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腸管出血性大腸菌感染症137例の週に点検する|患者・職員の胃腸症状とHUS疑いを院内でつなぐ

患者の血便と職員の下痢を別々の部署で処理すると、共通曝露や二次感染の手掛かりが切れます。診断確定前から情報を集約し、HUS疑いと感染管理を並行する院内運用を点検します。

血便の患者が救急外来を受診し、同じ日に病棟職員が下痢で休む。さらに、別部署から家族の胃腸症状が報告される。この情報が診療、感染管理、職員健康管理で別々に処理されると、同じ感染症を疑う手掛かりが院内でつながりません。

国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症発生動向調査週報2026年第36週(8月31日〜9月6日)では、腸管出血性大腸菌感染症が137例報告されました。有症者は92例、そのうち溶血性尿毒症症候群(HUS)は1例です。年初からの累積は2,910例、有症者1,742例、そのうちHUS 49例、死亡2例でした。

一週の届出から自院での集団発生リスクを推計することはできません。しかし、全国の複数地域から届出が続く時期に、患者と職員の胃腸症状、便検体、HUSを疑う変化、行政連絡、共用トイレや給食の確認が、誰のところで統合されるかを点検する意味はあります。

この記事は病院管理者、看護管理者、感染管理部門、検査部門、職員健康管理、給食・委託管理が使う運用確認表です。個別患者の治療や就業制限を一律に定めるものではありません。

137例という数字を、院内の「発生率」にしない

週報の数値を院内資料へ引用するときは、少なくとも次を併記します。

公表値内容院内で避ける表現
137例第36週に報告された届出「第36週に137人が発症」
92例137例のうち有症者無症状者は感染させないという解釈
HUS 1例有症者のうち週報に記載されたHUS137例で割った値を重症化率とする
累積2,910例年初から第36週まで今も全員が療養中という解釈
累積HUS 49例・死亡2例累積欄の報告同じ追跡期間の患者群として率を計算する

週報は、報告遅れがある場合に後の週の累積へ加わると説明しています。発症、診断、届出が同じ週とは限らないため、単週の増減を流行曲線のように扱わないでください。

国内感染地域は大阪府16例、東京都8例、北海道7例、三重県6例など広い範囲に及びましたが、この地域分布だけでは食品や施設との共通性は分かりません。自院の患者・職員の症状を地理だけで除外しない一方、週報だけから特定店舗や食材を疑うこともしません。

院内で同時に走らせる3本の線

腸管出血性大腸菌感染症が疑われるとき、病院は次の3本を並行させます。

  1. 患者診療:血便、強い腹痛、脱水、HUS・脳症を疑う変化の評価
  2. 感染管理:糞口感染を防ぐ排泄ケア、トイレ、環境、接触者情報の整理
  3. 組織対応:職員症状、給食・売店・委託を含む共通曝露、行政連絡、勤務調整

診断が確定するまで感染管理を待つと、排泄物を介した接触機会の記録が失われます。反対に、感染症対応だけを優先し、尿量、顔色、浮腫、意識、検査値の変化を別の問題として扱うと、HUSへの臨床対応が遅れます。

一人の担当者がすべてを背負うのではなく、それぞれの線の責任者と合流点を定めます。

受付から検査までの情報を一本化する

場所最初に確認すること次の部門へ渡す情報
予約・電話症状開始日、血便、強い腹痛、同居者の症状来院方法、待機場所、到着予定
受付・トリアージ全身状態、最終排尿、摂取、意識緊急度と感染対策の両方
診察室食品・動物・旅行・施設・同居者等の曝露検体、保健所相談、家族対応に必要な範囲
採血・採便種類、採取時刻、患者状態検査室への疑い情報、搬送方法
病床調整排泄自立度、トイレ、介助、同伴者病室・トイレ・清掃・PPEの条件
病棟便・腹痛と尿・意識の経過診療、感染管理、退院支援へ同じ時系列

電子カルテの問診欄、救急記録、感染管理システムが分かれている場合、どの画面を正本とするか決めます。「別の画面を見れば分かる」は、夜間・応援職員・転棟時に機能しないことがあります。

