病院の耐震化率82.1%|「耐震診断を実施していない」649病院に入っていないか。BCPと採用説明の両面で確認する
全国の率を眺める資料ではなく、自院の棟を1棟ずつ4区分に当てはめるための資料として読みます。棟別整理表、BCPの前提、診断未実施の棟で最初に決めること、採用場面での説明をまとめました。
この記事は、病院の理事長・院長、事務長、施設管理の担当者、看護部長に向けて書いています。厚生労働省が令和8年9月18日に公表した「病院の耐震改修状況調査の結果」を材料に、自院が調査の4区分のどこに当たるかを棟ごとに言える状態にすること、その結果をBCPと職員・求職者への説明にどう反映するかを決めることが目的です。
先に結論を書きます。この調査は病院単位で集計されていますが、区分を決めているのは1棟ごとの建築年と耐震診断の結果です。したがって院内で最初に作るものは、全国比較の資料ではなく「棟別の整理表」です。表が埋まらない棟があれば、それが今日の時点での自院の課題です。
なお、公表資料に個別の病院名は載っていません。自院がどの区分で回答したかは、都道府県へ提出した調査票の控えで確認します。
公表された数字を4区分で確かめる
調査対象は医療法第1条の5に規定する病院で、調査時点は令和7年9月1日です(結果PDF)。報道発表ページには「調査結果は、令和7年10月に各都道府県に対して行い、病院の耐震化の状況を取りまとめたもの」とあります。回答率は100.0%(8,030病院/8,030病院)でした。
| 区分 | 令和7年調査 | 構成比 | 令和5年調査 |
|---|---|---|---|
| A 全ての建物に耐震性がある | 6,596病院 | 82.1% | 6,552病院(80.5%) |
| B 一部の建物に耐震性がある | 500病院 | 6.2% | 543病院(6.7%) |
| C 全ての建物に耐震性がない | 285病院 | 3.5% | 106病院(1.3%) |
| D 建物の耐震性が不明(耐震診断を実施していない) | 649病院 | 8.1% | 942病院(11.6%) |
| 回答病院数 | 8,030病院 | 100.0% | 8,143病院 |
耐震化率は、Aの病院数を回答病院数で割った値です。一部の棟だけ耐震性がある病院(B)は、率の分子に入りません。
前回と比べると、Dは293病院減り、Cは179病院増えています。公表資料はこの増減の理由を説明していません。編集部として言えるのは、「不明」のままだった病院の数が減り、「耐震性がない」と回答した病院の数が増えた、という集計上の事実までです。
参考として、報道発表ページは「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(平成30年12月14日閣議決定)で、令和2年度までに病院全体の耐震化率を80.0%とする目標を定めており、令和5年度に達成したと記しています。今回の公表資料に、その先の新しい数値目標は書かれていません。
「不明」は1棟でも未診断なら該当する
読み違えやすいのがDの定義です。結果PDFの注記によると、平成25年調査から「昭和56年以前(建築基準法改正前)に建築された建物で耐震診断をしていない建物がある病院」を、耐震性が不明な病院として整理しています。背景として同じ注記は、建築物の耐震改修の促進に関する法律の改正で、階数3かつ床面積5,000平方メートル以上の病院に耐震診断が義務化されたことを挙げています。
つまり、本館を建て替え済みでも、敷地内に昭和56年以前の未診断の棟が1つ残っていれば、この注記の整理に従えば病院としてはDに数えられます。「うちは新しい本館があるから大丈夫」という理解のまま、旧館に透析室や電気室が残っていないかを確かめてください。
一方で、Dは「危険と判定された」という意味ではありません。診断をしていないので分からない、という状態です。分からないままではBCPの前提が置けない、という点が経営上の問題になります。
