既卒看護師の離職率16.1%。中途入職者の最初の90日を点検する
既卒採用者の離職率は新卒の約2倍です。経験者だから任せられる、という前提が定着を妨げます。最初の90日で決めておく項目を並べました。
採用できているのに、定着していない病院があります
看護職員を採用している病院、診療所、訪問看護ステーションの院長、事務長、看護部長、採用担当者へ。
求人を出し、面接をし、内定を出し、入職してもらう。ここまでは動いているのに、1年経つと人数が戻っている。そういう状態にある施設は、採用の問題ではなく入職後の設計に課題があるかもしれません。
日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」によると、2024年度の離職率は次のとおりでした。
| 区分 | 2024年度の離職率 |
|---|---|
| 正規雇用看護職員 | 11.0% |
| 新卒採用者 | 8.4% |
| 既卒採用者 | 16.1% |
既卒採用者の離職率は、新卒採用者のおよそ2倍です。 そして正規雇用全体(11.0%)よりも5.1ポイント高い。この記事では、この差がどこから生まれるのかと、入職後90日で何を決めておくかを整理します。
この記事で分かること
- 既卒採用者の離職率が高い構造
- 「経験者だから」という前提が何を見落とすか
- 入職後90日で決めておく項目
- 面談を形骸化させないための設計
- 求人票・面接の段階でできること
調査の前提
数字を扱う前に、出典の範囲を確認しておきます。
日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」は、全国の病院8,022施設(全数)の看護部長を対象に、2025年10月1日から11月17日にかけて実施されました。有効回収数は3,502施設、有効回収率は43.7%です。
2023年度と比べると、正規雇用が0.3ポイント減少、新卒採用者が0.4ポイント減少しています。既卒採用者については、リリースの本文で減少が明示されていません。 全体としては「2023年度とほぼ同様の結果」とされています。
なお、2024年度の総退職者数が減少した(「とても減少した」「やや減少した」の合計)と回答した病院は31.8%で、2023年度より3.2ポイント増加しています。この設問は病院の回答区分であり、個人の離職理由を示すものではありません。
なぜ既卒の離職率が高いのか
調査は離職率を示していますが、その理由までは示していません。ここからは編集部の整理であり、調査結果ではありません。
そのうえで、現場の構造から考えられる要因を挙げます。
第一に、教育の設計が新卒と既卒で同じままになっていないかです。 プリセプター制度、集合研修、年間計画があっても、中途入職者の経験差を確認する工程がなければ、「経験者だから」と説明を省く可能性があります。自院で実際に起きているかを確認してください。
第二に、経験の中身が施設ごとに違います。 同じ「急性期5年」でも、任されていた範囲、使っていた機器、記録の様式、医師との関係の作り方は施設ごとに異なります。経験年数は、即戦力であることの保証ではありません。
第三に、聞きにくさがあります。 新卒であれば分からないことを聞くのは当然ですが、経験者は「これくらい知っていて当然」と思われることを恐れます。分からないまま進み、ミスにつながり、自信を失う。
第四に、人間関係の形成機会が少ないことです。 新卒は同期がいます。中途入職者は、多くの場合ひとりで入ります。
第五に、期待値のずれです。 面接で聞いた話と実際の配属・業務量が違ったとき、新卒には比較対象がありませんが、経験者には前職という比較対象があります。
看護師側は、何を重視しているか
同じ日本看護協会の「2025年 看護職員実態調査」(会員13,633名を対象に2%層化無作為抽出、有効回答4,430名、有効回収率34.5%)に、就業継続の観点が出ています。
看護職として働き続けたいと答えた割合は62.9%(とてもそう思う18.5%+ややそう思う44.4%)で、前回2021年調査の67.6%から低下していました。この低下は年齢や勤務先にかかわらず見られています。
働き続けるために重要視することとして、上位4項目は次のとおりでした。
- 業務や役割、責任に見合った賃金額である
- 休みがとりやすい
- 職場の人間関係が良い
- 希望する働き方ができる
