
「看護師から保健師へキャリアチェンジを考えているけど、具体的にどう違うの?」
「保健師と看護師、どちらの道に進むべきか迷っている…」
このような疑問や悩みを抱えていませんか?
医療や健康を支える重要な職種である保健師と看護師。
似ているようで実は大きく異なるこの二つの職種について、役割や活動範囲、キャリアパスなど多角的な視点から徹底解説します。
この記事で分かること
- 保健師と看護師の基本的な役割の違い
- 活動範囲と対象者の違い
- 必要とされるスキルや資格の違い
- キャリアパスと将来性の違い
- 待遇(給料・年収)の違い
- それぞれの職種に向いている人の特徴
この記事を読んでほしい人
- 看護師として働きながら保健師への転向を検討している方
- 看護学生で将来の進路を考えている方
- 医療系のキャリアに興味がある方
- 保健師と看護師の違いを明確に理解したい方
保健師と看護師の基本的な役割の違い

保健師と看護師は、同じ医療・健康分野で活躍する専門職ですが、その役割は大きく異なります。
どちらも人々の健康を支える重要な存在ですが、それぞれがどのような特徴を持ち、どのように社会に貢献しているのかを理解することは、キャリア選択の際に非常に重要です。
ここでは両者の基本的な役割の違いを詳しく解説します。
看護師の役割
看護師は主に個別の患者に対する医療行為とケアを提供する専門職です。
病院やクリニックなどの医療機関で、医師の指示のもと、患者の治療や看護にあたります。
看護師は患者の健康状態を常に観察し、適切なケアを提供することで、病気からの回復を支援します。
患者の健康状態の観察と記録、医師の指示に基づく医療行為の実施、患者の日常生活援助、患者や家族への指導や教育など、多岐にわたる業務を担当します。
これらの業務を通じて、患者が最適な治療を受け、早期回復できるようサポートしています。
看護師の日々の業務
看護師の1日は非常に多忙です。
朝の申し送りから始まり、バイタルサインの測定、投薬、点滴管理、各種処置の実施、食事介助、入浴介助など、患者の状態に合わせたケアを提供します。
また、電子カルテへの記録や看護計画の立案・評価も重要な業務です。
患者の急変への対応や緊急処置など、予定外の業務も発生するため、臨機応変な対応力が求められます。
常に患者の安全と快適さを最優先に考えながら業務を行い、患者との信頼関係を構築することも重要です。
看護師は医療チームの一員として、医師や他の医療専門職と密に連携しながら患者のケアにあたります。
保健師の役割
一方、保健師は地域全体の健康管理と予防医療に重点を置く専門職です。
個人だけでなく、家族や地域社会全体の健康増進や疾病予防に取り組み、より広い視野で健康問題にアプローチします。
保健師は地域住民の健康課題を把握・分析し、健康教育や保健指導を計画・実施します。
また、感染症予防や健康危機管理、母子保健や高齢者保健の推進、地域のネットワークづくりや関係機関との連携も重要な役割です。
病気になる前の予防的アプローチを重視し、健康な生活を支援します。
保健師の日々の業務
保健師の日常業務は、乳幼児健診や特定健診などの保健事業の実施、健康相談や健康教室の開催、家庭訪問による個別支援、地域の健康課題の分析や保健計画の立案など多岐にわたります。
また、地域の関係機関との連携会議や健康施策の企画立案も行います。
保健師の業務は季節や地域の状況によって変化します。
例えば、夏は熱中症予防の啓発活動、冬はインフルエンザ予防の活動など、時期に応じた健康課題に取り組みます。
また、災害時には被災者の健康管理や避難所の衛生管理なども担当します。
地域全体の健康を守るために、常に先を見据えた活動を展開しています。
活動の焦点の違い
看護師と保健師の最も大きな違いは、活動の焦点にあります。
看護師は主に「治療とケア」に重点を置き、すでに発生した健康問題に対応します。
医療機関内で個々の患者に直接的なケアを提供し、疾病からの回復を支援します。
一方、保健師は「予防と健康増進」に重点を置き、問題が発生する前の予防活動に力を入れます。
地域全体を活動の場とし、個人から集団、地域全体までを対象に、健康的な生活習慣の定着や疾病予防のための支援を行います。
看護師は目の前の患者の回復という比較的短期的な目標に向けて活動するのに対し、保健師は地域全体の健康水準の向上という長期的な視点で活動することが多いです。
また、看護師は医師の指示のもとで業務を行うことが多いのに対し、保健師はより自律的に活動計画を立て、実施することができます。
このように、看護師が「病気を治す」ことに注力するのに対し、保健師は「病気にならないようにする」ことに重点を置いています。
どちらも人々の健康を支える大切な役割ですが、そのアプローチ方法と視点が異なるのです。
両者は互いに補完し合い、社会全体の健康を支える重要な存在となっています。
保健師と看護師の活動範囲の違い

保健師と看護師は活動する場所や対象者が大きく異なります。
それぞれの職種がどのような場所でどのような人々と関わるのか見ていきましょう。
看護師の活動範囲
看護師の活動範囲は主に医療機関内に限定されることが多く、具体的には以下のような場所で活動しています。
病院(一般病棟、ICU、手術室など)、クリニック・診療所、訪問看護ステーション、介護施設、リハビリテーションセンターなどが主な活動場所です。
病院で働く看護師の場合、特定の診療科(内科、外科、小児科など)に配属されることが一般的で、その科の特性に応じた専門的なケアを提供します。
例えば、小児科であれば子どもの特性を理解したケア、精神科であれば精神疾患を持つ方への特別なケアというように、専門性が求められます。
看護師の活動場所の多様性
看護師の働く場所は近年ますます多様化しています。
従来の病院や診療所だけでなく、以下のような場所でも活躍しています。
訪問看護ステーションでは、患者の自宅を訪問し、生活の場での看護を提供します。
在宅酸素療法や経管栄養、褥瘡ケアなど、医療依存度の高い療養者への支援も行います。
また、企業の健康管理室、学校(養護教諭とは異なる立場で)、刑務所、スポーツチームなど、様々な場所で看護師が活躍するようになっています。
保健師の活動範囲
保健師の活動範囲は看護師よりも広範囲で、地域社会全体をカバーします。
保健所・保健センター、市町村の福祉課や健康推進課、学校(学校保健)、企業(産業保健)、児童相談所、福祉施設、災害時の避難所などが主な活動場所です。
保健師は地域に出向いて活動することが多く、家庭訪問や健康教室の開催、地域の健康づくりのための環境整備なども行います。
地域全体の健康レベルの向上を目指して、様々な場所で活動します。
保健師の地域に根ざした活動
保健師の活動は、地域のニーズに合わせて多岐にわたります。
例えば、高齢化が進む地域では高齢者の介護予防や認知症対策、若い世代が多い地域では母子保健活動に力を入れるなど、地域の特性に応じた活動を展開します。
また、保健師は地域の健康危機管理の担い手でもあり、感染症の流行時や災害発生時には、いち早く現場に駆けつけて住民の健康を守るための活動を行います。
対象者の違い
看護師の対象者は主に医療機関を訪れる患者です。
一方、保健師の対象者は地域住民全体であり、以下のように幅広い対象者と関わります。
乳幼児とその保護者(母子保健)、学童・生徒(学校保健)、勤労者(産業保健)、高齢者(老人保健)、精神疾患を持つ方(精神保健)、地域住民全般(地域保健)など、年齢や健康状態を問わず幅広い対象者と関わります。
保健師は健康な人々も含めたすべての人を対象としており、疾病の有無にかかわらず活動します。
また、個人だけでなく、家族や地域全体を一つの単位として捉え、支援することも特徴です。
保健師の集団アプローチ
保健師は個別支援だけでなく、集団や地域全体へのアプローチも重視します。
例えば、健康教室の開催や健康づくりグループの育成、地域の健康課題に関する住民向け啓発活動などを通じて、地域全体の健康意識の向上や環境整備に取り組みます。
このような集団へのアプローチは、一度に多くの人々にリーチでき、効率的かつ効果的な健康増進活動となります。
地域のソーシャルキャピタル(社会関係資本)を活用した活動も保健師の重要な役割です。
保健師と看護師に求められるスキルの違い

保健師と看護師は同じく「人々の健康を支える」という使命を持っていますが、それぞれの職種で必要とされるスキルは大きく異なります。
活動範囲や対象者が違うため、求められる能力や専門性にも違いがあります。
ここでは、保健師と看護師それぞれに求められるスキルの違いを詳しく解説します。
看護師に求められるスキル
看護師には主に医療技術とケアの提供能力が求められます。
医療現場で患者に直接ケアを提供するため、実践的な技術と正確な判断力が必要です。
看護師に求められる医療技術としては、注射や点滴、採血などの医療処置の実施技術があります。
また、患者のバイタルサインを測定し、わずかな変化も見逃さない観察力も重要です。
急変時には迅速かつ適切な対応が求められるため、緊急時の判断力と行動力も必須のスキルとなります。
患者とのコミュニケーション能力も看護師に欠かせないスキルです。
患者の不安や痛みに寄り添い、信頼関係を築く能力が求められます。
また、医師や他の医療スタッフとの連携を円滑に行うためのチーム医療における協調性も重要です。
さらに、患者の状態や実施した看護について正確に記録・報告する能力も必要とされます。
看護師のコミュニケーションスキル
看護師のコミュニケーションスキルは単なる会話能力だけではありません。
痛みや不安を抱える患者の心理状態を理解し、共感的な態度で接することができる能力が求められます。