HUSを疑う変化は「検査結果待ち」にしない

厚生労働省Q&Aは、HUSの初期に顔色不良、乏尿、浮腫、意識障害などがみられると説明しています。JIHSは、腸管出血性大腸菌感染症で激しい腹痛と水様便に続いて血便が出現し、HUSや脳症などを伴うことがあるとしています。

病院の観察・報告様式には、便だけでなく次の推移を入れます。

  • 症状開始日と血便出現日
  • 腹痛、便回数、嘔吐、水分摂取
  • 体重、最終排尿、尿回数・尿量
  • 顔色、眼瞼や四肢の浮腫、活気
  • 意識、反応、けいれん等の神経症状
  • 血算、腎機能等の検体採取時刻と前値
  • 医師への報告時刻、受領、指示

どの数値を緊急報告するかは、小児・成人、病床機能、検査部門の緊急値基準に合わせます。「HUSと確定したら連絡」ではなく、臨床所見または検査値の変化で再評価が起動するようにします。

下痢が減ったことを、全身回復と同義にしません。厚生労働省Q&Aでは、重症合併症が初発症状から数日〜2週間以内、多くは5〜7日後に現れると説明されています。退院・帰宅後を含め、症状開始日からの時間軸を維持します。

便検体の流れは、容器を渡す前から始まる

便検体が必要になったとき、採取方法だけでなく、患者説明、採取場所、容器外面、搬送、受領、追加検査、結果連絡を一つの手順にします。

検体運用の点検項目

  1. 誰が患者・家族へ採取方法を説明するか
  2. 共用トイレで採取する場合、他患者との動線をどう分けるか
  3. 容器外面が汚染した場合、誰へ連絡し、どう再包装するか
  4. 疑い病名・症状を検査室へどう伝えるか
  5. 院内検査と外部確認の分岐を誰が決めるか
  6. 毒素・毒素遺伝子等の途中結果を誰へ緊急連絡するか
  7. 陰性確認が必要な対象と方法を誰が判断するか
  8. 結果を患者、診療科、感染管理、保健所へ誰が返すか

腸管出血性大腸菌にはO157以外の血清群もあります。「O157陰性」という言葉だけで、腸管出血性大腸菌全体が否定されたと扱わないよう、検査法と結果の意味を検査部門へ確認します。

排泄ケア・共用トイレ・清掃を一つの設計にする

糞口感染を防ぐうえで、手洗いと排泄物の取り扱いが中心になります。院内では、患者の自立度と病室設備で運用が変わります。

場面決めること記録・監査
自立歩行・共用トイレ使用場所、手洗い支援、使用後の連絡使用・汚染時刻、清掃完了
おむつ・便器PPE、交換場所、廃棄、手指衛生実施者、汚染事故
ポータブルトイレ専用化、洗浄・消毒、保管担当・方法・終了時刻
リネン汚染物の封じ込め、搬送、委託先情報袋、表示、引渡し
環境高頻度接触面、汚染時清掃、使用薬剤区域、濃度・接触時間等の手順
家族介助介助範囲、PPE、手洗い、持ち物説明内容、理解確認

「隔離する」だけでは、トイレ清掃やおむつ交換の実務は決まりません。清掃委託職員を含め、使用する手順と連絡先を同じ版にそろえます。PPEを過剰に着けることより、便に触れる場面の手指衛生と正しい着脱を確実にします。

職員の胃腸症状を、欠勤連絡だけで終わらせない

職員が下痢や腹痛を訴えたとき、直属上司への休暇連絡だけで終わると、感染管理部門が院内の集積へ気付けません。一方、すべての胃腸症状を腸管出血性大腸菌として扱うのも適切ではありません。

職員健康管理の入口を次のように決めます。

  • 症状開始日、血便、強い腹痛、発熱、嘔吐
  • 食品取扱い、排泄ケア、検体処理など担当業務
  • 同じ部署・家庭での有症状者
  • 生食・加熱不十分な食品、会食、動物接触、旅行など共通曝露
  • 症状がある状態で勤務した日時と接触範囲
  • 受診、検査、診断、保健所から受けた指示

個人情報の閲覧範囲を限定しつつ、集積を検知できる担当を置きます。就業可否、復帰条件、検便の要否は、感染症法上の扱い、職種、業務内容、医師・保健所の指示をもとに職員健康管理部門が判断します。上司が独自に「下痢が止まったから出勤可」と決めない運用が必要です。