20〜30代の正規雇用職員(フルタイム)についての分析では、 超過勤務時間が短い者、有給休暇取得率が高い者は、そうでない者と比較して就業継続意向が高いという結果が示されています。ただし、この年代が中途採用者の中心だと示すデータではありません。中途入職者についても、年齢を決めつけず、残業と休暇の実態を本人ごとに確認します。
入職後90日で決めておくこと
以下は、編集部が実務の観点から整理した設計項目です。調査に示された手順ではありません。90日は、入職直後の確認を四半期単位で運用するために置いた編集部の区切りであり、離職の原因や適切な面談回数を証明するものではありません。
入職前(内定〜初日)
- 配属先を、いつ本人に伝えるか決めているか
- 初日の持ち物・服装・集合場所を書面で伝えているか
- 初日に誰が受け入れるか決まっているか
- 電子カルテのアカウントが初日に使える状態か
最後の項目が意外と落ちます。 アカウントが数日使えない状態で始まると、最初の印象が「準備されていない職場」になります。
1〜14日目
- 誰に聞けばよいかを、業務領域ごとに明示しているか
- 使用する機器・物品の場所を案内したか
- 記録の書き方(様式、必須項目、締切)を説明したか
- 夜勤の開始時期について、本人と合意しているか
夜勤の開始時期は、必ず言葉にして合意してください。 「慣れたら」という曖昧な取り決めは、双方の期待をずらします。
15〜30日目
- 1回目の面談を実施したか
- 面談で「困っていること」を具体的に聞けたか
- 前職との違いで戸惑っている点を把握したか
- 教える側の負担が特定の人に偏っていないか確認したか
31〜60日目
- 任せる業務の範囲を、明示的に広げたか
- 広げた範囲について、本人が不安に思う点を確認したか
- 人間関係の形成状況を把握したか(昼休みを一人で過ごしていないか等)
- 2回目の面談を実施したか
61〜90日目
- 3回目の面談を実施したか
- 本人の希望(配属、勤務形態、教育)を改めて確認したか
- 試用期間の評価を、本人に伝えたか
- 今後1年の見通しを共有したか
3回という回数は、多いように見えて実際には少ないものです。 中途入職者が辞めるかどうかを考え始める時期は、施設によって差がありますが、90日以内に一度も一対一で話す機会がなければ、把握する手立てがありません。
面談を、形だけにしないために
面談を設定しても、「困っていることはありますか」「特にないです」で終わることがあります。これを避けるには、質問の作り方を変える必要があります。
答えにくい質問
- 何か困っていることはありますか
- 慣れましたか
- 大丈夫ですか
答えやすい質問
- 前の職場と一番違うと感じたのはどこですか
- この2週間で、聞くのをためらった場面はありましたか
- 記録で時間がかかっているのはどの部分ですか
- 誰に聞けばよいか分からなかったことはありましたか
- 夜勤に入るとしたら、いま不安なのはどの場面ですか
違いは、答えの範囲が限定されているかどうかです。 「困っていること」は範囲が広すぎて、何を言えばよいか分かりません。場面を限定すると、具体的な答えが出てきます。
そして、聞いた内容にどう対応したかを次の面談で伝えてください。 前回言ったことが何も変わっていなければ、次から言われなくなります。
採用の段階でできること
定着の設計は、入職後だけの話ではありません。
求人票と面接で、実態を先に伝えることが、入職後のずれを減らします。 ずれが小さければ、定着に必要な労力も小さくなります。
具体的には、次の情報が候補になります。
| 情報 | なぜ効くか |
|---|---|
| 中途入職者向けの教育の進め方 | 「見て覚えて」ではないと分かる |
| 夜勤開始までの標準的な期間 | 入職後の合意形成が不要になる |
| 直近1年の中途入職者数 | 受け入れ経験の有無が伝わる |
| 教える担当が決まっているか | 誰に聞けばよいかが最初から分かる |
| 使用している電子カルテの種類 | 経験の有無を本人が判断できる |
このうち、直近1年の中途入職者数は、多くの施設が出していない情報です。 数が少ない施設は書きにくいかもしれませんが、「昨年度の中途入職は2名で、いずれも○○病棟に配属しました」と書けば、受け入れの実態が伝わります。数の多さより、具体性のほうが効きます。
改善の例
改善前(求人票によくある記載)