特に、短時間で患者との信頼関係を構築する必要があるため、非言語的コミュニケーションも含めた高度なスキルが必要です。
また、患者の家族への説明や教育を行う際には、医学的な内容をわかりやすく伝える能力も重要です。
医師の説明を補足し、患者や家族の疑問に答えられるように、正確な知識と説明力を持つことが求められます。
保健師に求められるスキル
保健師には地域全体を視野に入れたマネジメント能力が求められます。
個人だけでなく集団や地域全体の健康を支援するため、より広い視点と計画的な思考が必要です。
保健師に求められる基本的なスキルとして、地域診断・アセスメント能力があります。
地域の健康課題を把握し、優先順位をつけて対策を立てる能力です。
そのためには、健康統計データを収集・分析する能力や、地域の特性を理解する力が必要となります。
保健指導や健康教育の企画・実施能力も重要です。
地域住民に健康的な生活習慣を身につけてもらうため、効果的な教育プログラムを計画し、実施する能力が求められます。
また、地域の関係機関とのネットワークを構築し、協働して健康課題に取り組む調整力も必要です。
さらに、保健師には健康施策の立案や政策提言を行う能力も求められます。
行政の仕組みや法制度を理解し、地域の健康課題を解決するための施策を提案することができるスキルが必要とされます。
保健師の分析・企画能力
保健師の業務において特に重要なのが、データに基づいた分析力と企画力です。
地域の健康統計を収集し、その背景にある要因を分析する能力は、効果的な保健活動の基盤となります。
また、限られた予算や人材の中で、最大の効果を上げるための事業計画を立案する能力も重要です。
例えば、高齢化が進む地域では介護予防事業の企画・運営が求められますし、若い世代が多い地域では子育て支援や生活習慣病予防の取り組みが重要になります。
地域の特性に合わせた保健活動を企画できる柔軟な思考力が必要です。
求められる思考の違い
看護師と保健師では、求められる思考プロセスが大きく異なります。
看護師は個別対応・治療的視点を重視し、目の前の患者の問題解決に焦点を当てます。
患者個人の状態を詳細に把握し、医師の指示に基づいて適切なケアを提供することが求められます。
一方、保健師は集団・予防的視点を重視し、俯瞰的・長期的な計画型の思考が求められます。
地域全体の健康指標や統計データを基に、自律的に健康課題への対策を立案します。
問題が発生する前に予防策を講じる予見性も重要なスキルです。
看護師が「今、ここにいる患者」に対して最善のケアを提供することに集中するのに対し、保健師は「まだ出会っていない潜在的な対象者も含めた集団全体」の健康を考える必要があります。
このように、同じ「健康を支える」という目標に向かいながらも、両者には異なる思考プロセスが求められるのです。
時間軸で見ても、看護師は比較的短期間で成果を出すことが求められるのに対し、保健師は長期的な視点で健康課題に取り組むことが多いという違いがあります。
どちらも人々の健康を支える上で欠かせない視点であり、互いに補完し合う関係にあるといえます。
保健師と看護師の資格と取得方法の違い

保健師と看護師の資格取得には明確な違いがあります。
どちらも国家資格ですが、取得するためのルートや教育課程、試験内容などが異なります。
これから医療・保健分野を目指す方や、キャリアアップを考えている方にとって、両資格の取得方法を理解することは重要です。
ここでは、保健師と看護師の資格取得方法の違いについて詳しく解説します。
看護師の資格取得
看護師になるためには、国が定めた教育機関で必要な知識と技術を学び、国家試験に合格する必要があります。
看護師資格の取得ルートには主に三つの選択肢があります。
一つ目は大学の看護学部・学科での4年間の学習です。
大学では幅広い教養と専門的な看護の知識・技術を学ぶことができます。
卒業時には学士の学位も取得でき、将来的に大学院への進学や研究職を目指す方に適しています。
二つ目は看護専門学校での3年間の学習です。
看護専門学校は実践的な看護技術の習得に重点を置いた教育を行っており、臨床現場での即戦力となる看護師を育成しています。
授業料が比較的安価な場合が多く、経済的な面でのメリットもあります。
三つ目は短期大学での3年間の学習です。
短期大学は大学と専門学校の中間的な位置づけで、短期大学士の学位が取得できます。
専門的な知識と実践的な技術をバランスよく学ぶことができます。
どのルートを選んでも、卒業時に看護師国家試験の受験資格が得られます。
2025年現在、看護師の国家試験合格率は約90%前後で推移しており、適切な学習を行えば合格の可能性は高いといえます。
看護師教育の特徴
看護師養成課程では、人体の構造と機能、疾病の成り立ちと回復過程、基礎看護学、成人看護学、老年看護学、小児看護学、母性看護学、精神看護学などの科目を学びます。
これらの学習を通して、あらゆる年代・状態の患者に対応できる知識と技術を身につけます。
理論と実践のバランスを重視した教育が特徴で、座学で学んだ知識を臨地実習で実践することにより、確かな看護実践能力を養います。
実習では病院の様々な診療科を経験し、多様な疾患や状態の患者への看護を学びます。
このような実践的な教育により、卒業後すぐに臨床現場で活躍できる基礎力が培われます。
保健師の資格取得
保健師になるためには、まず看護師の資格を取得した上で、さらに保健師に特化した教育を受ける必要があります。
保健師資格の取得ルートには主に二つの選択肢があります。
一つ目は、看護系大学で保健師課程を選択する方法です。
多くの看護系大学では、看護師課程と保健師課程を同時に学ぶことができるカリキュラムを提供しています。
ただし、近年は保健師課程が選択制となっている大学が増えており、限られた定員の中で選抜されることが一般的です。
4年間の学部教育で看護師と保健師の両資格の取得を目指すことができますが、カリキュラムが過密になるというデメリットもあります。
二つ目は、看護師資格を取得した後に保健師養成課程(1年制)に進学する方法です。
看護師として実務経験を積んだ後に保健師を目指す方に適したルートで、臨床経験を保健師活動に活かすことができます。
社会人経験者向けのコースも増えており、働きながら学べる教育機関もあります。
どちらのルートでも、教育課程を修了後に保健師国家試験を受験することになります。
2025年現在、保健師の国家試験合格率は約95%前後と高い水準を維持しています。
保健師教育の特徴
保健師の教育課程では、公衆衛生看護学、疫学、保健統計学、保健福祉行政論などの科目を学びます。
これらの学習を通して、地域全体の健康課題を把握・分析し、効果的な保健活動を展開するための能力を養います。
看護師教育が個別の患者へのケアに重点を置くのに対し、保健師教育は集団や地域全体の健康を支援するための知識と技術の習得に焦点を当てています。
実習も保健所や市町村保健センターなど、保健師が実際に働く現場で行われ、地域診断や健康教育プログラムの企画・実施などを経験します。
資格の上下関係
保健師は看護師の上位資格として位置づけられています。
すなわち、保健師の資格を持っていれば、看護師として働くことも法的に可能です。
しかし、看護師の資格だけでは保健師として働くことはできません。
これは、保健師が看護師の知識・技術を基盤とした上で、さらに公衆衛生や地域保健に関する専門性を持つことを意味しています。
そのため、保健師になるためには、まず看護師としての基礎的な知識・技術を習得し、その上で地域保健活動に必要な知識・技術を学ぶという段階的なプロセスが必要となります。
これは保健師の役割が、看護師の役割を包含し、さらに発展させたものであることを反映しています。
助産師と保健師の関係
看護師の上位資格としては、保健師のほかに助産師があります。
助産師は妊産婦のケアと分娩介助を専門とする資格で、保健師と同様に看護師資格を基盤としています。
保健師と助産師の資格は別々のものであり、どちらか一方を取得しても、もう一方の資格が自動的に得られるわけではありません。
両方の資格を取得したい場合は、それぞれの養成課程を修了し、別々の国家試験に合格する必要があります。
このように、看護師を基盤として、保健師と助産師という二つの専門性の高い資格へとキャリアを発展させることが可能です。
どの資格を取得するかは、自分の興味や適性、目指すキャリアパスによって選択することが大切です。
いずれの道に進むにしても、人々の健康を支えるという共通の目標のもと、それぞれの専門性を活かした活躍が期待されています。
保健師と看護師のキャリアパスの違い

保健師と看護師では、キャリアの発展の仕方が大きく異なります。
それぞれの職種に就いた後に、どのようなキャリアを築いていけるかを理解することは、長期的な職業人生を考える上で非常に重要です。
ここでは、看護師と保健師それぞれのキャリアパスの特徴と違いについて詳しく解説します。
看護師のキャリアパス
看護師のキャリアパスは多様性に富んでおり、自分の適性や興味に合わせて様々な道を選択することができます。
経験を積むにつれて専門性を高めたり、管理職を目指したりと、選択肢が広がっていくのが特徴です。
看護師の基本的なキャリアパスとしては、まず臨床キャリアがあります。
一般看護師としてスタートし、経験を積みながら主任看護師、看護師長、看護部長といった管理職を目指すことができます。
管理職になると、看護実践だけでなく、スタッフの教育や病棟マネジメントなど、より広い視点での業務が求められるようになります。
また、特定の分野での専門性を高めるキャリアパスも存在します。
