副作用被害救済をポスターで終わらせない|院内研修・説明・書類RACI
看護師の制度認知率62.2%、支援部署あり7.2%という調査を入口に、病棟・外来・薬剤部・相談員・医事の責任分担を点検します。
集中広報は「患者から聞かれた後」まで設計する
厚生労働省・PMDAは、2026年も「薬と健康の週間」10月17日〜23日を含む10月〜12月を、医薬品副作用被害救済制度等の集中広報期間としています。医療機関には、広報資料の掲載やPMDAサイトへの案内等への協力が求められています。
しかし、ポスターを掲示しても、患者から尋ねられた時に、病棟、外来、薬剤部、患者相談、医事が別々の回答をすれば、制度は利用可能な導線になりません。
PMDAの令和7年度認知度調査は、全国の医療関係者2,357人を対象としたインターネット調査です。看護師635人の制度認知率は62.2%、制度利用の推奨率は33.7%、eラーニング認知率は19.1%でした。医療関係者全体では、請求書作成等の支援部署が「ある」と回答した割合は7.2%です。
また、制度利用を勧めたくない理由として「自分自身が制度をよく理解していない」が50.1%、「必要書類の作成が複雑・面倒そう」が26.7%でした。これらは医療機関の全国保有率や全職員の実態を示す統計ではありませんが、周知だけでなく、説明と書類支援の工程を設計する必要性を示します。
本稿は、病院が給付可否や医薬品との因果関係を判定するためのものではありません。患者相談を正式な窓口へつなぎ、必要な診療・記録・書類を部門間で止めないための運用監査です。
制度案内・医療安全・法的責任を一つにしない
院内説明では、少なくとも次の四つを分けます。
| 領域 | 判断・実行の主体 | 院内で混同しないこと |
|---|---|---|
| 患者の診療 | 主治医、診療チーム、薬剤師等 | 給付相談より安全確保と診療を優先する |
| 救済制度の相談・請求 | 患者・請求者、PMDA、必要書類の作成者 | 病院が支給を決定・保証しない |
| 副作用・安全報告 | 医薬品安全、医療安全、関係職種 | 救済請求と自動的に同じ手続きにはならない |
| 法的責任・紛争対応 | 組織責任者、専門部署、専門家等 | 支給・不支給だけで責任を決めない |
制度を案内することを「医療過誤を認めること」と誤解すると、現場は説明を避けます。反対に、制度を患者対応の免責手段として扱えば、診療・説明・調査が不十分になります。患者安全、誠実な説明、制度案内を同時に進めつつ、判断主体を分けてください。
患者相談からPMDAまでの院内RACI
RACIは、実行責任者(Responsible)、最終責任者(Accountable)、相談先(Consulted)、共有先(Informed)を分ける方法です。下表はひな型であり、部署名や権限は自院の規程に合わせます。
| 工程 | R:実行 | A:最終責任 | C:相談 | I:共有 |
|---|---|---|---|---|
| 症状の安全確認 | 担当看護師・診療チーム | 診療責任者 | 薬剤師、関係診療科 | 医薬品安全、病棟・外来責任者 |
| 使用薬・経過の整理 | 看護師・薬剤師 | 診療責任者 | 処方元、薬局、患者・家族 | 患者相談、医事 |
| 制度の一次案内 | 指定した窓口担当 | 患者支援責任者 | 薬剤部、医薬品安全 | 診療科、看護部 |
| 必要書類の受付 | 医事・患者相談等 | 書類運用責任者 | 医師、薬剤師、関係部署 | 患者、退院支援 |
| 診断書等の作成依頼 | 正式な書類受付担当 | 診療科責任者 | 医事、薬剤部 | 患者相談 |
| PMDAへの確認 | 患者・指定支援担当 | 患者支援責任者 | PMDA、診療科、薬剤部 | 必要な院内部門 |