「耐震性がない建物」の定義も注記にあります。昭和56年以前に建築された建物で、耐震診断の結果Is値0.6未満(震度6強程度の地震により倒壊又は崩壊する危険性がある)の建物です。
災害拠点病院・救命救急センターでも22病院が残る
災害拠点病院及び救命救急センターは783病院で、Aが761病院、耐震化率は97.2%(令和5年調査は96.0%)でした。残りはBが20病院、Cが2病院、Dは0病院です。
令和5年調査ではBが30、Cが0、Dが1でした。今回Cが2病院となった理由も、公表資料には記載がありません。
地域の医療拠点に指定されている病院で、BまたはCに当たる場合は、災害時に受け入れ側として動けない棟がある前提を、都道府県や近隣病院との協議に持ち込めているかを確認します。自院が拠点病院でない場合も、搬送先として想定している病院の建物状況は、先方に直接確かめなければ分かりません。
都道府県別の率を自院の判断に使わない
結果PDFには都道府県別の表があります。耐震化率が低いのは福島69.0%、京都72.0%、長崎76.6%、兵庫77.0%、山口77.2%、高いのは島根95.7%、富山95.1%、山形93.9%です。80%を下回る都道府県は12あります。Dが0病院なのは島根だけでした。
ただし、この率から個々の病院の状態は分かりません。率が高い県にもC・Dの病院はあり、率が低い県でも大半の病院はAです。県の数字は、都道府県の医療政策担当課が管内の状況をどう見ているかを知る材料にとどめ、自院の判断は次の棟別整理表で行います。
棟別整理表を1枚作る
編集部が提案する整理表です。施設管理の担当者が下書きを作り、事務長が確認済証や診断報告書の所在を押さえ、看護部長が「その棟にある機能」の列を埋めます。
| 棟名 | 建築年(昭和56年以前か) | 耐震診断の有無・実施年 | 診断結果(Is値など)と改修の有無 | その棟にある機能 | 根拠書類の保管場所 |
|---|---|---|---|---|---|
| 例: 本館 | 病棟、手術室、ICU | ||||
| 例: 旧館 | 透析室、リハビリ室、厨房 | ||||
| 例: 設備棟 | 電気室、自家発電、ボイラー、医療ガス | ||||
| 例: 管理棟 | サーバー室、医事課、薬剤部倉庫 |
記入するときの注意は3つあります。
- 増築部分は別の棟として行を分けます。渡り廊下でつながっていても、建築年と構造が違えば診断も別になります
- 昭和56年前後に建った棟は、年だけで決めず、確認済証や設計図書で適用された基準を施設担当が確かめます
- 「診断した」と口頭で伝わっているだけの棟は、報告書の現物が見つかるまで「未確認」と書きます
表ができたら、自院の位置を確かめます。最初に見るのは、昭和56年以前に建てた未診断の棟があるかどうかです。あれば、結果PDFの注記の整理ではDに当たります。なければ、全棟に耐震性があるならA、耐震性のある棟とない棟が混在すればB、全棟に耐震性がなければCです。その結果が調査票の控えと一致しているかを見ます。食い違っていれば、次回調査までに都道府県の担当課へ相談します。
BCPの前提を棟単位に書き換える
BCPが「病院全体が使える」または「病院全体が使えない」の二択で書かれている場合、BとDの病院では実態に合いません。棟別整理表の「その棟にある機能」を使い、次の順で前提を置き直します。
まず、耐震性がない棟と未診断の棟を「使えなくなる可能性がある棟」として仮置きします。未診断の棟を使える前提に入れないのは、分からないものを楽観側に倒さないためです。
次に、その棟が止まったときに失われる機能を書き出します。見落としやすいのは病棟よりも、電気室、自家発電設備、医療ガス、サーバー室、厨房、薬剤の保管場所です。病棟のある本館が無事でも、旧館の電気室が止まれば本館の診療も続けられません。
最後に、患者をどこへ移すかを決めます。院内の耐震性がある棟に何床分の受け入れ余地があるか、人工呼吸器や透析など移動に制約のある患者をどの経路で動かすか、院外へ搬送する場合の連絡先はどこか。夜勤帯の人数で実行できる手順になっているかは、看護部長が確認します。