専門看護師(CNS)や認定看護師の資格を取得し、特定の看護分野でのエキスパートとして活躍する道があります。
専門看護師は大学院での修士課程修了が必要で、認定看護師は認定看護師教育課程の修了が必要とされます。
これらの資格を取得することで、より高度な看護実践や、コンサルテーション、教育などの役割を担うことができます。
看護師の多様な活躍の場
看護師のキャリア選択の幅広さは、活躍の場の多様性にも表れています。
一般的な総合病院や診療所だけでなく、特定の疾患や症状に特化した専門病院、訪問看護ステーション、介護施設など、様々な場所で看護師の専門性が求められています。
訪問看護師として在宅医療の分野に進む看護師も増えています。
患者の自宅という生活の場で看護を提供することで、病院とは異なる視点とスキルが磨かれます。
また、産業看護師として企業で働く道もあり、従業員の健康管理や健康増進活動を通じて、予防的な視点での看護を実践することができます。
さらに、教育機関で看護学生の指導にあたる看護教員、医療機器メーカーや製薬会社などの医療関連企業で専門知識を活かす道、臨床研究コーディネーターとして医学研究をサポートする道など、看護師のキャリアは多方面に広がっています。
保健師のキャリアパス
保健師のキャリアパスは、看護師に比べるとやや限定的ですが、その分、行政職としてのキャリアが明確であるという特徴があります。
多くの保健師は公務員として自治体に勤務するため、公務員としてのキャリアラダーに沿った昇進が一般的です。
保健師として自治体に入職した場合、まず保健師として地域保健活動に従事します。
経験を積むと主任保健師となり、さらにキャリアアップすると係長、課長、部長といった管理職に昇進することができます。
保健所長を目指すことも可能ですが、多くの自治体では医師免許を持つことが条件とされています。
保健師は担当する分野によっても専門性を深めることができます。
母子保健、高齢者保健、精神保健、感染症対策など、特定の分野を長く担当することで、その分野のエキスパートとして認められるようになります。
ただし、自治体保健師の場合は、人事異動によって担当分野が変わることもあるため、幅広い知識と対応力も求められます。
保健師の活躍の場の広がり
従来、保健師は主に行政機関で働くことが一般的でしたが、近年では活躍の場が広がりつつあります。
特に企業の健康管理室で働く産業保健師の需要が増加しています。
企業の健康経営への関心の高まりから、従業員の健康管理や健康増進活動を担う専門職として、保健師の専門性が評価されるようになっています。
また、大学や研究機関で保健師教育や地域保健研究に関わる道もあります。
保健師としての実務経験を活かして、次世代の保健師を育成する教員となったり、地域保健活動の効果を科学的に検証する研究者となったりすることもできます。
さらに、災害時の健康危機管理や感染症対策の重要性が高まる中、これらの分野で専門性を持つ保健師の需要も増加しています。
環境の変化に応じて、保健師に求められる役割も変化し、新たなキャリアの可能性が生まれています。
転職のしやすさの違い
看護師と保健師では、転職市場の状況にも違いがあります。
看護師は慢性的な人材不足を背景に、求人数が多く、転職がしやすい環境にあります。
病院の規模や診療科、勤務形態など、自分の希望に合わせた職場を選びやすいのが特徴です。
一方、保健師の求人は看護師に比べて少なく、特に公務員保健師の採用は競争率が高い傾向にあります。
公務員保健師の採用試験は年に一度程度のことが多く、タイミングも限られています。
また、一度公務員を辞めると、再び公務員として採用されることのハードルが高くなることもあります。
ただし、2025年現在は地域包括ケアシステムの構築や健康寿命延伸への取り組みなど、予防的な健康支援の重要性が高まっており、保健師の専門性を求める場面が増えています。
特に、感染症対策や災害時の健康危機管理の重要性が再認識される中、保健師の役割に対する社会的評価も向上しつつあります。
民間企業における産業保健師の需要も増加傾向にあり、公務員以外の選択肢も広がっています。
健康経営が企業価値を高める要素として認識されるようになった結果、従業員の健康管理や健康増進活動を担う専門職として、保健師の採用を増やす企業が増えています。
このように、看護師と保健師では、キャリアパスの多様性、昇進の道筋、転職のしやすさなどに違いがありますが、どちらの職種も社会の変化に応じて新たな活躍の場が生まれ続けています。
自分の適性や志向、ライフプランに合わせて、最適なキャリア選択をすることが大切です。
保健師と看護師の待遇の違い

保健師と看護師では、給与体系や勤務形態に大きな違いがあります。
職業選択やキャリアチェンジを考える際には、待遇面も重要な判断材料となります。
ここでは、給料・年収、勤務時間、福利厚生、ワークライフバランスなど、様々な角度から両職種の待遇の違いを詳しく解説します。
給料・年収の違い
保健師と看護師の給料・年収は、勤務先や経験年数、役職によって異なりますが、全体的な傾向として比較することができます。
2025年現在の平均的な年収水準を見てみましょう。
看護師の平均年収は、新人看護師で約380万円から420万円程度からスタートします。
経験5年になると約450万円から500万円に上昇し、経験10年以上になると約500万円から600万円程度となります。
管理職である看護師長以上になると、約650万円から800万円の年収が見込まれます。
一方、保健師の平均年収は、新人保健師(公務員)で約400万円から430万円程度からスタートします。
経験5年で約450万円から520万円、経験10年以上で約520万円から650万円程度となります。
管理職である係長・課長級になると、約700万円から900万円の年収が期待できます。
一般的に、新人の段階では保健師の方が初任給が若干高い傾向にあります。
これは保健師が上位資格であることや、多くの保健師が公務員として働くことが影響しています。
また、看護師は夜勤手当などの各種手当が収入に大きく影響しますが、保健師は基本的に夜勤がないため、基本給の比重が大きくなります。
収入の内訳と昇給の特徴
看護師の給与は、基本給のほかに夜勤手当や時間外手当などの各種手当が大きな割合を占めることが特徴です。
特に夜勤手当は1回あたり5,000円から10,000円程度と高額で、月に数回の夜勤をこなすことで、月収を大きく増やすことができます。
このため、同じ経験年数の看護師でも、夜勤回数によって月収に大きな差が生じることがあります。
また、看護師の給与は病院の規模や設置主体(公立・私立・大学病院など)によっても差があります。
一般的に大病院や公立病院の方が給与水準は高い傾向にありますが、中小病院でも看護師不足を背景に待遇改善の動きが見られます。
一方、公務員保健師の給与は、地方公務員としての給与体系に基づいており、年功序列的な昇給が特徴です。
勤続年数に応じて安定的に昇給していくため、長期的に見ると収入の安定性は高いといえます。
また、地域手当や扶養手当、住居手当など、各種手当も充実しています。
民間企業の産業保健師の場合は、企業によって給与水準に大きな差があります。
特に大企業や外資系企業では高待遇の場合もあり、公務員保健師よりも高収入を得られる可能性もあります。
勤務形態の違い
看護師と保健師では、勤務形態に大きな違いがあります。
この違いは仕事とプライベートのバランスや身体的・精神的な負担に直結する重要な要素です。
看護師の勤務形態は、シフト制(交代制勤務)が一般的です。
日勤(8時頃から17時頃)、準夜勤(16時頃から翌1時頃)、深夜勤(0時頃から9時頃)などの勤務時間帯があり、これらのシフトを交代で担当します。
医療は24時間365日提供されるサービスであるため、土日祝日や年末年始も含めて勤務する必要があります。
また、看護師は患者の急変対応や予定外の入院患者の受け入れなどで残業が発生することも少なくありません。
特に急性期病院では業務が多忙になりがちで、心身の負担が大きくなることがあります。
一方、保健師の勤務形態は、特に公務員保健師の場合、基本的に日勤(平日の9時頃から17時頃)が一般的です。
夜勤はほとんどなく、土日祝日や年末年始は原則として休みとなります。
この規則正しい勤務形態は、プライベートの予定を立てやすく、ワークライフバランスを保ちやすいという利点があります。
ただし、保健師も災害時の緊急対応や感染症発生時の対策など、非常時には時間外勤務が発生することがあります。
特に、保健所保健師は感染症対策の最前線で働くため、パンデミック時などには長時間の残業や休日出勤が必要になる場合もあります。
また、乳幼児健診や特定健診、健康教室など、地域住民が参加しやすい夕方や休日に事業を実施することもあります。
職場環境と業務の特性
看護師は医療現場という緊張感のある環境で働くことが多く、患者の急変対応などストレスの高い状況に直面することがあります。
常に命と向き合う仕事であるため、精神的な負担が大きくなることもあります。
特に病院勤務の看護師は立ち仕事が多く、身体的な疲労も蓄積しやすいです。
また、夜勤による生活リズムの乱れは、健康面での課題となることもあります。
一方で、患者さんの回復や感謝の言葉に直接触れられることがやりがいとなり、精神的な充実感も得られやすいという特徴があります。
保健師は地域活動や事務作業が中心であり、看護師に比べると緊急性の高い対応は比較的少なめです。
じっくりと腰を据えて地域の健康課題に取り組むことができ、長期的な視点での活動が中心となります。
ただし、保健師は地域全体の健康を守る責任を担っているため、特に保健所や市町村の保健部門では、感染症の流行時や災害時には大きな責任と業務負担がかかることがあります。