| 退院後の引継ぎ | 退院支援・患者相談 | 患者支援責任者 | 病棟、外来、地域連携 | 患者・家族 |
| 教育・監査 | 医薬品安全・教育担当 | 医薬品安全管理責任者等 | 医療安全、看護部、薬剤部 | 経営会議、全部門 |
重要なのは、看護師個人や患者相談員一人に全工程を集めないことです。診療記録を作る人、制度を説明する人、書類を受け付ける人、PMDAへ確認する人を明確にします。
最初の質問を30秒でそろえる
患者・家族から相談を受けた職員が、長い制度説明を暗記する必要はありません。次の30秒の確認と引継ぎで十分です。
- 現在、急な症状や診療上の問題がないか
- どの薬を、いつごろから使用したか
- どの症状で、いつ受診・入院したか
- 主治医・薬剤師へ相談済みか
- 連絡先と、院内から折り返す担当を伝えられるか
支給対象の可能性をその場で採点しません。「対象と思われるので申請してください」「難しいと思います」と入口で振り分けず、正式な情報確認へつなぎます。
書類フローは一覧表で止まりやすい場所を見る
PMDAのeラーニングは、制度の仕組み、請求の流れ、必要書類、院内対応例、支給・不支給事例等を扱っています。自院では、教材を視聴するだけでなく、実際の書類と担当を照合します。
| 点検項目 | 確認する証跡 | よくある停止 |
|---|---|---|
| 受付 | 受付日、担当、患者連絡先 | どの部署へ出すか分からない |
| 診療記録 | 症状、治療、入院、転帰 | 記録が複数施設・診療科に分散 |
| 投薬・使用記録 | 薬剤、用法、期間、処方元 | 院外処方・市販薬情報がない |
| 作成依頼 | 依頼日、作成者、期限 | 医師へ口頭依頼したまま止まる |
| 問い合わせ | 質問、確認先、回答日 | 患者と部署が別々にPMDAへ聞く |
| 交付・送付 | 本人確認、交付日、控え | 退院後の連絡先が不明 |
| 引継ぎ | 次担当、未完了、期限 | 病棟から外来・相談部門へ渡らない |
請求期限や必要書類を院内マニュアルへ転記する場合は、改定日と参照元を明記します。古い様式を使い続けないよう、PMDAの最新版へ戻れるリンクを置きます。
無料教材を院内研修へ組み込む
2026年9月18日付の厚生労働省・PMDA通知では、eラーニングは約15分、16分、15分の3部構成です。制度の仕組み、請求の流れと必要書類、院内対応例、支給・不支給事例等を扱い、医薬品安全管理責任者が行う従業者向けの医薬品安全研修にも活用できると案内されています。
ユーザー登録なしでPC、スマートフォン、タブレットから視聴でき、受講確認等の提供相談やDVDの無償提供も案内されています。PMDAの出前講座は、対面、Webex、Zoom、録画等に対応し、交通費・謝礼金は不要とされています。
研修は次の三層に分けます。
全職員向け10分
- 制度の存在と目的
- 急な症状は診療を優先する
- 支給可否を約束しない
- 自院の一次窓口とPMDA相談先
関係職種向け45分
- eラーニング視聴
- 患者相談のロールプレイ
- 使用薬・症状・治療経過の記録
- RACIと書類受付の確認
担当部署向け机上訓練
- 架空事例で受付から退院後まで通す
- 診療科、薬剤部、相談、医事の引継ぎを確認
- 判断できない質問をPMDAへ確認する
- 未完了項目と期限を一覧にする
受講率だけで完了にせず、患者から質問された時に正しい担当へつながるかを確認します。
10月までの30日実装
1週目:現状把握
- 現在のポスター、Web案内、電話番号、院内文書を確認
- 患者相談の入口を病棟・外来・薬剤部で聞き取る
- 過去12か月の相談件数ではなく、相談を記録できているか確認
- RACIの未定箇所を経営・医療安全会議へ上げる
2週目:標準化
- 30秒の一次対応文と引継ぎ票を決める