給食・売店・委託を含む共通曝露の調べ方

院内で複数の患者・職員に症状がある場合、給食だけを原因と決めつけず、共通する食事、場所、勤務、家族、行事、外部施設を時系列に置きます。

確認領域事実として集めるもの避けること
患者給食献立、提供時刻、対象、保存食、調理記録検査前に食材名を公表する
職員食堂・売店利用日時、購入品、利用者範囲レシートだけで原因を決める
委託職員勤務区域、症状、食事、雇用元連絡院外職員を把握対象から外す
病棟内共用トイレ、排泄介助、行事食、差し入れ同室だけを接触範囲とする
院外家庭、会食、保育・介護施設、旅行院内発生と先に断定する

記録保全は早期に行い、原因公表や対外説明は保健所等と調整します。疑い段階の職員・食品・業者を特定できる情報が、不必要に院内へ広がらないようにします。

三類感染症としての連絡責任を明確にする

腸管出血性大腸菌感染症は感染症法上の三類感染症です。診断した医師による届出、患者・接触者への行政対応、就業制限等が関係する可能性があります。

院内手順には次を置きます。

  1. 診断医が届出を作成する際の支援部署
  2. 夜間・休日の保健所連絡先
  3. 検査結果の追加・訂正時に誰が追報するか
  4. 患者・家族へ保健所から連絡がある可能性を誰が説明するか
  5. 給食・職員・院内発生の疑いを誰が統括するか
  6. 広報、個人情報、風評被害への対応責任者

届出を出したことと、院内連絡が完了したことは別です。診療、感染管理、職員健康管理、給食、病院幹部の必要範囲へ、同じ事実が渡ったか確認します。

退院・転院で渡す情報を標準化する

退院時は、患者の便症状だけでなく、HUSを疑う変化の再相談条件、検査結果、保健所指示、家庭での手洗いと排泄物処理を説明します。転院・施設復帰では、個人情報を必要以上に広げず、相手が安全にケアできる情報を提供します。

引継ぎの最小項目

  • 症状開始日、血便・腹痛の経過
  • HUSを含む重症化について観察中の項目
  • 検査の種類、採取日、判明済み・結果待ち
  • 現在の排泄介助、トイレ、PPE、清掃方法
  • 保健所から受けた指示と連絡状況
  • 同居者・施設内の有症状者について共有可能な範囲
  • 再相談先、予約、結果連絡の方法

「感染症あり」だけの連絡は、受入れ拒否や過剰な制限につながることがあります。現在必要な対策と、未確定事項を分けて伝えます。

模擬訓練で使うシナリオ

訓練では、「血便の患者が入院」「翌日に同じ病棟の職員が下痢」「便検体から途中結果」という3段階で情報を追加します。部署へ次を問いかけます。

  • 誰が最初に感染管理へ連絡するか
  • HUSを疑う観察をどの記録へ追加するか
  • 共用トイレの使用と清掃をどう変えるか
  • 職員の勤務・受診相談を誰が引き取るか
  • 検査室からの速報を誰が受領するか
  • 保健所へ誰が何を連絡するか
  • 患者・家族・職員への説明を誰がそろえるか

訓練で診断名を早く当てたことより、連絡が閉じたか、未確認事項に担当と期限が付いたかを評価します。

院内監査で見る10項目

番号監査項目合格の証拠
1血便患者の症状開始日がある問診・看護記録
2便と尿・意識が同じ経過で見られる経過表・指示
3便検体の疑い情報が検査室へ渡る依頼・受領記録
4緊急結果に受領確認がある電話報告記録
5排泄ケアのPPE・手指衛生が観察されるラウンド記録
6トイレ汚染時の清掃完了が残る清掃記録
7職員症状が集約される職員健康管理台帳
8委託職員を連絡対象に含む契約・連絡網
9保健所への夜間連絡先が使える手順・テスト記録
10退院・転院説明が標準化される説明書・看護要約

インフルエンザ・新型コロナの欠勤と病床運用を整理した感染症欠勤BCPの確認表も、職員症状を組織で集約する際の参考になります。

院内外への説明を、原因確定前と確定後で分ける

複数の患者や職員に症状があると、問い合わせへ急いで答えようとして、未確認の食材や感染経路が一人歩きすることがあります。説明文は、時点ごとに事実、対応、未確認を分けます。