2020年代前半の新型コロナウイルス感染症の流行時には、保健所保健師の業務過多が社会問題化しました。
平時は比較的穏やかでも、有事には厳しい勤務環境になる可能性がある点は理解しておく必要があります。
このように、看護師と保健師では勤務形態や職場環境に大きな違いがあり、それぞれに魅力とチャレンジがあります。
自分のライフスタイルや価値観に合った選択をすることが、長く働き続けるためには重要です。
それぞれの職種に向いている人の特徴

保健師と看護師は同じく医療・保健分野の専門職ですが、その業務内容や活動の場が異なるため、それぞれに適した資質や性格傾向があります。
ご自身の適性を見極め、より充実したキャリアを築くためにも、各職種に向いている人の特徴を理解しておくことは重要です。
ここでは、看護師と保健師それぞれに向いている人の特徴について詳しく解説します。
看護師に向いている人
看護師は医療の最前線で患者さんのケアを担当する職種です。
そのため、以下のような特徴を持つ方に適していると言えるでしょう。
臨床現場での直接的なケアに喜びを感じる方は看護師に向いています。
患者さんの傍らで、日々の回復を支え、直接的なケアを通じて患者さんの健康状態を改善することにやりがいを感じられる方には、看護師という職業が大きな満足をもたらすでしょう。
患者さんからの「ありがとう」という言葉が何よりの励みになる方には、看護師としての道が適しています。
また、目の前の患者さんに集中してケアを提供したい方も看護師に向いています。
個々の患者さんの状態を詳細に観察し、その変化に迅速に対応することができる集中力を持った方は、優れた看護師になれる素質があります。
患者さん一人ひとりの状態を把握し、最適なケアを提供することに喜びを見出せる方にとって、看護師は理想的な職業と言えるでしょう。
看護師に求められる特性
医療技術やケア技術を磨くことに意欲的な方は、看護師として活躍できる可能性が高いです。
看護師は日々進化する医療技術に対応し、常に新しい知識や技術を習得し続ける必要があります。
学び続ける姿勢を持ち、自己研鑽に励むことができる方は、看護師としてのキャリアを発展させていくことができるでしょう。
チーム医療の一員として働くことを好む方も看護師に向いています。
看護師は医師、薬剤師、理学療法士など多職種と連携しながら患者さんのケアにあたります。
コミュニケーション能力が高く、チームの中で自分の役割を理解し、協調して働くことができる方は、看護師として大きな力を発揮できるでしょう。
変化の多い環境で臨機応変に対応できる方も看護師に適しています。
医療現場では予定外の事態が頻繁に発生します。
急な容態の変化や緊急入院など、状況が刻々と変わる中でも冷静に判断し、適切に対応できる柔軟性を持った方は、看護師としての適性があると言えます。
患者さんの回復過程を間近で見ることに喜びを感じる方も看護師に向いています。
看護師は治療やケアの効果が比較的短期間で目に見える形で現れることが多く、患者さんの回復という具体的な成果を実感しやすい職業です。
人が元気になっていく過程に携わりたい方にとって、やりがいのある仕事になるでしょう。
保健師に向いている人
保健師は地域全体の健康を守る専門職です。
そのため、以下のような特徴を持つ方に適していると言えるでしょう。
予防活動や健康増進に関心がある方は保健師に向いています。
病気になってから治療するのではなく、病気にならないための予防活動や健康づくりに重点を置いた活動に魅力を感じる方には、保健師という職業が大きな満足をもたらすでしょう。
長期的な視点で健康を考え、予防的なアプローチに価値を見出せる方には、保健師の道が適しています。
また、地域全体の健康を考えることが好きな方も保健師に向いています。
個人だけでなく、家族や地域社会全体を視野に入れ、集団としての健康課題に取り組むことに関心がある方は、保健師としての適性があると言えます。
地域全体の健康指標を改善することにやりがいを感じられる方には、保健師は理想的な職業でしょう。
保健師に求められる特性
長期的な視点で物事を考えられる方は、保健師として活躍できる可能性が高いです。
保健師の活動は即効性のあるものばかりではなく、数年、時には数十年という長いスパンで成果が現れることもあります。
粘り強く取り組み、少しずつ変化を積み重ねていく過程にやりがいを見出せる方は、保健師に向いているでしょう。
コミュニケーション能力が高く、多様な人と関わるのが得意な方も保健師に適しています。
保健師は乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層の方と関わり、また、健康な方から支援が必要な方まで、様々な状態の方を対象とします。
相手に合わせたコミュニケーションがとれ、信頼関係を築ける方は、保健師として大きな力を発揮できるでしょう。
計画立案や政策提言に興味がある方も保健師に向いています。
保健師は地域の健康課題を把握・分析し、それに基づいた保健事業を企画・実施します。
また、行政職として健康施策の立案や政策提言に関わることもあります。
分析力と企画力を持ち、システム全体を改善することに関心がある方にとって、保健師はやりがいのある職業になるでしょう。
自律的に業務を進められる方も保健師に適しています。
保健師は医師の指示のもとで働く看護師と比べて、より自律的に判断し、活動を展開することが求められます。
自分で考え、主体的に行動できる方は、保健師としての適性があると言えるでしょう。
社会の健康課題に関心が高い方も保健師に向いています。
少子高齢化、メンタルヘルスの問題、生活習慣病の増加など、社会全体の健康に関わる課題に興味を持ち、それらの解決に貢献したいと考える方には、保健師という職業が大きな満足をもたらすことでしょう。
このように、看護師と保健師では適性が異なる部分があります。
どちらも尊い職業ですが、ご自身の性格や価値観、働き方の希望などを照らし合わせ、より自分に合った道を選ぶことが、長く輝き続けるキャリアを築く秘訣です。
また、看護師として経験を積んだ後に保健師にキャリアチェンジするという選択肢もあり、それぞれの経験が相互に活かされることも少なくありません。
具体的な業務事例から見る違い

保健師と看護師の違いをより実感的に理解するために、それぞれの職種の具体的な業務内容や1日の流れを見ていくことが効果的です。
実際の現場ではどのような業務を行い、どのような課題に直面しているのか、具体的な事例を通して両者の違いを明らかにしていきましょう。
ここでは、病院勤務の看護師と市町村保健センター勤務の保健師の典型的な業務事例を紹介します。
看護師の1日(急性期病院内科病棟の場合)
急性期病院の内科病棟で働く看護師Aさんの1日を追ってみましょう。
Aさんは30代前半で看護師経験7年目、現在は一般内科病棟で主に循環器疾患や消化器疾患の患者さんを担当しています。
Aさんの1日は朝8時30分の出勤から始まります。
まず前日の夜勤看護師からの申し送りを受け、担当患者さんの状態や夜間の変化について情報を得ます。この日Aさんは7人の患者さんを担当します。
申し送り後すぐに全員の部屋を回り、挨拶とともに体調確認を行います。
9時頃からはバイタルサイン(血圧、脈拍、体温など)の測定を開始します。
同時に点滴の準備も進め、医師の指示に基づいて投薬を行います。
患者さんの中には自分で服薬できない方もいるため、介助しながら確実に薬が服用されるよう見守ります。
10時からは医師の回診に同行します。
患者さんの状態を医師に報告し、新たな治療方針や指示を受けます。
回診後は、指示された検査の準備や処置を行います。
この日は新たに点滴ルートの確保が必要な患者さんがいたため、穿刺の準備をして実施します。
11時頃には清拭(体を拭く)や排泄介助の時間となります。
自力での清潔保持が難しい患者さんの身体を丁寧に拭き、着替えを手伝います。
また、昼食前にはインスリン注射が必要な糖尿病患者さんへの投薬も行います。
12時になると患者さんの昼食の時間です。
嚥下困難のある患者さんには食事介助を行いながら、誤嚥のリスクに注意を払います。
その後、自分の昼休憩をとりますが、この日は患者さんの状態記録や看護計画の更新も行うため、休憩時間は短めになりました。
看護師の午後の業務
13時からは新規入院患者さんの受け入れがあります。
入院オリエンテーションを行い、病状や生活状況を詳しく問診します。
また、入院時の各種検査も実施します。
新しい患者さんが安心して入院生活を送れるよう、丁寧な説明を心がけます。
14時頃には点滴の交換時間になります。
同時に、予定されていた検査に患者さんを送り出す準備も行います。
この日は腹部エコー検査があるため、検査室まで患者さんを車椅子で移送し、検査後も迎えに行きます。
15時になると翌日退院予定の患者さんへの退院指導を行います。
自宅での生活上の注意点や服薬方法、次回の外来受診日などを説明し、質問に答えます。
患者さんやご家族の不安が少しでも軽減されるよう、具体的なアドバイスを提供します。
16時には再びバイタルサイン測定の時間です。
夕方の状態確認を行いながら、夜間に予定される処置や投薬の準備を整えます。
この頃になると、日中検査を受けた患者さんの結果も出てくるため、異常値がないかチェックします。
17時になると夜勤の看護師への申し送りを行います。
各患者さんの状態、実施した処置、今後の注意点などを詳細に伝えます。
すべての業務が滞りなく引き継がれたことを確認して、Aさんの1日の勤務は終了します。
退勤時刻は17時30分ですが、この日は記録の入力に時間がかかり、実際に病棟を出たのは18時を過ぎていました。