- 書類受付、作成依頼、進捗確認、交付の担当を決める
- PMDAへの照会内容と回答を共有する場所を決める
- 夜勤・休日の問い合わせを翌営業日へ安全に引き継ぐ
3週目:教育
- 全職員向け周知と関係職種向け研修を実施
- 欠席者、非常勤、委託、応援勤務者への補講を行う
- 患者説明を「支給保証」にしないロールプレイを行う
4週目:机上監査
- 架空の患者相談を入口から退院後まで流す
- 担当不明、二重依頼、記録欠落、期限不明を記録
- 修正責任者、期限、再監査日を決める
経営会議で見る指標
患者相談が0件でも、制度が十分周知されているとは限りません。次の工程指標を組み合わせます。
- 一次相談から担当部門へ引き継ぐまでの時間
- 引継ぎ票の必須項目充足率
- 書類依頼の担当・期限が決まっている割合
- 患者への次回連絡日を伝えた割合
- 夜勤・休日相談の翌営業日完了率
- 研修対象者と受講・補講完了率
- 机上訓練で見つかった停止箇所と解消日
- PMDA照会後に院内FAQを更新した件数
支給件数や支給率を職員・部署の評価指標にしません。支給判断はPMDA等の正式な審査によるためです。
広報資材の版も更新する
2026年9月18日付通知は、従来の博多華丸・大吉を起用した広報資材について、2026年10月以降の使用を控え、PMDAのオリジナルキャラクターまたは新デザインの資材を使うよう案内しています。
院内ポスター、デジタルサイネージ、患者向けPDF、院内ポータルを一括検索し、旧版の保管場所と差替担当を決めてください。新資材の掲載時期と利用条件は、PMDAの紹介資材ページで再確認します。
看護師向け記事と薬剤監査へつなぐ
現場で相談を受ける看護師には、患者相談を止めない5ステップを共有できます。薬剤の保管、指示、投与、記録、監査ログ自体を点検する場合は、薬剤工程8ゲートの監査と分けて実施してください。
救済制度のRACIは、薬剤投与の安全管理を代替しません。投与前後の診療と、健康被害後の患者支援を連続させる補助線です。
よくある質問
ポスターを掲示すれば通知への対応は完了ですか
通知は広報協力を求めていますが、患者支援の実効性は、質問を受けた後の説明、記録、書類、相談導線で決まります。掲示に加えて、院内RACIと担当者教育を点検してください。
支援部署「あり7.2%」は全国の病院割合ですか
いいえ。医療関係者を対象としたインターネット調査で、回答者が勤務先の支援部署の有無を答えた結果です。全国施設調査の保有率へ読み替えないでください。
医療安全部門が全件を担当すべきですか
一律には決められません。診療、投薬記録、患者相談、書類受付、PMDA照会には複数部門が関わります。最終責任と実行担当をRACIで分け、患者が部署間を回らない入口を設けます。
病院が患者の代わりに支給可否を確認できますか
病院は必要な診療情報や書類作成を支援できますが、支給可否を決める主体ではありません。患者・請求者の意向を確認し、PMDAの正式手続きへつないでください。
次の一手
医薬品安全・患者説明フローの整理を相談するでは、患者相談、薬剤情報、診療記録、書類受付、PMDA照会、退院後引継ぎを一つの工程へ並べ、RACI、期限、記録、再監査日を整理します。給付申請の代理、支給保証、個別患者の診療判断、法的責任の判定は行いません。
参考資料
- 厚生労働省・PMDA「医薬品副作用被害救済制度等に関する集中広報等の周知について」(2026年9月18日)
- PMDA「令和7年度 医薬品副作用被害救済制度に係る認知度調査結果概要」
- PMDA「eラーニング講座」
- PMDA「出前講座」
- 厚生労働省「薬と健康の週間」
最終確認日:2026年9月24日。広報資材、相談先、受付時間、必要書類は、運用開始前にPMDAの現行ページと自院規程で再確認してください。