に触れたか | 血液、唾液、尿、便、呼吸器分泌物等 |
| どこへ付いたか | 眼・口・鼻、傷のある皮膚、衣服等 |
| PPE | 種類、着用状況、外れ・破損・汚染 |
| 直後対応 | 洗浄等、処置の中断、報告 |
| 連絡 | 上司、感染管理、職員健康管理、受領時刻 |
| 以後 | 健康観察、検査、就業について受けた指示 |
健康観察の期間や内容、検査、就業措置は、保健所、感染症専門医、職員健康管理部門が最新情報で決定します。曝露職員の氏名や健康情報を、必要のない部署へ広げません。
家族・面会者への説明を準備する
家族は、SFTSと聞いて「同じ空間にいただけで感染するのか」「ペットを処分すべきか」と不安になることがあります。説明では、現在確認できている感染経路と、個別に必要な行動を分けます。
- 患者の血液・体液へ直接触れない
- 介助が必要な場合は職員の案内に従う
- PPEを自己判断で外したり再利用したりしない
- 体調不良の動物への接触歴があれば伝える
- 家族自身に発熱・消化器症状等が出た場合の相談先を確認する
- 患者の診断や家族情報をSNS等へ出さない
面会制限の範囲は、患者状態、病室、感染管理上の評価で決めます。病名だけで家族との連絡を断つのではなく、電話・オンライン面会等の代替手段を検討します。
転院時は「SFTS疑い」だけで終わらせない
転院先には、受入れ可否を判断し、到着前に準備できる情報を渡します。
- 発症日と現在の病日
- 屋外・マダニ・動物・患者体液への曝露歴
- 症状、意識、出血、呼吸、循環の経過
- 白血球、血小板、肝酵素等の推移
- 採取済み検体、保健所連絡、確定検査の状況
- 現在の感染対策と、体液曝露の多い処置
- 職員・家族の曝露事象の有無
- 搬送中に必要なPPEと急変対応
搬送事業者へも必要な対策を伝え、到着後に初めて疑い情報が共有されることを防ぎます。
部門横断訓練で確認すること
訓練シナリオは「高齢者、発熱と下痢、血小板減少、刺し口なし、庭仕事あり」から始めます。途中で「体調不良のネコの世話」「検体搬送」「嘔吐」「職員のアイガードずれ」「状態悪化」を追加します。
評価項目は次のとおりです。
- 刺し口がないことで疑いを下げなかったか
- 受入れ決定前に感染管理と検査へ連絡できたか
- PPEを処置リスクに合わせて更新できたか
- 保健所相談と検体搬送の担当が決まったか
- 職員曝露を患者確定前に記録できたか
- 清掃委託・搬送職員へ必要な情報が渡ったか
- 家族説明で確定事項と未確定事項を分けられたか
訓練後の改善項目には責任部署、期限、完了証拠を付けます。参加者の感想だけで終了させません。
管理者用の公開前点検表
| 領域 | はい/いいえで確認する問い |
|---|---|
| 受付 | 紹介電話で4種類の曝露歴を聞けるか |
| 病床 | 個室だけでなく診療・人員・検査能力を判断するか |
| PPE | 処置別のリスク評価と着脱支援があるか |
| 検体 | 保健所相談、包装、搬送、結果受領が一続きか |
| 清掃 | 委託職員が具体的な仕様を受け取れるか |
| 曝露 | 夜間にも職員が申告・相談できるか |
| 死後 | カテーテル・創部・体液・遺体搬送の手順があるか |
| 転院 | 搬送者と受入れ先へ事前情報が渡るか |
| 教育 | 1年以内に部門横断訓練をしているか |
| 改善 | 訓練・症例レビューの課題が閉じているか |
別の感染症で受入れ部門を整理したカンジダ・アウリス受入れ前の5担当確認表も、病室・検査・感染管理・清掃を同時に動かす設計の参考になります。
PPEと検体資材を「あるはず」にしない
受入れ手順が整っていても、夜間に必要なサイズのアイガード、ガウン、手袋、呼吸用防護具、検体包装資材が取り出せなければ実行できません。感染管理と物品管理は、次を定期点検します。
- 配置場所、在庫数、使用期限、補充点
- 複数サイズと、眼鏡等を使用する職員への適合
- 汚染区域の外から追加供給する方法
- 一度開封した物品の扱い
- 検体容器、吸収材、二次容器、表示等の一式
- 停電・災害・物流遅延時の代替
在庫表の数量だけでなく、PPEを実際に取り出して着脱し、検体包装を手順どおり組み立てられるかを確認します。新製品へ切り替えた場合は、形状や脱衣方法の違いを周知します。
手引き更新を院内手順へ反映する責任を決める
SFTSの診療・感染対策情報は更新されます。院内手順の所有部署は、厚生労働省、JIHS、自治体等の更新を確認し、改訂要否を判断します。
変更がない場合も「確認日・確認者・改訂不要の理由」を残します。改訂した場合は、旧版回収、教育、委託先への通知、訓練までを一件の変更管理として閉じます。担当者のメール受信だけに依存せず、異動後も継続する役割へ割り当てます。
受入れ後の職員配置を勤務表へ反映する
個室管理やPPE着脱には通常より時間と人手が必要になる場合があります。受入れ決定後、病床数だけでなく、観察、処置、着脱介助、物品供給、休憩、記録を担える配置かを看護管理者が確認します。
一部の経験者へケアが集中すると、疲労による着脱ミスや休憩不足を招きます。交代要員を定め、初めて対応する職員には実地支援を付けます。患者の重症化や処置増加に応じて配置を見直す時刻と責任者も決めます。
追加勤務や時間外労働が発生した場合は、感染対応のコストとして記録し、平時の人員・備蓄・訓練計画へ戻します。個人の使命感を前提に運用を継続しません。
外来・病棟看護師が曝露歴を聞く順番は、SFTS第36週5例から考える屋外・マダニ・動物接触歴で確認できます。
よくある質問
マダニの刺し口がない患者は通常受入れでよいですか?
刺し口がないことだけではSFTSを否定できません。屋外活動、発症動物、患者・遺体の体液、職業上の曝露と、症状・検査所見を合わせて評価します。
SFTS疑い患者は必ず感染症指定医療機関へ送りますか?
一律には言えません。患者の重症度、自院の診療・感染管理能力、地域の連携、保健所・専門医の助言で判断します。自院で対応できない条件と転院先を平時に決めてください。
患者が軽症なら接触・飛沫予防策は不要ですか?
患者状態とケア内容でリスクは変わります。少なくとも標準予防策を徹底し、最新の手引きと感染管理部門の評価に基づいて追加対策を決めます。
曝露した職員はすぐ休職させますか?
この記事で一律の就業措置は示しません。曝露内容を速やかに記録し、保健所、感染症専門医、職員健康管理部門の指示に沿って、健康観察、検査、就業上の対応を決定します。
参考資料
- JIHS「感染症発生動向調査週報 2026年第36週」
- 厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き2025」
- 厚生労働省「SFTSに関するQ&A」
- 厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」
最終確認日:2026年9月20日。この記事の受入れ表と訓練案は編集部の運用整理で、全国一律の指定手順ではありません。自院の病床機能、地域連携、保健所の指示、最新版の診療の手引きを反映して使用してください。