明日も患者さんのために万全の体調で臨めるよう、早めに帰宅して休息を取ることにします。
保健師の1日(市町村保健センターの場合)
市町村保健センターで働く保健師Bさんの1日を追ってみましょう。
Bさんは30代後半で保健師経験10年目、主に母子保健を担当しています。
Bさんの1日は朝8時30分の出勤から始まります。
まずは今日のスケジュールを確認し、必要な資料の準備を行います。
この日は午前中に乳幼児健診が予定されているため、会場設営や問診票の確認を行います。
9時からは健診スタッフ(医師、歯科医師、栄養士、心理士など)とのミーティングを行い、当日の流れや注意事項を共有します。
特に支援が必要と思われる親子についての情報共有も行います。
10時から乳幼児健診が始まります。
Bさんは問診を担当し、子どもの発育や発達状況、生活習慣、親の育児状況などを確認します。
この日は10組の親子と面談しますが、その中には育児に不安を抱える母親や、発達の遅れが気になる子どもも見られました。
Bさんは専門職の視点から状況を評価しながらも、母親の不安に寄り添う姿勢を大切にしています。
12時に健診が終了すると、スタッフ間でカンファレンスを行い、気になる親子についての情報共有と支援方針の検討を行います。
その後、昼休憩をとります。
保健師の午後の業務
13時からは健診結果のデータ入力と分析を行います。
地域全体の子どもの発育状況や、気になる傾向がないかを確認します。
これらのデータは今後の保健事業計画に活かされます。
14時になると、午前中の健診で支援が必要と判断された家庭への訪問に出かけます。
この日は2件の家庭訪問を予定しています。
1件目は産後うつの傾向がある母親の家庭です。
母親の心身の状態を確認し、利用できる支援サービスの紹介や、育児の相談に乗ります。
2件目は発達の遅れが心配される子どもの家庭です。
家庭での様子を観察しながら、適切な療育機関の情報提供や、日常生活での関わり方のアドバイスを行います。
16時に保健センターに戻ると、翌月に予定されている健康教室の企画会議に参加します。
「幼児の食事と栄養」をテーマにした教室の内容や、広報の方法などを栄養士や事務職員と検討します。
過去の参加状況や参加者からのフィードバックも踏まえながら、より多くの住民に参加してもらえるよう工夫します。
17時になると、訪問記録や会議の内容をまとめ、データベースに入力します。
また、翌日の準備も行います。
すべての業務を終えて、Bさんは定時の17時30分に退勤します。
業務の性質の違い
看護師Aさんと保健師Bさんの1日を比較すると、業務の性質に大きな違いがあることがわかります。
看護師の業務は目の前の患者さんの状態改善に直結するため、成果を実感しやすい特徴があります。
Aさんは日々の看護ケアによって患者さんの状態が良くなっていく様子を直接見ることができ、短期間で成果を感じることができます。
一方で、医師の指示に基づいて業務を行うことが多く、自律性には一定の制限があります。
また、緊急対応が必要な場面も多く、常に緊張感を持って業務にあたる必要があります。
一方、保健師の業務は地域全体の健康指標の改善につながるもので、成果が表れるまでに時間がかかることがあります。
Bさんの行う母子保健活動は、子どもの健やかな成長を長期的に支援するものであり、その効果は数年、場合によっては数十年後に表れることもあります。
しかし、より自律的に業務を計画・実施できる裁量があり、地域全体の健康づくりに関わる醍醐味があります。
看護師は短時間で多数の処置や対応を行うことが多く、業務の密度が高い傾向にあります。
一方、保健師は対象者と長期的に関わり、継続的な支援を行うことが特徴です。
また、看護師は医療機関という限られた環境で活動するのに対し、保健師は地域全体をフィールドとし、家庭訪問や地域活動など多様な場で活動します。
このように、看護師と保健師は同じ「人々の健康を支える」という目標に向かって働いていますが、そのアプローチ方法や業務の性質には大きな違いがあります。
どちらが優れているということではなく、それぞれの特徴を理解した上で、自分に合った職種を選択することが大切です。
連携と協働の実際

保健師と看護師は、それぞれ異なる場で活動していますが、地域包括ケアシステムの中で互いに連携し、協働することで、より効果的な医療・保健サービスを提供することができます。
両者の専門性を活かした連携は、患者さんや地域住民の健康を継続的に支えるために不可欠なものとなっています。
ここでは、保健師と看護師の連携・協働の実例を通して、その重要性と実際の姿を見ていきましょう。
連携事例:退院支援と在宅療養
保健師と看護師の連携が特に重要となるのが、患者さんが病院から地域へ戻る際の退院支援と在宅療養の場面です。
ある脳梗塞後のリハビリと在宅復帰を目指すケースを見てみましょう。
70代男性のCさんは3か月前に脳梗塞を発症し、急性期病院での治療を経て、回復期リハビリテーション病院に転院しました。
リハビリの結果、杖を使えば短距離の歩行が可能となり、日常生活動作も一部介助があれば自立できるようになりました。
今後は自宅に戻り、在宅での生活を再開することになります。
病院の看護師は入院中のCさんのケアを担当してきました。
日々のバイタルサインチェックや服薬管理、リハビリへの送迎など、医療的なケアを提供するとともに、Cさんの回復状況を細かく観察してきました。
退院が近づくと、看護師は退院後の生活を見据えた指導を始めます。
服薬管理の方法、転倒予防のための注意点、食事や入浴の工夫など、在宅生活で必要となるセルフケア能力を高めるための支援を行います。
また、病院の看護師は退院支援カンファレンスを調整し、Cさんとご家族、医師、理学療法士、ケアマネジャー、そして地域の保健師を招集します。
カンファレンスでは、Cさんの現在の状態と退院後に必要となる支援について情報共有が行われます。
病院看護師からは入院中の経過や達成された目標、残された課題などが詳細に報告されます。
地域保健師の役割
地域の保健師は、このカンファレンスに参加することで、Cさんの状態を事前に把握し、地域での受け入れ準備を整えることができます。
保健師はCさんが住む地域の社会資源や利用可能なサービスについての情報を持っており、それらを活かした支援計画を提案します。
保健師は退院後のCさんの自宅を訪問し、生活環境を確認します。
段差の多い家屋構造であれば手すりの設置を提案したり、浴室の改修が必要であれば住宅改修の制度を紹介したりします。
また、地域の介護保険サービスの導入支援も行います。
デイサービスやホームヘルパーなど、Cさんの状態に合ったサービスの調整を支援します。
さらに、Cさんを介護する家族への支援も保健師の重要な役割です。
介護方法の指導や、介護負担の軽減のための相談に乗り、必要に応じて介護者の集いなどの社会資源を紹介します。
また、地域のリハビリ資源や、同じような経験をした方々の自助グループなども紹介し、Cさんと家族の社会参加を促進します。
このように、病院看護師と地域保健師が連携することで、Cさんは病院から自宅へとシームレスに移行することができ、必要な支援を継続して受けることができました。
看護師は入院中の医療的なケアと退院準備を、保健師は地域での受け入れ体制の調整と継続的な支援を担当し、それぞれの専門性を活かした連携によって、Cさんの在宅生活が支えられています。
連携事例:母子保健
保健師と看護師の連携が重要となるもう一つの場面が、母子保健の分野です。
特に、産後のケアや育児支援において、両者の協働は大きな意味を持ちます。
産後うつのリスクがある母親の事例を見てみましょう。
初産婦のDさんは、妊娠中から不安が強く、出産に対する恐怖感を抱いていました。
無事に出産を終えたものの、育児に自信がなく、睡眠不足も重なって疲労感が強い状態です。
産科病棟の看護師は、DさんがEPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)で高得点を示したことから、産後うつのリスクがあると判断しました。
産科病棟の看護師はDさんの入院中、母体の回復状態の観察や授乳指導など、産後の基本的なケアを提供しました。
同時に、赤ちゃんの抱き方やおむつ交換、沐浴など、基本的な育児技術の指導も行いました。
看護師はDさんの不安や疲労感に気づき、丁寧に話を聞き、共感的な姿勢で接しました。
退院前には、看護師はDさんの状態について地域の保健師に情報提供を行いました。
産後うつのリスク評価結果や、入院中の様子、特に気になる点などを詳細に伝えます。
また、Dさんに対しても、地域での母子保健サービスや新生児訪問について説明し、地域保健師によるフォローアップの重要性を伝えました。
継続的な支援体制
市町村の保健師は、退院後すぐにDさんの自宅を訪問しました。
新生児訪問の一環として、赤ちゃんの発育状態をチェックするとともに、Dさんの心身の状態を確認します。
病院看護師からの情報をもとに、Dさんの産後うつのリスクに注意を払いながら、細やかな観察と声かけを行いました。
保健師はDさんの自宅で、実際の生活環境を確認しながら具体的な育児サポートを提案します。
例えば、授乳やおむつ交換の場所の工夫、赤ちゃんが泣いたときの対応など、Dさんが困っていることに対して実践的なアドバイスを行います。
また、パートナーや家族を含めた育児サポート体制の構築も支援します。
さらに、保健師はDさんに地域の母親同士の交流の場を紹介しました。
育児サークルや「ママカフェ」など、同じ月齢の赤ちゃんを持つ母親たちと交流できる場に参加することで、Dさんは育児の悩みを共有し、孤立感を軽減することができました。