原因確定前に伝えられること

  • 何人に、どの種類の症状が確認されているか。ただし個人を特定しない
  • 診療と感染対策を実施していること
  • 保健所等へ相談済みか、検査中か
  • 患者・家族・職員が今すべき行動と連絡先
  • 原因や関連性はまだ確定していないこと

確定後に更新すること

  • 診断・原因・関連性について行政と確認した範囲
  • 対象期間と対象者
  • 追加した対策と、解除・継続の判断
  • 該当者への個別連絡方法
  • 次回更新の予定

広報担当だけで説明を作らず、診療、感染管理、職員健康管理、給食、個人情報、経営が同じ事実表を参照します。問い合わせ先を一本化し、病棟職員がそれぞれ異なる説明をしないようにします。

SNSや院外報道を見た患者・家族から質問があった場合、職員は未確認の情報を否定・肯定せず、公式窓口へつなぎます。内部資料の写真や患者情報を個人端末で共有しません。

外来混雑時の待機場所とトイレを先に決める

胃腸症状の患者が重なる時期は、診察室より先にトイレと待機場所が不足します。救急・外来部門は次を確認します。

  • 血便・下痢患者を長時間共用待合へ置かない受付手順
  • 歩行困難、失禁、小児、認知機能低下への付き添い
  • 使用するトイレと、汚染時に閉鎖・清掃する判断者
  • 吐物・便汚染へ対応する物品と連絡先
  • 診察前に状態が変わった患者の再トリアージ
  • 同伴者の手洗いと移動範囲の説明

トイレを専用化できない場合も、清掃を実施する条件、完了までの表示、次の患者へ案内する責任を決めます。混雑を理由に排泄介助や再評価を省かないよう、応援要請の条件も設定します。

病院内の診断名コードとアラートを過信しない

電子カルテで「腸管出血性大腸菌感染症」の確定病名が付くまでアラートが出ない仕組みでは、疑い段階の排泄ケアや検体連絡に間に合いません。血便、感染性下痢、便培養提出など、診断前に把握できる情報から感染管理へ相談できるかを確認します。

一方、症状キーワードだけで自動アラートを広く出すと、警告疲れや不要な個人情報共有が起きます。対象、通知先、解除、誤検知の修正、監査ログを定め、導入後に有用性を評価します。

システムが停止した場合の紙・電話の代替経路も必要です。アラートの表示を連絡完了とみなさず、受領確認と担当割当が閉じたかを追跡します。

アラート対象を見直す際は、見逃した事例だけでなく、通知されたものの対応不要だった件数と理由も確認します。現場が解除理由を簡潔に記録できるようにし、感染管理部門が定期的に閾値を調整します。ベンダー設定の変更だけで完了とせず、夜間帯を含む実際の通知先でテストします。

患者を直接ケアする看護師向けには、血便・強い腹痛・乏尿をつなぐ申し送り確認表で、外来から帰宅後支援までを整理しています。

よくある質問

第36週137例をもって、院内警戒レベルを上げるべきですか?

全国の一週の届出だけで一律には決められません。地域の発生、患者受入れ、職員症状、保健所情報、自院の体制を合わせて判断します。ただし、連絡手順の読み合わせを行う契機にはできます。

職員に下痢があれば、全員検便が必要ですか?

一律の全員検便をこの記事は勧めません。症状、業務、曝露、集積、医師・保健所の指示をもとに、職員健康管理と感染管理が対象を判断します。

O157が陰性なら通常対応へ戻せますか?

O157以外の腸管出血性大腸菌もあります。使用した検査法が何を検出・除外できるかを検査部門へ確認し、診療と感染管理の判断を行います。

患者が無症状なら二次感染対策は不要ですか?

無症状病原体保有者もあり得ます。便を介する感染経路を踏まえ、保健所と感染管理部門の指示に沿って、手洗いと排泄物の取り扱いを決めます。

参考資料

最終確認日:2026年9月20日。院内の観察項目、検査、隔離、職員就業、給食対応、行政連絡は、症例と地域の状況、感染症法、保健所の指示、自院の最新手順に従って決定してください。