経験者優遇。丁寧に指導しますので安心してご応募ください。
「丁寧に指導」が何を指すのかが分かりません。応募者は判断できません。
改善後(進め方を具体的に示す)
中途入職の方には、入職から2週間は担当の先輩看護師がつきます。夜勤の開始は入職からおよそ1〜2か月後を目安に、ご本人と相談のうえ決めています。入職後1か月・2か月・3か月の時点で、看護師長との面談を行います。
改善後(訪問看護の場合)
訪問看護が初めての方には、同行訪問を〇件程度行ったうえで、単独訪問の開始時期をご本人と相談して決めます。オンコールへの参加は、単独訪問に慣れてからお願いしています。
書いた内容は、実際に運用してください。 求人票に書いた進め方と実際が違うと、それ自体が早期離職の理由になります。
何から着手するか
すべてを同時に整えることは現実的ではありません。優先順位をつけるなら次の順です。
- 直近1年の中途入職者と退職者を数える。感覚ではなく数字で現在地を知ります
- 辞めた人がいつ辞めたかを並べる。3か月以内と1年前後で偏りがあるかを確認し、面談記録や退職理由と組み合わせて仮説を立てます。時期だけで原因は決めません
- 面談の実施記録を確認する。実施していたつもりでも、記録がなければ実態は分かりません
- 面談の質問項目を作る。上に挙げた形式で5問あれば足ります
- 求人票に、教育の進め方を1段落追加する
2番目が特に重要です。 ただし、3か月以内なら受け入れ、1年前後なら処遇というように時期だけで分類はできません。配属、教育、勤務、賃金、本人都合の記録を重ねて、初めて改善対象が見えます。
次に進めること
求人票の記載を見直す場合は、看護師が応募前に求人票で確認する7項目に、給与・夜勤・休日・残業・配属・教育・柔軟な働き方の書き方を整理しています。
入職者本人が転職直後に何を感じているかは、看護師向けに書いた職場のサポート体制を確認するガイドをご覧ください。聞きにくさの正体や、慣れるまでの期間の感覚が書かれています。受け入れ側の設計を考えるとき、相手が何につまずくかを知っておくと具体的になります。
自院の入職時点・30日・60日・90日の記録を整理し、求人票の説明と実態をそろえたい場合は、法人向けお問い合わせからご相談ください。まず自院データを確認し、採用数を増やす前に受け入れ工程を可視化します。
よくある質問
Q. 既卒採用者の離職率16.1%は、どの調査ですか。 A. 日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」の2024年度実績です。全国の病院8,022施設(全数)の看護部長を対象とし、有効回収数3,502施設(有効回収率43.7%)でした。
Q. 正規雇用全体や新卒との差はどれくらいですか。 A. 2024年度の離職率は、正規雇用看護職員11.0%、新卒採用者8.4%、既卒採用者16.1%です。既卒は新卒のおよそ2倍にあたります。
Q. なぜ既卒の離職率が高いのですか。 A. 調査は割合を示すもので、理由の分析は含まれていません。本記事で挙げた要因は、現場の構造から編集部が整理した仮説です。
Q. 90日という区切りに根拠はありますか。 A. 調査に示された期間ではありません。四半期という運用単位と、試用期間を3か月とする施設が多いことを踏まえた区切りです。自院の実態に合わせて調整してください。
Q. 面談は何回行えばよいですか。 A. 適切な回数を示した公的なデータはありません。本記事では入職後1か月・2か月・3か月の3回を挙げましたが、これは編集部の提案です。
参考資料
- 日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」結果(2026年3月31日) https://www.nurse.or.jp/home/assets/20260331_nl01.pdf
- 日本看護協会「2025年 看護職員実態調査」結果(2026年3月31日) https://www.nurse.or.jp/home/assets/20260331_nl02.pdf
- 日本看護協会「ニュースリリース」 https://www.nurse.or.jp/home/about/newsrelease/
本記事は2026年8月17日時点で公表されている調査結果にもとづく整理です。離職率は調査対象・年度によって変動します。自院の状況の把握には、自院の実績値をご確認ください。