保健師は定期的にDさんの家庭を訪問し、継続的にフォローアップを行います。
必要に応じて、母子保健事業への参加を促したり、より専門的な支援が必要な場合には医療機関への受診を勧めたりします。
このような継続的な支援により、Dさんは少しずつ育児に自信を持てるようになり、産後うつのリスクも軽減していきました。
病院看護師からの情報を基に、地域保健師が継続的に支援することで、Dさんは安心して育児に取り組むことができました。
早期介入により産後うつの重症化を防ぐことができ、母子の健全な関係構築を支援することができたのです。
連携の効果と課題
保健師と看護師の連携によって、医療機関と地域のギャップが埋められ、切れ目のない支援が可能となります。
特に、慢性疾患や障害を持つ方、高齢者、子育て中の家庭など、継続的な支援が必要な対象者にとって、この連携は非常に重要です。
しかし、実際の連携には課題もあります。
医療機関と地域の間での情報共有の仕組みが十分に整備されていない地域もあり、円滑な連携が難しいケースもあります。
また、看護師と保健師の間で、互いの役割や専門性に対する理解が十分でない場合、効果的な連携が阻害されることもあります。
これらの課題を解決するためには、定期的な合同研修や事例検討会の開催、情報共有のためのツールの開発など、連携を強化するための取り組みが重要です。
また、看護師と保健師の養成課程においても、互いの専門性や役割について学ぶ機会を設けることが望ましいでしょう。
保健師と看護師が互いの専門性を理解し、尊重し合いながら連携することで、個人から地域全体まで、切れ目のない健康支援が実現します。
それは、医療・保健・福祉が一体となった地域包括ケアシステムの基盤となるものであり、今後ますます重要性を増していくでしょう。
キャリアチェンジのポイント:看護師から保健師へ

看護師として臨床経験を積み、その後保健師へとキャリアチェンジすることを考えている方は少なくありません。
個別の患者ケアから地域全体の健康管理へと視野を広げ、予防的な活動に携わりたいと考える看護師にとって、保健師への道は魅力的な選択肢となります。
ここでは、看護師から保健師へのキャリアチェンジを考えている方に向けて、実際のプロセスと心構えについて詳しく解説します。
ステップ1:保健師資格の取得
看護師から保健師になるためには、まず保健師の国家資格を取得する必要があります。
看護師として働きながら保健師の資格を取得する方法としては、主に二つのルートがあります。
一つ目のルートは、看護系大学の保健師課程に編入学する方法です。
多くの看護系大学では、看護師免許を持つ方を対象に、3年次への編入学制度を設けています。
この場合、通常1〜2年間の学修が必要となります。
大学によっては、社会人特別選抜枠を設けていたり、夜間や週末に授業を行うコースを提供していたりする場合もあるため、働きながら学ぶことも不可能ではありません。
ただし、実習期間中は休職が必要になることがほとんどです。
二つ目のルートは、保健師養成課程(専門学校や短期大学など)に通学する方法です。
1年間のカリキュラムで保健師に必要な知識や技術を集中的に学びます。
こちらも働きながらの両立は難しく、多くの方が休職や退職をして学ぶことを選択しています。
どちらのルートを選ぶにしても、入学試験があり、倍率が高い場合もあるため、計画的な準備が必要です。
試験内容は筆記試験(専門科目、小論文など)と面接が一般的です。
看護師としての経験や保健師を目指す明確な動機などが問われることが多いです。
保健師国家試験への対策
保健師養成課程修了後は、保健師国家試験に合格する必要があります。
保健師国家試験は年に1回(例年2月)実施され、合格率は概ね90%前後で推移しています。
看護師国家試験に比べると合格率は高いですが、対策をしっかり行うことが大切です。
試験対策としては、公衆衛生看護学、疫学、保健統計学、保健医療福祉行政論などの科目を重点的に学習すると良いでしょう。
これらは看護師国家試験ではあまり深く問われない分野であるため、特に注意が必要です。
また、地域診断や健康教育の計画立案など、保健師特有の思考プロセスを問う問題も多いため、事例問題の演習も重要です。
養成機関では試験対策の授業やガイダンスも行われますので、それらを活用しながら着実に準備を進めることをお勧めします。
ステップ2:就職活動
保健師の資格を取得したら、次は就職先を探すことになります。
保健師の主な就職先は以下の通りです。
まず最も一般的なのが、市町村や都道府県の保健師(公務員)です。
市町村保健センター、保健所、福祉事務所などで働く保健師は、地域住民の健康を守る重要な役割を担っています。
公務員保健師になるためには、各自治体が実施する保健師採用試験に合格する必要があります。
試験は通常、筆記試験(専門科目、一般教養など)と面接で構成されています。
採用試験は年に1回の実施が一般的で、採用人数も限られているため、複数の自治体を受験することをお勧めします。
また、企業の健康管理室で働く産業保健師という選択肢もあります。
従業員の健康管理や健康増進活動を担当し、メンタルヘルス対策や生活習慣病予防などに取り組みます。
大企業や健康経営に力を入れている企業では、保健師の需要が高まっています。
民間企業の場合は各社の採用スケジュールに合わせて応募することになります。
さらに、学校保健の分野で活躍する道もあります。
ただし、学校で働く場合は養護教諭の資格が必要なケースが多いため、追加の資格取得が必要になることがあります。
訪問看護ステーションでは、看護師としての経験を活かしながら、地域保健の視点も取り入れた活動ができます。
保健師の資格を持つ看護師は、予防的な視点や地域全体を見る視点を持っているため、訪問看護の現場でも重宝されます。
志望動機の伝え方
保健師として就職する際には、なぜ看護師から保健師へキャリアチェンジしたいのかという志望動機が重要になります。
単に「夜勤がないから」「休日が取りやすいから」といった理由だけでは不十分です。
看護師としての経験を通じて気づいた予防活動の重要性や、地域全体の健康を支える仕事への関心など、ポジティブかつ具体的な動機を伝えることが大切です。
特に公務員保健師を目指す場合は、志望する自治体の健康課題や保健施策について事前に調査し、自分がどのように貢献できるかを具体的に伝えられると良いでしょう。
例えば、高齢化が進む地域では介護予防の取り組みを強化したい、若い世代が多い地域では子育て支援や生活習慣病予防に力を入れたいなど、地域特性に合わせた志望動機を準備しておくことをお勧めします。
心構えと準備
看護師から保健師へ転向する際には、以下のような心構えと準備が必要です。
まず、視点の転換が重要です。
看護師は個別の患者さんに焦点を当てるのに対し、保健師は個人から家族、集団、地域全体へと視点を広げる必要があります。
この視点の違いを理解し、地域全体の健康課題を捉える目を養うことが大切です。
看護師としての臨床経験は非常に貴重ですが、それに加えて、集団や地域を見る視点を意識的に育てていく必要があります。
また、予防的思考への転換も必要です。
看護師は既に起きている健康問題に対応する「治療的アプローチ」が中心ですが、保健師は問題が起きる前に予防する「予防的アプローチ」が中心となります。
健康な人々を対象とした活動や、リスクの早期発見・早期対応の視点を養いましょう。
政策への関心も重要な要素です。
保健師は地域の健康課題を解決するために、施策や事業を計画・実施する役割を担います。
保健医療福祉に関する法律や制度、行政の仕組みなどに関心を持ち、理解を深めることが必要です。
保健師として働く前から、自治体の健康増進計画や各種保健事業について調べておくと良いでしょう。
データ分析力も保健師には欠かせないスキルです。
地域診断や保健活動の評価には、統計データの読み解きや分析が必要です。
統計学や疫学の基礎知識を身につけ、健康指標を正しく解釈できる力を養いましょう。
エクセルなどのソフトウェアを使ったデータ処理スキルも役立ちます。
コミュニケーション力も多様な関係者と協働する保健師には重要です。
保健師は地域住民だけでなく、医療機関、福祉施設、学校、企業、行政機関など様々な組織や人々と連携します。
異なる立場の人々と良好な関係を築き、協力を得るためのコミュニケーション能力が求められます。
先輩保健師の声
実際に看護師から保健師にキャリアチェンジした先輩たちの声を紹介します。
これらの体験談は、キャリアチェンジを考えている方にとって貴重な参考情報となるでしょう。
保健所勤務の保健師Eさん(元急性期病院看護師)は次のように語っています。
「看護師時代は目の前の患者さんのケアに集中していましたが、保健師になって『一人の命を救う』から『地域全体の健康を守る』へと視点が広がりました。
地域の健康課題を見つけ出し、予防的に関わることのやりがいを感じています。
特に、看護師としての臨床経験があることで、医療機関との連携がスムーズになり、地域と病院をつなぐ役割を果たせていると思います。」
市町村保健センター勤務の保健師Fさん(元訪問看護師)はこう話しています。
「臨床経験があるからこそ、地域の方々に病気や治療について具体的にお話しできることが強みだと感じています。
訪問看護師時代に感じていた『もっと早く関われていたら』という思いを、今は保健師として予防活動に活かしています。
目に見える成果が出るまでに時間がかかる仕事ですが、長期的な視点で地域の健康を支える喜びがあります。
様々な人と出会い、その人の人生に寄り添うことができるのは保健師の魅力だと思います。」
このように、看護師としての経験は保健師活動においても大いに活かすことができます。