風水害時の受付・請求・復旧資金の分担は、台風24号の医療機関対応をまとめた記事で扱っています。地震のBCPでも、被害記録と資金の担当を平時に決めておく点は共通です。
診断未実施の棟があるとき、最初に決める3つ
改修するか建て替えるかは、診断結果が出るまで決められません。未診断の棟がある病院が先に決めるのは次の3点です。
| 決めること | 内容 | 主な担当 |
|---|---|---|
| 実施時期 | いつまでに診断を発注し、結果をいつの理事会・経営会議に報告するか | 院長・事務長 |
| 範囲 | どの棟を対象にするか。機能が集中している棟、患者が常時いる棟から順位をつける | 施設管理・看護部長 |
| 担当 | 設計図書の収集、診断機関とのやり取り、都道府県への相談窓口を誰が持つか | 事務長・施設管理 |
耐震診断や耐震改修に対する補助制度の有無と要件は、この記事では確認できていません。年度や都道府県によって扱いが変わり得るため、都道府県の医療政策担当課に、対象となる病院の種別、申請時期、事前着手の可否を確認してください。費用の見込みも、建物の規模と構造で大きく変わるため、診断機関からの見積もりで把握します。
職員・求職者に建物を聞かれたときの説明
地震の報道が続くと、職員や見学に来た求職者から「この建物は大丈夫ですか」と聞かれる場面が出てきます。ここからは編集部の提案です。
答え方の原則は、隠さないこと、そして事実と予定と手順の3点をセットで伝えることです。
- 事実: 棟ごとの建築年、耐震診断の実施状況、結果。未診断なら未診断と伝えます
- 予定: 診断や改修をいつ、どの棟から進めるか。決まっていなければ、いつまでに決めるか
- 手順: 地震発生時に職員がまず何をするか、患者をどこへ移すか、参集の基準は何か
「問題ありません」とだけ答えると、後から未診断の棟があると分かったときに、建物の問題が信頼の問題に変わります。逆に、診断状況と今後の予定を説明できる病院は、区分がBやDであっても、管理されている職場だと受け取ってもらえる余地があります。
説明する人によって内容が変わらないよう、棟別整理表をもとにA4で1枚の説明メモを作り、採用担当、看護部の見学対応者、病棟師長が同じものを持つ形を勧めます。働く側がどんな点を確かめようとしているかは、看護師向けに書いた職場確認の記事にまとめています。
よくある質問
自院がどの区分で回答したか、公表資料で確認できますか
できません。公表されているのは全国と都道府県別の病院数で、個別の病院名は載っていません。都道府県へ提出した調査票の控えを、施設管理または総務の担当者が確認します。
昭和57年以降に建てた棟しかない病院は、何もしなくてよいですか
調査の注記で「耐震性がない建物」「耐震性が不明」の対象になっているのは、昭和56年以前に建築された建物です。その意味で区分上の課題は生じにくいと読めますが、BCPは建物の区分だけで決まりません。設備の固定、ライフラインの途絶、患者の移動手順は別に点検します。
Bの病院は、耐震化率の計算でどう扱われますか
耐震化率の分子はAだけです。一部の棟に耐震性があるBの病院は、耐震化済みには数えられません。
相談窓口
棟別整理表をもとにした職員向け説明メモや、見学・面接で建物について聞かれたときの回答の整理を、院内だけで進めにくい場合は、はたらく看護師さん編集部へのお問い合わせから状況をお知らせください。耐震診断そのものは建築の専門機関の仕事ですので、編集部がお手伝いできるのは、採用と職員コミュニケーションの側の整理です。
参考資料
未確認の事項:耐震診断・耐震改修に関する令和8年度の補助制度の名称、補助率、要件。C区分が令和5年調査の106病院から285病院へ増えた理由、災害拠点病院及び救命救急センターでC区分が2病院となった理由(公表資料に説明がありません)。個別病院の区分。耐震化率に関する令和7年度以降の新たな数値目標。
最終確認日:2026年9月19日。都道府県別の数値は病院数の集計であり、個々の病院の建物の状態を示すものではありません。自院の区分と棟ごとの診断結果は、調査票の控えと診断報告書の現物で確認してください。