臨床現場で培った観察力や対応力、医学的知識は、保健師活動の基盤となる貴重な資産です。
キャリアチェンジによって視野を広げ、新たな専門性を身につけることで、より多角的に人々の健康を支えることができるでしょう。
今後の展望:2025年以降の保健師と看護師

保健師と看護師の役割や活動範囲は、社会の変化に伴って常に変化しています。
超高齢社会の進展、医療技術の革新、感染症や災害など健康危機の発生、そして人々の健康意識の高まりなど、様々な要因により、両職種に求められる役割も変わりつつあります。
ここでは、2025年以降の保健師と看護師の将来展望について、社会の変化と関連づけながら考察します。
看護師の役割拡大
看護師の役割は今後さらに拡大していくことが予想されます。
特に注目すべき変化として、特定行為研修修了者の増加があります。
医師の働き方改革に伴い、これまで医師が行っていた一部の医療行為を、特定の研修を修了した看護師が実施できるようになりました。
気管挿管や中心静脈カテーテル挿入など、高度な医療行為を担当する看護師が増えることで、チーム医療における看護師の役割はさらに重要になっていくでしょう。
また、看護師の専門性の高度化も進んでいます。
専門看護師(CNS)や認定看護師といった、特定の分野で高度な専門性を持つ看護師の活躍の場が広がっています。
がん看護、緩和ケア、感染管理、認知症ケアなど、社会的なニーズの高い分野で専門的な知識と技術を持つ看護師の需要は今後も増加すると予想されます。
地域包括ケアシステムにおける看護師の役割も強化されています。
超高齢社会において、病院から在宅へとケアの場が移行する中、訪問看護の重要性が高まっています。
医療依存度の高い患者さんが在宅で療養するケースが増え、高度な医療処置とケアを提供できる訪問看護師の需要が拡大しています。
看護師は医療と生活の両面から患者さんを支える専門職として、地域医療の中心的な役割を担うようになるでしょう。
テクノロジーと看護の融合
医療現場におけるテクノロジーの活用も急速に進んでいます。
AIやIoTを活用した看護業務の効率化が進み、看護師の業務内容も変化しつつあります。
例えば、バイタルサインの自動測定・記録システムや、AIによる患者の状態変化の予測など、テクノロジーが看護師の業務をサポートする場面が増えています。
これにより、看護師はより複雑な判断や、患者さんとのコミュニケーションなど、人間にしかできない業務に集中できるようになります。
テクノロジーを使いこなし、活用する能力も、これからの看護師に求められるスキルになるでしょう。
また、遠隔看護(テレナーシング)の普及も進んでいます。
オンラインでの健康相談や遠隔モニタリングなど、直接対面しなくても看護サービスを提供する形態が増えています。
特に地方や離島など医療資源の少ない地域では、遠隔看護が医療アクセスの改善に貢献すると期待されています。
保健師の新たな役割
保健師の役割も時代と共に変化しています。
特に注目されるのが、健康危機管理の強化です。
新興感染症の流行や大規模災害の発生など、様々な健康危機に対応するために、保健所や保健センターの保健師の役割が見直されています。
感染症対策においては、疫学調査や接触者追跡、リスクコミュニケーションなど、保健師の専門性を活かした活動が重要視されています。
また、データヘルスの推進も保健師の新たな役割として注目されています。
健康診断や医療レセプトなどのデータを分析し、科学的根拠に基づいた効果的な保健事業を展開することが求められています。
データ分析能力やエビデンスに基づく事業計画立案能力など、従来の保健師教育ではあまり重視されてこなかったスキルの習得が必要になってきています。
多様な健康課題への対応も保健師に求められています。
メンタルヘルスの問題や生活習慣病の増加、子育て支援や高齢者の介護予防など、現代社会特有の複雑な健康課題に対して、保健師は予防的な視点から取り組むことが期待されています。
また、健康格差の縮小や社会的弱者への支援など、社会的な側面も含めた幅広い活動が求められています。
多職種連携のコーディネーター役
地域包括ケアシステムの中で、保健師は多職種連携のコーディネーター役としての役割も担っています。
医療・介護・福祉・教育など様々な分野の専門職や機関をつなぎ、地域全体で住民の健康を支える体制づくりを進めています。
保健師は地域の健康課題を俯瞰的に捉え、必要な資源を結びつける調整役として、ますます重要な存在となっていくでしょう。
また、住民主体の健康づくり活動の支援も保健師の重要な役割です。
行政主導の保健サービスだけでなく、住民自身が主体的に健康づくりに取り組む活動を支援し、地域のソーシャルキャピタル(社会関係資本)を活用した健康づくりを推進することが求められています。
保健師は「する」から「支援する」へと役割をシフトさせ、住民の力を引き出す能力が重要になっています。
さらに、健康経営の推進に伴い、企業内での保健師の役割も拡大しています。
従業員の健康管理や健康増進活動を通じて企業の生産性向上に貢献する産業保健師の需要が高まっており、従来の行政保健師とは異なる活躍の場が広がっています。
共通する将来展望
保健師と看護師に共通する将来展望としては、まずオンライン保健指導・遠隔看護の普及が挙げられます。
新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、オンラインでの健康相談や保健指導が急速に広まりました。
今後もテクノロジーを活用した新たな支援形態が発展し、時間や場所の制約を超えたサービス提供が可能になるでしょう。
また、予防医療の重視も両職種に影響を与える大きな流れです。
医療費の増大を背景に、治療から予防へのシフトが進んでいます。
看護師も単に疾病の治療をサポートするだけでなく、患者の生活習慣改善や再発予防など、予防的な視点を持った活動が求められるようになっています。保健師と看護師が協働して、切れ目のない予防活動を展開することの重要性が高まっています。
さらに、地域共生社会の実現に向けた取り組みも重要です。
高齢者だけでなく、障害者や子育て世帯、生活困窮者など、様々な支援を必要とする人々が地域で共に暮らせる社会づくりが進められています。
医療・保健・福祉の連携による包括的な支援体制の中で、保健師と看護師はそれぞれの専門性を活かしながら、人々の健康と生活を支える役割を担っていくでしょう。
このように、保健師と看護師の役割は時代と共に変化し、拡大しています。
しかし、「人々の健康を支える」という根本的な使命は変わりません。
社会の変化に柔軟に対応しながらも、その本質的な役割を大切にし、互いに連携しながら、人々の健康と幸福に貢献していくことが求められています。
そして、それぞれの職種が持つ強みと専門性を発揮することで、より良い医療・保健サービスの提供が可能になるのです。
看護師さんからのQ&A「おしえてカンゴさん!」
保健師と看護師の違いについて詳しく解説してきましたが、実際に現場で働く看護師さんや、これから進路を選ぶ学生さんからは様々な疑問や質問が寄せられています。
このセクションでは、よくある質問にお答えする形で、より実践的な情報をお届けします。
皆さんの疑問や不安を解消し、キャリア選択の参考にしていただければ幸いです。
Q1: 保健師と看護師はどちらが給料が高いですか?
一般的に公務員保健師は看護師より初任給が若干高く、昇給も安定しています。
例えば、新卒看護師の月給が約22万円~25万円程度であるのに対し、公務員保健師の初任給は約23万円~26万円程度となっています。
ただし、看護師の場合は夜勤手当が加算されるため、夜勤を多く行う看護師の月収は保健師を上回ることもあります。
長期的に見ると、看護師の場合は経験を積んで専門看護師や認定看護師になると、年収が大きく上がる可能性があります。
一方、保健師は公務員の場合、年功序列での昇給が基本となり、管理職になると年収600万円以上になることも珍しくありません。
民間企業の産業保健師の場合は、企業規模や業種によって給与水準に大きな差があります。
大手企業や外資系企業では高待遇のケースもあり、公務員保健師よりも高収入を得られることもあります。
結論としては、勤務先や経験年数、役職、勤務形態など様々な要素によって変わるため、一概にどちらが高いとは言えません。
自分のライフスタイルや価値観に合った働き方を選ぶことが大切です。
Q2: 看護師をしばらく経験してから保健師になるメリットはありますか?
看護師としての臨床経験は保健師活動においても大変貴重です。
そのメリットはいくつもあります。
まず、患者さんの治療や療養の実際を知っていることで、より具体的な保健指導ができます。
例えば、退院後の生活上の注意点や、疾病管理の重要性を実体験に基づいて説明できるため、説得力が増します。
また、医療機関との連携がスムーズになり、病院と地域をつなぐ役割を果たしやすくなります。
次に、様々な疾患や症状への理解が深いため、地域住民の健康状態を的確に評価し、必要な支援を判断する能力が高まります。
早期発見・早期対応のポイントも実践的に理解しているため、予防活動にも活かせます。
さらに、チーム医療の経験から、多職種連携の重要性や方法を理解しており、地域でのネットワークづくりにも強みを発揮できます。
看護師時代の人間関係や経験が、保健師としての活動の幅を広げることにつながります。
ただし、臨床思考から予防思考への転換が必要であり、看護師の経験が長いほど、この転換に時間がかかる場合もあります。
個別の患者ケアから集団・地域全体への視点へと広げていく意識的な努力が大切です。
Q3: 保健師として働きながら、看護師としても働くことはできますか?
保健師として働きながら、看護師としても働くことは法的には可能です。
保健師資格は看護師資格の上位資格であり、保健師として勤務している方も看護師としての業務を行うことができます。
実際に、保健師の本業に加えて、休日に訪問看護ステーションでアルバイトをしたり、クリニックでパートとして働いたりしている方もいます。
ただし、実際には時間的・体力的な制約があります。
特に公務員保健師の場合、副業規定があり、勤務先の許可が必要になることがほとんどです。
また、平日は保健師として通常勤務があるため、看護師としての活動は夜間や週末に限られます。
その結果、休息時間が確保できず、心身の負担が大きくなる可能性があります。
一つの選択肢として、保健師として週3~4日働き、残りの日を看護師として働くという働き方もあります。
近年は働き方改革の流れもあり、多様な勤務形態を認める職場も増えています。
両方の経験を維持したい場合は、このような柔軟な働き方を検討することもできるでしょう。
いずれにしても、両方の仕事を掛け持ちする場合は、自身の健康管理に十分注意し、無理のない範囲で行うことが大切です。
Q4: 保健師と看護師、どちらが将来性がありますか?
保健師と看護師、どちらも今後の社会情勢を考えると将来性のある職種です。
少子高齢化が進む日本社会において、医療・保健・福祉のニーズはますます高まっています。
看護師は、医療の高度化や在宅医療の推進に伴い、専門性の高い看護実践者としての需要が増大しています。
特に訪問看護や認知症ケア、緩和ケアなどの分野では、看護師の役割がさらに拡大すると予想されます。
また、特定行為研修制度の普及により、これまで医師が行っていた一部の医療行為を担当する看護師も増えています。
一方、保健師は予防医療の重要性が高まる中で、その役割が再評価されています。
生活習慣病予防や介護予防、メンタルヘルス対策など、病気になる前の予防活動の重要性が認識され、保健師の専門性が求められる場面が増えています。
また、災害や感染症などの健康危機管理においても、保健師の役割は欠かせません。
将来性という点では、看護師の方が就職先の選択肢が多く、転職もしやすいというメリットがあります。
一方、保健師は公務員としての安定性があり、長期的なキャリア形成がしやすいという利点があります。
どちらが優れているというよりも、ご自身の興味や適性、目指すキャリアパス、ライフスタイルなどを総合的に考慮して選択することをお勧めします。
また、最初に選んだ道にこだわる必要はなく、キャリアの途中で転向することも十分可能です。
高齢化社会における両職種の役割
特に高齢化社会においては、両職種ともに重要な役割を担っています。
看護師は医療依存度の高い高齢者のケアや終末期ケアなど、直接的なケアを提供する役割が重視されます。
一方、保健師は介護予防や地域包括ケアシステムの構築など、高齢者が地域で健康に暮らし続けるための支援体制づくりに貢献します。
このように、看護師と保健師はそれぞれ異なる視点から人々の健康を支えており、どちらも社会に不可欠な存在です。
将来のビジョンを描く際には、社会の変化を見据えながら、自分がどのように貢献したいかを考えることが大切です。
Q5: 保健師として働くのに適した性格や特徴はありますか?
保健師として働くのに適した性格や特徴はいくつかあります。
まず、コミュニケーション能力が高く、様々な人と関わることを楽しめる方に向いています。
保健師は赤ちゃんからお年寄りまで幅広い年代の方と関わり、また健康な方から支援が必要な方まで多様な人々を対象とします。
相手に合わせたコミュニケーションができる柔軟性が求められます。
次に、地域全体の健康課題に関心があり、予防的な視点で物事を考えられる方に向いています。
目の前の問題解決だけでなく、その背景にある要因を分析し、根本的な解決策を考える思考力が大切です。「なぜこの健康問題が起きているのか」「どうすれば予防できるのか」という視点で考えることが好きな方は保健師に向いているでしょう。
また、長期的な視点で粘り強く取り組める忍耐力も重要です。
保健師の活動はすぐに目に見える成果が出るとは限らず、数年、時には数十年という長い時間をかけて効果が現れることもあります。
目立たない地道な活動も大切にできる方に向いています。
計画性や組織力も保健師には必要な資質です。
地域の健康課題を分析し、効果的な保健事業を企画・実施するためには、データを収集・分析する力や、限られた資源の中で優先順位をつける判断力が求められます。
また、様々な関係者と協力して事業を進めるためのマネジメント能力も重要です。
さらに、変化や新しい課題に柔軟に対応できる適応力も求められます。
社会状況や健康課題は常に変化しており、新たな健康問題や災害、感染症の流行など、予期せぬ事態にも対応する必要があります。
学び続ける姿勢と、状況に応じて柔軟に対応できる力が大切です。
これらの特徴をすべて兼ね備えている必要はありませんが、いくつかの要素に共感できる方は保健師として活躍できる可能性が高いでしょう。
自分の強みを活かしながら、不足している部分は意識的に伸ばしていくことで、優れた保健師として成長していくことができます。
Q6: 看護師から保健師になって後悔したことはありますか?
看護師から保健師に転向した方々の中には、様々な感想があります。
後悔したというよりも、想像と異なった点や戸惑いを感じることがあるようです。
よく聞かれるのは、「成果が見えにくく、やりがいを感じにくい」という声です。
看護師時代は患者さんの回復という形で成果がわかりやすかったのに対し、保健師活動は長期的な視点での取り組みが多く、すぐに成果が見えないことがあります。
特に行政保健師の場合、事業の成果が数値として現れるまでに時間がかかることがあり、その間のモチベーション維持に苦労する方もいます。
また、「行政の仕組みに慣れるのが大変」という声もあります。
行政保健師として働く場合、予算や法律、条例などに基づいた事業運営が求められ、自由度が制限されることがあります。
書類作成や会議、調整業務など、事務作業が多いことに戸惑う方もいます。
さらに、「臨床スキルが低下する」ことを心配する声もあります。
保健師として働くと、注射や点滴など看護師として培った臨床技術を使う機会が減るため、スキルの維持が難しくなることがあります。
将来また臨床現場に戻ることを考えると、この点を不安に感じる方もいます。
一方で、「視野が広がり、新たなやりがいを見つけた」「予防の大切さを実感できるようになった」「行政の仕組みを理解することで、より大きな視点で健康問題に取り組めるようになった」など、ポジティブな変化を実感している方も多くいます。
後悔を減らすためには、保健師の仕事内容や役割について事前によく理解し、自分の価値観や希望するキャリアパスと合っているか確認することが大切です。
また、看護師としての経験を保健師活動にどう活かせるかを意識的に考え、両者をつなげる視点を持つことも重要です。
いずれの職種も人々の健康を支える大切な仕事であり、どちらの経験も貴重なものとなるでしょう。
Q7: 保健師と看護師の両方の経験を活かせる職場はありますか?
保健師と看護師の両方の経験を活かせる職場は実際にいくつかあります。
両方の視点を持つことで、より包括的なケアや支援を提供できる点が評価される職場を紹介します。
まず、訪問看護ステーションが挙げられます。
訪問看護では、利用者の自宅という生活の場でケアを提供するため、看護師としての医療的なケア技術と、保健師としての生活支援や予防的視点の両方が求められます。
特に、利用者の生活環境を評価し、家族全体を支援する際には、保健師としての視点が大いに活かせます。
次に、地域包括支援センターも両方の経験を活かせる場所です。
地域包括支援センターでは、高齢者の総合相談や介護予防ケアマネジメントなどを行いますが、医療的な知識と地域保健活動の経験の両方があると、より効果的な支援が可能になります。
医療と介護、予防を結びつける役割を担うことができるでしょう。
産業保健の分野、特に企業の健康管理室も両方の経験が活きる職場です。
従業員の健康診断結果に基づく保健指導や生活習慣病予防などの予防活動と、体調不良時の応急処置や健康相談など医療的なケアの両方が求められます。
特に大企業では、健康経営の推進役として両方の専門性を発揮できる場が増えています。
また、医療機関の地域連携室や退院支援部門も、看護師と保健師の両方の経験が活かせる場所です。
入院患者の退院後の生活を見据えた支援計画の立案や、地域の社会資源の活用など、医療と地域をつなぐ役割を担います。
患者が病院から地域へとシームレスに移行できるよう支援する際に、両方の視点が大いに役立ちます。
教育機関も両方の経験を活かせる場所の一つです。
看護大学や専門学校で教員として働く場合、看護師と保健師両方の実務経験があると、学生に対してより幅広い視点からの指導が可能になります。
特に、地域看護学や公衆衛生看護学の分野では保健師の経験が、基礎看護学や成人看護学などの分野では看護師の経験が直接活かせます。
このように、看護師と保健師の両方の経験を持つことは、様々な場面でプラスとなります。
どちらか一方の経験だけでは見えてこない視点や、より包括的なアプローチが可能になることで、対象者により良い支援を提供することができるでしょう。
両方の経験を積極的に活かせる職場を選ぶことで、より充実したキャリアを築くことができます。
まとめ
この記事では、保健師と看護師の違いについて役割、活動範囲、スキル、資格、キャリアパス、待遇など多角的な視点から解説してきました。
保健師は予防と地域全体の健康に焦点を当て、看護師は医療機関での治療とケアに重点を置くという本質的な違いがあります。
どちらの職種も人々の健康を支える大切な存在であり、自分の適性や価値観に合った選択をすることが重要です。
キャリア選択やキャリアチェンジを考える際は、両職種の特徴をよく理解し、自分のライフスタイルや将来のビジョンと照らし合わせることをおすすめします。
この記事が皆さんのキャリア選択の一助となれば幸いです。
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